確実にどこか間違ってる 赤い公園インタビュー

ロックバンドというフォーマットは、まだまだ手付かずの「白紙の領域」を開拓することができる。最新のテクノロジーを導入したり目新しいジャンルにチャレンジしたりしようとしなくても、視点をちょっと変えるだけで、自由で新鮮なポップを鳴らすことができる。それが、「赤い公園」という一風変わった名前を名乗る4人組ガールズバンドの鳴らす音楽から感じた、正直な印象だ。

高校の軽音楽部で結成されてから2年、噂が噂を呼ぶような形で次第に注目を集め、今年2月にミニアルバム『透明なのか黒なのか』でメジャーデビューを果たした彼女たち。白い衣装を身にまとう謎めいたキャラクターにまずは目がいくが、聴いているうちに、独特のズレを持ったセンスと、どこか荒涼としたエモーションに、虜になる。

5月9日にリリースされるのは、荒々しくオルタナティブな「黒盤」の『透明なのか黒なのか』と対になる、キラキラとしたポップな一面を象徴するという「白盤」ミニアルバム『ランドリーで漂白を』。ただし、キュートなメロディと不協和音ぎりぎりのハーモニーを笑いながら同居させる彼女たちの音楽性は、単純に「ポップ/オルタナ」という単純な2面性だけで語れるものではないはず。全曲の作詞作曲、プロデュースを担当するギターの津野米咲(つのまいさ)を含む4人に、その不思議な音楽性の由来を訊いた。

「ここにこの音を入れたら超面白くない?」「マジウケる!」みたいにして曲作りが進んでる。

―今日は赤い公園というバンドについて、2つの仮説を持ってきたんです。まず『ランドリーで漂白を』というこのアルバムについて、あくまでキャッチコピーとしては「キラキラ&ポップ」という言葉がありますけれど、バンドの根っ子にあるのは「わかりやすいポップさ」とは別のものなんじゃないか、というのがひとつ。で、あくまで4人のバンドというスタイルでやってるけれど、音楽を生み出しているCPUやエンジンの部分は、バンド以外の発想で動いているんじゃないか、というのがもうひとつ。どうでしょう?

津野(Gt/Cho):まず、根っ子の部分がポップじゃないという仮説については、自分達ではそうじゃないと思ってます。ポップだと思っているし、それが好きなんです。でも、バンドでやってるんだけどバンドじゃないというのは、まさにおっしゃる通りです。私、ギターで曲を考えるのがすごく苦手なんですよ。だから、ピアノで全部のパートを作って、それを無理やりギターでやってるんです。そこは見透かされてしまいました(笑)。

―特に、赤い公園の曲って、ポップスとかロックのセオリーだったら不協和音になる音をあえて使ってる気がするんですけれども。

津野:そう! 大好きですね。

―どちらかというとラヴェルとかドビュッシーみたいな。

津野:おお! 私の好きなドビュッシーが出てきた!(笑) 大好きなんですよ。不協和音そのものが好きなわけじゃないけど、曲の流れで不協和音になった瞬間にピンと張り詰める感じ、そこから戻った瞬間に緩む感じが好きなんです。変態なんですよ(笑)。

―それは津野さんがバンドを組む前から好きだったということ?

津野:そうなんです。

―そもそも赤い公園って、高校の軽音楽部で、1年先輩の津野さんが後から加入する形で結成されたんですよね。バンドの始まりはどんな感じだったんでしょうか?

津野:もともとコピーバンドをやってたんですけど、ギターが抜けちゃって、代わりに私が入ったんです。高校を卒業するタイミングで、記念にオリジナル1〜2曲作ろうよってやったのがきっかけで。

赤い公園

―それ以前は?

藤本(Ba):ひたすらコピーばっかりで、オリジナルをやったことはなかったんですよ。だからその時も「そっか、これがオリジナルかぁ、すごいねぇ!」みたいな感じで(笑)。

津野:まあ、今もそんな感じだよね。「ここにこの音を入れたら超面白くない?」「マジウケる!」みたいにして曲作りが進んでるんで。

2/3ページ:ポップにしたかったのに、確実にどこか間違ってるんですよね。そこを愛していただければ、これ幸いです。

ポップにしたかったのに、確実にどこか間違ってるんですよね。そこを愛していただければ、これ幸いです。

―“ナンバーシックス”とか“血の巡り”とか、後半で男性コーラスが突然入ったり、変な音を入れてはしゃぎあったりして、曲展開がどんどん壊れていきますよね。これはどういう経緯で?

歌川菜穂
歌川菜穂

津野:壊していくのは私かな。全部のパートの録音が終わった後に、シンセとか打楽器を用意してもらって入れる日があって。エンジニアさんと「これめっちゃウケる!」って言いながらやってるのが、そのまんま入ってます(笑)。ドラも叩いたよね。

歌川(Dr/Cho):“血の巡り”の後半で叩いたんですよ。「せーの!」ってやって、超楽しかった!(笑)


―歌についてはどうでしょう? 佐藤さんのボーカルは、激しく叫ぶ感じからキュートな感じまで、いろんな歌い方を持ってますよね。

佐藤(Vo/Key):それは最初の頃の歌い方が乏しかっただけなんですよ。楽器に負けないように歌わないといけないってことしか考えてなかったので。でも、いろんな経験をしていくうちに、別にそんなことはないんだなと学ばさせていただくことが多くて。最近やっと全部同じ歌い方はつまらないと思って、歌い方を意識できるようになりました。

佐藤千明
佐藤千明

―あと、歌の音程もあえて微妙にズレを残している感じがするんです。今の時代、音程の補正っていくらでもできると思うんですよ。でも、そういうところも、手書きの味を残してやっている音楽のような気がする、というか。

津野:そうかもしれないです。オートチューンとか、極力やらないようにしてます。19とか20歳で補正し始めちゃったら今後が不安なんで(笑)。かけるにしても、ちょっと高めとかちょっと低めにあわせたりする、面倒くさいタチですね。ピッタリが必ずしもいいわけじゃないんですよ。そこで個性が丸つぶれになる気がする。

―だから、このバンドって、積極的にズレますよね。音程だけじゃなくて、マインドとしてもそう。

津野米咲
津野米咲

津野:そうですね。4人が違う部屋にいたり、4人の季節が違ったりする。これがもし5人だったら騒がしいかもしれないけど、4人だからOKです(笑)。ポップにしたかったのに、確実にどこか間違ってるんですよね。そこを愛していただければ、これ幸いです。

―だから、清潔な音楽じゃないですよね。これは褒め言葉として言ってるつもりですけど。

津野:ありがとうございます。清潔な音楽って、ウイーン少年合唱団とかですもんね!? 確かにそういうのじゃない(笑)。奇麗事は何ひとつないと思います。

19歳でここまで声が高級な人はなかなかいない。声が安っぽい人だったら、このバンドの深みは全く出ないと思うんです。

―赤い公園というバンドは4人それぞれの個性から成り立っていると思うので、ここからはメンバーの4人それぞれがどんな人かについても訊きたいと思うんですけれども。まずは、津野さんから、佐藤さん、歌川さん、藤本さんがどういう風にバンドの役割を担っているのかを語っていただければ。

津野:わかりました。まず、ちーちゃん(佐藤千明)って、声が高級なんですよ。歌が上手い人は他にも一杯いるけれど、19歳でここまで声が高級な人はなかなかいない。声が安っぽい人だったら、このバンドの深みは全く出ないと思うんです。ちょっと変なことが好きな、ちょっと道から外れたい、不良女子4人組でしかないと思う。あと、私はそれを言われるのがすごくイヤなんですけど、歌詞も「病んでる」って言われることが多くて。「病んでる」と「病んでない」は紙一重だし共存しているし、どの曲にもその2つは入っていると思う。「意味がない」と言われることもあるんですけど、意味がないわけじゃなくて、意味を説明できないだけ。で、そういう歌を歌うのは、すごく戸惑ったと思うんです。でもいろいろ考えて、こうやって歌ってもらってる。それはすごく感謝してます。今後がすごく楽しみな佐藤千明さんです(笑)。

―ドラムの歌川さんは?

津野:歌川さんは一番のしっかり者で、一番の器用貧乏ですね。いろんなことができるし、ピアノもちょっと練習したらできるし、鍵盤ハーモニカもやってくれるし、コーラスもできる。で、彼女のドラムは独特のタメがあって、独特の跳ね方をするんです。そこがすごくいいんですよね。一番小さいけど、一番大人な歌川さんです。

―藤本さんは?

藤本ひかり
藤本ひかり

藤本:私は、クズです(笑)。

津野:確かにクズなんです(笑)。でも、彼女は何があっても一生ついてきてくれると思います。もともと一緒にライブを観にいったりして一番仲良かったのが藤本さんなんですよね。で、クズ加減が私にそっくりなんですよ。男グセも悪いし、ベースを聴いててもダメなヤツってのがわかる。気まぐれというか、常にちょっと後ろに引っ張られる感じのベース。で、すごく音がデカイ。でも、それがナオのドラムに合うし、なんだか憎めないんですよね。私が考えてきたベースラインも、彼女が弾くとあっという間に彼女のものになる。楽器隊の中では一番主役っぽいことをやってもらってるんで、ドラムとベースは表立って評価されることが多いです。褒められて伸びるタイプなんで、褒めてあげてほしいです(笑)。

3/3ページ:マキシマム ザ ホルモンと空気公団を足して2で割ったようなバンドになりたい(笑)

マキシマム ザ ホルモンと空気公団を足して2で割ったようなバンドになりたい(笑)

―じゃあ今度は、佐藤さん、歌川さん、藤本さんの3人に、津野さんがどんな人かを語ってもらえますか?

佐藤:まいさ先輩は、これから先何をしても、たとえ刑務所に入るようなことをしても、「まいさ先輩はこういう人だから」って信じられるような土台がしっかりある。そういう人ですね。人間としての芯がちゃんとある人だと思います。それが何なのか私もよくわからないんですけど。

歌川:いろんな面を持ってますね。ちゃんと芯があるんですけど、グニャグニャかもしれないし、鉄のようになってるかもしれない。そこがわからないんですよ。個人的には、すごく好きです。バンドを始めた頃も、津野さんがこっそりやってるブログを見つけて、それをずっと見てたし。刑務所に入るようなことをしても、毎日会いに行っちゃうと思います。

津野:そっか! じゃあ一緒に入ろうか、刑務所(笑)。

―藤本さんから見た津野さんは?

藤本:津野さんも、憎めないタイプのクズですね(笑)。でも、去年の秋くらいからやっと津野さんのことをわかってきてるんですけど。いつも新しいものがどんどん出てくるから、頭の中がどうなってるんだろう? って不思議です。

―ちなみに、津野さんは映画とか本とか、音楽以外のものからも貪欲に好きなものを吸収していくようなタイプですか?

津野:映画は本当に好きなものしか観ないです。本は、休み時間の度に図書室に行って読んでたくらい好きですね。あと、音楽は貪欲です。知らないのが悔しいというのがあるので。

―座右の1冊ってあります?

津野:嶽本野ばらさんの『ミシン』という本に入っている『世界の終わりという名の雑貨店』という短編がすごく好きです。私、ラブストーリーは苦手なんですけど、すごく衝撃を受けました。あともう1冊あげるとするならば、江國香織さんの『すきまのおともだちたち』。ゆるふわのようでゆるふわじゃない。こういう音楽ができたらいいなって思いました。

―なるほど。赤い公園って、「こういう小説みたいな音楽をやりたい」というのは言えるかもしれないですけど、「こういうバンドみたいな音楽をやりたい」っていうのはないですよね。

津野:ないですね。

―ロールモデルになるようなバンドがない。

津野:うん。あ、でも、最近思ったのは、これを言ったらいろんな人に怒られるかもしれないけれど、マキシマム ザ ホルモンと空気公団を足して2で割ったようなバンドになりたい(笑)。素敵じゃないですか? こないだ夢に出てきたんですよ、そういうバンドが。で、すごく格好よかったんですよね。実際にそこを目指したら問題だと思うけど、自然とそうなれたらきっと面白いと思います。あとはミスチルみたいになりたいですね。もろアングラなことをやっても、桜井さんの声を聴くと無条件でJ-POPだと思えちゃうようなバンド。そういうのもいいなって思います。

リリース情報
赤い公園
『ランドリーで漂白を』

2012年5月9日発売
価格:1,500円(税込)
TOCT-28054

2. ナンバーシックス
4. よなよな
6. 血の巡り
8. ランドリー
10. 何を言う

リリース情報
赤い公園
『透明なのか黒なのか』

2012年2月15日発売
価格:1,500円(税込)
TOCT-28036

1. 塊
3. 透明
5. 潤いの人
7. 副流煙
9. 世紀末

プロフィール
赤い公園

佐藤千明(Vox/Key 1993.1.14)、津野米咲(Gt/Cho 1991.10.2)、藤本ひかり(Ba 1992.10.31)、歌川菜穂(Drs/Cho 1992.8.28)、女子4人による“ポストポップバンド”。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、佐藤、藤本、歌川の3名によるコピーバンドにサポートギターとして津野が加入。そのままズルズルと現在に至る。2012年2月デビューミニアルバム(上盤/黒盤)「透明なのか黒なのか」、5月にデビューミニアルバム(下盤/白盤)「ランドリーで漂白を」を発売した。



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