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何かが足りない人生を肯定する、Predawnの「諦め」の哲学

何かが足りない人生を肯定する、Predawnの「諦め」の哲学

Predawn『Absence』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:田中一人 編集:山元翔一
2016/09/21

毎日のように幾多のメディアで表現者たちが紹介されるなか、そこでテンプレ化された「豊かさ」賞賛には、こちらの感性を鈍らせる危うさも潜んでいる。そこでは彼や彼女の作品がいつだって「才能に溢れ」「優しさに(または怒りや希望に)満ちて」いて、受け手は「その世界観に包まれる」。でも作り手は、自分やこの世界に何かが避け難く足りないことと向き合う時間も知っている。そこから初めてつかみ取れる希望のことも。

「Absence」(不在)をあえて新作タイトルに選んだPredawnは、そこに気づかせてくれる存在のひとりだろう。柔らかい笑顔で「何かを諦めた後に見えてくる希望もあると思う」と話してくれたPredawnこと清水美和子にあえて常套句で応えるなら――彼女の音楽は、自分への誠実さに溢れている。

高校生のころは素朴に、この世界の善悪って誰が決めているんだろう? という思いがあって。

―Predawnの音楽に初めてふれたとき、たとえば広く注目されるきっかけとなった“Suddenly”などからは「森のひとり音楽隊」的なほんわかした印象がありました。ただ、ほぼすべて英語で綴られる歌詞をよく見ていくと、大人の女性の内省的な世界も強いですよね?

清水:そうですか(照)。じつは歌詞もメロディーと一緒に思いつくことが多くて、そこからその言葉について考えてみたりしながら、作っていく感じです。

―それで気になったのは、幼いころから音楽に親しんできた一方で、大学では哲学を勉強したそうで。

清水:実際に大学に通い始めたら、自分がいかに感覚的な人間かっていうのを思い知ることになったんですけど(苦笑)。特に論理学とかで、考えを筋道立てて、矛盾がないように組み立てるのが苦手で。

清水美和子
清水美和子

―最初の動機は何だったのでしょう? 音楽方面ではなく哲学を選んだ、というのは。

清水:当時も、何か音楽に関わる仕事に就けたらという憧れは確かにありました。ただ、自分が作り手になるイメージはなかったんですね。それで進学時に、突き詰めると私は何に興味があるのか、結構まじめに考えたんです。そのときすごく素朴に、この世界で「善い」「悪い」とかって何なのだろう? それって誰がどう決めるんだろう? ということかなと思って。で、兄に相談したら「それって哲学じゃないの?」と。

―それは10代の清水さんにAerosmithやMr.Bigの洗礼を授けたという、お兄さん? 同時にお姉さん経由でリサ・ローブやThe Cardigansに親しんだとも聞きました。

清水:はい(笑)、その兄のほうです。彼の卒業した信州大学にも哲学コースがあるよと教えてくれて。私、生まれは新潟なんですが、ずっと東京の東久留米で育って、この機会に少し離れた場所でひとりで暮らしてみるのもいいかと思ったんですね。哲学をやるなら、どちらかというと北の土地がいいかな? という適当な感覚もあって。

―大学生のときにPredawnとしての活動が始まるのですよね。でもやっぱり最初は、バンドを組んだりしたのでしょうか?

清水:そうですね。ただ音楽活動は、東京への帰省時に高校時代の友達と即席バンドでライブしたりが主でした。振り返ると大学へは本当に、授業や勉強のためだけに通っていた感じです。男女の仲良しグループが学食でワイワイ、という生活とは遠かったような……。

―ちなみに卒論のテーマは?

清水:それは……ホントにダメダメな内容だったので、できればそっとしておいてやってください(苦笑)。

―僕の経験からすると、卒論ってその人の個性がかなり反映されると思ったので、つい質問してしまいました。

清水:……卒論テーマはですね、あの、無神論についてでした。

―無神論? この世界に神は存在しない、という。

清水:はい。さっき話した、「善悪ってどこからくるの?」という問いと関係して宗教にも興味が出て、それで調べていくと当然、宗教論争・戦争の歴史も知ることになります。私は宗教を否定するつもりはまったくなくて、ただ自分自身は小さいころからリアリストな面も強かったんです。だから、信仰が理由でこんなに争ってしまうくらいなら、神様って必要なの? という気持ちも出てきて。そうしたなかでこのテーマを選んだような気がします。

清水美和子

―東京での音楽活動と、長野の大学での哲学、いろんな意味で距離のありそうなふたつの場所の行き来のなかで、いまの音楽性が育っていった?

清水:どうでしょうね。ただ、私は想像上の世界を曲にするより、自分の暮しや考えていることがそのまま音楽になる方なので、学校で四苦八苦して学んでいた哲学と、そことは離れて作っていた音楽とが、自然に結びついているのかもしれません。

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リリース情報

Predawn『Absence』
Predawn
『Absence』(CD)

2016年9月21日(水)発売
価格:2,592円(税込)
RDCA-1044

1. Skipping Ticks
2. Black & White
3. Universal Mind
4. Don't Break My Heart
5. Sigh
6. 霞草
7. Autumn Moon
8. Kinds of Knot
9. Hope & Peace

プロフィール

Predawn
Predawn(ぷりどーん)

Predawn(プリドーン=夜明け前)を名乗る、女性ソロシンガーソングライター。かわいらしくも凛としたたたずまいと、天性の声に魅了されるリスナーが続出している。UKロック、オルタナティブロック、ルーツミュージックを独自に昇華し、少々ひねくれつつもドリーミングかつヒーリング的な聴き心地が融合した音楽は、国内において類を見ない。2010年6月に1stミニアルバム『手のなかの鳥』を、2013年3月に1stフルアルバム『A Golden Wheel』リリース。また、andymori、Turntable Films、菅野よう子、TOWA TEI、大野雄二など、錚々たるアーティストの楽曲へのゲストヴォーカル参加、木村カエラとのコラボ、映像への楽曲書き下ろしなど、多岐にわたって活躍している。

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