
一度は盆栽界を追放された巨匠・小林國雄が村田倫子に人生を説く
HereNow- インタビュー・テキスト
- 星文香
- 撮影:永峰拓也 編集:柏井万作
「盆栽職人だからって盆栽のことだけをやっていてはダメ」(小林)
小林:盆栽というのは時間が経てば経つほど味が出てくる。それが大事なこと。そこに盆栽の持つわびさびが出てくるからね。これは、私の代表作の『雲龍』、1億円の盆栽。
村田:1億円! どうしてそんなに高値になったんですか?
小林:まずは樹齢600年という松自体の歴史の深さ、そして個性、調和、品格。あとは、私の欲かな(笑)。
村田:先生は、盆栽を誰かに教わったんですか?
小林:いや、独学だよ。だから、恥ずかしい話だけど今までに1億円以上盆栽を枯らしてしまっている。
村田:独学で学んで、内閣総理大臣賞まで受賞するのは本当にすごいですね。いろんな盆栽の職人さんがいると思うんですけど、先生の美意識って他の人とどう違うのでしょう?
小林:普通の職人は盆栽の先生に教えを受けるけど、私の師匠は日本画の先生だったんです。日本画というのは、線と空間でどう魅せるかという世界なんですよ。私が中国なんかで評価されているのは、線の動きを大事にしているというところ。それは、最初に日本画を学んだことが大きいような気がするね。
やはり、盆栽職人だからって、盆栽のことだけをやっていてはダメだよね。絵や彫刻、写真など、いいものを見たり、自分でも挑戦すること。作品というものは人が作るものだから。その人が感性を磨かずして、どうして良い作品が生み出せますか。
村田:他の芸術に触れることで、それが盆栽へも影響するものなんですね。私も、いつか自分のファッションブランドを持ちたいと思っているので、すごく勉強になります。先生は、ひとつの道を極めるために大切なことってどういうことだと思いますか?
小林:まずは、当たり前だけど一生懸命やることだよね。私はこの道に入って40年間毎日15時間働いているよ。朝4時半に起きて、コーヒーを飲んで5時にはもう表に出る。一つひとつの盆栽を見ながら、この子の一番いいところはどこだろう、この枝をこっちに持っていったらもっと個性を引き出せるんじゃないかって対話するんだ。夢も盆栽の夢しか見ないよ。でも、15時間眺めていてもストレスひとつ溜まらない。盆栽は私の趣味であり仕事であり、生きがいなんだ。
「人間も盆栽も温室育ちはダメだね、試練がないと」(小林)
村田:盆栽をやっている方って高齢なイメージがあるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?
小林:そうだね。盆栽愛好家による団体・日本盆栽協会の平均年齢は80歳。これじゃー先が見えるでしょ。盆栽というのは1つ作るのに30年はかかる。だから、早いうちからやらないといい盆栽にならないじゃない? そういう意味でも、若い人たちにやってもらうというのは大切なことなんだよね。
村田:若い子は今、育てることや表現することが好きな人が増えてきているんです。だから、盆栽の魅力を知ったらハマるひとも多いんじゃないかと思います!
小林:倫子ちゃんは植物を育てるのは得意なの?
村田:私は、実は苦手で……。すぐに枯らしてしまうんですよね。愛情が足りないんでしょうか。
小林:いや、それはお金を出さないからだね~!(笑) 高額で買ったものは、もったいないから枯らさないじゃない。
村田:一理ある気がします(笑)。盆栽を始めるとしたら、何から始めるのがおすすめですか?
小林:皐月あたりがいいんじゃないかな。花が綺麗だし、丈夫で切っても切ってもまた新しい芽が出てくるから、失敗しても大丈夫。植物の育て方に悩んだら、その植物の自生地を調べてその場所に近い状態にしてあげることだね。その植物がもともともと育った環境に近い状態で、太陽の光、水、温度を調整するとよく育つ。ぜひ、一度やってみて。
村田:はい、やってみます。先生は、この美術館を15年ほど前に作ったんですよね。どうして、職人として生きていくだけじゃなくて、盆栽ミュージアムを作ろうと思ったんですか?
小林:盆栽協会から除名処分を受けて、追放されちゃったんだよ。私が内閣総理大臣賞や、有名な賞を総ナメにするから妬みや嫉みで(笑)。
除名処分を受けた時は、電車に飛び込んで自殺をしようかとも考えた。でも、そのとき妻が言ったんだよね、「あなたをいじめた人たちに仕返しをしなさい。死ぬのはそれからでも遅くないんじゃない?」と。
村田:それで、この美術館を。
小林:そう。仕返しってなんだろうと一生懸命考えた。いじめたやつらには絶対にできないことをやってやろうと思って、10億円をかけてこの美術館を作った。そして、業界のトップにまで登り詰めたの。だから、妻には絶えず感謝していますね。今までに何冊も本を作ってきたけど、必ず巻末には妻の名前を入れている。
盆栽は、水がなかったり、雷が落ちたり、大きな試練にあってこそ幅が出る。人間も、盆栽も温室育ちはダメだね、試練がないと。
取材を終えて村田倫子が想うこと
最近、密かに気になって注目していた盆栽。
はじめて間近に向き合う姿は凛々しく、迫る波のような力強さと、繊細な美のバランスに、気づくと穴が空くほど見つめていました。
生と死が共存、枝が奏でる線の美しさ…。何より手をかけた人柄が滲みでる粋な姿に、取材を終えるころはすっかり盆栽の虜に。そして盆栽会の巨匠の小林さんがとてもチャーミングで、(肩書きが凄すぎて固く厳しい方かと思っていたので笑)素敵なギャップに、すっかりファンになってしまいました。
荘厳な盆栽を見に、人生の先輩である小林さんの熱い話を聞きに、また訪れたいです。
サイト情報
- HereNow
-
アジアを中心としたクリエイティブシティガイド。現在東京、京都、福岡、沖縄、台北、バンコク、シンガポール、ソウルの8都市で展開しています。
リリース情報
- HereNowアプリ
-
HereNowアプリリリースを記念してキャンペーンをスタート。2017年8月21日(月)までにHereNowのアプリをダウンロードし、キャンペーンページよりご応募いただいた方に抽選でプレゼントが当たります!
商品概要:
A. 東京・台北 発着往復航空券(計2組4名分)
B. 東京・京都・沖縄・台北ホテル宿泊券(計8組16名分)
美術館情報
- 春花園BONSAI美術館
-
住所:東京都江戸川区新堀1-29-16
営業時間:10:00~17:00
定休日:月曜(祝日は開館)
料金:一般800円(お茶付き) 学生600円
電話番号:03-3670-8622
最寄り駅:篠崎駅、瑞江駅
プロフィール
- 村田倫子(むらた りんこ)
-
1992年10月23日生まれ、千葉県出身のモデル。ファッション雑誌をはじめ、テレビ・ラジオ・広告・大型ファッションイベントへの出演など幅広く活動している。自身初のスタイルブック「りんこーで」は発売から1週間で緊急増刷となり、各種SNSのフォロワーも急上昇中。趣味であるカレー屋巡りのWEB連載企画「カレーときどき村田倫子」では自らコラムの執筆も行ない、ファッションだけにとどまらず、カルチャー・ライフスタイル分野でも注目を集めている。
- 小林國雄(こばやし くにお)
-
春花園BONSAI美術館館長。社団法人水石協会理事長。美しさとその内に秘められた自然の厳しさを表現する自然の素晴らしさを少しでも多くの人に味わってもらうため、盆栽美術館を開館。日本盆栽作風展・内閣総理大臣賞、国風盆栽展・国風賞をはじめ、皐樹展、日本盆栽大観展、盆栽逸品展等にて各賞受賞。海外講演数は70を超え、盆栽文化普及のため国内外の弟子育成に尽力。春花園の卒業生は20カ国70名以上である。主著に「盆栽芸術-天-」「盆栽芸術-地-」「BONSAI」等。