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尖ることを諦めてから開けた、深川栄洋の映画監督人生

尖ることを諦めてから開けた、深川栄洋の映画監督人生

インタビュー・テキスト
藤田ひとみ
撮影:豊島望
2014/05/07

人生は、いつだってこれから。98歳で出版した処女詩集『くじけないで』、第二詩集『百歳』(飛鳥新社刊)が累計200万部を超えるベストセラーとなった詩人・柴田トヨ。日々の暮らしや季節の移り変わり、自らの老いをみつめるユーモラスな視線や懐かしい時代への追憶など、紡ぎだされる一つひとつの言葉には、明治から平成までを駆け抜けてきた彼女の人生が色濃く滲み、今では海外7か国で翻訳・出版されて世界中の人々の心に届いている。2013年1月、101歳の長寿を全うした彼女の激動の半生を映画化したのは、30代の俊英監督、深川栄洋。世代を問わず共感できる、人生の滋味にあふれるこの物語を、丁寧に、そして見事に描いた監督の魅力に迫った。

どんなに芝居経験のない人でも、自分という人間を演じているわけで、その演じられる幅が2つ、3つぐらい増やせたら、とても良い役者になる。

―八千草薫さん、武田鉄矢さん、檀れいさん、芦田愛菜さんといった、各世代の名優が出演されている本作ですが、特に武田鉄矢さん演じるトヨさんの息子・柴田健一さんが随分とひどいダメ息子で、実在の人物をこんなにダメダメに描いて大丈夫なんですか? と思いながら観ていたのですが(笑)。

深川:健一さんご本人から話を聞いた際に、「自分を良く描かないでほしい」と仰っていたんです。それで、武田さんという俳優が思い浮かびました。彼は金八先生のイメージから人格者のイメージが強くありますけど、初期の金八先生はむしろダメな先生で、社会的にはみ出し者だからこそ、独特の論理で生徒を愛するという眼差しを持っていたと思うんです。それに『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)なんて、ずっと桃井かおりとケンカしているちっちゃい男を演じていたんですから。人間の小ささを演じてもらったら、本当に味わい深い俳優さんだなと思って、オファーさせていただきました。

『くじけないで』より ©2013「くじけないで」製作委員会
『くじけないで』より ©2013「くじけないで」製作委員会

―キャスティングということで言うと、芦田愛菜さんは深川監督の『半分の月がのぼる空』が映画デビューで、当時まだ誰も知らなかった彼女を初めて映画に起用されたんですよね。役者の魅力を見つけ出すというのは、深川作品の特徴の1つなんじゃないかと思います。

深川:どんなに芝居経験のない人でも、自分という人間を演じているわけで、その演じられる幅が2つ、3つぐらい増やせたら、とても良い役者になると思っています。僕はどんな役者を見ても、まず長所と短所を同時に探してしまうことが一種の職業病みたいになっていて、挨拶しただけでも、歩いているだけでも、その役者のとらわれているものや、こだわっているものを探そうとしてしまうんです。

―先入観にとらわれず、いろんな役者さんをいつも観察されているんですね。

深川:そんな目で見ちゃうもんだから、仲良くなれないんですけどね(笑)。「役者です」って言われなかったら全然そんなこと気にならないのですが、監督って妙な職業だなと思います。

深川栄洋
深川栄洋

キャストに演出するのはもちろんなんですが、僕はスタッフにも演出するタイプなんですね。

―この映画は何度も時代が切り替わる構成になっていますが、それぞれの時代作りを丁寧にされているので、観客がすんなりタイムトリップできるようになっていますよね。武田さんがお金の無心に来るシーンで着ている変な柄のセーターとか、確かに平成元年の頃ってあんな柄を着ている人が多かったなと思わずにはいられませんでした(笑)。

深川:(笑)。バブルの頃って、貧乏人だった日本人がお金を持ち過ぎちゃって、ワケの分かんないことになっちゃってる状態で。あの時代のファッションだけは今でも唯一無二ですよね。僕の実家も職人さんが多かったので、今考えたら「なんだあの服!」っていう服をみんな着ていたし、紫がかったツータックパンツとかが最先端だったという変な時代。だから健一さんが着ていたセーターも、あの時代にしか生まれないセーターだと思います(笑)。

『くじけないで』より ©2013「くじけないで」製作委員会
『くじけないで』より ©2013「くじけないで」製作委員会

―大正時代のバスや明治時代の家など、情緒ある風景を形作る美術が素晴らしかったのですが、監督のイメージを映像として作り上げていく現場は、どのような感じだったのですか?

深川:キャストに演出するのはもちろんなんですが、僕はスタッフにも演出するタイプなんですね。と言うのは、「こういうことをやりたい」と話して具体的なイメージが共有できてくると、僕が思い描いていた以上の場所や、最適な小物を彼らが見つけ出してくれるようになるんです。 バスのシーンを撮影したのは足尾銅山の近くなんですけど、まだ2人だけ住んでいて、取り壊せない地域があったんです。そこに2人のためだけに残されている舗装されていない砂利道がある、と聞いたのでさっそくロケハンして。僕らはそこを昭和29年にしたり、昭和35年にしたりして、いくつもの時代やシーンを撮影しました。

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リリース情報

『くじけないで』(DVD)
『くじけないで』(DVD)

2014年5月2日(金)発売
価格:4,104円(税込)

監督:深川栄洋
出演:
八千草薫
武田鉄矢
伊藤蘭
檀れい
芦田愛菜
発売元:松竹

プロフィール

深川栄洋(ふかがわ よしひろ)

1976年9月9日生まれ。学生の時に作った「全力ボンバイエ!」が第2回水戸短編映像祭水戸市長賞などを受賞。その後「ジャイアントナキムシ」と「自転車とハイヒール」がPFFアワードに2年連続で入選。会話劇を主体とした独特の作風が映画評論家だけでなく、映画ファンからも高い評価を受ける。役者に寄り添うスタイルの演出で、今までの出演者達からも絶大な信頼を得ている。今もっともオファーの多い監督の一人。主な監督作品:「狼少女」、「真木栗ノ穴」、「同級生」、「体育館ベイビー」、「60歳のラブレター」、「半分の月がのぼる空」、「白夜行」、「洋菓子店コアンドル」、「神様のカルテ」、「ガール」、「くじけないで」など。

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