
人って、もともと曖昧なもの Curly Giraffeインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 柴那典
- 撮影:前田伊織
見ようによってはウサギに見えるかもしれないけど、見ようによってはゴミに見えるかも知れない。その曖昧さが、僕の音楽にとっては意外と重要というか。
―Curly Giraffeの音楽は、居心地の悪い音が一切鳴っていないのが魅力だと思うんです。それは、手直しをしたり、音を整えなくてもいいという発想のせいかもしれないですね。
C:洋服に喩えるなら、僕の音楽には、ほつれがあるんですよ。そういうほつれも僕の音だから、そこをきちんと聴いて欲しいというか。質感や手触りも大事なことだから。
―その質感や手触りって、音や洋服だけじゃなくて、いろんなものに喩えられそうですよね。
C:布で言うなら、皺とか汚れもあるような感じかな。決して綺麗に整えられたものではない。形も、見ようによってはウサギに見えるかもしれないけど、見ようによってはゴミに見えるかも知れない。その曖昧さが、僕の音楽にとっては意外と重要というか。
―たとえば写真とかデザインで言うとどうでしょう?
C:写真でいえば、ちょっとくすんでいる感じでしょうね。でも、たとえばパステルカラーとか、淡い、優しいものを作ろうという意識は全然なくて。自分にとって興奮するものを作りたい。他人の音楽を聴くときもそうなんですけど、色気があるのが好きなんです。それがあんまり感じられないものは魅力を感じなくて。しかも、わかりやすい色気じゃなくて、どこかにそういう匂いがするもの。自分の中でそういう基準が無意識のところにありますね。
―アルバムのタイトルの『FLEHMEN』も、馬とかライオンのオスが興奮した時に行う仕草なんですよね。
C:そうそう。馬が笑ってるみたいに歯を見せる表情って、フレーメン現象というらしいんですね。僕自身、音楽に対してそういうものを求めているというか。10代の頃は頭で聴いたりもしていたけれど、最終的にずっと聴き続ける曲というのは、本能に響いたもの。一過性ではなくて、気に入ったら一生聴いてもらいたい気持ちで作ってるし、そういうものを目指したい。本能に響く音楽でありたいという希望も含めて『FLEHMEN』というタイトルにしたんです。
―なるほど。そういう意味でのポップさなんですね。
C:決して、難しいことをやろうと思ってやってないから。自分にとってシンプルに気持ちいいことをやりたいと思ってやってるだけなんですよね。伝えたいものは無意識のものなんで。あと、僕の場合は録音する順序も大事かもしれない。
―順序というと?
C:基本的にレコーディングって、リズムから先に録っていく場合がほとんどなんですね。ドラムとベースを入れて、その上に他の楽器を重ねて、最後に歌を入れるという。でも僕の場合は、最初に歌とコードを入れて、そうしたら不得意な楽器から先に録って入れていくんですよ。僕、専門がベースなので、ベースはだいたい最後に入れるんです。ベースを最初に入れると、それである程度成立してしまうので、他に入れたい音のアイディアが浮かばなくなっちゃう。
―組み立て方が違うんですね。
C:そうそう。逆に、不得意な楽器からやると、ここにもうちょっとこういう音があればいいなというアイディアが浮かんでくる。他の楽器と比べると、ベースはどうしたって上手なので(笑)弾きすぎちゃうのを避ける意味で最後にいれるというのもあるかな。最後にダルマの目を入れるようにベースを入れる、という。
1人でもCurly Giraffeとして音を届けられたほうがいいな、と。
―去年は弾き語りのツアーもされていましたよね。それはどういうことが発端になったんでしょうか。
C:それまでライブはバンドじゃないとやりたくなかったんです。だけど、去年の震災があってから、考え方が変わりました。1人でもCurly Giraffeとして音を届けられたほうがいいな、と。あと、弾き語りだから、身軽に地方にも行けるしね。それに、キーボードの堀江(博久)くんが参加してる場所もあったし、1人でやる時もあって。いろんな方法でライブをやれるということを証明できた。それをやったことは、自分が変わるきっかけにもなりましたね。
―どう変わったんでしょう?
C:せっかく1人なんで、小回りがきくようにしておきたいんですよね。それに、弾き語りをやることによって、自分の曲の緩急がよくわかる。淡々とした曲のイメージだったんだけど、ダイナミクスをつけるとさらに面白くなるんですよ。
―これまでバンドと一緒にやっていたグルーヴがなくなったからこそ、見えてきたものがあった、と。
C:そうなんです。いわば骨組みしか見せることができないわけですよね。だから骨の形をもっときちんと作る意識ができた。今までバンドという鎧があったからどうにでもなるって思ってたんだけど、でも、芯がしっかりしてないとどうにもならない。それをまざまざと感じることができたという。アルバムを作るときも、前のアルバム『idiots』の時にあったバンドサウンドの発想を一度取っ払おうと思って。楽器編成は関係なく、思いついたことを音にしていこうということは思ってました。
リリース情報

- Curly Giraffe
『FLEHMEN』 -
2012年3月7日発売
価格:3,045円(税込)
VICL-638521. VEDEM
2. Rose between two thorns
3. go now
4. Rootless wanderer
5. Enchanted road
6. Midnight explorers
7. Baron Nishi and Uranus
8. Necessary evil
9. Just barely
10. a week
11. seize and howl
プロフィール
- Curly Giraffe
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2005年10月にEP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ほぼノンプロモーションにもかかわらずロングヒットを記録。その後もコンスタントに作品をリリースし、高い評価を得る。作曲、演奏、録音、アートワークなどを一人で行うなど、その才能は多岐にわたる。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。