コンプレックス文化論 第九回「背が低い」

コンプレックス文化論 第九回「背が低い」其の三 フラワーカンパニーズ 鈴木圭介インタビュー

コンプレックス文化論
第九回「背が低い」

文:武田砂鉄 イラスト:なかおみちお 撮影:柏木ゆか

第九回「背が低い」 其の三
フラワーカンパニーズ 鈴木圭介インタビュー

当たり前だが、ロックンロールの有無と身長の高低に相関関係はない。背が高くても低くても、ロックはロックだ。むしろ、ロックンロールの初期騒動とコンプレックスは直結しやすいものだから、背が低いというコンプレックスが、図太いロックンロールを生み出してきた可能性がある。今年結成25周年を迎えたフラワーカンパニーズのボーカル・鈴木圭介の身長は159センチ。もしも鈴木の背が高かったら、(彼自身は「俺が180センチ超えていたら……まぁ、東京ドームやってんじゃないですか」と言うのだが)この四半世紀ずっと、ブレないロックンロールが届くことはなかったのではないか。ロックと低身長の友愛を語ります。

フラワーカンパニーズ
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フラワーカンパニーズ

名古屋が生んだ“日本一のライブバンド”フラワーカンパニーズ。通称フラカン。Vocal:鈴木圭介、Bass:グレートマエカワ、Guitar:竹安堅一、Drums:ミスター小西の4人組。1989年にバンド結成。2014年4月“メンバーチェンジ一切なし、活動休止一切なし”4人揃って結成25周年を迎え、現在25周年ワンマンツアー「4人で100才」で全国行脚中、7月3日、4日に恵比寿リキッドルームでツアーファイナルを迎える。
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やっぱり背の順に並べられる経験が否応にも自覚させるんですよ


―のっけから失礼な質問ですが、背が小さいのを自覚されたのはいつですか?

鈴木:幼稚園のときから一番小さかったんですよ。その頃は大きい小さいといってもたいして差がない。だだし、デカい奴だけは分かるんですよ。んで、僕、そいつのことが大嫌いだった……。

―デカいか小さいかが、そのまんま権力に直結しますもんね。

鈴木:中学くらいまでは体の大きさで決まりますよね。デカくて腕っ節も強いガキ大将には、なるべく近づかないようにしていました。とにかく近づかないようにしていたこともあって、ガキ大将から屈辱的なことをされることはなかったですね。

―背が低いこと自体は、誰かに言われるわけではなくて自分で自覚されていた。

鈴木:そうですね、やっぱり背の順に並べられる経験が否応にも自覚させるんですよ。あと、集合写真。いっつも先生の隣です。集合写真のポジションって背の順で決まるじゃないですか。担任の先生と校長先生だかが真ん中に座って、その隣に一番背の低い人がちょこんと座る。

―朝礼では「前ならえ」の先頭、腰に手をあてるポジションが続いたんですか?

鈴木:そうですね。小1~3くらいまではそうだったんですけど、小4から変わりました。

―おっ、更に小さい人がクラスに!

鈴木:いや、小4からクラス委員が一番前になりまして。

―それ、ズルい卒業の仕方ですよね(笑)。

鈴木:いやでも、助かりましたよ。朝礼って前にずらっと先生が並んでいるから、なんにも悪いこと出来ないんですよ。それに比べて、後ろの奴って大抵悪いことしている。先生は後ろの方に向かって「おいこら、何やってんだ」って怒ってるんだけど、こっちは前を向いたままだから、何やってるか分からず、すっかり置いていかれる感じ。

―自分が小学生の頃を思い出してみると、背が小さい奴って、マスコットっぽくチヤホヤされるバージョンもありましたけど、鈴木さんはどうでしたか。

鈴木:あー、あれはクラスによるんですよね。うまくいっている時は、ゆるキャラっぽく人気者になりましたね。

―勝手なイメージですが、ドッヂボールで最初に「あいつを狙え!」って追いかけ回されるタイプじゃなかったですか?

鈴木:逆ですね、最後まで残っちゃうタイプ。ちょこまか逃げるもんだから、最後まで残っちゃって、うわっ、しまった、早めに当たっておけばこんなに目立たなくて済んだのに、って。結果的に挟み撃ちになって、ショボい終わり方をするんです。

鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)
鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)


俺が180センチ超えていたら……まぁ、東京ドームやってんじゃないですか(笑)。


―弟さんのほうが背がデカかったから、洋服は「お下がり」ではなくて、逆に弟のものをもらっていて、あだ名は「お上がり君」だったとか。

鈴木:中3の頃ですね。それまでは辛うじて僕の方が弟よりデカかったんですよ。俺が中3で、弟が中1の時に逆転して、弟が着られなくなった制服を俺が着ることに。「お上がり君」ってあだ名つけたの、リーダー(グレートマエカワ)じゃなかったかな。

―一緒に暮らしていれば、弟がぐんぐん成長してくるのが分かるわけですよね。逆転された時の屈辱、ってありました?

鈴木:めちゃくちゃありましたよ。それによって、その先15年くらい、弟とは冷戦状態が続きましたからね。なぜ冷戦かというと、揉めても負けるから。そもそも僕、食が細くって、ご飯一杯も食べられなかった。給食だって時間中には全部食べられないからいっつも掃除の時間まで食べさせられていましたし。

―机を後ろに下げて前で掃除しているのに、机と机の間に挟まって食べていたアレですか。

鈴木:アレです、アレです。そもそも、小学校の給食って1年から6年まで量が変わらないんです。おかしくないですか。小1からパンが2枚もあるんですよ。

―給食をおかわりする奴のヒーロー感ってすごかったし、食べられない奴のダメダメ感もすごかったですよね。

鈴木:目の前で掃除してホコリが舞っている中でご飯を食べさせられるなんて、そりゃあ性格歪み始めますよ。ただし僕の場合は性格が明るかったもんだから、先生には絶対かわいがられたし、嫌われなかったけれど。

―そういうイイ子って、しゃしゃり出ている存在から目をつけられなかったですか。

鈴木:なかったですね。弁が立つので、喋ることが大好きだったし、当てられるのを待っているような生徒。そういう意味では暗い印象はなかったと思います。

―では、「背が低い」というコンプレックス自体は心の内に溜め込んでいた感じなんですか?

鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)

鈴木:溜め込むというか、そういうキャラで行かざるをえなかったんですよね。これでしゃべらなかったら、チビで暗い奴、になっちゃうから。それに、学生時代には眼鏡をかけていて、当時の眼鏡って、黒ぶちの文豪みたいな眼鏡しかない。当然あだ名は「メガネザル」です。本当はみんな、メガネザルなんて見たこと無いくせに。

―僕は昔から背が高いんですが、背が高いって、基本的にはモテ要素ですよね。だから「イイよね」って言われること多いんですけど、「背が高いけどモテない」というのは、ちっとも言い訳できないツラさがある。一方で、背が低いからモテない、というのは自分に言い訳が出来ますよね。

鈴木:ええ、僕、背が低いっていうのを全ての言い訳にしてきましたから。

―もし15センチ背が高かったら、ものすごくモテていたはずって、エッセイにも書かれていましたね。

鈴木:そんなの、未だに毎日思っていますよ。俺が180センチ超えていたら……まぁ、東京ドームやってんじゃないですか(笑)。ただ、バンドやり出すようになってから、背が低いっていうのを逆に利用できるようになってきた感じはありますね。背が低いからこそのかわいらしさを出せるようになる。背が高い人には着られないけど、俺が着たらかわいくなる服とかわざと着たりして。

こんなに長い間同じバンドにいても、その中で背が低いというコンプレックスが消えているわけじゃない。


―鈴木さんが初めて買ったレコードはアイアン・メイデンの『魔女の刻印』だと聞きました。メイデンのボーカルのブルース・ディッキンソン、彼も背がとても小さいですよね。メタルバンドの重鎮って結構高齢化してきていて、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードなんかは、なかなか動きが鈍くなってきている。でもブルースは今でもそこらじゅう走りまわっています。フラワーカンパニーズもそうだと思うんですけど、激しい音楽って、ボーカルの背が低い方がいいんでしょうかね。

鈴木:僕もメタルから入っていますけど、メタルバンドのボーカリストってチビが多いんですよ。ラウドネスもそうだし、アースシェイカーもボーカリストが一番小さい。LAメタルの人なんかも背が低い人が多いし、それこそロニー・ジェイムス・ディオだって小さかったでしょう。メタルバンドって声が高くなきゃいけない。背が低い、って、つまり成長が少し遅いんですよ。声変わりも遅くて、僕は高1くらいだった。だから中学時代には、ジューダス(・プリースト)が地声で歌えましたからね。メタルの歌い方ってミドルボイスと言って、裏声と地声をミックスさせるんですが、当時の僕にはその必要がなかった。どんどんオクターブが上がっていくディープ・パープルの「チャイルド・イン・タイム」を地声で歌いきっていましたから。

―やはり、バンドを始めることで、はじめて、背が低いことが肯定されたんですね。

鈴木:肯定されたといってもバンド内だけですけどね。バンド離れたらただのチビ。チビで眼鏡、こればっかりはどうしようもない。

―フラワーカンパニーズは「精神的なホモだ」って何かで言われていましたけど、このバンドが精神的なホモじゃなくて、バンド内のライバル関係がブツかり合って育まれてきたバンドだったとしたら、バンド内でも「背が低い」がコンプレックスのままだったのかもしれないですね。

鈴木:いや、ライバル心は昔も今もあるんですよ。リーダーが目立ったりしていると、「こいつより前に出てやる」って思いますから。

―毎回思うんですか(笑)。

鈴木:こないだも思いましたよ、このやろーって(笑)。こんなに長い間同じバンドにいても、その中で背が低いというコンプレックスが消えているわけじゃない。

―とはいえ、メンバーチェンジ無しで25年間続けて来たってことは、どのバンドよりも「精神的ホモ」感が強いバンドだと思うんですけれど、それでいて毎回コンプレックスを起動できるのってすごいですね。

鈴木:それは背が低いっていうより、ベースのキャラが濃いんですよ(笑)。飛び道具のように裸にオーバーオール、そして顔が濃い、眼力も強い。初めて見た人に「ベース凄いね」って言われると、いちいち「ん? ボーカルじゃなくてベース?」ってイライラしている時期がありましたから。今はもう、さすがにそんなことはありませんけど。



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