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無名の画家・堤康将が経験した初めてのグランプリ

無名の画家・堤康将が経験した初めてのグランプリ

インタビュー・テキスト
CINRA.NET編集部
撮影:越間有紀子
2013/03/11

文学では『芥川賞』、写真では『木村伊兵衛写真賞』、演劇では『岸田國士戯曲賞』というように、国内の若手アーティスト、クリエイターの登竜門となるような賞は、アートの世界では何にあたるのか? と問われても答えに窮するのが今の日本のアート界の現状ではないだろうか。海外では『ヴェネツィア・ビエンナーレ』の金獅子賞や、イギリスの『ターナー賞』などが挙げられるが、日本では「受賞すればブレイクスルーになる!」というような影響力のある賞がない、と指摘する声は少なくない。

そんな状況の中、美術財団の設立以来、36年にわたる作家活動支援の理念を継承する損保ジャパン東郷青児美術館が、昨年から公募を開始した『損保ジャパン美術賞展FACE 2013』は、日本の状況を少しでも変えていこうという意思を感じる公募展だった。参加資格は、日本国内在住者であれば、年齢・国籍不問。そして、グランプリ受賞の際には賞金300万円(美術館による作品買い上げ含む)という、国内最大級の待遇でアーティストをバックアップする試みだ。日本全国から10〜90代まで1,275名の応募が集う中、見事グランプリに輝いた若手日本画家、堤康将に話を聞いた。

宝くじとは違う重さを感じています。

『損保ジャパン美術賞FACE 2013』(以下『損保ジャパン美術賞FACE』)の応募総数がいきなり1,200名を超えたという事実は、この公募展に対する日本のアーティストたちの注目度の高さを示している。ゴッホの傑作『ひまわり』をはじめ、ゴーギャン、セザンヌ、ルノワール、ピカソ、岸田劉生など、美術史に名を連ねる錚々たる大家の作品を多数所蔵することでも知られている損保ジャパン東郷青児美術館。その美術館に賞金300万円と共に、自分の作品が買い上げられることについて、率直にどう感じているのかをまず堤に尋ねてみた。

堤:受賞の通知が届いたときはまったく信じられず、何かの間違いだと思って電話で確認してしまいました(笑)。これまでずっと入選止まりで、グランプリを取れたことは一度もありませんでした。自分を信じてやり続けた結果が初めて出たのでとても嬉しいです。子どもの頃から知っている有名な近代画家たちの作品を所蔵している、そんな美術館に作品を買い上げていただけることは、私の作品もひょっとしたら100年後の未来の人たちにも見てもらえる可能性があるのかもしれないと、不思議な気持ちです。賞金300万円は、一部は親孝行に、一部は制作活動に、一部は呑んで、一部は他の作家さんの作品に、一部は先を見た貯金といった感じで使わせていただこうと思っています。宝くじとは違う重さを感じていますので、その重さに見合うよう有益に使わせていただきたいと思います。

『損保ジャパン美術賞FACE 2013』グランプリ 堤康将『嘯く』2012年、岩絵具・銀箔・麻紙、194.1×92.2cm
『損保ジャパン美術賞FACE 2013』グランプリ
堤康将『嘯く』2012年、岩絵具・銀箔・麻紙、194.1×92.2cm

確かに自分の作品が美術館に買い上げられるという事実は、ある意味「重さ」を感じることにもなるだろう。それまで作家にとってごくプライベートな存在だった作品が、自分とは関係のないパブリックな場所で、様々な人に鑑賞され、反応を生み出していく。またそれは作品を買い上げる美術館にも相当の覚悟が必要である。ただグランプリを表彰して終わり、ということではなく、作品を実際に買い上げるということは、その作家に対する責任を背負うことにも繋がってくるのだ。

スランプ状態のときに、気に入らない人を見返してやろうと、怒りに近い気持ちで『損保ジャパン美術賞FACE』に応募したんです(笑)。

ところで一見、ピアスを開けた今どきの若者に見える堤だが、話を始めると素直で素朴なコメントがこぼれ落ち、孤高のアーティストというよりも、気のいいお兄ちゃんといった佇まいでほっとした気分にさせられる。堤は地元福岡の九州産業大学大学院で日本画を学び、これまで『日展』や『院展』などの美術団体展にも何度か出品したことがあるという。しかし結果はいずれも落選。そのときは大きな挫折を経験したのだろうと話を振ってみると、意外にもおおらかなコメントが返ってきた。

堤:大学生の頃から色んな公募展に出して入選したりもしていたんですけど、それぞれの公募展の方向性に合わせて作品を描くというのがどうしても出来なかったんです。だから自分の作品がどの公募展に向いているのかもよくわからなくて……。結局、友人で東京を目指していたやつがいて、そいつの真似をしながらとりあえずついていけばいいのかな、と(笑)。そいつが公募展に出すなら「じゃあ俺も出す!」みたいな感じでした。

堤康将
堤康将

この潔いほどの正直さと無防備さ。しかし、今回の『損保ジャパン美術賞FACE』への応募について話を伺ってみると、また少し事情が違っているようだった。

堤:去年、ちょっと気分が落ち込んでいたというか、上手く描けなかったりして、もう筆を置いてしまおうかという気持ちになっていたことがあったんです。スランプ状態だったから、周りの人にイライラしてしまうことも多くて……。そんなときに気に入らない人を見返してやろうと、僕はもっと出来るはずだと、怒りに近い気持ちで『損保ジャパン美術賞FACE』に応募したんです(笑)。

しかし、そんな負けず嫌いの性格だったことが功を奏して、堤の『嘯く(うそぶく)』はこうして見事『損保ジャパン美術賞FACE』グランプリ受賞を果たした。応募の動機はともかく、これまでの努力の積み重ねという才能があったからこそ、成し遂げられた受賞だったと言えるだろう。

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イベント情報

『損保ジャパン美術賞展 FACE 2013』

2013年2月23日(土)〜3月31日(日)
会場:東京都 新宿 損保ジャパン東郷青児美術館
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜

『損保ジャパン美術賞FACE 2014』

2013年9月16日(月)〜 2013年10月20日(日)まで申込受付
審査員:
本江邦夫(多摩美術大学教授)
松本透(東京国立近代美術館副館長)
堀元彰(東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)
光田由里(美術評論家)
原口秀夫(損保ジャパン東郷青児美術館館長)

プロフィール

堤康将

1983年熊本県生まれ。福岡在住。沖学園高等学校非常勤講師。九州産業大学大学院芸術研究科美術専攻日本画修士課程修了。同芸術研究科美術専攻研究生修了。2009年『第13回新生展』入選、2010年『第45回日春展』入選、2011年『第46回日春展』入選、2012年『第2回アートアワードネクスト』入選、2013年『損保ジャパン美術賞FACE 2013』グランプリ受賞。

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