特集 PR

糸奇はなが語る、貪欲で多彩な表現活動の背景にある2つの苦悩

糸奇はなが語る、貪欲で多彩な表現活動の背景にある2つの苦悩

糸奇はな
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:豊島望 編集:山元翔一
2017/03/14
  • 20

繊細な魂が、世界に手を伸ばす瞬間――糸奇はなの音楽を聴くと、そんな、痛みに満ちて、でも愛おしい瞬間に立ち会っているような感覚を覚える。

幼い頃から本格的に声楽を学び、DTMを使ってオリジナル楽曲を生み出すシンガーソングライター、糸奇はな。ゲーム音楽をアレンジして動画サイトに投稿するところからキャリアを始め、楽曲制作から演奏、打ち込み、歌唱まですべて自分でこなし、イラストや漫画の執筆、刺繍や版画、果てはウェブ制作まで「創造」と名のつくあらゆるものに手を伸ばす。彼女の創造物の奥には、どうしようもなく世界を必要とし、世界に必要とされようとする自身の「実存」と「意志」を感じることができる。その表現の一つひとつには、彼女の震えるような息づかいが、とても生々しく刻まれている。

「ものを作る」ということは、決して何かを表明したり、象徴することではない。それはいつだって世界への問いかけであり、不安定さや曖昧さと共にある。糸奇はなにとって、きっと「作る」ことと「生きる」ことは同義であり、だからこそ彼女の存在は、同じように曖昧さと共に生きる人々にとって、ひとつの希望になり得るのではないだろうか。

ロンドンで『オペラ座の怪人』を観たときに「私は歌う人になろう」って決心したんです。

―本当にたくさんのインプットとアウトプットを持っている方なので、どこから話を聞こうかなっていう感じなんですけど(笑)、ご自身としては、「糸奇さんってどういうことをやられているんですか?」と聞かれたら、まずは何と答えますか?

糸奇:一番には、「音楽を作って歌っています」と言いたいです。そこから、「詩も書いています」「音楽から連想する絵なども描いています」と答えたい。

糸奇はな
糸奇はな

糸奇が手がけたイラスト
糸奇が手がけたイラスト

糸奇が手がけた刺繍
糸奇が手がけた刺繍

―SNSには日常的にイラストや刺繍を制作している様子をアップされていますけど、創作の軸足は音楽にあるんですね。糸奇さんが最初に音楽を作りたいと思ったのはいつ頃ですか?

糸奇:中学生ぐらいのときです。小さい頃からピアノをやっていたり、クラシックの道を志して声楽をやったりしていくなかで、「私だったらこの旋律のあと、こういきたいな」「もっとこういう詩の歌を歌いたいな」っていう気持ちが湧いてきて。中学生になった頃に、自分の好きな旋律と好きな言葉で音楽をやりたいと思うようになりました。

―そこから、初めてご自身の作品を世の中に発表したのは、どんな形を通してだったんですか?

糸奇:2011年に大好きなゲームの主題歌をカバーして、動画サイトにアップしたのが初めてでした。大学生になってDTMソフトを買って、自分のオリジナル曲を作り始めたんですけど、そのときは「こんな音色があるんだ」「こんなふうに音を重ねるんだ」って実験的に曲を作ってて。当時は初音ミクが流行っていた頃で、ボーカロイドの曲でもない、無名の人のオリジナル曲はなかなか聴かれない状況もあったので、カバーにしようと思ったんです。

―確かに、2011年頃はボーカロイドが流行っていましたね。ボカロシーンから出てきた米津玄師さんのような存在が注目され始めたのも、そのぐらいの頃でした。

糸奇:米津玄師さんはすごく尊敬しています。米津さんの作るものは、音、歌詞、歌い方、それに絵や動画もすべてがひとつの世界に繋がっている。表現が自己完結していて、すごいなって思います。私も、そういう世界が作れたらいいなって思うんです。

糸奇はな

―糸奇さんは、子供の頃はどんな子でしたか?

糸奇:幼い頃はとても明るい性格だったんですけど、小学2年生の頃に、スイスのジュネーブに父の仕事の都合で引っ越したんです。そこで、言葉の違いや文化の違いで、伝えたいことが言えなかったり、人種差別みたいなものを経験したこともあって、大人しくなってしまったんですよね。

―小学生には重すぎる経験ですね。

糸奇:大事な友だちが悩んでいるのに、「悩んでいるの?」って訊いても言語の違いで力になれない無力さを経験したり、でも逆に、言葉はわからないけど仲良くなれるっていうことも経験できたり。それで、ちょっと複雑な性格になって日本に帰ってきた気がします。身ぶり手ぶりで話すことも増えたし、目をじっと見る癖がついてしまったりしたので、そういう海外生活で身についたものをなるべく押さえなきゃと思って、中高生の頃は、ちょっと引っ込みがちなキャラになってしましました。

―ジュネーブで暮らしていた頃の経験は、今の糸奇さんの創作に影響を与えていると思いますか?

糸奇:とっても思います。日本とヨーロッパではクラシックの扱われ方が全然違うんですよね。ジュネーブにいた頃に旅行でロンドンに行って、そこで『オペラ座の怪人』を観たときに「私は歌う人になろう」って決心したんです。

Page 1
次へ

リリース情報

糸奇はな『ROLE PLAY』
糸奇はな
『ROLE PLAY』(CD)

2017年2月10日(金)タワーレコード限定発売
価格:1,620円(税込)
PLCD-0002

1. ROLE PLAY
2. Nightmare
3. RESET
4. パッチワーク

プロフィール

糸奇はな
糸奇はな(いとき はな)

英仏の歌曲を吸収したボーカルパフォーマンスと、儚い内面性を表現する歌詞世界、クラシカルな要素が強くありながらも打ち込みを駆使した現代的かつエッジーなサウンドメイクで独自の幻想的な音楽を提示する新世代ハイブリッドアーティスト / シンガーソングライター。小学生の頃に観た『オペラ座の怪人』に衝撃を受け、憧れ、声楽を学び始めた後、オリジナル曲の制作を開始。2016年8月10日には初のフィジカル作品となる『体内時計』手づくり版を110枚限定リリースし即完売。この作品は1枚1枚手刷りした版画でCDを包みナンバリングを入れるという凝りに凝った作品。これが音楽関係者の間で話題となり、11月にはタワーレコード限定の全国流通版として『体内時計』レプリカ版がリリースされ話題となった。歌唱、作詞、作曲、アレンジ、打ち込み、楽器演奏、といった音楽にまつわる全てのことをひとりでこなし、それだけでなくイラスト、動画、漫画、版画、刺繍、ゲーム作りからモールス信号まで、様々なやり方で独自の世界を表現するマルチアーティスト。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

冠木佐和子『夏のゲロは冬の肴』

『アヌシー国際アニメーション映画祭』学生部門で審査員賞に輝いた『夏のゲロは冬の肴』。ビビッドな色使いと繰り返される嘔吐音が印象的な(けれどなぜか愛らしい)アニメはもちろん、受賞の際にステージで「I wanna fuck everyone.」とスピーチしたという90年生まれの監督・冠木佐和子にも注目。仲條正義の『忘れちゃってEASY 思い出してCRAZY』展を思い出させるタイトルも好み。(井戸沼)