どこから来て、どこへ行く? 転校生インタビュー

知らない人たちの中に飛び込んでいく大きな不安と、そこから何かが始まるかもしれないという少しの期待と。転校生が味わう、そんなビタースウィートな青春の感覚を、ビター成分多めで鮮やかに描き出すのが、水本夏絵のソロプロジェクト「転校生」である。友達と馴染めなかった幼少期、組んでは解散を繰り返したバンド期を経て、音楽だけを拠り所としてきた彼女の生み出す楽曲は、手触りこそやはりディープだが、聴いた後には不思議な清涼感が残る。それこそが転校生というアーティストの魅力であり、水本の音楽家としての大きな可能性が垣間見える部分ではないだろうか。慣れないインタビューに緊張しながらも、様々な葛藤のあったこれまでを振り返ったこのテキストを契機に、ぜひとも彼女の音楽に触れてみてほしい。

自分が好きじゃないものを好きって言ったり、無理して周りに合わせてる感じがあって。

―転校生の曲からは、ある種の疎外感みたいなものが強く感じられるのですが、小さい頃はどんな子供だったんですか?

水本:小さい頃はおとなしくて、人見知りが激しくて、友達と馴染めなかったんです。私はフィリピンのお母さんと日本人のお父さんのハーフなんですけど、特に小さい頃って顔の作りがみんなと違うんです。それを自分でも感じてたし、他の子も何となく「違うな」って思ってたと思うんです。なので、休み時間はお兄ちゃんとばかり遊んでるような感じでした。

―引き籠っちゃったりしたときもあったのかな?

水本:それでも小学校まではちゃんと行ってたんですけど、中学校の途中で「何で私はこんなに頑張ってるんだろう?」と思って。段々周りに合わせることができるようにはなってたんですけど、自分が好きじゃないものを好きって言ったり、無理して周りに合わせてる感じがあって。それで休みがちになって行きました。

―表面的なコミュニケーションに対する違和感っていうのも、歌詞から強く感じられる部分ですね。そういう中で、音楽はある種の支えだったりしたのでしょうか?

水本:最初は特別音楽が好きって感覚はなかったんですけど、中学2年のときにaikoを聴いて、初めて「こういう音楽もあるんだ」と思って。aikoは、自分の中で他のJ-POPと違う感覚があったんです。歌詞とか歌声とか曲の雰囲気が、考えて作られてるっていうか、深いものがあるような感じがしたんですよね。

―あー、aikoの感じは転校生にも残ってますよね。

水本:ホントですか? すごい! あんまり言われないです。

―いや、すごくあると思うけどな。じゃあ、自分で曲を作って歌うようになったのは?

水本:高校にも行ったんですけど、やっぱり友達が出来なくて、面白くないからやめちゃって。それからバンドを始めました。コピーバンドでライブを、遊びの延長みたいな感じで。

―メンバーは?

水本:ネットのメンバー募集の掲示板を見て、連絡しました。「どうやったらカラオケ以外で歌を歌えるんだろう?」と思ってて、aikoのライブDVDを見てたら、「あ、バンドやればいいんだ」って。そのときは、バンドを踏み台にしてやろうと思っていました(笑)。

―(笑)。

水本:そうしたら、バンドはすごい奥が深くて。そのときはベースが弦が4本だっていうことすらしらなかったんですけど。

―バンド内でのコミュニケーションはどうだったの?

水本:学校の友達とは違って、好きなもので集まってる人たちだったから、共通の話題がもうそこにあるんです。だからバンドの人たちだと話しやすくて、普通に仲良くできました。

2/4ページ:その頃の私はものすごく吹っ切れてしまっていて、みんなに好かれようとは思わなくなって、嫌ってほしいと思ってたんですよ。

その頃の私はものすごく吹っ切れてしまっていて、みんなに好かれようとは思わなくなって、嫌ってほしいと思ってたんですよ。

―そのバンドはどれくらい続いたんですか?

水本:仲良くできたと言っても、バンドを組んでは解散してを繰り返していて、やっぱりそこでも人間関係はあんまり上手く築けなかったんです。でも20歳ぐらいまでバンドは組み続けていました。1番最後に組んだバンドでオリジナルを初めてやって、やっとずっと一緒にやれそうな人たちとバンドができた気がしたんですけど、結局そのバンドも喧嘩して解散しちゃって、それまでも何個も組んではやめていたので…

―ちなみに、何個ぐらい組んでたの?

水本:えーと、数えたことないんですけど…10バンドぐらいは…

―高校の途中からだから、3年間ぐらいで10個ってことだよね(笑)。

水本:その頃にはこれからも音楽をやっていきたいというか、プロになりたいとかも考えるようになっていたんですけど、私はバイトも続かないからお金もないし、この先どうやって生きていけばいいんだろうと思って、音楽をやってない時期もありました。でもやっぱり続けたい気持ちがあって、バンドは組めないから、1人で作って歌ってみようと。

―「プロになりたい」っていうのは強く思ってたの? それとも、漠然と?

水本:バンドが解散した時点で、結構あきらめてたんです。ライブはやってたんですけど、あきらめていて、「このまま死んでいくんだろうな」って。でも、やっぱり人に聴いてもらいたいと思って、MySpaceに音源をアップしてたら、今のレーベルからメールをもらって。

―1人でも、ライブはやってたんだね。

水本:私の中で「練習したらライブをする」っていう方程式みたいのがあって、ライブをしてないと音楽活動をしてないみたいな感じがあって。ただ、ソロの人って周りにいなくて、1人で出るのがすごく心細かったので、後ろに子供用の可愛らしいテントを置いて、もう片方にぬいぐるみを置いて、バンドっぽくしようと思って。私しか見られないっていうのがすごく怖かったので、どうにか集中を散漫にできないかなって。

―でもその怖さよりも、ライブをしたいっていう意欲の方が勝ってたわけだ。

水本:曲を聴いてもらう機会がライブしかなかったというか、MySpaceにも上げてたんですけど、誰が聴いてるかわかんないし、少なくても、聴いてくれる人を確認したくて。

―それはどこかでコミュニケーションを求めてたっていうことでもあるのかな?

水本:その頃の私はものすごく吹っ切れてしまっていて、みんなに好かれようとは思わなくなって、嫌ってほしいと思ってたんですよ。「みなさん聴いてください」とか言わずに、ものすごく攻撃的な感じで、睨んでたり、威圧的な発言をしたり、自分からコミュニケーションをやめるっていうか、一方的に歌って帰るみたいな。

―でも、そういう中でも「よかったです」って声かけてくれる人もいたでしょ?

水本:言ってもらっても、完全に信じてなかったです。「お世辞で言ってるんだろうな」とか、「あの人何が目的でこんなこと言ってるんだろう」とか。そう思ってた方が自分の中で楽だったんです。信じない方が、嘘がわかって傷つかなくていいから。最初からそんなこと思ってないって思えば、自分でも割り切れるっていうか。

―だとしたら、その頃は何のために音楽をやっていたんだと思う?

水本:そのとき感じてたのは、「これをやらなければならない」っていう、使命感みたいな。他に選択肢がなかったというか、「伝えたい」とか「気づかれない感情を気づいてほしい」とか、そういうことではなくて、「これしかない」みたいな感じでやってましたね。

―それこそ、音楽がなかったら死んじゃうぐらいの感じだった?

水本:音楽がなかったら、私は何のとりえもない、空っぽな人間だと思ってました。そのときは音楽がとりえだとも思えなくて、生きるのをあきらめてましたね。

3/4ページ:今までは自分だけの転校生だったのが、みんなが関わって転校生っていうプロジェクトになって、それにはすごく戸惑いがあったんです。でも、そのお陰で「私は音楽を続けていいんだな」って思えるようにもなったんです。

今までは自分だけの転校生だったのが、みんなが関わって転校生っていうプロジェクトになって、それにはすごく戸惑いがあったんです。でも、そのお陰で「私は音楽を続けていいんだな」って思えるようにもなったんです。

―「転校生」っていう名前はいつから使ってるんですか?

水本:最初は別の名前だったんですけど、もっとテーマみたいなものをつけたいと思ってて、あるとき人から「転校生っぽいキャラだよね」って言われたんです。文字の並びとかも、漢字3文字で簡潔で、でも意味を成してて、これはいいなと思って。

―ちなみに、最初はなんていう名前だったの?

水本:「#00FFFF」っていう、HTMLのカラーコードで、このぐらい(アー写、およびジャケット)の水色を指してるんですけど、意味わかんないんで、転校生に改名しました。

―「転校生」がしっくり来たんだ。

水本:転校したことないので、そう言われることもなかったんですけど、初めて言われて「なるほど」と思って。しっくり来た感じはありましたね。

―でも、周りを信じずに音楽を続けてて、それこそレーベルから声がかかったときはどう思った?

水本:最初はものすごく戸惑いましたね。「CD作りませんか?」ってメールが来て、普通に嘘だと思って、お金を巻き上げられると思ったんですけど、電話したりして、どうやら本気っぽいなって。

―それで、一緒にやることになったんですね。

水本:今までは自分だけの転校生だったのが、みんなが関わって転校生っていうプロジェクトになって、それにはすごく戸惑いがあったんです。でも、そのお陰で「私は音楽を続けていいんだな」って思えるようにもなったんです。

―だからこそ、熊本を離れて、こっちに来ようと?

水本:最初は「東京でライブをしませんか?」って言われて、それで東京に来たときに初めてレーベルの方たちとお話をしたんです。もともと熊本にいると不便だなって思ってたんですけど、その時に、熊本と東京の最低賃金の差を教えてもらって(平成23年度は熊本が647円、東京が837円)、「これは東京でバイトをして暮らした方が、お金がたまるんじゃないか」って。それだったら、レーベルに声をかけてもらってるし、東京に行かない理由はないなと思って。

―で、東京に出てきたと思ったら、実は埼玉だったんですよね(笑)。山あり谷ありだね(笑)。

私が曲を作るときは、基本的に怒ってたり、怒りが込められてます。

―aiko以降、今の転校生の音楽のベーシックにあるのはどんな人たちからの影響ですか?

水本:1番好きなのはLily Chou-Chouで、あとはSUPERCARとかSIGUR ROSとか。ちょっとポストロックっぽい感じのものが好きなんです。ただ、自分はポップなものがやりたいので、そういう面ではaikoさんとか、安藤裕子さんとかが好きです。

―ニコ動とかもバックグラウンドにあると言えますか?

水本:特定の何かに影響を受けていることはないんですけど、初音ミクを使った曲の大半が同じ雰囲気を持ってたりして、そういうところに影響は受けていると思います。

―ちなみに“パラレルワールド”って、そういうニコ動とかネットがテーマの曲だったりするんですか?

水本:いや、そんなことはないです。

―そっか(笑)。歌詞に「ストロボライト」って出てくるでしょ? あれが椎名もたくんの曲名から来てるのかなって思って…でも、さっきの話からすると、SUPERCARからか。

水本:そうです。その曲も知ってますけど、知ったのはこの曲を作った後ですね。

―じゃあ、実際には“パラレルワールド”はどんなことがテーマになってるんですか?

水本:テーマというか、これは私の中でひとつのお話を作ったんです。説明すると、たぶんものすごくハテナが浮かんでしまうと思うんですけど…

―ネットとかニコ動って話を出したのはつまり、この曲はある種の逃避願望がテーマになってるのかなって思ったからなんだけど。

水本:そうです、そうです。私もそう思って書きました。

― “東京シティ”とかもそういうところが根底にあるのかな?

水本:その曲は、どこか別の場所に行くことで、何か自分が変われたらいいなっていうぐらいの、そういう心境の曲ですね。ただ結構これは…投げやりな感じなんです。あんまり希望は持ってなくて、「変わるんじゃないか」くらいの気持ちで。

―“人間関係地獄絵図”とか、タイトルだけ取るとどぎついけど、そういう投げやりな気持ちというか、攻撃的な気持ちがある?

水本:私が曲を作るときは、基本的に怒ってたり、怒りが込められてます。例えば、“空中のダンス”は、歌詞にも「だれも気付けない」とか「だれも見ていないさ」ってありますけど、自分が泣いたり笑ったり怒ったりしても、誰も見てないし気付かない、そのどうしようもない状況というか、その感情をどこにぶつけたらいいのかっていうのが怒りに変わって、それが出てきちゃってるみたいな感じですね。

―それは「気付いてほしい」とか「見てほしい」とはまたちょっと違うわけだよね?

水本:基本的に、私の曲は突き放してる感じがあって、客観的に見てる感じがあると思うんです。「気付いてほしい」っていう気持ちよりも、そこに行き切った後の感想みたいな、「こういう風に思っていました」という感じなんですよね。

4/4ページ:私が音楽をやらなくなったら、みんなが必要としてくれなくなるっていう感覚はあります。

私が音楽をやらなくなったら、みんなが必要としてくれなくなるっていう感覚はあります。

―作品を1枚作ったことで、今日これまでに話してもらったようなことに多少変化はあったんじゃないかと思うんですけど、どうですか?

水本:やっぱり、前は音楽を作って人に聴いてもらいたいと思っても、自分から突き放していたんですね。「どうせそんなに興味ないでしょ」って思ってたし、私も「好きにならなくていい」って思ってたんで。でも、今ではそれじゃいけないって思う気持ちが自分の中にあって、聴いてくれてる人がいるんだから、そういう人たちに失礼だと思うし、その人たちにそういうことを思いながら歌うのはダメなことだなって。自分の中では、それがものすごく、劇的に変わったというか。これまでそんなこと思ってもなかったし、今自分がこう思ってること自体すごいなって思うんです。

―これからはライブも増えるだろうし、その意識の変化は大きいだろうね。

水本:やっぱりライブは怖いっていう気持ちがあるから、レコーディングが始まってからはずっとやっていなかったんですけど、今は少なからず音源を待ってくれてる人がいて、その期待に応えるじゃないですけど、いいライブがしたいなって…当たり前なんですけど。

―今後の活動の展望とかってありますか?

水本:不安しかないです。

―こうなりたい、こうありたい、とかは?

水本:…安心したいです。今は不安でいっぱいで、ネガティブなことばっかり考えてしまうんですけど…

―途中で言ってた、「使命感」みたいなものはまだあるのかな?

水本:まだありますね。私が音楽をやらなくなったら、みんなが必要としてくれなくなるっていう感覚はあります。

―そっか。でも以前に比べると考え方が劇的に変わったように、これから活動が本格化していく中で、またいろんな考え方が出てきて、それがどう作品に反映されるかが、聴き手としてはすごく楽しみです。そのときは、また取材させてくださいね。

水本:はい、ありがとうございます。

リリース情報
転校生
『転校生』

2012年5月2日発売
価格:2,300円(税込)
EASL-0011

1. 空中のダンス
2. 人間関係地獄絵図
3. 東京シティ
4. エンド・ロール
5. ほうかご
6. 家賃を払って
7. ドコカラカ
8. 傘
9. パラレルワールド
10. きみにまほうをかけました

CINRA.STOREで先行配信販売中!

プロフィール
転校生

熊本県出身埼玉県在住、水本夏絵によるソロ・プロジェクト。「わたしの音楽がひつじなら、わたし自身はオオカミだ」



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