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なぜ日本では「音楽マーケティング」が語られてこなかったのか?

なぜ日本では「音楽マーケティング」が語られてこなかったのか?

撮影:野村由芽

日本で「PR」というと、「プロモーション」「パブリシティ」も一括りにしたイメージをもたれていますが、海外では「PR=Public Relations」であり、世の中のムードを作ることを指しているんです。(高野)

―ジェイさんとしては、この本にある考え方を、どういう風に音楽業界が取り入れて活かすことができると考えていますか?

ジェイ:この本で伝えているのは大きく2つのことなんです。1つはソーシャルメディアマーケティング、そしてもう1つは戦略PR。今までの音楽マーケティングには、その2つの要素が活用される機会が少なかった。もしくは上手く統合されていなかったがゆえに、古いままのマーケティングの形で今まできてしまった。この本の新しさは、音楽以外の企業やブランドが使っているソーシャルメディアマーケティングと戦略PRのアプローチを、音楽ビジネスの中に取り込んだところだと思います。

―本を読んでない人にも噛み砕いて伝えたいと思うんですが、そもそも「戦略PR」というのはどういうことなんでしょうか。

高野:簡単に言えば、世の中に空気を作ることです。もちろん最大級じゃなくていいんです。1億2千万人が動くみたいな空気でなくてもかまわない。

―空気というのはムードということですよね。

高野:そうですね。世の中にある特定のムードを作るというのが「戦略PR」です。今だと『アナと雪の女王』がそうですよね。観たほうがいい、“Let it go”は聴いておいたほうがいいという空気が生まれている。

―そうですね。その「戦略PR」と、日本で一般的に言われる「PR」の違いはどんなところですか?

高野:日本で「PR」というと、同じPがつく「プロモーション」「パブリシティ」も一括りにしたイメージをもたれていますが、海外では「PR=Public Relations」であり、世の中のムードを作ることを指しています。だからその意味合いの違いを区別するために、本来のPRの意味合いを、本田哲也(ブルーカレント・ジャパン代表)さんが「戦略PR」と名付けたんです。

―たしかに日本では、PRとプロモーションとパブリシティの違いを説明できる人は少ないかもしれませんね。

高野:そこを混同しがちなんですね。だからPRって、ニュースを作ってメディアに載ったらそれでOKということではないんです。

単純に音楽がいいというだけだったら、仲間内だけで終わる可能性だって高いんです。普段は音楽に深く関与してなかったり、歌詞を細かく読まないような人にも「すごい」と思わせる、それも戦略PRの1つだと思います。(ジェイ)

ジェイ:そして今の時代背景において、戦略PRはソーシャルメディアとも相性がいい。

高野:そうですね。そこをどう連携させるのかがキーになる。

ジェイ:情報を出す側が、どれだけターゲットを想定することができるか、その戦略が大事だと思います。そういうことを、沢山の企業がやっている。

―音楽でも、そういう考え方が海外では主流になっているわけですね。

ジェイ:そうですね。海外を見てると、情報の発信されるタイミング、あとは届け方、コンテンツのあり方が、それぞれカスタマイズされている。

高野:要は、人に語りたくなる要素があるかですよね。いい音楽を作るというのは大前提で、人に言いたくなる要素を持った見せ方ができるかどうかが大事だと思います。

ジェイ:単純に音楽がいいというだけだったら、仲間内だけで終わる可能性だって高いんです。普段は音楽に深く関与してなかったり、歌詞を細かく読まないような人にも「すごい」と思わせる、それも戦略PRの1つだと思います。

―高野さんが具体的に携わっている事例もありますか。

高野:言える範囲で言うと、今はTHE NOVEMBERSというバンドのクリエイティブとマーケティングに関わっています。彼らは5月14日に『今日も生きたね』というシングルをリリースしたんです。そのシングルは「大切な人に届けたい」というメッセージを持った歌だったんですね。それを僕がマーケティングをする時に、どうしたらその世界観やメッセージを崩さないで今までバンドを知らなかった人に届けられるかを考えて、メンバーと一緒に「シェアCD」という形でリリースすることにしたんです。

―同一内容のCDが2枚収録されて、1つをプレゼントできるという形ですね。

高野:そうです。そして、盤面には「To」と「From」が書けるようになっています。このデジタル時代にシェアの原点に立ち還るというコンセプトのもとに、考えました。単に新曲を出すだけでは、ニュースとしてそれだけで終わってしまう。ファンは喜ぶけれど、それ以外には届かない。そこに、たとえば「シェアCD」という仕組みや、PVや、フリーダウンロードといった仕掛けを作っていく。『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』で書いた「終わらないニュース」を作っていくということです。それによってTHE NOVEMBERSというバンドが新しいファンに届けばいいと思って、アーティストと一緒になってマーケティングをしています。

ジェイ:今の時代って、Twitterで呟いたり、Facebookで投稿するアーティストも、いわばマーケターの1人ということなんですね。

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書籍情報

『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング 戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法』
『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング 戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法』

2014年4月18日(金)発売
著者:高野修平
価格:1,944円(税込)
発行:リットーミュージック

プロフィール

高野修平(たかの しゅうへい)

トライバルメディアハウスにてシニアプランナー/サブマネージャーとして所属。音楽業界ではレーベル、事務所、放送局、音響メーカーなどを支援。日本で初のソーシャルメディアと音楽ビジネスを掛けあわせた著書『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネス新時代-』、『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』、『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』を執筆。サイドプロジェクトとして、THE NOVEMBERSのマーケティング、コミュニケーションプランニングなども手がけている。

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