NY在住の挾間美帆が、革新起きるビッグバンドジャズシーンを語る

ジャズ作曲家としてNYを拠点に活動し、2016年には米ダウンビート誌の「ジャズの未来を担う25人」に選出されたりと、世界を舞台に活躍する挾間美帆がクラシック音楽の祭典『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017』(以下、『ラ・フォル・ジュルネ』)に出演する。

今年、挾間がバレエダンサーとジャズビッグバンドによる公演のために作曲した組曲『The DANCE』を吹奏楽用に再編曲し、日本を代表する吹奏楽オーケストラのシエナ・ウィンド・オーケストラと共に演奏する今回のステージ。クラシックをもっと身近に楽しんでもらおうという理念を持つ『ラ・フォル・ジュルネ』ならではのユニークな公演になるだろう。そして、日本の大学でクラシックを学び、アメリカに留学してからジャズを学んだ「ジャズとクラシックのハイブリッド」のような楽曲を持ち味とする挾間は『ラ・フォル・ジュルネ』にぴったりのアーティストともいえる。

今回は挾間美帆に『ラ・フォル・ジュルネ』のことだけでなく、「ジャズ作曲家とは何か?」という素朴な質問から、NYのビッグバンドジャズシーンの現在など話を聞いた。

クラシックとジャズはプロセスとしては全く変わらないんだなっていうことを痛感しました。

―挾間さんは「ジャズ作曲家」という肩書を名乗っていますが、これはどういうものなのでしょうか。

挾間:私は長い間、ジャンルを問わずいろんな作曲をやってきました。その中で、自分の音楽をどういう風にカテゴライズするか考えた時に、「自分の曲の中に即興する部分があること」と、「ドラムとベース、ピアノのリズムセクションを土台にしていること」の2点から、ジャンル的にはジャズが一番近いと感じて、「ジャズ作曲家」という言い方をしています。

私がジャズ作曲家を名乗ることで、他のジャンルの人がジャズに興味を持ってくれたり、私の作品に興味を持ってくれたりするので、そういう意味では、自分の立場を伝えやすい言葉かなって思いますね。

―そもそもジャズをやるようになったきっかけは?

挾間:小さい頃から音楽教室でピアノと作曲をやっていて、国立音大に進学して、クラシックの作曲を勉強していました。その大学の新入生歓迎音楽会でビッグバンドがジャズを演奏していて、そこに吸い込まれるように入っていったんです。そのままサークルに入部して、ジャズを演奏し始めました。

元々ジャズも聴いてはいたんですけど、演奏したことはなくて。そもそもアドリブって本当に譜面に書いてなくてアドリブなの? とか、そういう次元から始まって、今に至ります(笑)。

挾間が率いる13人編成のアンサンブル「m_unit」の公演風景(2015年 ブルーノート東京) Photo by Yuka Yamaji
挾間が率いる13人編成のアンサンブル「m_unit」の公演風景(2015年 ブルーノート東京) Photo by Yuka Yamaji

―クラシックからジャズに転向する際は、即興演奏が大きな違いですね。大変ではなかったですか?

挾間:ジャズにとって即興は重要で、そのためには特殊なトレーニングと努力が必要だと思うんですけど、作曲でも演奏でも基礎の部分はクラシックと全く変わらないですね。両方ともまずは楽器の音色が最重要なので。

作曲でも同じなんです。私は日本の大学でクラシックの先生に「この音には何の意味がありますか? この音はどうしてここにあるんですか?」とか厳しく言われながら作曲のレッスンを受けていたんです。アメリカの大学院のジャズ作曲科に留学して、そこでも「この音はどうしてここに書いたの?」って同じ質問をされて。

やっぱりプロセスとしては全く変わらないんだなっていうことを痛感しました。根本的な部分では変わらなくて、出力されるものの響きが違うイメージですね。ジャズもクラシックも基本的にはアコースティックミュージックなので近いと思っています。行ったり来たりしやすいジャンルではある。

個人でビッグバンドのライブをやるのは、本当に大変。それでもやろうっていうミュージシャンが増えているのはすごいこと。

―ジャズのビッグバンドっていうと“シング・シング・シング”とか“A列車で行こう”みたいなイメージがありますけど、挾間さんの曲はそれとはちょっと違うタイプのものですよね。

挾間:ビッグバンドジャズって、1920~30年代に全盛期を迎えるんですけど、その頃はダンスホールのための踊れる音楽だったんですね。今でいう中田ヤスタカさんじゃないけれど、作曲家は踊れる曲を作ってほしいってニーズに合わせて曲を作っていたんです。

でも、ある時期からビッグバンドはコンサート音楽になったんですね。つまり、踊るための音楽から鑑賞するための音楽に変わった。なので、曲の作り方や楽器の組み合わせなどに関して実験的なことも試せるようになったんです。例えば、ギル・エヴァンス(ジャズピアニスト・編曲者としてアメリカのジャズビッグバンド界に革命をもたらした一人)のような人がその代表ですね。

―それが形を変えながら今も続いていて、最新のシーンはどういう感じですか?

挾間:NYだと週に1回、月曜日にハウスビッグバンドが演奏しているライブハウスがいくつかあって、毎週月曜日に各所で演奏してしのぎを削るっていうのが伝統になっているんです。ただ、若い作曲家が書いた曲を演奏しているバンドはあまりない。だったら、自分のバンドを始めるしかないってことで、今、若い人が個人で自分のビッグバンドを立ち上げるケースが増えていますね。この4、5年特に増えていて、ちょっとしたムーブメントみたいになっています。

90年代から活動しているマリア・シュナイダー(自己のオーケストラを率いて活動する作編曲家)の後にしばらくそういう人がいなかった気がするんですけど、ダーシー・ジェームス・アーギューってカナダ人のコンポーザーが自分のバンドを始めてから、若手でも作品を発表できるってことを示したんです。他にもビッグバンドのギル・エヴァンス・プロジェクトを率いるライアン・トゥルースデルがいますし、私もその延長線上にいると思っています。

それ以降は、大学院出てすぐの若い作曲家が小さいライブハウスでもどんどんやっていくって流れができてます。個人でビッグバンドのライブをやるのは本当に大変だし、上手くできているかは私も自信がないですけど、それでもやろうっていうミュージシャンが増えているのは、すごいことだなと思いますね。

EDMとかテクノが好きなので、自分が作曲をすると自然っぽくならない。

―ロックとかヒップホップの人がインディーズでやるのと同じ感覚で、高度なビッグバンドをやっている若い作曲家が増えてるってことですよね。

挾間:ダーシー・ジェームス・アーギューがグラミー賞に何度もノミネートされたりして、きちんと評価をされていることが、若手にとって大きな勇気になっていると思いますね。私にとっても目指す指針になっていると思いますし。昔は鼻で笑われる感じだったのが、「だって、ダーシーがやったじゃん!」って言えるようになったのは、こっちにとっては大きいですよね。

―ダーシー・ジェームス・アーギューもエレクトロニックミュージックが好きだったり、現代的なセンスを持った作曲家ですけど、挾間さんもそうですよね。

挾間:私はPerfumeがすごく好きなんですけど、PerfumeってEDMっぽかったりしますよね。そこから直接影響を受けているわけではないですけど、自分が作曲をするとナチュラルな感じにならないんですよね。それはたぶんEDMとかテクノが好きなので、そういうところからきていると思うんです。自分でそういう音色は使わないし、世界観は作れないけど、アコースティックのミュージシャンを使っているときにもそういうところの影響は気付かないうちに出てしまっている気はしますね。

ずっと好きだったし、いつか自分も出たいと思っていた『ラ・フォル・ジュルネ』に売り込んだのが出演のきっかけなんです。

―今回、挾間さんが出演されるクラシックの音楽祭『ラ・フォル・ジュルネ』のことはよくご存じだそうですね。

挾間:中学生や高校生のおこづかいで行けるクラシックコンサートって限られている中で、大きいコンサートですごい有名な人が出ているのに安い金額で観られて、『ラ・フォル・ジュルネ』はすごいと思いながら行ってましたね。

『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017』ビジュアル
『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017』ビジュアル

―ちなみに今回の『ラ・フォル・ジュルネ』に出演されることになったのはどういう経緯ですか?

挾間:実は、私から『ラ・フォル・ジュルネ』に売り込んだのがきっかけなんです。ずっと好きだったし、いつか自分も出たいと思っていたんですよね。

自分一人で作曲家、アレンジャーとしてできることをいつも考えているんです。今年はNYのバレエのための作品を書くっていうことが決まっていたので、せっかくだし、その音楽を日本でもお披露目したいなって思った時に、来年の『ラ・フォル・ジュルネ』のテーマがダンスらしいと話を聞いたんです。それで、企画書を送って、話を聞いてもらったんですね。

『ラ・フォル・ジュルネ』みたいなクラシックのフェスティバルは、私の名前も知らないだろうし、作品も新作だし、全く期待してなかったんですよ(笑)。クラシックのフェスなので、演奏してもらうグループの第一希望に「シエナ・ウィンド・オーケストラ」って書いてたら、フェスティバルのアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンさんがシエナの大ファンで、企画を気に入ってくださったみたいです。

―自分で売り込んだっていうのは面白いですね。

挾間:作曲していない時期に、基本的に1、2年先のプロジェクトを考えなくてはならないんです。

―ちなみにシエナは吹奏楽ですけど、元々のバレエ用の音楽はジャズなので編成は違うんですよね。

挾間:バレエ用の音楽はビッグバンド編成ですね。でも作曲を始めた時点で、シエナ・ウィンド・オーケストラでもやるかもしれないって考えていたんです。ちなみに私は吹奏楽にドラムを入れるのは好きじゃないので、ドラムを入れなくても曲になるようなものを想定して書いていました。だから、やりやすかったです。

―その最初のバレエのための曲を書くことになった経緯はどんなことだったんでしょう?

挾間:NYシティーバレエのオーケストラの首席コントラバス奏者、ロン・ワッサーマンがすごくジャズが好きな人で、いつか自分のジャズのバンドを持って、自分の曲を演奏するのが夢だと言ってるような人なんです。彼と一緒に演奏する機会があった時に意気投合して、ビッグバンドやりたいならやろうよ、って話になって。

そこから、ロンがNYシティーバレエのプリンシパル(バレエ団の主役級を務めるトップダンサー)のアシュリー・バウダーにビッグバンドの話をしてくれたんです。彼女はその頃、結婚も出産も控えていて、大変なスケジュールなのは目に見えていたんですが、自分のバレエ団のプロジェクトでも定期的に公演をする意欲があるから、やりたいって言ってくれて。2015年から1年かけて準備をして、今年の3月にNYで公演をやりました。

NYでの『The DANCE』初演時の様子 Photo by Tokiwa Takehiko
NYでの『The DANCE』初演時の様子 Photo by Tokiwa Takehiko

自分だったらこういう曲に合わせて踊りたいなって思う曲を書いた。

―バレエのための曲の制作は、どういうプロセスで進めるのでしょうか?

挾間:まず、私が世界中のトラディショナルなダンスをリストアップして、どうしてそのダンスなのか、どういうダンスなのかを書いたものを彼女に送りました。その中からアシュリーが4つ選んで、このダンスはこういう曲の感じがいいとか、これは男の人が踊るからこういう感じの曲にしてほしいとか、全体の時間はこのくらいとか、そういうリクエストを書いて送り返してくれました。そのリクエストをそのまま反映させて、曲にしていきましたね。

―なるほど。

挾間:でも、私は元々のトラディショナルなダンスをそのまま真似するのは嫌だったので、その中の要素を抽出して、インスピレーションの一部として活用するだけにしました。例えば、1曲目の“Warrior 鼓舞”はアフリカのマサイ族の踊りなんです。本物の踊りはジャンプのコンテストなので、踊りっていうかジャンプしているだけみたいな感じなんです。

解りやすいメロディーもないし、太鼓だけだし、音楽的にもダンス的にもかなり限られた要素しかないんです。ジャンプが多くて、勇ましい感じのバレエにするから、曲もそれに合う勇ましくて緊張感がある感じがいいよねとか、そういう感じで進めていきました。

―他に印象に残っている曲はありますか?

挾間:2曲目の“Harvest 収穫”は朝鮮族の収穫祭の音楽を参考にしました。コード進行を分析してみたらすごく新鮮で、こんなコードの使いかたは今までに経験がなかったのですが、意外とジャズにぴったりだったんです。そのコード進行を活かしたりしながら、楽しみながら咀嚼して解釈しながら作曲してましたね。

―バレエのために曲を書くのが夢だったとTwitterで拝見しました。それはなぜだったんでしょう?

挾間:私は6歳くらいからずっとモダンバレエを習っていて、実は大学3年の途中まで続けていました。全然上手じゃないし、身体も堅いんですけどね。高校の頃には、私が電子オルガンで作った曲に合わせて、モダンバレエの先生に振り付けをしてもらって発表会をしたりもしていて。だから、自分だったらこういう曲に合わせて踊りたいなって思った曲を書いた部分もあります。

―今年の『ラ・フォル・ジュルネ』は「ラ・ダンス 舞曲の祭典」だから、挾間さんにぴったりのコンセプトだったんですね。

挾間:踊りにハマったからPerfumeを好きになったっていうのもあるし、今でも踊りを見るの大好きですね。だから、『ラ・フォル・ジュルネ』がこのコンセプトで開催されるのはうれしいし、出演できるのは超ラッキーです。

イベント情報
『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017「ラ・ダンス 舞曲の祭典」』

2017年5月4日(木・祝)~5月6日(土)
会場:東京都 有楽町 東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町エリア
出演:
ネルソン・ゲルナー
レミ・ジュニエ
小曽根真
フランス国立ロワール管弦楽団
オーベルニュ室内管弦楽団
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
シンフォニア・ヴァルソヴィア
新日本フィルハーモニー交響楽団
林英哲
シモーネ・ルビノ
挾間美帆
渋さ知らズオーケストラ
Tembembe
and more

『JAZZ AUDITORIA 2017 in WATERRAS(ジャズ・オーディトリア 2017 イン ワテラス)』

2017年4月28日(金)
会場:東京都 御茶ノ水 ワテラス広場 野外特設ステージ(御茶ノ水駅徒歩3分)
出演:
挾間美帆 plus十(10人の先鋭ジャズプレイヤーとの共演)
料金:無料

プロフィール
挾間美帆
挾間美帆 (はざま みほ)

1986年生まれ。国立音楽大学(クラシック作曲専攻)在学中より作編曲活動を行ない、これまでに山下洋輔、モルゴーア・クァルテット、東京フィルハーモニー交響楽団、シエナ・ウインド・オーケストラ、ヤマハ吹奏楽団、NHKドラマ「ランチのアッコちゃん」、大西順子、須川展也などに作曲作品を提供。また、坂本龍一、鷺巣詩郎、グラミー賞受賞音楽家であるヴィンス・メンドーサ、メトロポールオーケストラ、NHK「歌謡チャリティコンサート」など多岐にわたり編曲作品を提供する。そして、テレビ朝日系「題名のない音楽会」出演や、ニューヨーク・ジャズハーモニックのアシスタント・アーティスティック・ディレクター就任など、国内外を問わず幅広く活動している。



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