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あなたが思う「日本人らしさ」って何ですか? 渡辺保インタビュー

あなたが思う「日本人らしさ」って何ですか? 渡辺保インタビュー

インタビュー・テキスト
ヤマザキムツミ
撮影:高見知香

日本人らしさ、日本の伝統って何だろう? 2020年『東京オリンピック・パラリンピック』の開催が正式に決まった一方、アジア周辺諸国との関係がイマイチだったり、「クールジャパン」のように、日本文化輸出の問題がいろんなところで取り沙汰され、日本人のアイデンティティーについて考えさせられることも多い、今日この頃。

そんな中「世界的な文化創造都市・東京」の実現を目指す、東京文化発信プロジェクトのプログラムとして、11月1日に『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界-人間国宝と若き俊英の競演-』が開催される。能楽や歌舞伎、邦楽など様々な伝統芸能の中で表現され続ける「道成寺伝説」。その中から『娘道成寺』『日高川』『鐘の岬』を、人間国宝の西川扇藏、新内仲三郎、今藤政太郎をはじめ、気鋭の舞踊家・演奏家たちが上演する。

そして同イベントのナビゲーターを務めるのが演劇評論家の渡辺保。歌舞伎や能はもちろん、オペラから劇団「イキウメ」にいたるまで、ジャンルも世代も問わず、1日1本(多いときには2~3本)の舞台を観劇しているという。「伝統芸能」と聞くと、どうしてもハードルが高いように感じてしまいがちだが、その壁を軽やかに越えて自由に舞台と向き合う渡辺さんに、そもそも「日本の伝統」とは何なのか。本公演の魅力を含め、お話を伺った。

「日本の伝統」や「日本人らしさ」ということを人は簡単に口にするけれども、何が「日本の伝統文化」なのか、もっと丁寧に考えていかなければいけないと思いますね。

―渡辺さんは演劇評論家として、現代演劇から歌舞伎まで幅広く評論されていますが、歌舞伎や舞踊のような「日本の伝統芸能」について、どう感じられていらっしゃいますか。

渡辺:そうですね、「日本の伝統芸能」についての話をする前に、そもそも「伝統」とはどういうもので、「日本らしさ」とは何なのかについて、きちんと整理しておかないといけないと思うんです。

渡辺保
渡辺保

―渡辺さんにとっての「伝統」とは何でしょうか。

渡辺:伝統は「ふるさと」みたいなものです。いつもはあまり考えないけど、忘れていた頃に「ああ、自分って日本人なんだなあ……」と、フッと思い出す。伝統を考えるときに便利なのは「古典」と「現代」という構図です。「古典」は今日とは違う時代に作られたもので、「現代」は今日に作られたもの。『源氏物語』は、1000年前の小説で、そこには過去の時代の特殊な面と、いつの時代にも通じる普遍的な面との両方が書かれています。たとえば、男女は御簾ごしにしか会えないというのは、現代人には理解できないでしょう。当時の特殊な風習だからです。しかし、その男女の恋愛心理は現代人にも理解できるし、恋愛小説と同じです。その通じて生きて輝いているものが「伝統」だと思います。

―では「日本人らしさ」「日本の伝統文化」についてはいかがですか?

渡辺:それには、日本文化のオリジナリティーはどのくらいあるのかを考えることですね。日本には何か固有のものがありますか?

―日本語を話すこと……でしょうか。つまり私の思考や世界観自体が「日本語」という言語の影響を無意識に受けていますし、日本という気候、風土の中で暮らしていることも「日本人らしさ」に影響を与えているような気がします。

渡辺:日本語は中国がなかったら成立しないでしょう。桜はチベット原産だし、菊、梅、牡丹もみんな中国。仏教はインドだし、寿司は東南アジア、天ぷらはオランダ、三味線も着物も中国。能や歌舞伎の源泉はインドです。これこそ日本の伝統だなんて思っているものは、全て日本が原産地はではありません。

―つまり、私たちがそれらを勝手に「日本らしさ」と勘違いしているということでしょうか。

渡辺:ええ。だからそう考えると、日本のオリジナルは富士山しかないんですよ。富士山はオリジナルでしょう? だって動かせないんだから(笑)。動いていくものはみんなのものだし、誰のものでもないんですよ。

―なるほど(笑)。

渡辺:ただ、桜はチベット産だとしても、ソメイヨシノを作ったのは日本人ですよ。原産は外国だけれども、それを磨いて磨いて自分たちのものにする。これが日本文化の伝統です。だから、私たちがもっとも大切にしなければならないもの、次世代に渡さなければならないものは、この「細部を磨いて加工する」独特の感覚なんですよ。

渡辺保

―そこから「日本人らしさ」が出てくるんですね。

渡辺:そうですね。長い時間をかけて、洗練された思いもかけないものを作る。これが日本人です。たとえば、中国の三絃(さんしえん)が沖縄へ渡って三線(さんしん)、蛇皮線(じゃびせん)になり、それが日本の三味線になる。しかしこの3つの楽器を比べて聴いてみても、同じ系譜の楽器とはとても思えない。三味線の音は繊細微妙で、日本のような湿気のある風土で生まれた上に、その音が磨かれて、ついには物語や風景、人間の心持まで語る楽器になったのです。「伝統文化」ということを人は簡単に口にするけれども、日本の伝統文化とは一体何かということを、もっと丁寧に考えていかなければいけないと思いますね。

―「日本の伝統」と、ざっくりイメージするものを日本人みんなで大事にしましょう、というのはすごく危険なことでもあって、それが悪用されてしまうと変なナショナリズムにも繋がってしまうわけですよね。

渡辺:そうそう。だから、日本のナショナリズムは一体どこで成立するんだという問題は、真剣に考えなければいけないんですよ。

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インフォメーション

東京文化発信プロジェクトとは

東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が、芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施している事業です。多くの人々が文化に主体的に関わる環境を整えるとともに、フェスティバルをはじめ多彩なプログラムを通じて、新たな東京文化を創造し、世界に発信していきます。

イベント情報

東京発・伝統WA感動『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界-人間国宝と若き俊英の競演-』

2014年11月1日(土)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:東京都 半蔵門 国立劇場 小劇場
出演:
お話し 渡辺保(演劇評論家)
『娘道成寺』(舞踊・長唄)
市川ぼたん(舞踊)、今藤長一郎(長唄)、今藤政太郎(三味線)、藤舎呂英連中(囃子)ほか
『日高川』(邦楽・新内節)
新内剛士(浄瑠璃)、新内仲三郎(三味線)、鶴賀伊勢一郎(上調子)
『鐘の岬』(舞踊・荻江節)
西川扇藏(舞踊)、荻江寿々・荻江友郁 / 米川敏子(地方)ほか
料金:一般4,500円 学生2,000円(全席指定)
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会

プロフィール

渡辺保(わたなべ たもつ)

演劇評論家。本名・渡辺邦夫。1936年東京に生まれる。1941年に生まれてはじめて歌舞伎を見物。六代目尾上菊五郎の『義経千本桜』の『狐忠信』と、舞踊の『羽根の禿』『浮かれ坊主』に強い衝撃を受ける。慶応義塾大学経済学部卒業後、東宝に入社。企画室長を経て、退社以後は多数の大学にて教鞭をとる。1986年に『娘道成寺』、1997年には『黙阿弥の明治維新』で『読売文学賞』受賞。1995年『四代目市川団十郎』で『芸術選奨文部大臣賞』受賞。2000年紫綬褒章授章。

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