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水戸芸術館『ハロー・ワールド』展 テクノロジーが作る未来を問う

水戸芸術館『ハロー・ワールド』展 テクノロジーが作る未来を問う

水戸芸術館『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:宮原朋之

人はステレオタイプなイメージで恐怖を煽ることができる。こうした議論は、いまの状況を考えるうえでも重要だと思います。

—それぞれの作品についても聞かせてください。無意識のうちに判断に影響を与えるメディアのお話がありましたが、デヴィッド・ブランディの作品は、それを作り手側の視点から描いたものですね。

山峰:ブランディの映像作品『チュートリアル:滅亡に関するビデオの作り方』は、世界的に人気のカンファレンス『TED』で発表された世界滅亡のストーリーに、作家が映像をつけていく過程をチュートリアルの形式で見せたものです。

そのプレゼン自体は、隕石が地球に衝突したりロボットが暴走したりといかにも陳腐なのですが、ブランディもネットから拾ってきた映像や発表の原稿を使いながら、サクサクとその映像を仕上げていく。でもこの簡単な補強によって、嘘くさい物語もどこか信ぴょう性を帯びてきます。

デヴィッド・ブランディ『チュートリアル:滅亡に関するビデオの作り方』(2014年) / Courtesy of Seventeen Gallery, London
デヴィッド・ブランディ『チュートリアル:滅亡に関するビデオの作り方』(2014年)Courtesy of Seventeen Gallery, London / 元になったTEDプレゼンテーション『スティーブン・ペトラネック: 世界が終わってしまうかもしれない10の方法

—一見すると笑える作品ですが、よくよく考えるとゾッとする光景です。

山峰:映像制作というものが、それだけ効率化されているということですよね。寄せ集めの素材でもそれなりに見えてしまう。ここで扱われているのは、人を扇動するプロパガンダというメディアの古典的問題です。人は必ず何かに頼りたくなってしまう。だからステレオタイプなイメージを作って恐怖を煽れば、引っ張ることができると。こうした議論は古臭く感じるかもしれませんが、いまの状況を考えるうえでも重要だと思います。

ヒト・シュタイエルも、ネット社会への積極的な発言で有名なドイツ人アーティストです。彼女は2017年に「世界のアート界で最も影響力のある人物」のランキングで1位に選ばれましたが、今回は彼女を世界的に有名にした『他人から身を隠す方法:ひどく説教じみた.MOVファイル』を出してくれています。

 

—この映像ではデジタル社会の中で自分の存在を消すための方法が、レクチャー形式でさまざまに指南されています。いったい何が問題とされているのでしょう?

山峰:ポイントは、デジタル技術は軍事技術と蜜月関係にあるということです。作品には実際にカリフォルニアにあったキャリブレーションターゲット(空撮用の校正パターン。大半はアメリカ空軍とNASAによって1950年から60年代にかけて設置された)が登場しますが、これは軍用機がミサイルの標準を合わせるために使用されるもので、同じ技術は我々の身近なGPSにも使われている。つまり、デジタル環境で存在が把握されることは、軍事機関からも見られていることだと。だから、自分が社会的に悪い存在になればすぐ発見されてしまうから、身を隠さないといけない。その方法が指南されるわけですね。

—あまり実感が湧かない話ですが……。

山峰:そう感じますよね。ただシュタイエルは、反政府運動に参加していたクルド人の友人を失っていて、彼女にとって軍事や技術、そしてメディアの関係は個人的にも重要な問題だったそうです。ただこの作品で彼女が教える「カメラから見えなくなる方法」は、「ピクセル以下のサイズになればいい」というような実現不可能なアイロニーに満ちたものばかりです。カメラからの逃避がファンタジーになりつつある社会状況を、彼女はこの作品で描いているんです。

ヒト・シュタイエル『他人から身を隠す方法:ひどく説教じみた.MOVファイル』(2013年) Courtesy of the artist and Andrew Kreps Gallery, New York
ヒト・シュタイエル『他人から身を隠す方法:ひどく説教じみた.MOVファイル』(2013年) Courtesy of the artist and Andrew Kreps Gallery, New York

—谷口暁彦さんの『address』でも、同じく監視社会の問題が扱われていますね。

山峰:これは谷口さんが2010年から制作し続けてきた写真作品です。ここで彼は製造元から発行されたURLを通じて世界中の監視カメラにアクセスし、ズームにしたそれらを少しずつ遠隔操作して、高解像度の風景写真を撮影しています。

—写真にはアジアの街並みやどこかの交差点の風景が、ツギハギですがくっきり写っています。

山峰:そこで感じさせられるのは、「見る」「見られる」の関係です。シュタイエルの作品では見られる側の問題が語られましたが、こちらでは自分が何かを見るために用意したものは、他人にも覗かれてしまう可能性があるということが描かれている。ネットに公開された時点で相関関係が生まれ、これだけ高解像の映像が撮れてしまう……。セキュリティは大事ですね(笑)。

谷口暁彦『address(アドレス)』(2010年~)
谷口暁彦『address(アドレス)』(2010年~)

一方、こうした情報環境を自然に感じて育った世代の感覚が描かれたのが、小林健太さんによる一連の写真や映像作品です。いま僕たちは、日常的にiPhoneのようなデバイスを通してコミュニケーションをし、世界と対話していますよね。ただ、身体感覚が成熟する前からその環境に慣れた世代には、デバイス上のバグやズレがとても気持ち悪いものとして現れる。小林さんの作品では、そうした新しい情報環境におけるノイジーな知覚体験が、Photoshopなどを通して加工された映像によって視覚化されています。

展示風景より / 撮影:小林健太
展示風景より / 撮影:小林健太

—出品作品には、テクノロジーの発展によって否応なく変わる、人の感覚のあり方を描いたものが多いですね。エキソニモの作品でも、問題となるのは人の感情です。

山峰:エキソニモの『キス、または二台のモニタ』では、タイトルの通り2つの顔が映るモニタが向かい合わせに設置されています。僕たちはこれを見て、まるで彼らがキスをしているような感覚を覚えてしまいますが、実体としては対面したモニタに過ぎない。床に広がる大量のケーブルは、背後にある広大なネットワークの隠喩でもあります。

エキソニモ『キス、または二台のモニタ』(2017年)撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
エキソニモ『キス、または二台のモニタ』(2017年)撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

山峰潤也(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)

—たしかにモニタの実体よりも、「キス」という情報が先に見えてくるように感じるのは不思議ですね。

山峰:ルネ・マグリットに『イメージの裏切り』という有名な絵画がありますよね。写実的なパイプの絵の下に「これはパイプではない」という矛盾する文がある絵ですが、エキソニモの作品でも人は情報の「内容」に注意を向けがちで、土台の支持体に対しては疎かになるという問題が描かれている。

もう一つの作品『ふたつのLIVE風景』でも、鑑賞者の姿がライブ中継された2台のモニタの一方には大量の高評価が流れ、他方には何の評価を得ない自分が映ります。これも単なる情報に過ぎませんが、僕らはどうしても気持ちを左右されてしまうわけで、ネットとは感情を増幅する装置なのだと感じさせます。

エキソニモ『ふたつのLIVE風景』
エキソニモ『ふたつのLIVE風景』

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イベント情報

『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』
『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』

2018年2月10日(土)~5月6日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館 現代美術ギャラリー
時間:9:30~18:00(入場は17:30まで)
参加作家:
デヴィッド・ブランディ
小林健太
サイモン・デニー
セシル・B・エヴァンス
エキソニモ
レイチェル・マクリーン
ヒト・シュタイエル
谷口暁彦
休館日:月曜、2月13日(火)、5月1日(火)
※2月12日(月・祝)、4月30日(月・祝)は開館
料金:前売600円 一般800円 中学生以下、65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料

関連イベント

キュレーターによるギャラリーツアー
2018年4月14日(土)、4月19日(木)
各日15:00~16:00
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室

アーティスト・トーク
2018年4月30日(月)
14:00~15:30(開場13:30)
谷口暁彦(出品作家)、金澤韻(キュレーター / 十和田市現代美術館学芸統括)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室

プロフィール

山峰潤也(やまみね じゅんや)

水戸芸術館現代美術センター学芸員。1983年生まれ。東京芸術大学映像研究科修了。学生時代より映像や舞台作品の制作をしていた経験から、映像やメディアを主題とする展覧会に従事。文化庁メディア芸術祭事務局、東京都写真美術館、金沢21世紀美術館を経て現職。主な展覧会に「3Dヴィジョンズ」「見えない世界の見つめ方」「恵比寿映像祭(第4回-7回)」(以上東京都写真美術館)。その他の活動に、IFCA(2011年、スロベニア)、Eco Expanded City(2016年、ポーランド、WRO Art Center)など海外のゲストキュレーション、執筆、助成金やアワードの審査員、講師、映像作品やメディアアートの研究を行う。2015年度文科省学芸員等在外派遣研修員。

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