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長谷川新×森純平 アートに関わる二人が驚いた、松戸の街の寛容性

長谷川新×森純平 アートに関わる二人が驚いた、松戸の街の寛容性

『PARADISE AIR EXHIBITION“TRANSIT”』
インタビュー・テキスト
牧浦豊
撮影:鈴木渉 編集:久野剛士 写真提供:PARADISE AIR/撮影:加藤甫

「北欧デザイン」などと言いますが、デンマークとスウェーデンではきっと異なるはずなんです。(長谷川)

:インスティテューションという点では、街も慣例という枠組みを取り払うと、ふと自由度が広がることがあります。例えばお祭りの時には車を通行止めにして神輿を担いだりしますよね。それができるなら、同じく道路を歩行者専用にして、路上でビアガーデンだってできるよね、というような。

ハレの日にしか出来ないことを逆手にとって、日常に内在させているのが松戸の凄さで、そんな街の振る舞いをアーティストに選択肢として与えたら、いままで見たことがない風景が生まれるかもしれません。

長谷川:昨年の『F/T』(『フェスティバル / トーキョー』)では、マンションの間にぽっかりと生まれた原っぱを使って演劇公演をやっていましたよね。それもものすごい大音量で。あれは松戸以外の場所、東京はもちろん、自由度が比較的高い京都でもかなり難しいんじゃないでしょうか。周りから苦情が来るでしょうから。でも、松戸ではそれができている。その許容度の高さに感動しました。

エフゲニア・エメツによるパフォーマンス(ショートステイ・プログラム)/古民家スタジオ 旧・原田米店
エフゲニア・エメツによるパフォーマンス(ショートステイ・プログラム)/古民家スタジオ 旧・原田米店

:そうでしたね。いまとなっては当たり前になっているのですが、初めて松戸に来たときはその懐の広さに感動しっぱなしでした(笑)。地域の方々や建物ビルオーナー(株式会社浜友商事)の多大な協力があってこそですが、PARADISE AIRの5年間の活動でそうした松戸の自由度というか、寛容度はより高くなっていると思います。昨年のロングステイ(長期滞在)プログラムには614件の応募があり、それを市役所や町会の人なども加わって審査したわけですが、審査に当った皆さんから「何をするのかわからない人でも、面白い人を」という声が上がったくらいですからね。

地域での芸術活動というと、「地域にちなんだもの」とか、「子どもにも好かれるもの」といった観点で選びがちですが、少なくとも現在の松戸に関してはそういうことがありません。

ミンウー・リーによる展示風景(ロングステイ・プログラム)/松戸観光案内所2F 写真:冨田了平
ミンウー・リーによる展示風景(ロングステイ・プログラム)/松戸観光案内所2F 写真:冨田了平

長谷川:もちろん、わかりやすいものや、地域になじみのあるものが一概に悪いとは思いません。アクセスのしやすさ、というのはとても大切なことです。でも地元の高校生が面白がってくれて、PARADISE AIRに遊びに来てくれる、みたいなことがすでに起きてしまっている。PARADISE AIRと松戸のポテンシャルであれば、きっともう少し「他者の解像度」をあげる実践ができるのではないかと思っています。

「北欧デザイン」などと言いますが、デンマークとスウェーデンではきっと異なるに違いありません。あるいはそれぞれの街によっても全然違うでしょう。とはいえ際限なく高解像度にしていくなんてことは僕たちには不可能です。無理がある。だから「北欧デザイン」という言い方は僕らの生活において必要な言い方です。けどそれが低解像度に圧縮された状態だ、という自覚はあったほうがいいかもしれない。

そうした「北欧とは」「アメリカとは」「韓国とは」といったテンプレート的な思考が、松戸にいろいろな国のアーティストがやって来ることで次第に崩れ、自分の先入観がちょっと変わる、みたいなことを楽しめたらいいですね。

松戸はいい意味で、プライドを捨てることにプライドを持っている街なんです。(長谷川)

—ある文化に対するイメージが、より明確になっていくんですね。

:それと、アーティストが松戸で暮らす中で、松戸の住民との予期しない出会いも生まれます。ポーランドからアーティストが来たら、いきなりポーランドの歴史を熱く語るオジさんが現れたり、スペインのジュエリーデザイナーのワークショップには、アートには縁遠い、とおっしゃる方が参加したりといったことがあって、そうした出会いを目撃できるのは楽しいですね。

フローレンス・ラムによるパフォーマンス/江戸川河川敷
フローレンス・ラムによるパフォーマンス/江戸川河川敷

—出会いを生み出せるのも、アーティスト・イン・レジデンスならではなのでしょうか?

長谷川:本来、誰かの表現は他の人にとって必ずしも必要なものではありませんが、どこかで関係はしています。少なくとも同じ時代に生きているという関係はありますよね。それはPARADISE AIRにも言えることです。

海外から来たアーティストが、松戸で変なことをしているわけですが、同じ街に暮らしているという点で、関係が生まれます。その「変なこと」が、ザラザラしているのか、スベスベしているのかといった「手触り」だけでも知ることができるといいなと思います。

「フェイクニュース」ってよく言われるじゃないですか。でも見方によっては「フェイクニュース」って誰かの「本当にそうだったらいいのに」という願望、欲望の実現だとも言える。こういう時代だからこそ、アートって「フェイクニュース」よりも断然素敵な方法で人間の願望や欲望を扱う技術をもっと磨かないといけないんじゃないですかね。

ルース・セレステによる作品制作風景(ショートステイ・プログラム)/松戸駅西口デッキ
ルース・セレステによる作品制作風景(ショートステイ・プログラム)/松戸駅西口デッキ

:さすがキュレーター(笑)。

長谷川:松戸はいい意味で、プライドを捨てることにプライドを持っている街なんです。どういうことかと言うと、「ウチは歴史のある街だから、それは似合わない」などと言う地域が多い中で、そんなプライドにこだわらない。街の伝統や文化を大切にすることと、新しい試みにしりごみすることがイコールになってはいけないと、皆さんがわかっている。

そして松戸は、自治意識の高い街でもあります。町会のある人から、PARADISE AIRに対して「彼らの活動の邪魔はしない」と言われたことがあります。うれしいというか、心強く思ったのですが、同時に「でも税金は払ってるよ」と言われたんです。ズシッと心に刺さりました。

—それは、すごく重いひと言ですね。その言葉に対して、どんな価値を提供し、応えていくのでしょう?

:PARADISE AIRの価値は、松戸にアクセントを与え続けることだと思っています。それに、アーティストが松戸で経験したことを、出身地や世界の別の場所で生かして花が開いたというケースが増えているんです。それがまた巡り巡って松戸に戻ってきたりしています。

長谷川:どういう訳かわからないけど、アートに関する特定の分野で松戸の知名度が、日本のどの街よりも突出して高いということになったら、面白いですよね。

西原尚によるサウンド・パフォーマンス(ショートステイ・プログラム)/PARADIS AIR
西原尚によるサウンド・パフォーマンス(ショートステイ・プログラム)/PARADIS AIR

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イベント情報

『PARADISE AIR EXHIBITION“TRANSIT”』
『PARADISE AIR EXHIBITION“TRANSIT”』

2018年4月17日(火)~4月29日(日)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ aiiima 1
時間:11:00~20:00(最終日は17:00まで)
料金:無料

プロフィール

長谷川新(はせがわ あらた)

1988年生まれ。キュレーター。京都大学総合人間学部卒業。専攻は文化人類学。2013年から2014年にかけ、大阪、東京、金沢にて開催された「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI-交錯する現在-」展においてチーフキュレーターを務める。同展は2014年カタログを出版(constellation books)。主な企画に「無人島にて―「80年代」の彫刻/立体/インスタレーション」(2014年)、「パレ・ド・キョート/現実のたてる音」(2015年)、「クロニクル、クロニクル!」(2016-2017年)、「不純物と免疫」(2017-2018年)など。

森純平(もり じゅんぺい)

1985年マレーシア生まれ。東京藝術大学建築科大学院修了。在学時より建築から時間を考え続け、舞台美術、展示、まちづくり等、状況を生み出す現場に身を置きつづける。2013年より千葉県松戸を拠点にアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」を設立。今まで100組以上のアーティストが街に滞在している。主な活動に遠野オフキャンパス (2015-)、ラーニングをテーマとした「八戸市新美術館設計案(共同設計=西澤徹夫、浅子佳英)」(2017-)、東京藝術大学美術学部建築科助教(2017-)。

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