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幸せを掴むための覚悟 ネイチャーフォトグラファー・山形豪

幸せを掴むための覚悟 ネイチャーフォトグラファー・山形豪

インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:高見知香
2013/11/22
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僕が生きるためには、アフリカが必要なんです。

―そんな山形さんが、初めてカメラに触れられたのはいつだったんですか?

山形:父が学生時代に使っていた一眼レフを小学生のときに譲り受けたんです。トーゴやブルキナファソでは自然がすごく豊かな環境だったので、庭にやってくる鳥や近くの川の生き物を捕まえて飼っていました。だけど、動物たちは遅かれ早かれ必ず死んでいく。しかし、カメラでその動物たちを撮影しておけば、生きていたときの姿を写真にとどめておけることに気付いたんです。いつしか動物を飼うことに抵抗を感じるようになり、野生動物の写真を撮ることに、より興味を持つようになっていきました。

砂漠の道を行くキリンの家族 カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪
砂漠の道を行くキリンの家族 カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪

―実際にネイチャーフォトグラファーとしてやっていこうと決めたのは、どういうきっかけがあったんですか?

山形:父親のタンザニア赴任を機に念願の日本脱出を図った後、国際バカロレア(※国際的な大学入学資格)を取るため、インターナショナルスクールに通いました。そこで6科目を選ぶのですが、その1つとして美術を選んだんです。絵はダメだけど……僕にはカメラがあるなと(笑)。その頃、タンザニア北部にある世界遺産・ンゴロンゴロ保全地域に行ったんですが、キリンや象、ライオン、カバ……、これまで見たことのないような大型動物がたくさん目の前にいて、ぶっ飛ばされたんです。夢中になってシャッターを切り、そこで撮った写真を担当教官に恐る恐る見せてみたら、「お前は2年間写真でやってみろ」と言われ、カメラと動物写真を専門的に勉強するようになりました。

―そこからは、好きこそものの上手なれ……で?

山形:そうですね。動物写真はもちろん、学校のアルバム作りのために人物写真も撮るようになりましたし、有名な写真家からいろんなアドバイスをもらう機会もあり、だんだん自信がついていったんです。大学では父親のようにアフリカで働ける仕事がしたいと思い、イギリスで開発関係の勉強をしましたが、とはいえ、やはり気持ちは動物写真に向いているので、しょっちゅう父親のいるタンザニアに戻っては写真を撮りまくり、結局卒業後はネイチャーフォトグラファーとしてやっていくために、日本に帰ってフリーカメラマンを名乗ることにしました。

威嚇するオスのアフリカゾウ クルーガー国立公園/南アフリカ ©山形豪
威嚇するオスのアフリカゾウ クルーガー国立公園/南アフリカ ©山形豪

―過去に馴染めなかった日本に戻って、いきなりフリーカメラマンとして働くなんて、大変な選択ではなかったですか?

山形:右も左も分からないまま、アルバイト情報誌で見つけた婚礼カメラマンの仕事を始めることになったんですが、当時のお客さんには本当に申し訳ないことをしたと今でも思っています(苦笑)。でも、当初は生意気にも「アフリカ撮影費のため」と思っていた仕事だったんですが、続けているうちに、動物と同じように人を撮ることも楽しいと思えるようになってきたんです。

―2005年の『エプソンカラーイメージングコンテスト』で、山形さんがグランプリを受賞した作品は、アフリカのヒンバ族の女性を撮った作品でしたね。

山形:そうなんです。だから振り返ってみれば婚礼カメラマンの仕事は、フォトグラファーとしての幅を広げるきっかけにもなっているんですよね。その他にも動物写真のテキストを書くようになったり、連載をさせていただいたりと、好きな動物写真を撮りながら、どんどん仕事の幅が広がっていきました。動物写真を撮り始めて20年ほどになりますが、最近やっとネイチャーフォトグラファーを名乗ってもいいと思えるようになった気がします。

山形豪

―大自然や動物たちから、人間が学ぶものも多いと思いますが、山形さんが教えられたことはありますか?

山形:命を維持するのがどれだけ大変で、どれだけ単純なことなのかというのはよく分りますね。食えなければ死ぬ、食えれば明日まで生き残る。食う側も必死だし、食われる側も必死。同じ猛獣同士でも、縄張り争いに負ければ死が待っていたりもする。そして、そこに張り詰めた緊張感があるからこそ、命には一瞬の輝き、美しさがあるんですね。僕が写真を撮らせてもらっているアフリカ南部のヒンバ族も、かなりギリギリの生活をしているのですが、非常に凛々しいですよね。厳しい環境で生きている緊張感と自信、遊牧民を続けているというプライドが、彼らを美しくしているんだと思います。

ミミヒダハゲワシに威嚇されるセグロジャッカル エトシャ国立公園/ナミビア ©山形豪
ミミヒダハゲワシに威嚇されるセグロジャッカル エトシャ国立公園/ナミビア ©山形豪

―山形さんのこれまでのお話を伺っていると、紆余曲折の人生そのものがサバイバルみたいにも思えます。

山形:そうかもしれないですね(笑)。サバイバルとはつまり生き残ること。好きなこと、やりたいことをやり続けていれば、周りから競争相手が勝手に消えていく……どうやらそういうことらしい、というのが最近になって分かってきました(笑)。

―なるほど(笑)。

山形:自分の「やりたいこと」が見えきっていない人は、どこかで現実に負けてブレていってしまう。たとえば結婚して守るべき家族を持つと、どうしても僕がやっているような仕事は続けるのが難しくなってしまいますよね。周りにも前例が山ほどいました。だから僕は「家族を持つ」という選択肢をシャットアウトしてでも、アフリカの自然を追うことを選びました。同時に、毎年アフリカの自然に戻れるという実感があるから、生きていけているんじゃないかとも思うんです。僕が生きるためには、アフリカが必要なんです。それはとても幸せなことだと思いますし、その幸福感が写真に表れたらいいなと思いますね。

朝日を浴びるオスライオン カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪
朝日を浴びるオスライオン カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪

―山形さんの写真や生き方から、「自然」そのものを感じて欲しいと。

山形:実際は人間も自然の一部なんですよ。けっして「人間界」と「自然界」が分かれているわけじゃないし、自然は人間が上から目線で「守るべき」ものでもないんです。自然があるからこそ人間は生かしてもらえる。だから、僕の写真が「自然とは実際どういうものなのか?」を感覚的に知るキッカケになってくれれば嬉しいです。「この世界は非常に美しい」「生きていられることは、これだけ幸せなんだ」ということを写真で表現し、「その美しい世界に目を向けてみませんか」と伝えたい。そして、実際に自然の中に身を置いて、その美しさを肌で感じ、自分の感覚として自然を読み取っていただきたい。テレビやインターネットの情報で世界を知った気分になるのではなく、皮膚感覚としての自然観を取り戻して欲しいんです。

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イベント情報

『FUJIFILM SQUARE 企画写真展「生(ライフ)〜写真がとらえる野性〜」』

2013年11月15日(金)〜12月4日(水)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン・ウェスト フジフイルム スクエア
時間:10:00〜19:00(入館は18:50まで)
出展作家:
鍵井靖章
前川貴行
松本紀生
山形豪
料金:無料

『写真でとらえる野性』トークショー
2013年11月30日(土)14:00〜15:30(開場13:30)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン・ウェスト フジフイルム スクエア2F
出演:
鍵井靖章
前川貴行
松本紀生
山形豪
定員:150名(要事前予約)
料金:無料

プロフィール

山形豪(やまがた ごう)

1974年、群馬県高崎市生まれ。少年時代を中米のグアテマラや西アフリカのブルキナファソ、トーゴといった国々で過ごす。1993年国際基督教大学高校を卒業後、タンザニアへ渡り、現地のインターナショナルスクールでIB(インターナショナル・バカロレア)を履修する傍ら自然写真を撮り始める。1995年イギリス、イーストアングリア大学開発学部入学。在学中も休みを利用して何度も東アフリカを訪れる。1998年大学を卒業し帰国。フリーの写真家として活動を始める。2000年以降、頻繁にアフリカ南部を訪れ、野生動物や風景、人々の写真を撮り続けながら、サファリのガイドとしても活動中。近年ではインド亜大陸にもフィールドを広げている。日本自然科学写真協会(SSP)会員。2005年『エプソンカラーイメージングコンテスト』ヒューマンライフフォト部門グランプリ受賞。

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