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千年のスケールで考える、芸術と文化のハナシ 宮城聰×大澤真幸

千年のスケールで考える、芸術と文化のハナシ 宮城聰×大澤真幸

SPAC‐静岡県舞台芸術センター『ふじのくに⇄せかい演劇祭』『ふじのくに野外芸術フェスタ2016』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影・編集:佐々木鋼平

パリ同時多発テロの重大さを感じられない人がたくさんいたのは、日本が「田舎」になってしまったことの表れだと思います。(大澤)

―宮城さんは以前「SPACに1年通えば、演劇の歴史が大体わかるようなプログラムを組んでいる」とおっしゃっていましたが、お話を伺っていて、今年の『ふじのくに⇄せかい演劇祭』は、人の文化の歴史がわかるようなプログラムなのかもしれないと思いました。

宮城:そうですね。『イナバとナホバの白兎』を作りながら、文化というものがいかに大きく移動してきたのか、人は本当に貪欲に新しいものを取り入れる生き物なんだということをすごく実感しています。『因幡の白兎』だけを調べても、類話はインドネシアやスリランカ、それから中国の北部にも広く分布しているんです。

『イナバとナホバの白兎』稽古風景 ©平尾正志
『イナバとナホバの白兎』稽古風景 ©平尾正志

―もともとは同じ話だったものを、いまではそれぞれの国の人々が「自分たちの物語」だと考えている。

宮城:おもしろいのが、今回「五大陸」をコンセプトに作品を集めましたが、けっきょくどれも文化が混じりあって生まれた作品なんですよ。たとえば、フランス人のオリヴィエ・ピィが演出するグリム童話原作の『オリヴィエ・ピィのグリム童話「少女と悪魔と風車小屋」』は、ドイツ人のグリム兄弟が、各地の昔話を採集したものがベースになっているわけで。

『オリヴィエ・ピィのグリム童話「少女と悪魔と風車小屋」』 © Christophe Raynaud de Lage / Festival d'Avignon
『オリヴィエ・ピィのグリム童話「少女と悪魔と風車小屋」』 © Christophe Raynaud de Lage / Festival d'Avignon

―一方、いまの社会では、世界各国で右翼政党が台頭したり、若年層で排他主義の人たちが増えていると言われます。

大澤:2015年にパリでテロがありましたよね。そのとき一番驚いたのが、日本での報道が圧倒的に少なかったことでした。しかも、ある著名人がTwitterで「もうちょっと報道しろよ」と発言したら、「そんな遠い国の話を、どうして日本で丁寧に報道しなくちゃいけないんだ」と、バッシングを受けていた。パリはニューヨークやロンドンと並んで、世界の基準となる都市のひとつなんですよ。そこでとんでもない事件を起こすのがISの狙いでもあるのに、その重大さを感じられない人がたくさんいる。逆に言えば、それは日本がすごく「田舎」になってしまったことの表れだとも思います。

宮城:目の前の世界しか見えておらず、世界が広いことを知らない。外にどんな歴史があるかを知らないという意味での田舎ですよね。

大澤:レヴィ=ストロースが、なぜすごい学者だと言われているかというと、いろんな神話を研究した『野生の思考』(1962年)という著書のなかで、サルトルを暗に批判をしたんです。これがものすごい衝撃だったわけですよ。サルトルと言えば、少なくとも20世紀までは西洋思想の神様です。それを、非常に大きな視野で相対化して、サルトルは西洋中心主義的な視点で世界を見ていると書いた。彼の歴史観がいかに特殊で偏っているかを批判したんですよ。

『火傷するほど独り』 ©Thibaut BARON
『火傷するほど独り』 ©Thibaut BARON

―それまで当たり前とされていた、西洋中心の考え方を更新したんですね。

大澤:ただ、レヴィ=ストロースもサルトルの思想があったからこそ、それを更新できたんです。つまり、大きな視点で自由に世界を見られるようになるにはプロセスが重要だということです。

―パリが、世界における重要な都市であると理解することで、そこから相対化して、アジアや日本を客観的に捉え、それぞれのつながりを考えることができる。

大澤:『ふじのくに⇄せかい演劇祭』で上演される『三代目、りちゃあど』も、イギリス人のウィリアム・シェイクスピアの『リチャード三世』をベースに、日本人の野田秀樹が戯曲を書き、シンガポール人のオン・ケンセンが演出するという構造ですよね。そういった「相対化のおもしろさ」を感じるセンスが広がっていけばいいなと思いますね。

『三代目、りちゃあど』 アートディレクション:矢内原充志
『三代目、りちゃあど』 アートディレクション:矢内原充志

宮城:ぼくも演劇をやっていて、同じことをよく思います。つまり、古典や歴史をまったく知らずに、いまの自分たちにまつわることだけを書いたり、観たりする流れがある。でもそれだと、自分たちがやっていることが文化全体の座標のなかで相対化されず、位置づけられないんですよ。

大澤:目の前でなにか起きると、みんな「どうしよう?」と考えます。でもその根っこを考えると、本当は10年20年の問題ではなく、それこそ百年千年の大きな問題があって、その先端がいま別のかたちになって現れているだけなんですよね。たとえば、自分はいま派遣労働者で、お金がなくて苦しいといった問題も、究極的には資本というシステムがあるわけです。問題は百年千年規模なのに、考えるほうの想像力は長くて10年程度だから、結果的に大したことができない。この国で起きている不況だって、明らかにグローバルな問題です。空間的にも時間的にも大きな範囲で複雑な問題が起きているのに、想像力のほうがどんどん小さくなっている。想像力を解放して、千年単位でものを考えないと解決策は生まれません。

宮城:ぼくは「演劇は歴史性のなかで観たほうがいい」とよく言うのですが、過去の蓄積を踏まえようと思うと、やっぱり西洋は無視できません。アジアやアフリカにも大昔から演劇はありましたが、文字として残っているものが少ないんです。だから、西洋が偉かったかどうかはともかくとして、少なくとも西洋で文字に書き残された古典は、やはり一度は観ておく必要があると思います。

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イベント情報

『ふじのくに⇄せかい演劇祭2016』
『ふじのくに野外芸術フェスタ2016』

2016年4月29日(金・祝)~5月8日(日)
会場:静岡県 静岡芸術劇場、静岡県舞台芸術公園、駿府城公園

上演作品:
『イナバとナバホの白兎』(演出:宮城聰、台本:久保田梓美&出演者一同による共同創作)
『三代目、りちゃあど』(演出:オン・ケンセン、作:野田秀樹)
『オリヴィエ・ピィのグリム童話「少女と悪魔と風車小屋」』(作・演出:オリヴィエ・ピィ)
『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』(演出:ウィリアム・ケントリッジ、作:ジェーン・テイラー)
『火傷するほど独り』(作・演出:ワジディ・ムアワッド)
『It's Dark Outside おうちにかえろう』(作・演出:ティム・ワッツ、アリエル・グレイ、クリス・アイザックス)
『アリス、ナイトメア』(作・演出:サウサン・ブーハーレド)

プロフィール

宮城聰(みやぎ さとし)

1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で演劇論を学び、1990年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。2014年7月『アヴィニョン演劇祭』から招聘され『マハーバーラタ』を上演し絶賛された。その他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。2004年『第3回朝日舞台芸術賞』受賞。2005年『第2回アサヒビール芸術賞』受賞。

大澤真幸(おおさわ まさち)

1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。現在、月刊個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』刊行中、「群像」誌上で評論「〈世界史〉の哲学」を連載中。

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