インタビュー

メジャー再挑戦から1年、竹原ピストルのドサ回りはまだまだ続く

メジャー再挑戦から1年、竹原ピストルのドサ回りはまだまだ続く

インタビュー・テキスト
渡辺裕也

このアルバムは歌詞だけではなくて、サウンドでも伝わるようにしたかったんです。もっと言うと、言葉を引っ込めてもいいと思ってた。

―今作には、音楽への信頼感がサウンド全体に表れていますよね。レゲエ調の“月夜をたがやせ”あたりが顕著だと思うんですけど、『youth』は言葉だけじゃなく、ビートやメロディーで語っている作品でもあるというか。

竹原:たしかに、今回は「この歌はこういうサウンドで表現したい」っていう気持ちが特に強かったですね。もちろん、そこはサウンドプロデューサーの佐藤洋介(元COIL)の仕業でもあるんですけど、曲のイメージは僕もどんどん伝えてました。それこそ“月夜をたがやせ”だったら、「高円寺駅前あたりで、おっちゃんたちが焚き火を囲みながら、バケツをひっくり返してボコボコやってるみたいなアレンジにしてください。あと、最後のほうは“WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント”みたい感じで」とか。

―たしかに、そう言われると後半のブレイクビーツは“WOW WAR TONIGHT”っぽいかも(笑)。

竹原:そうやって説明すると、佐藤さんは自分のイメージをちゃんと再現してくれるから、このアルバムは歌詞だけではなくて、その雰囲気がサウンドでも伝わるようにしたかったんです。もっと言うと、言葉を引っ込めてもいいと思ってた。もちろん、自分が言葉に執着していることは変わりないし、「歌詞は気にしないでくれ」っていう意味ではないんですよ? でも、歌詞だけが前に出てしまうことで、「すごくいいんだけど、楽しい気分のときに聴くようなアルバムじゃないな」みたいになるのはイヤだったんです。

―実際、『youth』のサウンドには竹原さんの知られざる一面が表れていると思いました。ちなみに、アルバム最後に収録されている“トム・ジョード”という曲のタイトルは、やはりブルース・スプリングスティーンの“The Ghost Of Tom Joad”に由来してるんですか?

竹原:いや、じつはその曲を僕は知らなくて。このタイトルはスタインベックの小説『怒りの葡萄』に登場するトム・ジョードからもらったんです(スプリングスティーンも、ジョン・スタインベックが1939年に発表した『怒りの葡萄』からヒントを得て、1995年にアルバム『The Ghost Of Tom Joad』を制作した)。しかも、歌詞の内容はその小説ともあまり関係なくて、なんか語呂のいい名前はないかなと思ってたときに『怒りの葡萄』を思い出して(笑)。

―でも、楽曲そのものとあまり関係ないとしても、竹原さんが『怒りの葡萄』をどう読んだのかは、ぜひ訊いてみたいです。

竹原:僕が読んだのは翻訳版ですけど、あの文章のイビツさや、方言の使い方、匂いと土埃が漂ってくるような描写は、ホントたまんなかったですね。あの当時のアメリカの時代背景とかは知らないし、話自体はなんだか難しいんだけど、その言葉を追うのがものすごく楽しかった。それに、今回のアルバムに入ってる“トム・ジョード”で描いたのは、この歌を歌いながらずっと旅をしてきた男が、砂浜で知り合った友達に「こういう旅をしてきたんだぜ」と語っているシーンなんですけど、そのイメージにもぴったりだと思って。

竹原ピストル 撮影:フクマサリョウジ
撮影:フクマサリョウジ

「売れるためなら何でもやってやる」と本気で思ってたんですけど、時々「こういうことはやらん!」と頑なに拒む自分がいて(笑)。それは自分でもびっくりしたんですよね。

―その人物像って、竹原さん自身と重なるところもあるのでは? というか、この曲に限らず、今作の描写は他者に目を向けているようでいて、じつは竹原さん自身を描いているような楽曲が多いようにも感じたのですが。

竹原:ああ、まさにおっしゃる通りですね。実際、ここ1年は気づかされることがたくさんあったんですよ。『BEST BOUT』を出した頃の俺は、「売れるためなら何でもやってやる」と本気で思ってたんですけど、実際にこうして活動をしていると、時々「こういうことはやらん!」と頑なに拒む自分がいて(笑)。それは自分でもびっくりしたんですよね。

―売れるためとはいえども、譲れないことはあるってことですね。

竹原:こうして話す上では、今でも「売れるためなら何でもやってやる」って思ってますよ(笑)。それこそ、1年前に今のレコード会社から拾ってもらったときなんかは、「今まで自分が積み上げてきたものなんかどうでもいいわい!」くらいに思ってたんですよ。でも、そうしようとすると、必ず過去の自分が現れるんですよね。それで気づいたんです。「俺は自分が歩んできた道のりを、自分なりに愛おしく思ってるんだな」って。

―自分のキャリアを大切に思えるからこそ、若いミュージシャンにも優しい言葉をかけられるのかもしれないですね。

竹原:ああ、たしかにそういう心理はあるのかもしれないし、たぶん「竹原ピストルという看板を汚しちゃいかん、ピカピカに磨いておきたい」という気持ちがあるんでしょうね。同時に、もちろん今でも俺は売れたくてしょうがないし、そのためなら何でもやろうと思ってる。そのバランスがここ1年でけっこううまくとれるようになったとは思います。

―では、その竹原ピストルという看板をピカピカに保つために、一番大事なことってなんですか。

竹原:それはもちろんライブです。どんな場面だろうと、ライブをやる。それが竹原ピストルだと思ってるし、もっと言えば、そういうふうに見られたいんですよね。シーンも世代もジャンルもへったくれもなく、歌う機会さえあれば、あいつはどこにでも行く人間だって。

―竹原さんのそういうスタンスに影響を与えた方っていらっしゃるんですか?

竹原:姿勢においてものすごく影響を受けたのは、ザ・スターリンの遠藤ミチロウさんです。それこそミチロウさんはドサ回りの元祖みたいな方ですからね。キャパ20人くらいの居酒屋で歌ってたかと思えば、次の日には大きなフェスにも出ていたりする。そういう意味で、ミチロウさんは自分と比べようがないくらいにスケールの大きな人で、ものすごく憧れていますね。

―なるほど。でも、今の竹原ピストルは、それこそかつての竹原さんが憧れていたミュージシャン像といっても良いのでは?

竹原:そうかもしれない。でも、野狐禅を始めた頃から、俺はものすごく満たされてたんですよ。ステージに立つのが本当に楽しくてしょうがないから、「もう1回やろう。明日もやりたい。また来週もやろう」みたいな感じで、どんどんライブを決めていく。ただそれをずっと続けてるだけなので、そういう意味では、昔も今も何ひとつ変わってない。もちろん、キラキラした夢もあることにはありますけど。

―キラキラした夢って、たとえば何ですか。

竹原:それはやっぱり、武道館でやりたいとか、チャートで1位になりたいとか、そういうことですね。とか言いつつ、じつはそれも俺自身はどうでもいいんです(笑)。つまり、俺がやりたいのは、自分を応援してくれる人たちに、竹原ピストルが活躍している姿をわかりやすく見せるってことなんですよ。俺にとってはそれが第一。だって、ただ自分が暮らしていくだけだったら、俺はそのへんで歌ってさえいればいいんですからね(笑)。

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リリース情報

竹原ピストル『youth』
竹原ピストル
『youth』(CD)

2015年11月25日(水)発売
価格:3,132円(税込)
VICL-64415

1. youth
2. 全て身に覚えのある痛みだろう?
3. 午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
4. じゅうじか
5. 高円寺
6. へっちゃらさ、ベイビー
7. 月夜をたがやせ
8. よー、そこの若いの
9. ぼくの夢でした
10. 石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ
11. トム・ジョード

プロフィール

竹原ピストル
竹原ピストル(たけはらぴすとる)

歌手、ミュージシャン、俳優。大学時代の1995年、ボクシング部主将を務め、全日本選手権に2度出場。1999年、野狐禅を結成し音楽活動を本格化。際立った音楽性が高く評価され、2003年にメジャーデビュー。2009年4月に野狐禅を解散し、一人きりでの表現活動を開始。毎年200~250本のペースでライブも並行するなど勢力的に活動を行う。2014年、デビュー時のマネージメントオフィスであるオフィスオーガスタに再び所属。そして、10月22日に、ビクタースピードスターレコーズよりアルバム『BEST BOUT』を発表。2015年、全国のライブハウスを行脚する傍ら、11月25日にニューアルバム『youth』をリリース。2016年より112本に及ぶ全国弾き語りツアー“youth”を開催する。音楽活動とは別に、役者としての評価も高く、『青春☆金属バット』(2006年、熊切和嘉監督)、『さや侍』(2011年、松本人志監督)などに出演。2016年秋には全国ロードショー、西川美和監督最新作『永い言い訳』への出演が決定している。

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