三浦崇宏×古賀崇洋 広告クリエイターはアートをどう変化させる?

アートと広告ビジネスは、今こそ新しい関係性を結ぶことができるのではないか? そんな可能性を感じさせるイベント『呑むアート展』が、1月13日と14日、六本木ヒルズ森タワーのCafe THE SUNで開催され、会場は大いに賑わいを見せた。その開催規模に比して、2日間で600人が来場し、ビジネスの面でも大きな成果が出たという。

出品作家の古賀崇洋は、装着可能なマスク型の器やトゲの生えた器など、焼き物に新風を吹き込む作品で世界でも評価を受ける陶芸作家。現代ではスマホ画面上で写真を見るだけで作品を「わかった気」になれる。そうした風潮に疑問を呈するように、展示会場では古賀の器を実際に使い、酒を飲むことができた。身体感覚を通してアートを体験する試みだ。

今回、この展示のプロデュースを手がけたのは、広告ビジネスのアップデートを目指す「The Breakthrough Company GO」。同社の代表でPR / クリエイティブディレクターの三浦崇宏は、「現代は、アーティストがやらなければならないことが多くなり過ぎている」と語る。古賀と三浦が、今回のイベントを仕掛けた狙いとは? そして三浦が言う、問題解決ビジネスである広告のクリエイティブと、問題発見のアートの間に築かれる新たな関係とは? 会場で話を訊いた。

アーティストがやらないといけないことが多過ぎて、一人で抱えるのは限界だと感じるんです。(三浦)

—博報堂出身の三浦さんは、2017年1月に新会社「GO」を設立されました。まずはこの会社を立ち上げた背景にある問題意識を聞かせてください。

三浦:僕の仕事は、クリエイティブディレクターといいますが、簡単にいうと広告の責任者です。従来の広告ビジネスの枠組みだと宣伝予算って、だいたい事業予算の2割程度なんですね。つまり広告クリエイターは企業活動の約2割の専門家でしかない。そこに悔しさを感じていました。

クライアントの事業の価値を、生活者にとって魅力的なものに翻訳して、社会に届ける広告クリエイターの能力って、もっと広く役立てられるはず。そんな仮説をもとに、クライアントのビジネスや、社会との関わり方をクリエイティブディレクションするという思想で仲間と立ち上げたのが、GOという会社です。

GO代表・三浦崇宏
GO代表・三浦崇宏

—広告クリエイターのスキルを、より上流部分まで拡張して活かそうと。

三浦:最近では、NTTドコモさんが新事業「dカーシェア」を始めるにあたり、携帯キャリアがカーシェア事業を手掛ける意義から一緒に考えて、事業のプロデュースを担当させていただきました。

 

dカーシェア
dカーシェア(サイトで見る)

社会におけるその事業の意味を定義し、アクションや表現に変えていく。そうしたスキルは現代アートの世界、作家さんのプロデュースにも活かせるのではないか。そんな思いから、古賀さんと今回の展示を始めたんです。

『呑むアート展』メインビジュアル
『呑むアート展』メインビジュアル

『呑むアート展』で展示された作品一覧
『呑むアート展』で展示された作品一覧

古賀:僕にとっても、ありがたいお話でした。僕はやはり、もの作りに集中したいし、作家として社会に問題提起をしたいという思いが強くて。とはいえ制作に特化すると、外の社会が見えにくくなる。そうした制作と情報発信の両立に、難しさを感じていました。

古賀崇洋
古賀崇洋

—活動のなかで、ジレンマを感じていたわけですね。

古賀:いま、これだけ情報が溢れているなかで、実際に作品を手に取らなくても、スマホやパソコンの画面上で見て満足する鑑賞のあり方が広がっていると思うんです。でも、実体験で本物に触れてほしいというのは一番の問題意識としてあって。

それをきちんと伝えるためにも、制作以外の部分はプロのチームにお願いしたことで、もの作りだけに集中することができました。

三浦:いまはSNSとスマホの普及で、いろんな表現や話題化の手法が多様になったぶん、アーティストやクリエイターがやらないといけないことが多過ぎて、一人で抱えるのは限界だと感じるんです。

たとえば村上隆さんは、作品を世の中に見せて、広げていくためにカイカイキキという組織を持っている。そして、発信の仕方からメディアでの取り上げられ方までさまざまに設計して、現象としてのアートを生み出していますよね。今回の企画も僕らGOのメンバーをはじめとして、プロデューサーや、アートディレクター、空間デザイナー、そして何より森ビルの方々といった、気合の入ったメンバーがチームを組んで初めて実現したんです。


本プロジェクトのプロデューサー、ツドイの今井雄紀のブログには盛況だった展覧会の様子が綴られている

—その全体を一人で担うのは、大変なことですね。

三浦:それを全部アーティストに背負わせると、結果として口が上手い人、あるいはすでに成功した人しか成功できないという状況が生まれる。そんななかでは、若い野心のある人は出てきにくいでしょう。

一方、僕は自分の広告の仕事を、作品を作ることではなく、現象を起こすことだと考えています。そうした考え方は、古賀さんをはじめとしたアーティストの活動のサポートのうえでも、役立てることができると思います。

三浦崇宏

アーティストが「インスタ映え」とか言い出したら終わり(笑)。(三浦)

—広告の専門家から見て、アート業界の人を呼び込むための努力やPRについて、感じられることはありますか?

三浦:いろいろトライされてて興味深いですけどね。ただ、それはあくまで周囲が考えることで、作家やアーティストがそれを狙いすぎると気持ち悪い気がします(笑)。

古賀:ギャラリーでも、お客さんの顔ぶれがいつも同じことはよくありますよね。基本的にアーティストはPRが苦手だし、喋れない人が多いと思います。

三浦:だけど、古賀さんが「インスタ映え」とか言い出したら嫌ですよ(笑)。「三浦さん、これインスタ映えしませんか?」みたいな。

一同:(笑)

—たしかに、陶芸作家からはあまり聞きたくない言葉かもしれないです(笑)。

会場の壁に並ぶ作品
会場の壁に並ぶ作品

三浦:たとえば、このコースターも僕らが企画したのですが、器を置くときれいにハミ出すように設計されている。僕はそういう仕掛けを作る仕事なので、「インスタ映え」も考えますよ。

でも、そこまでアーティストに背負わせるのは酷だし、そんなことを考え始めたら肝心な作品がブレてしまう。純粋に作る人と、広める人はわかれていてもいいのかなと。

『呑むアート展』のコースター
『呑むアート展』のコースター

—なるほど。

三浦:広告クリエイターとアーティストは何が違うの? とよく聞かれます。でも、僕からすると全然違う。広告クリエイターの仕事はつまるところ「問題解決」だと考えています。良い商品が届くべき人に届いていない、その状況を解決するためのアイデアを考える。

一方、アートの価値は「問題発見」だと思っています。アーティストは、多くの人が気づかない時代の風をもっとも敏感に感じている存在。

人間の言葉は20万語くらいしか単語がないと言われてますが、きっと言葉で表現できないことがたくさんある。そういうものが、作品を通じてかたちとして現れてくるんです。

古賀:アーティストの側も、作品でその言語化できない部分を感じてもらいたいので、言葉にしようとする意識は弱いと思います。

僕は、千利休へのリスペクトも込めて、反利休的な器を作ってみたいなと。(古賀)

—それで言うと、古賀さんの作品を見て、岡本太郎の『坐ることを拒否する椅子』を思い出したんです。座面に顔が描かれた固い椅子で、座りにくいですが、その体験を通して合理主義への疑問を投げかけている。古賀さんの器もあえて飲みにくい、用途を逸脱したフォルムをしていますが、こうした造形性にいたったのはなぜなのでしょう?

『SPIKY CUP』
『SPIKY CUP』

『SPIKY SAKE CUP』
『SPIKY SAKE CUP』

古賀:僕はお茶が好きなのですが、そこを突き詰めていくとどうしても千利休が出てくるんです。「妙喜庵」と言うお寺に利休が美意識を詰め込んだ国宝『待庵』と言う茶室がありますが、壁材に藁が使われていて、湿った感じで薄暗い。

面白いのは、彼がそこで「黒茶碗」という黒い抹茶碗を使うことです。当時、黒は死の象徴の色で、美を見出されることはなかった。でも利休は、薄暗い部屋で黒茶碗を使うことで、まるで手でお茶を掬っているかのような無の境地を目指した。器の機能を消す装置として、黒を使ったわけです。

古賀崇洋

—器は「あってないかのごとし」と。

古賀:さらに利休は、その器に一国の城よりも高い値段を付けて売っていた。それ以前は信長の時代で、唐物のきらびやかな器が主流でしたが、ここで一気に「わびさび」の文化が普及したわけです。

その利休の仕事は、ひとつの研ぎ澄まされた究極だと思って。だから僕は、彼へのリスペクトも込めて、反利休的な器を作ってみたいなと。つまり、無の装置としての器ではなくて、むしろ視覚的にもビカビカで、触覚的にも鋭く迫ってくる器。それで抹茶を楽しんだら、と思ったんです。

『SPIKY CUP』

—実際に器を持たせていただきましたが、トゲが痛いほどです。

古賀:「痛い」という感覚を通して、味の体験はどう変わるのか。僕は、焼き物というのは、体験を通して腹を割った交流が生まれる、一種のコミュニケーションアートだと思うんです。

その器に、僕のこれまでの経験や、時代から咀嚼してかたちにした考え方を詰め込んで、人の体験の質を変えたり、何かを感じさせたい。そんな器を通した異化作用こそ、企業で作られた器ではなくて、個人で作る器の面白さかなと思います。

三浦:この器も、持ちにくいですが使えるんです。一見しただけでは、使えるものかどうかわからない、用途を超えた冒険がある。そういうものが、この時代にあるというのは、それだけで価値があることだと思うんです。ルールのなかで、最大限の遊びをするのが面白いと思っていて。

—この器も、底に穴が空いていたら「ルール違反」なわけですよね。

三浦:そうそう。それは、広告の世界にも通じることなんです。たとえば、テレビCMではこういうことを言っちゃいけないとか、いろいろありますよね。古賀さんの器にはそんなルールのなかのギリギリの遊びを感じて、意気投合したんです。

デジタルとSNSの普及によって、ありとあらゆる体験が先取りされて、感動が確認作業になってしまった。(三浦)

—今回の会場となったカフェでは、展示された器を購入することもできますし、それでお酒を楽しむこともできます。陶芸作品の展示では、「見る」だけで完結することが常ですが、今回、実際に呑むという体験にこだわられた理由は何ですか?

古賀:さきほどルールのお話がありましたが、この『頬鎧盃』という顔に装着できる器のシリーズは、焼き物を立たせる「高台」という部分をしっかり持つことで、器としての第一ルールを守っているものなんです。でも、そうしたことも含めた器の価値は、実際に触れて飲んでもらわないと、見るだけではなかなか伝わらないと思っていて。

『頬鎧盃』
『頬鎧盃』

『頬鎧盃』
『頬鎧盃』

『頬鎧盃』
『頬鎧盃』

三浦:今回、体験にこだわったのには理由があるんです。いま、あらゆる感動が確認作業になっていると思うんですよ。アートについて、検索すれば作品に関する詳しい情報はすぐに手に入ります。でも、かつては「『モナリザ』という名画があるらしい」と漠然と思われていた、多くの人が想像するしかない時代もあったわけですよね。

あるいは、「ウユニ塩湖という世界一美しく反射する湖があるらしい」と想像され、噂されていた。そうした人たちがある日、実際の作品や景色を見る。その瞬間、とてつもない感動があると思うんです。でもいま、写真を見ないで現地に行く人はほとんどいないですよね。感動すべき体験がネットで見た画像の確認作業になって、本当の感動がなくなっている気がするんです。

—たしかに飲食店を探すときも、レビューサイトに頼ってしまいがちですね。それでは、「レビューどおりだった」くらいの感想しか起きない。

三浦:デジタルとSNSの普及によって、ありとあらゆる体験が先取りされて、感動が確認作業になってしまった。アートもその文脈に乗っちゃっていると思うんです。

でも、身体を通した体験は本当の場所にしかない。「持つと痛いんだ」でも「意外と飲みやすい」でもいい。具体的な体験を通じて、もう一度リアルガチで、本当に感動してほしいんですよね。

三浦崇宏

古賀:実際、作品に触れた方には驚きがあったようで。僕は「持ちにくい器」というコンセプトで制作していますが、「意外と手にハマる」とか「飲みやすい」と言われたのは、自分にとっても新鮮な反応でした。

三浦:来てくださる方にはクリエイターも多くて、そういう方が刺激を受けたと言ってくれたのは嬉しかったです。さきほど22歳の女性起業家の方が購入してくださったのですが、「この器を持っている自分でいたい」とおっしゃってくれて。まだ若くて、決して安い買い物ではなかったと思いますが、「こういう器を持っている自分なら自分をもっと好きになれる」と話されていたのが印象的でした。

—たしかに古賀さんの作品は、そうしたシンボリックな力を持った器ですよね。最後にそれぞれ、今後とくに力を入れていきたいことを聞かせてください。

古賀:僕はさまざま作品を、どんどん作っていくこと。焼き物は工程上、作業的になってしまうこともよくあるんです。それこそ数万年前から存在する領域なので、99%以上は先人による仕事のレールの上にある。ただ、『頬鎧盃』を作ったとき、飲んで装着する器ということで、クリエイティブな仕事だと感じたんです。それを今回、三浦さんがこういう企画にしてくれた。

僕はオブジェや彫刻的な仕事もしますし、そうした別のタイプの作品でも、社会に問いを投げかけられるものを作り続けられたら本望です。

古賀崇洋

三浦:僕は最近、会社の仕事で、クライアントという呼び方をやめようと思っていて。これまでお仕事をさせていただいた企業も、古賀さんのような作家も、パートナーと呼びたい。パートナーと一緒に新しい事業を作ることを、どんどんやっていきたいです。

—パートナーの大きさは関係ないと。

三浦:ええ。10億円のプロジェクトも、予算100万円でいろんなところに頭を下げながらやる展示会も(笑)。とにかく変化のきっかけになる仕事は何でもやりたい。

—実際、お二方の話を聞いて、企業とアーティストとは思えないような熱いパートナーシップを感じます。

三浦:もちろんGOとしては、今後も古賀さんの活動を応援していきます。ちなみに、うちの会社の総務をやっている社員は彫刻家でもあるんですね。

今年の4月には、その社員を含めて、別のコンセプトの展示もしたいと考えていて。ニューヨークでの展示企画も検討しています。広告から新規事業、あるいはアート展まで……、いろいろと仕掛けて、どんどん世の中を変える現象を起こしていきたいです。

左から古賀崇洋、三浦崇宏

サービス情報
The Breakthrough Company GO

株式会社GOは、全く新しい思想・システムのPR/広告/マーケティングの会社です。企業・自治体・個人のチャレンジを、事業開発からプロモーションまで全般的にサポート、成功まで導きます。

サイト情報
古賀崇洋 公式ECサイト
イベント情報
『呑むアート展』

2018年1月13日(土)、14日(日)
会場:六本木ヒルズ 森タワー Cafe THE SUN
ドリンクプロデュース:
お酒のプレミアムセレクトショップ「未来酒店」

プロフィール
三浦崇宏 (みうら たかひろ)

1983年生まれ。PR /クリエイティブディレクター。2007年博報堂入社。同社およびTBWA\HAKUHODOにて、ストラテジックプラニング、PR、クリエイティブを歴任。カンヌライオンズ、『日本PR大賞』、『グッドデザイン賞』ほか受賞多数。2017年、福本龍馬さんと共同代表としてThe Breakthrough Company GO設立。

古賀崇洋 (こが たかひろ)

陶磁器作家。1987年生まれ。福岡県出身。陶芸作家。ストリートから伝統文化を革新し続ける。2013〜2016年、Contemporary Japanese Design & Arts | Fuori Salone (MILANO SALONE / Italy)。2014年、H.P.FRANCE gallery 初個展『陶磁器 古賀崇洋』(南青山 / 東京)。2015年、NEW DESIGN of TEA(GOOD DESIGN STORE Gallery / 香港)。2017年、Ceramic Dedication(OTOGI / 福岡)。2018年、MAISON & OBJET(メゾン・エ・オブジェ)(PARIS / France)。



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