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遺品を撮る写真家・石内都 「他人の痛みは誰にもわからない」

遺品を撮る写真家・石内都 「他人の痛みは誰にもわからない」

インタビュー・テキスト
小林英治
撮影:永峰拓也
2015/08/03

2004年、メキシコを代表する女性画家、フリーダ・カーロの死後50年を経て彼女の遺品が封印を解かれた。身体の不自由や、近代化するメキシコに翻弄されながらも「生きること」そのものを力強く描き続けた女性。その遺品を撮影するプロジェクトの依頼を受けた写真家・石内都に密着したドキュメンタリー映画が、『フリーダ・カーロの遺品 -石内都、織るように』である。はじめはフリーダに特別な感情を寄せていなかった石内だが、3週間にわたる撮影を通して、フリーダの「痛み」と向き合い、様々な物語を纏った重苦しい彼女のイメージを解きほぐし、一人の女性としての鮮やかなフリーダ・カーロ像を生み出していく。それは、広島の被爆者たちの遺品を撮影した近年の代表作『ひろしま』での仕事にも共通する、彼女ならではの「対象を特別視しない」まなざしだ。世の中に氾濫するイメージにとらわれずに、いかに自らの目で見るか? 出会いやチャンスをどのように自らのクリエイションに結びつけるのか? メキシコシティのフリーダの庭にあったのと同じ花が咲くという青々とした庭を臨む、横浜の自宅で話を聞いた。

フリーダ・カーロに対する世の中のイメージというのは、大きく膨れているんです。でも実際に作品と遺品を目にしたら、前もって仕入れた情報が全く役に立たなかった。

―この映画は、石内さんがメキシコでフリーダ・カーロの遺品を撮影する様子が1つの軸となっています。映画化について、小谷忠典監督からはどのようにオファーがあったのでしょうか?

石内:メキシコに行く10日くらい前に彼から電話があって、私の映画を作りたいので取材させてほしいと言われたんです。でも、もうすぐメキシコに行っちゃうから、難しいんじゃない? って。

石内都
石内都

―むしろ断ったんですね。

石内:そう。でもなかなか電話を切らないから、「メキシコまで来るなら来てもいいわよ」って。まさか本当に来るとは思わなかったんだけど、彼はスタッフを揃えて来たんです。メキシコまで来て断るわけにはいかないじゃない?(笑) 実際には小谷さんはすごく優しい方で、全然ジャマにならなかったんですよ。映画を撮られていることを気にせずに、自然な感じでフリーダの遺品を撮影する仕事に集中できました。

―映画の中でもおっしゃっていますが、石内さんは当初、フリーダにそれほど関心がなかったそうですね。

石内:そうですね。彼女の作品や人柄に興味を持っていたわけではなかったので、ごく一般常識的なことしか知りませんでした。でも仕事の依頼をいただいたから、日本で読めるフリーダの関係書を全部読んだのね。それで、「ああ、こういう人か」と頭に入れてから向かったんだけど……。

フリーダ・カーロ ©ノンデライコ2015
フリーダ・カーロ ©ノンデライコ2015

―実際はどうでしたか?

石内:まったく役に立たなかったの(笑)。やっぱり、フリーダにまつわる世の中のイメージというのは、大きく膨れているんです。ポリオにかかって子どもの頃から右足が不自由だったことや、10代の頃にバスで大事故に遭って重傷を負い、晩年は寝たきりの生活だったこと、夫のディエゴ・リベラだけでなくイサム・ノグチや(レフ・)トロツキーとの奔放な恋愛のエピソードも含めて、彼女をとりまく物語が山のようにあるんですよ。その物語性というのは、女性アーティストの場合はどうしたってスキャンダラスに取り上げられがちで、そこばかりが大きくなっていく。私もフリーダのことをそうしたイメージでしか見ていなかったんだけど、実際は全然違ったんです。

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作品情報

『フリーダ・カーロの遺品 -石内都、織るように』

2015年8月8日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開
監督:小谷忠典
出演:石内都
製作・配給:ノンデライコ

プロフィール

石内都(いしうち みやこ)

写真家。1947年群馬県生まれ、横須賀育ち。初期三部作「絶唱、横須賀ストーリー」「APARTMENT」「連夜の街」で街の空気、気配、記憶を捉え、同い歳生まれの女性の手と足をクローズアップした「1・9・4・7」以後身体にのこる傷跡シリーズを撮り続ける。'79年第4回木村伊兵衛賞。 '99年第15回東川賞国内作家賞、第11回写真の会賞、'06年日本写真協会賞作家賞受賞。'05年「Mother's 2000-2005 未来の刻印」でヴェネチア・ビエンナーレ日本代表。’08年に発表した写真集「ひろしま」(集英社)、写真展「ひろしま Strings of time」(広島市現代美術館)では、原爆で亡くなった人々の衣服を撮影。衣服をまとっていた人々がいまそこに在るように写し出したその作品群は話題を呼んだ。‘14年、日本人で3人目となるハッセルブラッド国際写真賞を受賞し、各方面で更なる注目を浴びている。

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