YOOKsインタビュー シティポップブームの次を継ぐ新世代の台頭

京都を拠点に活動するポップバンド、YOOKs。年齢は22~23歳。現在大学院に通っているという彼らは、「ニュータウンポップ」という、一風変わったキャッチフレーズを掲げている。

そもそも「ニュータウン」とは主に、郊外に開発整備された住宅地のことを指す。そして今この言葉は、「ニュー」という響きの持つ新鮮さとは裏腹に、どこかレトロで寂しげな響きを持っていることも事実だ。

ではなぜ、京都という日本の音楽シーンにおいても特殊な磁場を持ち続けている場所から現れたこの若きバンドは、自らを「ニュータウンポップ」と名乗るのだろうか? 今回インタビューをしてわかったのは、今、彼らにとって「ニュータウン」とは、その意味を再定義すべき言葉であるということ。そして、そこには今を生きる若者たちだからこそ持ち得る、音楽と人との新しい生き方を模索する理想主義があるということだった。

cero、Suchmos、Yogee New Waves――俗に「シティポップ」と呼ばれるアーティストたちが次々とネクストとステージへ駆け上がっていくなか、その下の世代となるYOOKsが鳴らす音楽は、過去と未来への狭間のモラトリアムをさまよいながらも懸命に、確かな新しい景色を追い求めているようだ。8月20日に日比谷野外音楽堂で開催されるCINRA主催イベント『exPoP!!!!! Vol.100』への出演も決まっているYOOKs。正規メンバーとなる清水、松井、福家の三人に話を聞いた。

「ここで描かれている世界に自分はいない」って、シティポップを聴いていると思うんです。(清水)

―YOOKsが掲げている「ニュータウンポップ」という言葉は、どのようにして生まれたんですか?

清水(Ba):根源の話をすると、「シティポップ」のイメージが、悪い言い方をするとイキった感じに思うときがあって。僕らはもっと身近にあるような、どんな時間にも聴ける、「生活が見える」音楽をやりたい。だからこそ、「シティ」とはまた違う言葉を探したというのが、1つ目の理由です。

左から:福家佑輔、清水佑、松井規広
左から:福家佑輔、清水佑、松井規広

清水:2つ目は、僕らは京都で活動しているんですけど、東京のような都会に対しての「郊外」から出てきた音楽だっていう部分を押したかった、ということ。

3つ目は、tofubeatsさんがTwitterに、「ニュータウンポップとは、友達がいない、物悲しい音楽」みたいなことを書いてたんですけど、それを見たときに「それ、俺らのことだ」って思ったこと(笑)。そういったところから、「ニュータウンポップ」という言葉をつけました。

―確かに、tofubeatsさんは神戸のニュータウンで生まれ育ち、「dj newtown」という名義でも活動していたりして、「ニュータウン」という言葉と密接な繋がりがありますよね。

松井(Dr):あと、相対性理論からイメージしている部分もあるよね?

清水:そうそう、“たまたまニュータウン”ね。あの曲が入っている、相対性理論の『TOWN AGE』っていうアルバムのアナログ盤が、ギリシャ文字の「ν(ニュー)」を使って、『ν TOWN AGE』って言うんですよ。

―それって、YOOKsが今年出した自主制作盤のタイトル『Newtownage』と見事に繋がりますね。

清水:僕ら、『ν TOWN AGE』のことをあとから知ったので、ちょっと冷や汗かきましたけど(笑)、「いやでも、相対性理論と対バンすることなんてないだろう」と思っていたら……。

―まさかの『exPoP!!!!! Vol.100』で対バンという(笑)。

清水:ご本人に会えたら伝えようと思います(笑)。

2017年8月20日開催、入場無料イベント『exPoP!!!!! Vol.100』
2017年8月20日開催、入場無料イベント『exPoP!!!!! Vol.100』(詳細を見る

―改めて、「シティポップ」と呼ばれる音楽に対する距離感について、もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?

松井:距離感というよりは、影響も受けているし、いいところは取り入れつつ、でも、まったく同じものではないなっていう感覚ですね。

清水:そもそも、音楽的な源泉も違うと思うんですよ。僕らはオルタナティブロックもフォークロックも好きだし、インディーポップも好きだし、エレクトロニカも好きだし、いろんな音楽から影響を受けている。

松井:僕らは、1980年代、90年代のリバイバルではないもんね。

清水:そうそう。それに、ミュージックビデオを見てると、あんまり生活と繋がるものがないんですよね。「ここで描かれている世界に自分はいない」って、シティポップを聴いていると思うんです。だからこそ、自分たちは生活と密着できる音楽を作りたいっていうのがあって。

―確かにシティポップには、「理想の街の姿を描こうとする音楽」というニュアンスもあるかと思います。

清水:自分たちにとって、音楽は「生活の基盤」なんです。それにシーン的にも、東京を中心として出てきたシティポップ系のアーティストたちって、最近はメジャーレベルになってきている人たちが多いですよね。今の東京のインディーズ界隈ではむしろ、ライブが映えるオルタナ系のバンドがキテる。その点、自分たちを含めて地方では今、シティポップの流れを汲んだ音楽が生まれてきているんじゃないかと思うんですよ。

京都はいろんなものが雑多に混ざっているから、空気感も下北沢と近い。(福家)

―「シティポップ」と呼ばれた東京勢の影響が地方に散布していることを、実際に京都で活動する当事者として、今、感じていると。

清水:そう。だから「ニュータウンポップ」っていうのは、自分たちだけの呼称ではないと思っています。京都でなくても、福岡でもどこでも、今、若い世代がそれぞれの土地で地に足を付けてやっている音楽という感じですね。

左から:松井規広、福家佑輔、清水佑

―確かに「シティポップ」と括られたアーティストたちの活動規模は段々と大きくなっているし、もっと言うと、一時期「東京インディー」と呼ばれていたシーンに関しては、今はもうほとんど語られることはなくなっている。そうやって、東京のインディーシーンに変化が訪れているのは僕も実感していて。

実際のところ、今度の『exPoP!!!!!』で共演するシャムキャッツやYogee New Waves(以下、Yogee)も、「東京インディー」とか「シティポップ」と呼ばれたシーンの中心にいた存在だと思うのですが、彼らのことは、京都で暮らすみなさんからはどのように見えていたんですか?

清水:京都って、音楽シーン的には、下北沢をギュッとした感じなんですよ。下北の空気と京都の空気って、似ているんですよね。だから、都会か田舎かっていう違いはあるけど、今おっしゃった東京のバンドたち対して、音楽性に関しては親和性を感じています。

東京のインディー勢も、京都でやっている『ボロフェスタ』に毎年出ていたりしますからね。距離的には大阪のほうが近いけど、大阪ってギターロックが強いから、ちょっと居心地が悪いと思うところもあったりして。だから、東京のほうが居心地はよかったり(笑)。

福家(Vo,Gt):京都はいろんなものが雑多に混ざっているから、空気感も下北沢と近いのかもしれないよね。

福家佑輔
福家佑輔

清水:学生プラスαみたいな人も多いしね(笑)。カルチャー面が発達しているから、フワフワした人が多い(笑)。

全員の根底にあるけど、どこでもない場所……それが、僕らが「ニュータウン」という言葉で提示したいもの。(清水)

―そもそも「ニュータウン」という言葉は、都市の人口が過密化したことに対して整備された、郊外の居住地域を指す言葉なわけで。今「ニュータウン」というと、どこか寂れてしまった街イメージというのも少なからずあると思うんです。そうした既存の「ニュータウン」という言葉が持つイメージに対して、みなさんはどう捉えているんですか?

清水:「ニュータウン」といっても、根本的に僕らが思い描くのは、多摩ニュータウンみたいな意味でのニュータウンではなくて、全員のなかの根底にあるけど、どこでもない場所……そういうものが、僕らが「ニュータウン」という言葉で提示したいものなんです。だから、「新都市」的なものではないよね。

福家:うん。もうちょっと「心のふるさと」的な。

清水:そう。たとえば『Newtownage』のジャケット写真って、別に京都の写真ではないんですよ。そこが重要なわけではない。そもそも、僕らは三人とも京都出身ではないんですよね。福家は香川、松井は滋賀、僕は神戸って、それぞれ出身地が違う。

でも三人が京都の大学で偶然出会って、バンドをやっている。そんな僕らにも懐かしさを感じられる場所というか。そういうのを求めている感じなんです。実家とも違う、それぞれのなかに古くからあるけど寂れているわけでもない場所というか……この感覚って、言葉にするのが難しいんですけど。

松井:そうだよね……「自分が生活していた場所」、みたいな感じなんじゃない?

清水:うん、そうかもしれない。

YOOKs『Newtownage』ジャケット
YOOKs『Newtownage』ジャケット

―僕もみなさんと同じように大学進学で実家を出ているし、そもそも父親が転勤族だったので、子供の頃にも転校を経験していて。だから思うんですけど、引っ越しや一人暮らしを経験したことがある人とない人とでは、生きる上の価値観って結構違うんですよね。移動しながら生きる人にとっては、「与えられた場所」ではなく「自分で選んだ場所」の存在が、とても重要だったりする。YOOKsにとっての「ニュータウン」って、もしかしたら、そういうことなのかなって思いました。

清水:それはあるかもしれないです。今は三人とも一人暮らしをしているし。僕らは「京都発」って大々的に言っていますけど、本来、京都出身の人は「京都発」とは言わないじゃないですか。僕らが「京都発」と言うのは、京都が「今、自分で生活している」っていうのを一番感じる場所だからかもしれないです。

清水佑
清水佑

―先ほどの相対性理論やtofubeatsさんの話もそうなんですけど、やはり「ニュータウン」という言葉は、この数年間の日本のポップミュージックを語るうえで、大きなキーワードだと思うんですよ。特にtofubeatsさんや神聖かまってちゃんのの子さんは、自分たちが郊外のニュータウンで暮らしていることにすごく意識的で、ニュータウンで暮らしながら、インターネットを駆使することで世界と繋がっていった。そして今、YOOKsは「ニュータウンポップ」を掲げながら、自分たちの生活と密着した音楽を鳴らそうとしている。ここには確実に、世代間の意識の変化があるなと思っていて。

清水:なるほど……。たとえば、tofubeatsさんはBOOKOFFでCDをいっぱい買ってたというじゃないですか。でも、僕らはApple MusicやSpotifyの世代になってきているっていう違いはありますよね。

―フィジカルで買った音楽を自分なりに昇華して、ネットを通して発信するというよりは、そもそもネット上に溢れている音楽を聴いている。

清水:僕らは、音楽は人間を健やかにするものだと思っているんです。人が音楽に振り回されるのは、本意ではないなと思っていて。音楽は、朝から晩までずっとかけていても、寝る前でも起きてすぐでも、苦じゃないものであってほしいんですよね。

別に、ライブに行くためにディッキーズ履かんでもいい。それぞれの楽しみ方でいいと思う。(清水)

―逆に言うと、「人が音楽に振り回されてる」と感じる場面があるということですか?

清水:最近の音楽って、ライブハウスのなかで鳴らすための音楽も多いと思うんですよ。ギターロックとかハードコアとか、それぞれの音楽はめっちゃ好きなんですけど、でも、それを24時間聴き続けることは難しいし、そもそも、ライブハウスでしか聴けない音楽が多い。僕らは、ライブハウスのなかだけで完結する音楽はやりたくないなって思います。

松井:音楽を聴くシチュエーションって、家とか、移動するときにイヤホンを付けて聴くとか、場所を問わず色々あると思うんです。どの場所でも、どの時間でも合うような音楽っていうのが、一番いいよね。

松井規広
松井規広

清水:うん。場所を特定しない音楽っていうのは考えるよね。音楽は持ち歩けるわけだし。音楽の垣根はもっと低くていいと思う。京都には、垣根が低いハコが結構あって、ただ飲みに行く感覚と近いんですよ。Live House nanoは特にそう。

―でも確かに、音楽だけじゃなくても、カルチャー全般を通して、日本は垣根が高いのかもしれないですよね。

清水:ハードルが高いっていうのは思いますね。ライブに行くことを「参戦」って言うし。別に、ライブに行くためにディッキーズ履かんでもいいだろうって(笑)。この間、Twitterで「パンプス履いてライブハウスに行っちゃいかん」っていうのを見たけど、なんでもいいだろうって思うし。

それぞれがそれぞれの楽しみ方でいいと思う。手拍子なんてしなくていいし、立っているだけでも本人が熱くなっていたらそれでいい。なんか、作法とか儀礼みたいなのができてるのは、嫌だなぁって思います。

―今の話に繋がるかもしれないですけど、YOOKsの音楽には「間」がありますよね。曲の構成のなかで、一つひとつのフレーズをとても丁寧に聴かせる時間がちゃんと用意されているのがわかる。

清水:僕らの曲の作り方は、ヒップホップと一緒で。まずトラックを作って、そこにベードラを乗せて、最後に歌。なので、オケができても歌が乗らないっていうこともあるんですけど、弾き語りから作ったら、自分たちのできるビートでしか曲を作らなくなる可能性が高いんです。それが嫌なんですよね。

自分たちのできることだけやっていても、同じようなものしか生まれない。それなら、ちゃんとトラックから固めていったほうが、今までの自分になかったものを得ることができるかもしれないなって。

左から:清水佑、福家佑輔、松井規広

日比谷の野音ってすごいですよね。都心部にいきなり森がある。(清水)

―ちなみに、YOOKsというバンド名はどうやってつけたんですか?

清水:前は「雨の降る街」っていうバンド名でインストのポストロックをやっていたんです。でも、“Sunday Tripper”という曲が偶然生まれて、それに導かれるようにポップな路線に方向性も変わっていって。

「とりあえずバンド名を変えよう」という話になったときに、Tahiti 80だったり、Bombay Bicycle Clubだったり、やっぱり、地名があるバンド名はかっこいいなって思ったんです。そこから、ウィキペディアで地名を調べまくって(笑)、ヨークシャー地方の「ヨーク」を持ってきました。正しい綴りは「YORK」なんですけど、それだとなんとなく綴りが悪いから、「YOOK」にして。

―ヨークシャーという場所には、なにか意味があるんですか?

清水:特に意味はないです(笑)。

―そっか(笑)。

松井:むしろ、「場所を限定しない」っていう意志に繋がっているのかもしれない。

左から:松井規広、福家佑輔、清水佑

―なるほど。今日、話を聞かせてもらって、「ニュータウンポップ」の意味も含めて、みなさんの「場所」に対する考え方が非常に刺激的でした。理想郷を求めているわけでもなく、あくまでも地に足の付いた形で、自分たちが確かな健やかさを持って生きることができる場所を探している。そして、そこに「ニュータウン」と名付けている。

この感覚は、もしかしたら、CINRAが『NEWTOWN』という名前のイベントを開催することにも通じているのかなって思います。最後に、日比谷野音で開催される『exPoP!!!!! Vol.100』に向けての意気込みを聞かせてもらえれば。

清水:いつも80キャパでやっていた僕たちが、急に3000キャパっていうのは、ちょっとビックリなんですけど……(笑)。それに、フジファブリックとかandymoriとか、自分たちにとって印象的な野音のライブもあるし。

でも、日比谷の野音ってすごいですよね。都心部にいきなり森があるっていう。普通のフェスって避暑地でやっていたりもすると思うんですけど、都市のなかで鳴っている音楽っていうのはヤバいと思う。とりあえず、当日は写真に撮ってインスタにアップします!(笑)

―ははははは(笑)。

松井:田舎者だなぁ(笑)。でも、こういうところが「ニュータウンポップ」なんじゃない?

清水:いや、これは単純に「お上りさん」(笑)。

イベント情報
『exPoP!!!!! vol.100』

2017年8月20日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂
出演:
相対性理論
クリス・コーエン
シャムキャッツ
Yogee New Waves
YOOKs
料金:無料(2ドリンク別)

リリース情報
YOOKs
『Newtownage』(CD)

価格:1,000円(税込)
ライブ会場、タワーレコード渋谷店、HMV新宿ALTA店、HMVコピス吉祥寺店、HOLIDAY! RECORDS FLAKE RECORDSにて販売

1. sunday tripper
2. above the horizon
3. hanashi
4. leaving summer
5. ride

YOOKs
『iiwake』(CD)

価格:500円(税込)
ライブ会場にて発売

1. 言い訳
2. hanashi(koizu remix)

プロフィール
YOOKs
YOOKs (よーくす)

京都発ニュータウンポップ。メンバーは、福家佑輔(Vo,Gt)、清水佑(Ba)、松井規広(Dr)。2015年3月大学の同級生により前身バンド「雨の降る街」を結成。フォークロックやインディーポップ、ポストロックやシティポップ等様々な音楽から影響を受けた「ニュータウンポップ」を掲げ、京都を中心に活動中。



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