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浅野忠信&二階堂ふみが演じた「社会のタブー」を説き明かす

浅野忠信&二階堂ふみが演じた「社会のタブー」を説き明かす

インタビュー・テキスト
森直人
撮影:西田香織

浅野忠信さんみたいに若々しくてかっこいいお父さんだったら、どんな娘でも一緒にお風呂入りたいですよ!(笑)

―岩井さんのコメントに戻りますと、この映画ではタブーが「美しい愛や恋や情になっていく」とありますね。

岩井:だってまず、淳悟役が浅野忠信さんですから! こんな若々しくてかっこいいお父さんだったら、どんな娘でも一緒にお風呂入りたいですよ!(笑) 現実には皆が浅野さんじゃないんだから。「リアルなお父さん」のイメージでキャスティングしたら、温水洋一さんあたりになるんじゃないですか?

『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会
『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会

―浅野さんじゃなくて温水さんだったら、まったく違う映画に見えるでしょうね(笑)。

岩井:そのへんはボーイズラブの世界を考えればわかりやすいですよね。私が10代の頃はそんな言葉なかったけど、『JUNE』って雑誌とか、竹宮惠子さんとか萩尾望都さんの少女漫画が美しい少年愛をテーマにしていたり、BL愛好者はすでにたくさんいたわけですね。今なんて書店でもBLコーナーが棚を1つ占領してたりするじゃない。それを見るとこの世には美少年と美青年しかいないように見えるけど、現実に新宿2丁目に行ったらキム・ヨンナムと杉作J太郎さんみたいなカップルしかいないんですよ!

―(笑)。じゃあ『私の男』はファンタジーに近い、と。

岩井:基本的にはファンタジーでしょう。淳悟と花は、ある時期までずっと離れて暮らしていたっていうのもポイントですよね。長いこと一緒に暮らして、ステテコ姿で臭い屁こかれたりしてたら夢なんか持てませんよ。ちなみに昔、確かノンフィクション本で読んだ好きな話があるんですね。時代は昭和初期。とある農村の貧困家庭で父と娘が肉体関係を結んで、娘さんが4人も5人も子供を産んでるんですよ。お母さんも一緒に暮らしているのに、ですよ。でもやがて娘さんに恋人ができて、「彼と一緒になりたい」と父親に言うんです。もちろん父親は狂乱ですよね。その激しさに耐えかねて、娘さんは父親を絞め殺すんです。でもお父さんは娘に絞め殺されている間、全く抵抗しないんですよね。「お前に殺されるのは本望だ」とか言うんですよ……。

岩井志麻子
岩井志麻子

―恐ろしい話ですね……。

岩井:そう、本当に恐ろしい話なんですけど、これってもはや「愛」だなって。さらに警察の取り調べで、娘さんが「お父さんとのセックスで快感がなかったといえば嘘になる」って言ったんですよ。これもまた怖いんですけど、でも実際そうなんでしょうよ! 『私の男』があくまで創作上のファンタジーなのに対し、この話は実録ハードコアですよ。でも私の中に、この親子の二つの言葉がずっと残っているんですよ。父親の「お前に殺されるのは本望だ」と娘の「快感がなかったといえば嘘になる」が。

―何か最終的に純化したものを感じる。おぞましく壮絶ですけど、どこか感動しちゃうのは否めませんね。

岩井:ええ、ここまでいったら「愛」って呼んでいいと思うんですよ。だから「禁断」っていうのは恐ろしくて、同時に魅力的であるっていうことを、私はこの事件の話で知ったと思うんですね。ただ『私の男』も、ファンタジーと言いつつ決して絵空事ではないですよね。浅野さんの持つ男の色気っていうのはリアルなものだし、やっぱり「ザ・映画俳優」ならではの高級感があるっていうか。危ない言動があっても、実はマトモな人なんじゃないかって思わせますし、本物の変態でも「まあ、この人ならしょうがないや」って思うし(笑)。花役の二階堂ふみさんもリアル系の美少女じゃないですか。そこがまた生々しい。とっても可愛いし美人だけど、お人形さんみたいな感じじゃないので。映画女優さんでいく方って、黒木華さんとか、決して人工美女じゃないですもんね。そこに藤竜也さんまで出てくるんだから、「ああ、本物の映画を観ている」っていう気持ちになりますよ。

『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会
『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会

(二階堂)ふみさんが映画女優として素晴らしいなと思うのは、どんな過激なことをやっても「乙女」感を失わないこと。『私の男』でも、性に溺れながら熟していかないというか、印象は乙女のままですよね。

―藤竜也さんといえば、阿部定事件を映画化した藤さん主演の『愛のコリーダ』(1976年 / 監督:大島渚)がまさに「タブー」な男女の愛を描いた名作ですね。

岩井:私、『愛のコリーダ』大好きなんですよ。あの映画でヒロインの阿部定を演じられた松田英子さん(「松田暎子」名義も)、本当にパーフェクトな身体で、でもお顔は絶妙におブスなんですよ(笑)。でもそれがいいんですよ。「私、この身体で生まれたい!」っていうぐらいのナイスバディーなんですけど、もし松田さんのお顔が杉本彩さんとか松坂慶子さんみたいだったら、クドすぎて濃すぎて、単なるポルノ映画になったような気がするんですよ。やっぱり松田さんのリアル感があったからこそ、文芸作品としてのオーラが出たんじゃないかなって。

―なるほど(笑)。配役そのものが作品を文芸 / ポルノ、A級 / B級になるかを左右するっていう考え方は面白いですね。

岩井:逆パターンでいえば『失楽園』(1997年 / 監督:森田芳光)の黒木瞳さん。あんな美しいお顔で、脱いだらどんな身体なのだろう? という期待を見事に裏切ってくれたと言いますか(笑)。もし身体がボインボインだったら嘘臭くなっちゃって、結構B級な印象になってたかもって思うんですよ。そういえば原作が日本の漫画(作:土屋ガロン / 画:嶺岸信明)で、韓国で映画化された『オールド・ボーイ』(2003年 / 監督:パク・チャヌク。スパイク・リー監督によるリメイク作品が6月28日より公開)って映画がありましたが、あれも父と娘の関係がカギですよね。「姉弟」の要素もありましたけど。この映画のお父さん役(チェ・ミンシク)も一般的にはイケメンかもしれませんが、俳優としてはイケメンで売ってる男優さんじゃないしね。やっぱりファンタジーとリアルのバランスがちょうどいいんですよ。

―ちなみに岩井さんは、二階堂さんと一度共演されてますよね。

岩井:まあ一応、ですけどね。ふみさんがヒロインを演じた園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(2013年)に、私も最初のほうにチラッと出てるんで(笑)。 ふみさんが映画女優として素晴らしいなと思うのは、どんな過激なことをやっても「乙女」感を失わないこと。『私の男』でも、性に溺れながらも熟していかないというか、印象は乙女のままですよね。これは彼女の演技力なのか、持って生まれた雰囲気や存在感なのか。性愛に溺れていってるはずなのに、ずっと恋する乙女に見えるのが凄いなと思いましたね。

『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会
『私の男』より ©2014「私の男」製作委員会

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作品情報

『私の男』

2014年6月14日から全国公開
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:桜庭一樹『私の男』(文春文庫)
音楽:ジム・オルーク
撮影:近藤龍人
出演:
浅野忠信
二階堂ふみ
高良健吾
藤竜也
配給:日活

プロフィール

岩井志麻子(いわい しまこ)

1964年岡山県生まれ。1999年『ぼっけえきょうてえ』で第六回日本ホラー小説大賞を受賞。また同作を表題作とした短篇集で00年に第13回山本周五郎賞を受賞。02年に『岡山女』で第124回直木賞候補、『自由恋愛』で第9回島清恋愛文学賞受賞。日本推理作家協会会員・日本文芸作家協会会員。第2回婦人公論文芸賞を受賞した『チャイ・コイ』が2013年川島なお美主演で映画化。現在、東京MX「5時に夢中!」木曜日レギュラー、集英社「週刊プレイボーイ」内 BATTLEREVIEWコラム、講談社「山口百恵『赤いシリーズ』」内 赤の壺コラム、双葉社 日刊大衆「岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー」コラムなどの連載をはじめ、映画「地獄でなぜ悪い(園子温監督作品)」への出演など活動は多岐に渡る。

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