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キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

インタビュー・テキスト
杉山洋祐(編集集団WawW!Publishing)
撮影:豊島望
2014/07/07

作家生命の際にいるという客観的な意識はあったけど、そこから逃げる気だけはなかった。

―大浦監督はこれまで、たとえば『天皇ごっこ』の見沢知廉(新右翼の一水会系に所属し殺人罪などで服役。獄中で小説を執筆して文学賞を受賞するなどした後自殺)であったり、今回の靖国であったり、いわゆる社会的にはタブーとされているような国家的な題材を、一人ひとりの個人レベルに解体して、そこからまた別の大きな物語を再構築しているように感じるのですが、そこになにか理由はあるのでしょうか?

大浦:もともとの性格みたいなこともあるんでしょうけど、若いときは無意識でしたし、直感的にやっていましたね。でも、そういうことを意識させてくれたきっかけがあるとしたら、やはり富山の事件だと思います。『遠近を抱えて』という、自分が作った天皇の作品が富山の美術館で問題になって、非公開にして売り飛ばされてしまったり、カタログも燃やされてしまった。

―そのとき、自分の作風に対して自覚的になったんですね。

大浦:自分が作った作品が社会の中に投げ出されて、一人歩きしていくわけじゃないですか。一度世に出てしまった作品というのは、得てしてそういうものだと思うんですけども、あのプロセスを経て、天皇みたいなモチーフを使った作品では、それだけでは済まないということを思い知ったんですよ。でも、そこで普通、作家は逃げるんですよね。というのは、その事件一発で、際物みたいな扱いをされかねないからです。

大浦信行

―大浦監督は、逃げようとは思わなかったんですか?

大浦:どういうわけか、色眼鏡で見られること自体は全然気になりませんでした。のんきなんですよ(笑)。ただ、そういう作家生命の際にいるという客観的な意識はあって、そこから逃げる気だけはなかった。僕は別に、いわゆるアカデミックな美術の文脈で育ってきてないから、有名になりたいとか、現代アートの世界でこうなりたいっていう思いがなかったんですよ。だから、際物というレッテルを貼られているかどうかも気にならなかったんですよ。

―そこから、意識的ではないにしろ、タブーに切り込んでいくようなスタンスができていったんでしょうか?

大浦:徐々にですけどね。それで、今度の『靖国・地霊・天皇』を作ったときに、天皇の『遠近を抱えて』ってシリーズから出発してから30数年を経た表側の自分が、大きな円を描いて裏側の自分にたどり着いたという意識が芽生えたんです。ちょっとした発見でしたね。「今までやってきたことは、全部つながっていたんだなぁ」と。

―今回、『靖国・地霊・天皇』を大浦さんご自身が集大成的作品とおっしゃっているのは、そういうことだったんですね。

大浦:そうかもしれませんね。

映画なら、靖国の鳥居を爆破することもできる。そこに信念と覚悟さえあれば、表現の中でこそテロをするべきなんです。

―最後に、これまで活動を続けて、今回、集大成といえる作品を撮られた大浦さんにとって、「表現活動にしかできないこと」はなんだと思われますか?

大浦:表現ならテロリズムができるし、表現の中でこそテロはやるべきだと思います。今度の映画を手掛けて改めて思いましたね。

―と、いいますと?

大浦:極端な話だと、たとえば、靖国神社には3つの鳥居があるじゃないですか。その鳥居を実際に爆破したら、えらいことになりますよね。実際、2、3年前に中国人の劉強容という人が、おばあちゃんが慰安婦だったという動機で、靖国神社の神門の柱に放火したことがあったんです。それで韓国に逃げたんですけど、日本政府は「ただちに返還せよ」って、一大事でした。そんなに大きな規模じゃなくて、ただガソリンで柱をちょっと焦がしただけなのですが、政治問題になりました。だけど、たとえば映画なら、鳥居を爆破する映像を撮れます。そこに信念と覚悟があれば、映画の表現の中ではテロができると思うんです。

『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014
『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014

―なるほど。確かにそうですね。

大浦:ものを作るということは、本来、この世の中に絶対相容れないことを、覚悟と想像力をもって表現する行為のはずなんですよ。それは、若いうちは無自覚でできるけれども、ある程度年齢を重ねていくと、自覚しないと難しいんです。なぜなら、若いときというのは、欲求や衝動で突き動かされている分、直感力がずば抜けて鋭いんですよ。「理屈はよくわからないけど、こう思う、こうしたい」ということに迷いがない。ただ、それをどう表現したらいいか、その方法がわからないのです。

―現実では犯罪になってしまうような、どうしようもない不満や怒りも、表現ならば爆発させられますね。

大浦:僕なんかは、若いころに無意識にアートをやろうと思ったけど、仮に若いときに「世界のなにかを爆破したい」と直感的に感じていて、でもそれをやったら犯罪になってしまうという葛藤があったのだとしたら、表現をする方向にいったのは自然なことだったと思うんです。でも、40歳を過ぎたくらいから、若いときにあんなにヒリヒリしていた皮膚感覚がどんどん鈍っていくのを感じるんです。直感的に表現できるのは若い人たちの特権だと気づいた瞬間から、自覚的な覚悟と想像力がないと、表現によるテロはできないと感じたのです。

―今回、大浦さんは、『靖国・地霊・天皇』を撮ったことで、さらにその自覚が深まったということですね。

大浦:表現というのは本来、危険物だったわけですから。人間の遠い祖先の無意識を共有して、それを現実にどう蘇らせて作り出すかって部分に想像力を働かせる。すると、現実が抱えている社会的な問題とリンクせざるをえなくなるものもあるんです。でも、それは決して、政治的なアプローチとは違うじゃないですか。遠い原始のときから我々が持っていた想像力と、現実に今日抱えている問題とを結び付けたら、なにか人々に訴えるものはあるはずなんです。

作品情報

『靖国・地霊・天皇』

2014年7月19日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開
監督・編集:大浦信行
出演:
大口昭彦
徳永信一
あべあゆみ
内海愛子
金滿里
声の出演:鶴見直斗
配給:国立工房

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作品情報

『靖国・地霊・天皇』

2014年7月19日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開
監督・編集:大浦信行
出演:
大口昭彦
徳永信一
あべあゆみ
内海愛子
金滿里
声の出演:鶴見直斗
配給:国立工房

プロフィール

大浦信行(おおうら のぶゆき)

映画監督・美術家。1949年富山県生まれ。19才の時より画家を志し、絵画制作を始める。次いで24才の頃より8ミリで映画制作を始める。その後1976年より1986年までニューヨークに滞在中に、画家・荒川修作のもとで7年間助手をつとめる。1986年帰国後、彫刻制作を始める。一方、昭和天皇を主題とした版画シリーズ「遠近を抱えて」14点が日本の検閲、タブーにふれ、作品が富山県立近代美術館によって売却、図録470冊が焼却処分とされる。それを不服として裁判を起こすも、一審・二審をへて、2000年12月最高裁で棄却とされ全面敗訴。この天皇作品問題を通して、日本における「表現の自由」、天皇制とタブー、検閲について、社会・美術・言諭界に問題を提起した。2001年には映画『日本心中前編』を、2005年にはその続編となる『9.11-8.15日本心中』を公開。2011年には『天皇ごっこ』脚本・監督。こうした活動を経て、2014年に最新作『靖国・地霊・天皇』がついに完成。

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