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ボートを拠点にする演出家・遠藤啄郎、戦後日本を見つめ直す

ボートを拠点にする演出家・遠藤啄郎、戦後日本を見つめ直す

『さらばアメリカ!』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:沼田学 編集:久野剛士、宮原朋之

日本全国に数々の劇団が存在するが、御年89歳となる演出家・遠藤啄郎が選んだ活動形態は唯一無二と言っていいだろう。遠藤率いる劇団「横浜ボートシアター」は、横浜の港に浮かぶ船の上で37年にわたって創作活動を続け、『エディンバラ国際フェスティバル』『シビウ国際演劇祭』『ニューヨーク国際芸術祭』などでも高い評価を獲得してきた。この劇団が、2018年5月、KAAT神奈川芸術劇場で新作公演『さらばアメリカ!』を上演する。

42年前に書かれたものの「過激すぎる」と言われ、お蔵入りになってしまったこの作品は、遠藤が見てきた戦後間もないエネルギーに溢れた時代を、喜劇として描いた問題作。いったい、なぜ一度は封印となった作品が、いま上演されるに至ったのか? 杖をつきながら取材場所である劇団のボートにやってきた遠藤が、闊達な話と明晰な分析でその創作哲学を語った。

劇場を揺らすなんて、ボートシアター以外の場所ではできません。

—横浜ボートシアターは、1981年の結成から37年にわたり、横浜に浮かぶボートを創作の拠点としています。どういったきっかけで、こうした独自の活動に至ったのでしょうか?

遠藤:元々は、劇場がほしかったんですよ。日本では、「稽古場も劇場も借りる」という活動のスタイルが一般的ですが、横浜ボートシアターを結成する前の劇団でヨーロッパツアーをしたときに、海外の劇団は自分たちの劇場を持ち、そこで稽古や公演をすることが一般的であることに気づきました。けれども、日本では経済的な問題から実現は難しかった……。

そんなとき、石川町の駅前にアメリカ人が木造の船を使って開いていたブティックが沈んでしまったんです。地元の人たちと一緒に引き上げたところ、彼が「もう船は要らない」と言う。「じゃあ売ってよ」と言ったら、30万円で売ってくれた。安かったですね(笑)。

横浜ボートシアターの船と遠藤啄郎
横浜ボートシアターの船と遠藤啄郎

—きっかけは、ボートが安く手に入ったから(笑)。

遠藤:初代の船は木造で、いまの3代目よりもだいぶ小さなものでした。そこで作品作りをしていたのですが、ある大学の演劇部に貸したら、排水設備のスイッチを入れ忘れて沈められちゃった(笑)。

それに、法律が変わり、勝手に船を放置できない時代になってしまいました。どうしようかと考えていたところ、組合の人が、使わない鉄の船を寄付してくれたんです。彼は劇作家でもあり、横浜ボートシアターのファンでもありました。

—ボートという特殊な空間で作品を作ることは、創作にどんな影響を与えるのでしょうか?

遠藤:ボートを係留している陸と海の境目は、「旅に行き、旅から帰ってくる」ときの接点となるドラマティックな場所です。そこでドラマを上演すると、観客にはさまざまなイメージが喚起される。これまで横浜ボートシアターでは、アフリカ、インド、日本などの古い物語と現在をつなげていくことをテーマにした作品を作ってきました。私的な世界を生み出したり、社会風刺をしたりするだけでなく、「過去と現在を結ぶ場所」としての劇場をイメージしているんです。

ボートの内部は舞台となっている
ボートの内部は舞台となっている

—船という非日常的な場所で、過去と現在が結びつくんですね。

遠藤:木造船で初めて上演したのはエイモス・チュツオーラ(20世紀に活躍したナイジェリアの小説家)の『やし酒飲み』(1952年)という作品でした。そのときは、お客さんが入ると、出入り口に釘を打ち付けて塞いでしまったんです。そして、エンジンをかけて、劇団員みんなで外から船を揺らします。そうすると、お客さんは「出航したのか!?」と、びっくりしていましたね。

—船を使った作品ならではの演出ですね(笑)。

遠藤:劇場を揺らすなんて他の場所ではできません(笑)。そして、エンジン音が止まり、芝居が始まる。この作品は、とても好評でしたね。

—横浜ボートシアターでは、『エディンバラ国際フェスティバル』や『シビウ国際演劇祭』といった海外での公演も積極的に行っています。世界でも珍しい活動形態を、海外の演劇人はどのように見ているのでしょうか?

遠藤:「ボートで作品を作っている」と話すと、海外でもとてもおもしろがられますね。先日も、フランス人の演出家が見学に来て、「ここを使って作品を作りたい」と興奮していました。ただ、フランスのセーヌ川には船で小さなオペラを上演する劇場があったし、スウェーデンでは、船で航海をしながら公演をする劇団もあります。

横浜ボートシアター『さらばアメリカ!』稽古時の様子(撮影:古屋均)
横浜ボートシアター『さらばアメリカ!』稽古時の様子(撮影:古屋均)

—意外にも、世界各地にボートシアターがあるんですね。

遠藤:非日常的なボートという空間は、演劇を上演する場所として理想的な場所ですからね。デメリットは、船が揺れて酔う人が出ることくらいでしょう(笑)。

それに、船で作品を作っているということで、たくさんの人がおもしろがってくれるんです。3代目となる現在の船を作る際にも、市民の有志が「横浜ふね劇場をつくる会」を結成して援助してくれたし、助成金が取れなかったエディンバラの公演では、市民からの寄付によって制作費をまかなうことができました。そんな援助によって活動を続けることができたんです。

遠藤啄郎

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イベント情報

横浜ボートシアター『さらばアメリカ!』

2018年05月25日(金)~2018年06月03日(日)
会場:神奈川 KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
脚本・演出:遠藤啄郎
音楽:松本利洋
出演:
丹下一
玉寄長政
吉岡紗矢
リアルマッスル泉
近藤春菜
柿澤あゆみ
奥本聡
村上洋司
料金:一般4,000円 U25券2,500円 高校生以下1,000円 ペアチケット7,000円(劇団のみ取扱い)

プロフィール

遠藤啄郎(えんどう たくお)

脚本、演出家、舞台使用の仮面のデザイン製作者。1928年、神奈川県平塚に生まれる。1959年頃より、ラジオ、オペラ、ミュージカル、舞踊、人形劇、演劇などの脚本ならびに演出家に転向。舞台作品の海外公演も多く、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど三十都市におよぶ。長期公演としてはパリ、オルセイ劇場での、人と人形の劇『極楽金魚』の一ヶ月公演がある。1981年、横浜の運河に浮ぶ木造船内を劇場とし、横浜ボートシアターを結成。横浜ボートシアターの代表作には、仮面劇『小栗判官照手姫』(第十八回紀伊国屋演劇賞受賞)、仮面劇『若きアビマニュの死』、仮面劇『王サルヨの婚礼』などがあり、他に『仮面の四季』(セゾン劇場特別公演)、『夏の夜の夢』(シアターコクーン、プロデュース公演)、『龍の子太郎』(青山劇場五周年記念公演)、『耳の王子』(横浜ボートシアター・インドネシア国立芸術大学共同作品)、”人と人形と仮面の劇『恋に狂ひて』(2016年 KAAT神奈川芸術劇場提携公演)などがある。多摩美術大学映像演劇科、日本オペラ振興会、オペラ歌手育成部、桐朋音大演劇科などでの講師をつとめる。著作には『極楽金魚』(フレーベル館)、写真集『横浜ボートシアターの世界』(リブロポート)、脚本集『仮面の聲』(新宿書房)などがある。横浜市民文化賞受賞。

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