
人って、もともと曖昧なもの Curly Giraffeインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 柴那典
- 撮影:前田伊織
みんなが思っている「わかりやすさ」はしっくりこない。
―歌詞はご自分で書かれているわけではないんですよね。
C:はい。
―実は歌詞を読みながら聴くと、印象が変わるアルバムだと思うんです。たとえば1曲目の “VEDEM”というタイトルは、ナチスの強制収容所で作られていた雑誌の名前からとったそうですが。
C:そうなんですよ。少年少女たちがナチスに隠れて作っていた本の話なんです。
―この曲や他の曲の歌詞には、おとぎ話のようなファンタジックなストーリーが語られていますけど、「強制収容所で虐げられた子が書いたものだ」という前提をもとに全曲を聴くと、全ての意味がひっくり返るというか。
C:捉え方によってはヘビーに思われるかもしれないけれど、それを普通に歌う。それがCurly Giraffeっぽいなとも思っていて。歌詞も同じ方向を向いてるのかもしれません。苦しいことを苦しい感じでは歌いたくないんですよね。人の気持ちって、そんな単純じゃないな気がする。その部分をちゃんと音や言葉や、歌にこめたいというか。人って、もともと曖昧なものな気がするんです。今の世の中にあるヒットチャートの曲のほうが、不自然に感じてしまう。人の気持ちからかけ離れているというか。
―調味料がひとつの種類しか使われてない感じというような?
C:そうそう。もちろんCurly Giraffeみたいな音楽ばっかりになっても気持ち悪いんだけど(笑)、こういう音楽を作ってる人がいるというのも知ってもらいたいというか。
―Curly Giraffeの音楽って、こういう言い方をすると誤解を招きがちかもしれないけど、言葉の正しい意味で「オーガニック」な音楽だと思うんです。優しいとか、アコースティックとか、単なる心地よいグッドミュージックとか、そういうことじゃなくて、素材がそのままあるという。
C:ああ、そうだね。いわゆる、わかりやすい色に塗るという発想はないから。みんなが思っている「わかりやすさ」はしっくりこない。もっと曖昧に過ごしているんですよね。そこを自分の作品にちゃんと投影したいというか。自分もそういう人間だし。その辺は素直に表現していて。あと、僕にとっては音楽はあくまで楽しいもので。そこも大事なことではありますね。
どこにでもある食材で、美味しい料理を作れる人が格好いいなって思いますね。
―『FLEHMEN』のアートワークもご自分でデザインされたんですよね。ちなみに、他でもデザインのお仕事をされているんですか?
C:たまに、友達に頼まれてジャケットを作ったりはしてます。
―もともとデザイナーとミュージシャンと並行して活動されていたんですよね。
C:いや、最初はグラフィックデザインが本職だったんですよ。音楽が趣味だった。それがある時に逆転して、音楽が仕事になって、デザインが趣味になったんです。
Curly Giraffe『FLEHMEN』ジャケット
―そのふたつが繋がってる感覚はあります?
C:繋がってますね。基本的に、僕はモノを作るのが大好きだから。料理を作るのも大好きなんですけど。
―ちなみに、得意料理なんてお伺いしてもいいでしょうか?
C:僕の目指しているのは、冷蔵庫の残り物でパパっと何でも作れる人なんですよ。手の込んだ料理が作りたいわけじゃなくて。冷蔵庫を見て、これとこれとこれがあるから、これを作ろうって。
―フォアグラみたいな高級食材なんて使わないし、「男の料理」みたいに凝ったりするつもりもない、と。
C:そうそう。そういうのには、まったく興味ないです(笑)。
―なるほど。その話って、実はCurly Giraffeの音楽の説明になってる感じがします。
C:そうかもね。僕にとって、憧れの料理人はそういう人なんです。どこにでもある食材で、美味しい料理を作れる人が格好いいなって思いますね。
リリース情報

- Curly Giraffe
『FLEHMEN』 -
2012年3月7日発売
価格:3,045円(税込)
VICL-638521. VEDEM
2. Rose between two thorns
3. go now
4. Rootless wanderer
5. Enchanted road
6. Midnight explorers
7. Baron Nishi and Uranus
8. Necessary evil
9. Just barely
10. a week
11. seize and howl
プロフィール
- Curly Giraffe
-
2005年10月にEP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ほぼノンプロモーションにもかかわらずロングヒットを記録。その後もコンスタントに作品をリリースし、高い評価を得る。作曲、演奏、録音、アートワークなどを一人で行うなど、その才能は多岐にわたる。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。