踊る文化を愛する気持ち DUB STRUCTURE #9インタビュー

一度でも音楽の現場を体験すれば、人は魔法にかかってしまう。ギターを練習してバンドを組む人がいれば、ターンテーブルを買ってきてスクラッチを真似してみる人もいるだろう。最高のサウンドシステムで、最高の仲間と共に音を浴びるという体験は、何物にも代えがたい魅力を持っているのだ。しかし、昨今の風営法の問題に代表されるように、日本における音楽の現場を取り巻く状況は、決していい状況だとは言えないのが実情である。幼馴染で結成され、バンドシーンとクラブシーンを股にかけて活動するDUB STRUCTURE #9は、そんな状況を変えたいと願っているバンドだ。一発録りの生々しい演奏を刻んだ新作『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』には、彼らに衝撃をもたらしたDJに対するリスペクトと、音楽の快楽性がぎっしりと詰め込まれている。そう、踊ることに文句は言わせない。彼らのパーティーは、まだまだ始まったばかり。

それまでDJは「曲を流す」ってイメージだったんですけど、音楽がDJから演奏として出てる感じがあって、すごく衝撃的でした。(Canno)

―みなさん幼馴染なんだそうですね。

Canno(Gt):個別に小学校から知ってて、高校ぐらいでみんなが出会いました。元々バラバラで別のバンドをやってたんですけど、つるんでイベントをやったり、一緒にツアーに行ったりはしてたんです。その後にそれぞれのバンドが解散しちゃって、「どうしよう?」ってみんな暇になっちゃったタイミングで、「やりますか」って。

Canno
Canno

―紙資料には「クラブシーンとロックフィールドを繋ぐ」という言葉もありますが、実際にこれは活動の中で意識している部分なのでしょうか?

Canno:そんなに意識してるつもりはないんです。元々ロックの出身なんですけど、クラブカルチャーに出会ったときに、DJはジャンルに捉われずにロックもかければ四つ打ちもかけるので、その感覚がすごく新鮮だったんです。なので、自分たちもジャンルには捉われずにやりたいっていうのはありました。バンドをやってて「ジャムバンド」っていう括りにされたりもしたんで、そういうのに反抗しようというか、壁を壊したいっていうのもありましたね。

―実際に近年はライブハウスではなく、クラブをメインに活動してるんですよね?

Minami(Vo):ライブハウスはDJのサウンドシステムがよくないことが往々にしてあるじゃないですか? バンドに合わせて作られてるから、DJだとタイムラグがあってできないところもあって、自然と今みたいになって来ましたね。DJも俺らと同じ1人の出演者だから、いい環境をちゃんと選びたいなって。

Minami
Minami

Canno:ライブハウスシーンだと「転換時間のDJ」みたいな立ち位置が多くて、それが嫌だったんです。バンドと同列というか、むしろDJを見に来てるお客さんに、間でライブを見せたいぐらいの感じなんですよね。やっぱり「DJすげえ! 一緒にやりたい!」って思った初期衝動みたいなのが今もあるんです。

―特に印象に残ってるDJというと?

Canno:『SPROUT』っていうイベントが群馬のwarehouse RAISEであって、CMTとかが出てたんですけど、そのときは今までにない感覚を味わいましたね。それまでDJは「曲を流す」ってイメージだったんですけど、音楽がDJから演奏として出てる感じがあって、すごく衝撃的でした。

―DJをやってるメンバーもいるんですか?

Arai(Ba):一応やってるんですけど、まだまだ駆け出しです。なので、自分たちが気兼ねなくDJをやれるイベントをやろうってことで、今年から渋谷のKOARAで毎月1週目の火曜日に『armadillo』っていうパーティーを始めたんです。

―年末に開催される主催イベント『MONK!!』だったり、下北沢でやってる『CLUB MARQUEE』だったり、自分たちから発信しようっていう意識が強いバンドのように見えます。

Okura(Dr):ブッキングで他のバンドとやらせにくいバンドなんですよ(笑)。それだったら自分たちで好きな人とやろうっていう。

Arai:「好きな人たちとやりたい」っていうのが一番大きいですね。

Minami:年末の『MONK!!』に出てくれる人たちは、まさに「ヤバい!」って思わせてくれた人たちばっかりですからね。

学生寮みたいなところでパーティーをやってて、途中で警察来たんですけど、「静かにしろよ」ぐらいなんですよ。その理解の差、日常への溶け込み方の差は感じましたね。(Okura)

―11月にドイツツアーがありましたが、どういうきっかけで行かれたのですか?

Canno:単純に、「行きたいな」と思って(笑)。「ライブはできなくても、ドイツには行こう」みたいな感じで、無理やり行きました(笑)。

―独力で行ったっていうことですよね? すごいバイタリティーだと思いますけど、大変なことも多かったんじゃないですか?

Canno:機材を持って行くのが一番大変でしたね。持って帰るときなんてオーバーチャージで7万円ぐらい取られちゃって(笑)。

Okura:向こうは会場にあんまり機材がないから、こっちで全部持ち込むぐらいの勢いでやらないとなんですよ。

―DUB STRUCTURE #9は機材多いですもんね(笑)。昔から海外志向だったんですか?

Canno:特別海外志向というわけじゃないんですけど、とにかくいろんなところで演奏したくて、いい出会いもいっぱいあるし、楽しいですからね。電気さえちゃんとしてれば、インドとかでもやりたいし。

Arai
Arai

―なぜ今回はドイツだったんですか?

Minami:ベルリンの音楽シーンに触れてみたかったんです。

Arai:アメリカよりヨーロッパ、ヨーロッパならドイツ、ドイツならベルリンって思って調べてたら、ドイツのライターさんが書いたクラブ巡りとかフェスの記事があって、平日にMOODYMANNとかがその辺で回してるって書いてあったんですよ。でも行ってみたら、それは夏の話で、もちろん冬は冬でよかったんですけど、かなり寒くて(笑)。


―(笑)。日本との違いはどんな部分で感じられましたか?

Canno:ライブが終わって気さくに話しかけてくれる人は多かったかもしれないですけど、基本的には向こうも日本も音楽が好きでクラブに来てて、自由に楽しむっていう姿勢は一緒だと思いました。ただ、向こうの方がちゃんと音楽と社会が共存してるっていうのはすごく感じて、そこはちょっともどかしさも感じましたね。やってる人の熱量はベルリンも日本も変わらないし、むしろ厳しい状況でやってる日本人は気合入ってていいなとも思ったんですけど、向こうは肯定されてる中で、みんなリラックスして楽しんでるから、それはやっぱりすごくいいなって思いました。

Okura:学生寮みたいなところでパーティーをやってて、バンバン音出してて、途中で警察来たんですけど、「静かにしろよ」ぐらいなんですよ。その理解の差、日常への溶け込み方の差は感じましたね。ベルリンは土地に余裕があって、建物の間に隙間があるから、そういう事情もあると思うんですけど。

Okura
Okura

Canno:日本だと風営法の問題で大阪は本当に大変だし、東京にもそれがいつ起きるかわからないっていうのは、現場にいる人はみんな感じてると思うんです。日本もそういう心配をしなくていいようになっていかなきゃいけないなっていうのは、すごく思いますね。

DJ HIKARUさんの話で、パーティーでずっと回して、朝方終わって、そのままレコ屋に行って、閉店まで試聴し続けたって言ってましたからね(笑)。(Arai)

―じゃあ、改めて作品の話も聞きたいのですが、『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』は、ほぼ一発録りで作られていて、バンドの生々しいライブ感が出た作品になりましたね。

Canno:曲作りが間に合わなかったっていうのもあるんですけど、曲を組み立てていくとどうしても予定調和になっちゃって、それで一回積み上げた構成や細かい決まりごとを全部ナシにしてやってみたんです。

―どんな方向に持って行きたかったんですか?

Canno:余白を残したかったっていうのが大きくて。DJが現場でミラクルを起こす瞬間を今まで何度も味わってるので、それをバンドでも表現したかったんですね。そのために、ある程度余白とか隙間を残して、ミラクルが起きたら、それをすかさず抜き取るっていう作り方をしたんです。

―でも、ミラクルが起きない可能性だって当然あるわけで、勇気の要る方法ですよね。もちろん自分たちならそれができるはずだっていう自信があったからこそやったんだとは思うんですけど。

Arai:崩す前の積み上げる段階では繰り返し繰り返し演奏していたので、いかに本番前に準備するか……準備は結局できてなかったんですけど(笑)、あとはメンタル的な部分でしたね。己を信じるっていう。

Canno:5年間ぐらい週3、4回リハをやってきてるんで、バンドの下地はできてたと思うんですよね。

―5年間、週3〜4回はすごい練習量ですね!

Canno:夏休みは週5〜6回とかやってましたからね(笑)。

Minami:でも、そこまでストイックでもないよね? やらないときは2週間ぐらいやらないし……。

Arai:ムラはあります(笑)。真面目さと不真面目さが共存してる感じはありますね(笑)。

左から:Minami、Arai、Canno、Okura

―でも、「ストイックさ」ってバンドのキーワードのような気もしていて、音楽的にもミニマルな、クラウトロック的なストイックさがあるし、『MONK!!』っていうパーティーの名前も「修道士」を意味してるわけですよね?

Minami:そうですね。イベント名に関しては。俺らがストイックっていうよりも、出てくれるDJ陣の音楽への姿勢がすごくて、俺らもそうありたいっていう想いが強いです。だから、音楽への姿勢とか、曲構成とかは確かにストイックだと思うんですけど、人間的には……。

Canno:かなり快楽主義者だと思う(笑)。ストイックにやるとより気持ちよくなれるっていうのが何となくわかってるんだと思います。

―尊敬するDJの人の音楽に対する姿勢ってやっぱりすごいですか?

Canno:すごい人が多過ぎて、萎えます(笑)。

Arai:信じられない話ばっかりですね。DJ HIKARUさんの話で、パーティーでずっと回して、朝方終わって、そのままレコ屋に行って、閉店まで試聴し続けたって言ってましたからね(笑)。

―DUB STRUCTURE #9としても、新作が出て、改めて音楽に対する意識が高まってるんじゃないですか?

Canno:もちろん、昔から意識は高く持っているつもりです。ただ、DJ HIKARUさんの話みたいに、そういう日々を送ってる人がいるんだなって思うと、やっぱり気合いは入りますね。

この4人でいれば、限界の限界の限界を突破していける感じがするんです。2日半踊り続けて帰りたいけど、「でも、行くっしょ?」みたいな(笑)。(Minami)

―『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』というタイトルからは、やはり震災を連想しました。

Okura:震災直後はライブが全部キャンセルになって、3月いっぱい動けなかったんですね。それで「このままじゃダメだ」ってことで合宿に行って、そこから今回の曲ができ始めたので、当然その気持ちが出てるのかなって思います。

Minami:震災直後からこれを作り終わるまでのいろんな感情がそのまま出てると思います。当時はあんまり意識してなかったんですけど、曲を聴き返してみて、「俺たちやっぱり食らってたな」って思いました。

Canno:聴き返してみてそう思ったので、曲のタイトルを“NO FUNCTION”から“NEW FUNCTION”に変えたりとか、言葉をポジティブなものに置き換えていったんです。

―意識はしていなかったけど、ネガティブな要素が入っていたと。

Canno:作ってるときのメンタルって出るんだなっていうのはすごく思いました。ただ、ネガティブとポジティブの二つに分けるのもちょっと違って、一周したらネガティブもポジティブになる、一周すれば一緒だっていう考えが根底にあったからこそ、「NO」を「NEW」にできたんです。

―なるほど。“WHEN THE PARTY BEGIN”からはそんな印象を受けました。「終わり」の歌なんだけど、でもそれが「始まり」なんだっていう。

Minami:でも、この曲は終わりかな……権力にやられるっていう歌なんで。パンクとかにあったNO FUTURE感が根底にあった上の、あきらめた上の多幸感というか、だからネガティブでもあるし、ポジティブでもあると思うんです。

Canno:彼は震災で受けた悲しい気持ちを歌に乗せるってタイプではないと思うんですよね。

Minami:どんな曲にもストーリーとかイメージはあると思うんですけど、それを過剰にわかりやすく出してる曲が巷にはたくさんありますよね。そうじゃなくて、各々が曲に対して持つ印象が違っても、もっと複雑な、繊細なストーリーを大事にしたいなって思います。

Canno:リスナーに対して「こうしろ」とか「俺はこう思う」みたいな、言葉に置き換えられるようなメッセージはないと思うんです。音だけでもコミュニケーションはできると思うんで。

―では、DUB STRUCTURE #9が活動していく上で、最も大切にしているのはどんな部分ですか?

Canno:鳴らし続けること、踊り続けることが大事かな。バンドで曲を作って、演奏して、ツアーしてっていうことをやり続けることに、一番価値があると思う。

Minami:この4人でいれば、限界の限界の限界を突破していける感じがするんです。2日半踊り続けて帰りたいけど、「でも、行くっしょ?」みたいな(笑)。

みんなが踊ってて文句を言われない世の中になったらいいなって思うんですよ。(Canno)

―では最後に今後について、近い目標と、バンドとして成し遂げたい大きな目標をそれぞれ話していただけますか?

Minami:とりあえずは年末の『MONK!!』と、年明けのツアーですね。

Canno:目先はそこまでしか考えれない!(笑) それが終わったらまた曲を作るだろうし、またドイツとかヨーロッパとか、もっといろんなところに飛び出していきたいですね。海外にこっちから出向くとウェルカムな雰囲気があって、短期間でいろんな人に出会えるんですよね。

―では、大きな目標はいかがですか?

Canno:最終的に音楽をめぐる状況がよくなるようにしたいですね。それはホントに大きな目標ですけど……。

Minami:総理大臣になる?(笑)

Canno:音楽をみんなが楽しめる世の中を作ろうと思ったら、国を変えるしかないですよね……。区議会議員くらいから始めてみようかな(笑)。でもホントに、みんなが踊ってて文句を言われない世の中になったらいいなって思うんですよ。クラブに限らず、音楽の現場にいる人がもっと増えたら、俺たちももっと楽しいし。

―今はネットで音楽を聴いてる若い子が多いでしょうけど、みなさんがDJにガツンとやられたように、現場でそういう体験を味わってほしいですよね。

Canno:そういう場所でしか体験できない、内から震えるような感覚ってあるから、それをまだ味わったことのない人にはぜひ味わってほしいし、俺ももっと味わいたいし。

―それが原動力になって、自分たちでドイツに行っちゃうぐらいですもんね。

Canno:それぐらい気持ちいいことが待ってるってことですよ。基本的に、気持ちいいことって我慢できないじゃないですか?

―音楽にはストイックでも、やっぱり快楽主義者ですね(笑)。

リリース情報
DUB STRUCTURE #9『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』(CD)

2012年12月12日発売
価格:2,100円(税込)
dive in! disc / JMDID-001

1. NEW FUNCTION
2. POETICS IN FAST-PULSING ISLAND
3. GOLDEN HORSE
4. DO GOOD
5. YOU SO BLUE
6. WHEN THE PARTY BEGIN
7. POETICS IN FAST-PULSING ISLAND(RMX : MR RAOUL K)
8. YOU SO BLUE(RMX : CMT)
9. OKINAWA SUN 9 MIX(RMX : ALTZ)

プロフィール
DUB STRUCTURE #9

2007年東京にて活動を開始。ROCK・DUB・JAZZ・HOUSE・TECHNO・DISCOなど、多種多様な音楽を敬愛/消化し、独自の質感と強烈なグルーヴを進化させている4ピース。 2010年12月、ファーストアルバム『SUGAR MORNING』をリリース。2012年9月、本人たちが敬愛するDJ、ALTZ / CMT(ALTZ、CMT)によるremixをJET SETにて12インチアナログリリースし、ドイツツアーを敢行。そして昨年末12月にはセカンドアルバム『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』をリリースし、彼らがオーガナイズするパーティ「MONK!!!」では年末の西麻布elevenを大いに沸かせた。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 踊る文化を愛する気持ち DUB STRUCTURE #9インタビュー

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて