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あなたが思う「日本人らしさ」って何ですか? 渡辺保インタビュー

あなたが思う「日本人らしさ」って何ですか? 渡辺保インタビュー

インタビュー・テキスト
ヤマザキムツミ
撮影:高見知香

宗教、文学、演劇、美術、音楽。あらゆるジャンルを横断して日本文化の底流に流れているところに『道成寺』の特色がある。その中でも『道成寺』は、女の怨みを扱っているために突出しているわけです。

―とはいえ、歌舞伎や日本舞踊はやはりハードルが高いイメージで、なかなか観に行けないのですが……。渡辺さんが今回ナビゲーターを務めるイベント『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界』は、『道成寺』という恋の物語がテーマということで初心者でも入りやすそうな印象です。

渡辺:簡単に説明すると、宿屋の未亡人が熊野詣(くまのもうで)に向かう山伏を口説いてフラれるという話なんです。その山伏が逃げ込んだのが紀州の「道成寺」で、それを知った未亡人が裏切られた怨みで蛇体になって、道成寺に現れ、鐘の中に隠れていた山伏を鐘ごと焼き殺してしまったというお話です。

『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界-人間国宝と若き俊英の競演-』チラシ
『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界-人間国宝と若き俊英の競演-』チラシ

―女の怨念がテーマに描かれているんですね。

渡辺:そうそう。もとは「法華経」の布教用パンフレットに載せるために、口承で伝えられてきた伝説を引用したものだったそうです。山伏を焼き殺してしまったというお話までは前フリにすぎなくて、本来の主旨はその先にあるんですよ。事件の後、道成寺の住職の夢の中に、毎晩山伏と未亡人の霊が出てきて、「このままでは成仏できない」と訴えてくる。そこで成仏させるために、住職が詠んだのが「法華経」で、たちまち二人は成仏するわけです。

―なるほど(笑)。こんな二人でも成仏させる法華経がどれだけありがたいものかと。

渡辺:このお話が面白いのは、『ロミオとジュリエット』みたいな若い男女の恋じゃなくて、年上の未亡人と若い山伏という特異な恋じゃないですか。だから話題になって、たちまち『今昔物語集』に収録されて、布教用のパンフレットから文学に昇格したんです。それから『鐘巻』っていう能楽になって、演劇になった。それもずいぶん人気だったから、絵巻物として「美術」の世界にも入っていったんですよ。

―その後も「歌舞伎」や「文楽」など、多くのジャンルを横断し、『道成寺』は現代まで長く知られる作品になったわけですね。

渡辺:そうです。特に大きな変化が生まれたのは、能の『鐘巻』になったとき。この能の作者が非常に頭のいい人で、昔話の『道成寺』をそのままやっても嘘っぽいし、当時のお客さんにはウケないしということで、物語の後日談を作り出して、焼き払われてしまった道成寺の鐘を再興しようという、自分たちと同じ時代の話に変えてしまったんです。それで新しい鐘の音を聞いて、未亡人の霊が目を覚まして甦ってくる。お寺の「鐘」というのは、昔は女の人から櫛やかんざしといった化粧道具を寄付してもらったお金で作っていたんですよ。何故かというと、法華経では女性はそのまま成仏できない。「変成男子」といって、死んだ後に1回男に生まれ変わってからでないと成仏できないんですよ。

―そうなんですか!? せっかく女として生きてきたのに……(笑)。

渡辺:ひどいよね。セクハラですよ。しょうがないから女性同士で寄付を集めて少しでも成仏できるように鐘を作ったんです。それを未亡人は毒蛇になって焼いたわけですからね。鐘を焼いて、自分が成仏しなくてもいいというところまで思い込んだから、道成寺は深いんですよね。

公演イメージ(市川ぼたん『鐘の岬』)
公演イメージ(市川ぼたん『鐘の岬』)

―「鐘」には、そんな意味も込められていたんですね。そうして、同時代の物語にしたことで、よりリアリティーが出て共感を呼び、能の『鐘巻』は非常に大きな反響を呼んだわけですね。

渡辺:そう。その後は地方に広がって、歌舞伎や音楽にも伝わっていって、今回上演する『日高川』や『鐘の岬』という音楽や舞踊が生まれたというわけです。最初は宗教だったものが、文学、演劇、美術、そして音楽に。あらゆるジャンルを横断して日本文化の底流に流れているというところに『道成寺』の特色がある。そういう例は他にもあるんだけれど、その中でも『道成寺』は、女の怨みを扱っているために突出しているわけです。

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インフォメーション

東京文化発信プロジェクトとは

東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が、芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施している事業です。多くの人々が文化に主体的に関わる環境を整えるとともに、フェスティバルをはじめ多彩なプログラムを通じて、新たな東京文化を創造し、世界に発信していきます。

イベント情報

東京発・伝統WA感動『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界-人間国宝と若き俊英の競演-』

2014年11月1日(土)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:東京都 半蔵門 国立劇場 小劇場
出演:
お話し 渡辺保(演劇評論家)
『娘道成寺』(舞踊・長唄)
市川ぼたん(舞踊)、今藤長一郎(長唄)、今藤政太郎(三味線)、藤舎呂英連中(囃子)ほか
『日高川』(邦楽・新内節)
新内剛士(浄瑠璃)、新内仲三郎(三味線)、鶴賀伊勢一郎(上調子)
『鐘の岬』(舞踊・荻江節)
西川扇藏(舞踊)、荻江寿々・荻江友郁 / 米川敏子(地方)ほか
料金:一般4,500円 学生2,000円(全席指定)
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会

プロフィール

渡辺保(わたなべ たもつ)

演劇評論家。本名・渡辺邦夫。1936年東京に生まれる。1941年に生まれてはじめて歌舞伎を見物。六代目尾上菊五郎の『義経千本桜』の『狐忠信』と、舞踊の『羽根の禿』『浮かれ坊主』に強い衝撃を受ける。慶応義塾大学経済学部卒業後、東宝に入社。企画室長を経て、退社以後は多数の大学にて教鞭をとる。1986年に『娘道成寺』、1997年には『黙阿弥の明治維新』で『読売文学賞』受賞。1995年『四代目市川団十郎』で『芸術選奨文部大臣賞』受賞。2000年紫綬褒章授章。

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