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彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

彫刻家・中谷ミチコがドイツで得た、自分の帰る場所を作る覚悟

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影・編集:久野剛士

自分がいたいと思える場所は、自分で作るしかない。

—そして、現在は三重に居を移した。

中谷:そうですね。

—中谷さんにとってのHeimat(居場所)は日本でしょうか? それともドイツ?

中谷:どちらも、です。あちらに行けばこちらが恋しくなるし、その逆もありますから。本当のことを言えば、私のHeimatはあってないようなものかもしれない。だから、自分が帰りたいと思える場所は、自分で作るしかない。

中谷ミチコ

—それって展覧会にも当てはまりますか?

中谷:もちろん、『DOMANI・明日展』に誘っていただけるのは嬉しいです。グループ展に参加した作家同士って、同じ時間を戦った同志のような関係になることもあるし、エネルギーに溢れたアーティストと時間や空間を共有するのは、私にとってはとても重要な時間。いまみたいな場所に住んでいると特に。ただ、それと同じくらいに、「自分の意思で作品を見せる大切な空間を一からを作れたら、それがどんなに遠い場所でも見に来る人は絶対にいる」という確信があります。

私立大室美術館では、毎年敬老の日限定で、自分の作品を展示するプロジェクトを始めています。この地域は高齢化が進んでいますが、私はここに移り住んで来て、まずはここに住んでいるじいちゃんやばあちゃんに、私が何をしているのかをきちんと伝えたいと思ったのが始まりです。2回目の今回はもはや、じいちゃんばあちゃんに作品を洗ってもらっているような感覚です。このプロジェクトは、ライフワークとして自分が死ぬまでずっと続けるつもりでいます。何十年でも、ずっと。だから『When I get old』とタイトルをつけています。

今年で20回目を迎える『DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』ポスタービジュアル。1月13日から開催。
今年で20回目を迎える『DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』ポスタービジュアル。1月13日から開催。(詳細はこちら

—作家としての覚悟が固まったということですね。

中谷:ドイツ東部では、作品はもちろん、家も展示場所も自分で作るアーティストが多いです。ベルリンなどと比べると、海外との窓口を持つビッグギャラリーは少ないけれど、そういう環境でもアーティストとして生活する術が成り立っている。全然名前が知られていなくても「俺は画家だから一日中絵を描くんだ」って言ってる60歳、70歳の人が、誇りを持って、パワーを失わずに生きている姿を見ました。それがいいと思うのです。それが文化を育む土壌だと思います。

……いや、私はぜんぜんダメなのですが……(苦笑)。でも、最後まで続けて、死ぬときに、それまで作ってきた作品が溢れかえって墓のような場所になっていたらいいし、それが自分のやりたいことだというのがいまは明確になりました。

「みんな(ここのよさを)知らないでしょ!?」と自信たっぷりに伝えたい。

—取材場所に「美術館」を指定されたので、てっきり中谷さんの強力なコレクターが住んでいる土地なのかなと思って今日は来たんですよ。でも、実際は中谷さんと家族が自力で作った場所で、取材中も近所の長老的なおじいちゃんや知り合いの人がたくさん訪ねてくる、とても穏やかで親密な場所に育っている。そのあり方に、すごく共感しました。

中谷:ありがとうございます。2017年2月に「さいたま市プラザノース」というスペースで個展をさせていただいたのですが、10年分の作品を展示しました。そのときに心がけたのは、一個一個の作品を見せることと同時に、それが視覚的に重なって関係が立ち現れてくるような空間作りです。格子状の仮設壁を設計してもらい、舞台美術のような空間を作りました。

1月の『DOMANI・明日展』でも、その延長線上にある見せ方をしたいと思っています。作品自体はそれぞれに完結していますが、1つや2つでは足りなくて、それらの連続性を意識させたい。それが、ドローイングや彫刻をずっとやって来た自分の生き方でもありますから。

2017年2月の「さいたま市プラザノース」での中谷ミチコ個展風景(撮影:Hayato Wakabayashi)
2017年2月の「さいたま市プラザノース」での中谷ミチコ個展風景(撮影:Hayato Wakabayashi)

2017年敬老会特別企画 中谷ミチコ『When I get old』の展示風景
2017年敬老会特別企画 中谷ミチコ『When I get old』の展示風景

—この場所での展覧会も、敬老の日という区切りでずっと続いていくわけですよね。作品は既に作られたもの、過去のものとしてしか接することができないですけど、この場所であれば、何十年も先の未来にも作品が続いていくことを想像できる気がします。

中谷:そこの角の家に、みね子さんという大好きなおばあちゃんが住んでいます。とにかく庭がきれいで。庭は放っておくとすぐに緑が生い茂って荒れてしまう。でも、みね子さんの庭は、常に手入れが行き届いていて美しいです。

一人暮らしで、腰も曲がったおばあちゃんが、毎日庭仕事を欠かさずに続けている。その姿が本当に美しいと思います。みね子おばあちゃんは「そんな大したものじゃないよ!」と言うと思いますが、実は敬老の日に展覧会を始めたのは、みね子おばあちゃんの庭に太刀打ちできるくらいの作品を作っていきたいと思ったのがきっかけだったりします(笑)。

中谷ミチコが拠点とする、三重県津市白山町の風景
中谷ミチコが拠点とする、三重県津市白山町の風景

中谷:この町で子育てしながら暮らしていると、都市で交わされているような美術の言葉から遠ざかってると感じて、とても焦ることもあります。でも、東京もドレスデンも作り続けるための場所と考えられなかったのは事実。考えてみれば、世界の大半の場所が故郷でないのは当たり前なのですが……。 自分が作るためにこの場所を選んで、日々を過ごす中で、「みんな(ここのよさを)知らないでしょ!?」と他の人に伝えることができるようになったのは、大きな喜びだと思います。

中谷ミチコ

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リリース情報

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』

2018年1月13日(土)~3月4日(日)
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
料金:1,000円

『未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』アーティスト・トーク『具象彫刻/在り方の可能性―現れる私』

2018年1月17日(土)
会場:国立新美術館企画展示室2E入口特設会場
出演:
中谷ミチコ
棚田康司
料金:無料

『日比谷図書文化館特別展 DOMANI・明日展 PLUS × 日比谷図書文化館 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果 Artists meet Books 本という樹、図書館という森』

2017年12月14日(木)~2018年2月18日(日)
会場:東京都 千代田区立日比谷図書文化館1F 特別展示室
料金:300円

プロフィール

中谷ミチコ(なかたに みちこ)

1981年東京都生まれ。ドレスデン造形芸術大学 Meisterschülerstudium修了。近年の主な個展に『私は1日歌をうたう』(さいたま市プラザノース、埼玉県、2017)『暗い場所から、明るい場所まで』(Maki Fine Arts、東京、2015年)、『souzou no kage』(森岡書店、多摩美術大学彫刻棟ギャラリー、ともに東京、2014年)、『Souzou no Yoroi』(Galerie Rothamel、フランクフルト、2014年)、『Schatten der Vorstellung』(Galerie Grafikladen、ドレスデン、2014年)など。

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