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キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

インタビュー・テキスト
杉山洋祐(編集集団WawW!Publishing)
撮影:豊島望
2014/07/07

必ずしも劇映画のような起承転結がなくたって、人間の深い共通無意識に訴えていけば、人々は自ら物語を作れるじゃないですか。

―金滿里さんもそうですけど、この『靖国・地霊・天皇』では、たとえばドラム缶が爆発するシーンや、暗い部屋で女性がオイルサーディンを手づかみで食べているシーン、出兵者を演じている方が手紙を読むシーンといった、フィクションシーンがたくさん挿入されていますよね。完全なドキュメンタリー作品にもできたと思うのですが、こういったフィクションのシーンを入れた理由はなんでしょうか?

大浦:それは映画だけではなくて、基本的に僕の作り方の癖なんですよね。20年以上前、『遠近を抱えて』という昭和天皇を題材に作った自画像作品も、そういうものでしたよ(この1982年から1985年にかけて制作した一連の版画作品14点は富山県立近代美術館の『富山の美術 '86』展で展示された後、天皇の写真の使い方をめぐって県議会議員や右翼から批判を受けた美術館が作品を非公開処分にし、さらに売却した上で図録を焼却。後に裁判に発展した)。天皇と骸骨、天皇と脳みそ、天皇と刺青とかね。

大浦信行

―ある種、コラージュ的な作家性である、と。

大浦:全く異質なものを組み合わせるという手法は、確かにコラージュといえばコラージュなんですけれども、自分ではコラージュという意識はあまりないです。僕はコラージュというのは、要するに、月だろうとスッポンだろうと天皇だろうと、全て消費社会の中では同じもので、それを並列に見せるという表現だと捉えてるんですね。

―つまり、「僕たちが現実でとらえている価値観が絶対ではない」ということでもあるわけですね。

大浦:そうです。で、現実の価値観を無効にするという意味では僕も同じですよ。全てのものに優劣はないし、重さも軽さも同じだと僕は考えています。ただ僕の場合、見た目の違うものを組み合わせたときに、そこになにかひとつの物語を作り出していくということをいつも心がけているんです。

『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014
『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014

―『靖国・地霊・天皇』では、どういった物語をイメージしていたのでしょうか?

大浦:今回の映画で言えば、「死者の物語」です。それで、そのときに下地にしたのが、折口信夫の小説『死者の書』なんですよ。これは、文章はきれいだけど、すごく読みにくい本。でも、何百年前の高貴な御方が蘇った話であるとか、蘇らせる媒介として巫女のような女性の存在がいる、といった概要から、それは今も昔も変わらず必要なテーマだと思ったんですよね。『死者の書』を、今日の靖国の映画の中で現実のものとして出せたらいいな、という思いはありました。

―たしかに、死者たちを現実に呼び戻す、というテーマとしては、「地霊」で描きたいものと通底していますね。

大浦:ただ、その前に圧倒的な現実があることも事実です。今日の我々が、『死者の書』を表現したときに、果たして現実に打ち勝てるのか? といった問題が出てくる。だから、『死者の書』をそのまま映画にすればいいのか、といえばそうはならないわけです。でも、歴然とした政治的問題であり外交的問題、あるいは心の問題であるかもしれない靖国と、『死者の書』を重ね合わせれば、死者は現実に、確実なものとして作り出せる、と思ったんです。

―その考えを煮詰めていった結果、今回のような、ドキュメンタリーとフィクションが交錯するような映像表現になった、と。

大浦:そうですね。物語がないと、それこそ単なるコラージュになっちゃうじゃないですか。目の前に差し出されたもの同士が、一見、どーんと離れているように見えながらも、どこかで緩やかに続くひとつの新たな物語の一端として理解してもらえるような表現をしないと、あらゆる表現というのは、監督の独りよがりになってしまうでしょう。

―その物語を、いわゆる劇映画的な、起承転結のわかりやすい物語にしなかったのはなぜですか?

大浦:地下水脈のように流れている人間の無意識が作り出す物語を、この現実に作り出したかったからです。必ずしも劇映画のような起承転結がなくたって、人間の深い共通無意識に訴えていけば、人々は自ら物語を作れるじゃないですか。あるいは、遠い人類全体の記憶みたいなものと一体になれるかもしれないでしょう。僕は、そういう物語を作りたいと思っていて、永遠にそれを目指しているんですよ。

大浦信行

誰だって、いつだって、靖国の死者たちに思いを馳せることはできるし、それは本来、難しいことでも、重たいことでもない。人間の普通の感覚として、生まれたときから備わっているものなんですよ。

―なるほど。今回の作品は、靖国について関心のある人はもちろん見ると思うんですけど、その中には僕みたいな若い世代もいて、今日の靖国問題や、それに基づく歴史や事情にリアリティーがないという方もたくさんいらっしゃると思うんですね。そういった人たちが、今、この映画を見る意味はなんだと思いますか?

大浦:希望としては、そういう若い人たちにこそ見て欲しいという思いはあります。なぜなら、靖国に眠る「死者たち」は、無念の思いで死んでいった若い人たちだから。時代に合わないという焦燥感や閉塞感、それに承認願望を抱えていたのは、当時も今も一緒です。若い人から見たら、靖国は世間で言われているように右と左があって、「知ってはいるけどちょっと違う世界だ」というのが正直なところだと思います。でも、政治的な事情に疎いことは気にしなくていいんです。誰だって、いつだって、靖国の死者たちに思いを馳せることはできるし、それは本来、難しいことでも、重たいことでもない。人間の普通の感覚として、生まれたときから備わっているものなんですよ。

『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014
『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014

―それこそ、家族や友人が亡くなってしまったら、みんなもっとプリミティブに考えられると思うんです。でも、自分とは生きている時間も空間も違う「死者たち」に思いを馳せるということが、想像力による「死者との対話」なんですね。

大浦:そうですね。でもそれは、普段だったら素通りしてしまいますよね。だって、自分が日々生きることで精いっぱいですから。でも、この映画を1時間半飽きないで見られたなら、そこでふっと、一瞬でも立ち止まって考えるきっかけになると思うんですよ。世間で言われていることが絶対ではないんだから、そこで考えたことが、その人にとっての靖国であり、天皇であり、地霊。それを大切に思ってくれればいいですね。

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作品情報

『靖国・地霊・天皇』

2014年7月19日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開
監督・編集:大浦信行
出演:
大口昭彦
徳永信一
あべあゆみ
内海愛子
金滿里
声の出演:鶴見直斗
配給:国立工房

プロフィール

大浦信行(おおうら のぶゆき)

映画監督・美術家。1949年富山県生まれ。19才の時より画家を志し、絵画制作を始める。次いで24才の頃より8ミリで映画制作を始める。その後1976年より1986年までニューヨークに滞在中に、画家・荒川修作のもとで7年間助手をつとめる。1986年帰国後、彫刻制作を始める。一方、昭和天皇を主題とした版画シリーズ「遠近を抱えて」14点が日本の検閲、タブーにふれ、作品が富山県立近代美術館によって売却、図録470冊が焼却処分とされる。それを不服として裁判を起こすも、一審・二審をへて、2000年12月最高裁で棄却とされ全面敗訴。この天皇作品問題を通して、日本における「表現の自由」、天皇制とタブー、検閲について、社会・美術・言諭界に問題を提起した。2001年には映画『日本心中前編』を、2005年にはその続編となる『9.11-8.15日本心中』を公開。2011年には『天皇ごっこ』脚本・監督。こうした活動を経て、2014年に最新作『靖国・地霊・天皇』がついに完成。

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