
今こそカウンター・ミュージック 踊ってばかりの国インタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:木下夕希
東日本大震災を筆頭に様々な出来事が起こった2011年において、大きく露呈された問題のひとつが、「言論の自由」に対する圧迫であることは間違いないだろう。政治家に対する「言葉狩り」、Twitterやブログにおける芸能人の発言に対する批判、そして震災後の「不謹慎ブーム」。これらはすべからく、現代において自由に発言することがいかに不自由であるかを表している。そんな状況に対して、「踊ってばかりの国」のフロントマンである下津光史は、「カルチャーが死んでしまう」という強い危機感を感じていた。
メンバーの脱退を経て、4人になった踊ってばかりの国の新作『世界が見たい』は、下津いわく「カウンター・ミュージック」のアルバムである。実際に、原発問題や日本を取り巻く切迫した世界情勢、ポーズばかりの音楽業界などに対する、様々な問題提起や皮肉が詰め込まれているが、何より素晴らしいのは、このアルバムが結果的にポップ・ミュージックとして成立していることだ。しかも、現在のUSインディシーンとリンクする、ヴィヴィッドな時代性をも兼ね備えている。つまりは、メッセージにおいてもサウンドにおいても、確かな目線で時代を捉えた、今鳴らされるべきカウンター(対抗文化)としてのポップ・ミュージック、それが『世界が見たい』なのである。
「今歌っとかないで、いつ歌うねん?」
―今、地元の尼崎に戻ってるそうですね。やっぱり、子供が生まれたことが大きいですか?
下津:シャレにならないんでね。自分が癌になるのはいいんですけど、子供はきついっすね。原産地とかめっちゃ確認するようになりましたもん。
―今回のアルバムにも、やっぱり震災のことや子供のことって大きく反映されてると感じたんですが。
下津:その通りです。"EDEN"って曲は福島の警戒地域のことを歌っているし、そのまんまの意味のものありますね。きれいな場所だったのに、もうぐっちゃぐちゃやないですか?
―下津くんの歌詞の根底にはこれまでも「生と死」が大きく存在してたから、ああいう大きな震災や原発の事故を経験した今、その説得力の強さっていうのを改めて感じました。
下津:「ここぞとばかり」って感じになっちゃいましたけどね…でも、「今歌っとかないで、いつ歌うねん?」と思うので。
下津光史
―アルバムのタイトルになってる"世界が見たい"も、震災が関係あったりするんですか?
下津:"世界が見たい"は戦時中の日本とアメリカの歌で、「あなた」がアメリカで、主観が日本みたいな感じですね。アメリカを妬んでぶつかって行ったけどボロクソにされて、みたいな。今、中国との関係もやばいじゃないですか? 今回は、そういう政治的なことばっかり歌ってます。
―政治的なモチーフってこれまでの作品にも含まれてたんですか?
下津:もっとオブラートに包んで歌ってましたね。やっぱり、子供が産まれたことが大きくて。「ホンマ戦争起こってまうんちゃうかな?」って不安のなかで、子供を守らなあかん状況になったから、歌詞にも変化が出てきたんだと思います。ほんと、去年とは全然違う奴になってますよ(笑)。
リリース情報

- 踊ってばかりの国
『世界が見たい』 -
2011年11月2日発売
価格:2,500円(税込)
MDMR-20181. 世界が見たい
2. !!!
3. Going Going
4. 言葉も出ない
5. ドブで寝てたら
6. 僕はカメレオン
7. EDEN
8. 反吐が出るわ
9. よだれの唄(リアレンジ)
10. 悪魔の子供(アコースティック)
11. お涙頂戴
12. 何処にいるの?
13. セレナーデ
プロフィール
- 踊ってばかりの国
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2008年神戸にて結成。サイケつつポップ。このなんとも言えない絶妙なバランス感。一度聴いたら病み付きになるメロディーの人懐っこさ。死生感を基調とした独特の歌詞の世界観。平均年齢二十代前半のバンドとは思えないバンドアンサンブルと音楽センスを兼ね備えているバンドである。