
舞台監督ってどんな仕事?チャットモンチーのライブを支えた人物
CAMPFIRE- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:豊島望 編集:矢島由佳子
日本のエンターテイメント業界の最前線で戦い続ける人物に話を聞く連載『ギョーカイ列伝』。第16弾に登場するのは、有限会社シャワーのステージプロデューサー・萩原克彦。
40年のキャリアを誇り、DREAMS COME TRUE、TM NETWORK、レベッカから、ジェームス・ブラウンのジャパンツアーに至るまで、これまで数えきれないほどのアーティストのコンサートで舞台監督を担当。長年現場を見続けてきた萩原の現状に対する言葉はときに辛辣ながら、その裏側にある音楽への強い愛情がきっと伝わるはずだ。
そんな萩原が10年近く舞台監督を務めてきたのが、先日「完結」を発表したチャットモンチー。3ピースから2ピース、生演奏から打ち込みと、時期ごとに「変身」を続けてきたチャットモンチーのステージは、萩原の存在があったからこそ可能だったと言っても決して過言ではない。不信感から始まったという出会い、初めて2ピースで挑んだ『変身』ツアーの裏話、そして「完結」に対する想いもたっぷりと語ってもらった。
「3曲目になったら、空調の温度を2度落とせ」って言う。今の若い舞台監督は、そんなことしてないんじゃないかな。
—まずは「舞台監督」(以下、舞監)という仕事について教えてください。一言でいうとライブの「総責任者」になると思いますが、萩原さんご自身は仕事内容についてどのように説明されていますか?
萩原:その説明は、すごく難しくて。かみさんの親に「嫁にくれ」って言いに行って、「君の仕事は?」って訊かれたときも困った(笑)。検索すると「舞台演出家の演出意図を具現化する立場の人」って出てくるんだけど、英語で訳すともっとわかりやすくて、「Stage Manager」。
つまり、ショーを成立させるために、舞台の表に立つ人と裏方を全部まとめる人。だから、なにも道具はないの。PA(音響担当)はミキシングコンソール、照明担当は照明卓があるけど、俺は口八丁手八丁でやるしかない(笑)。
—逆にいうと、その全部を知っておかないといけないわけですよね。
萩原:そう。それは、劇場を旅するなかで徐々に覚えていった感じかな。劇場は、PAも照明も自分たちの機材を持ち込んで組み上げていくわけ。そのために、どういう順番で組み上げたら一番効率よくできるかを考えて、1日のタイムテーブルを作るのも、舞監の仕事。
昔はライブハウスの次は小ホール、中ホール、東京だとNHKホールや渋谷公会堂で3日間くらいを埋められるようになると、「じゃあ、武道館を目指そう」ってなった。ところが今の時代は、ライブハウスをまわり終わったら、次はZeppツアーでしょ? でもZeppって、身ひとつで行けちゃうわけ。照明や音響機材、平台、箱馬、全部が会場に設置されてるから、極論、オペレーターだけ行けばライブができちゃうのよ。だから最近は、スタッフが育たない。
—なるほど。
萩原:演る側もそうで、今の若いバンドはどの会場でもスタンディングじゃん? だから楽なの。昔は地域によってノリが全然違って。たとえば、大阪は斜に構えていてアンコールまで大人しかったから、「こいつらを1曲目で立たせるためにはこの曲にしよう」とか、会場ごとにいろいろ考えたわけ。今はそんなことしない。だって、お客さんは最初から立ってるんだもん(笑)。
—確かに、ホールなどの椅子がある会場でも、1曲目から立ち上がりますね。
萩原:ただ、今も昔も変わらないのは、開演前に客が大人しいときは、のらせるのが難しい。開演前のBGMの音量や空調とかによっても左右されるんだけど、開演前から客がざわついてるライブは絶対によくなる。それはスタンディングでも椅子席でもそうだね。
—それを気にするのも舞監の仕事だと。
萩原:空調に関していうと、俺はロック系のライブをやることが多かったから、よく「絶対に汗をかかせろ」って言ってた。気持ちいい状況ではなくて、暑くて脱ぎたくなるくらいに、わざと温度を上げたりしてね。昔は「オン」か「オフ」しかスイッチがなかったけど、今、たとえばZeppとかだと1度単位で調整できるから、「3曲目になったら、温度を2度落とせ」みたいなこともよく言う。でも今の若い舞監は、そんなことしてないんじゃないかな。
甲斐よしひろさんと出会わなかったら、今の自分はない。
—今に至るターニングポイントになったのは、どなたとの仕事だといえますか?
萩原:甲斐バンドだね。甲斐(よしひろ)さんって、国技館とか、ラグビー場とか、そういうでかい会場でのコンサートを日本で最初にやった人でもあったし、すごく厳しかったけど、その分すごく勉強になった。俺は「甲斐学校」って呼んでるんだけど、甲斐さんと出会わなかったら今の自分はないかな。
「この野郎!」って思うことも何度もあったけど、あの人の言うことは全部正しかった。甲斐さんはスタッフを育てる天才です。この業界に残っていて、甲斐バンドに関わった人は全員成功してるんじゃないかな?
—特にどんなことを学んだのでしょうか?
萩原:人の心をどう読むかなんだよね。甲斐さんは俺らに必ずジャブを投げるわけ。「これってどうなってるの?」って。それって、「俺が訊く前に、お前らが先に言えよ」ってことなの。
たとえば、ツアーのときは必ず前日に次の会場のウィークポイントを教えないといけなかった。この会場は客席が近いとか、モニターがちょっとやりづらいとか、あと劇場って基本構造は同じでも、たとえばサスペンションライト(天井から吊るす照明)の位置がちょっとずつ違うから、「いつもより前方に立ってください」とか。それを事前に全部報告する。当日になって「なんでこうなの?」って言われたくないし思わせたくもないから、裏方が先に言っておく。そうやって前もってどこまで情報を与えるかということは、今でもすごく活きてるね。
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リリース情報

- チャットモンチー
『誕生』初回生産限定盤(CD) -
2018年6月27日(水)発売
価格:3,240円(税込)
KSCL-30062/3
※三方背ケース、ハードカバーブック仕様1. CHATMONCHY MECHA
2. たったさっきから3000年までの話
3. the key
4. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
5. 裸足の街のスター
6. 砂鉄
7. びろうど
リリース情報

- チャットモンチー
『誕生』通常盤(CD) -
2018年6月27日(水)発売
価格:2,592円(税込)
KSCL-300641. CHATMONCHY MECHA
2. たったさっきから3000年までの話
3. the key
4. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
5. 裸足の街のスター
6. 砂鉄
7. びろうど
イベント情報
- 『チャットモンチー完結展』
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2018年6月27日(水)~7月10日(火)
会場:東京都 渋谷 GALLERY X BY PARCO
時間:11:00~20:00(最終日は18:00まで)
料金:500円
プロフィール
- 萩原克彦(はぎわら かつひこ)
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1958年、千葉県生まれ。1977年~1986年、財団法人ヤマハ音楽振興会にて『ポピュラーソングコンテスト』『EAST WEST』音楽コンテストの舞台監督として参加。1980年以降、国内ARTISTの全国ツアーに参加、ツアークルーとして活動。主なアーティストは、渡辺真知子、EPO、NSP、甲斐バンド、EARTHSHAKER、松岡直也グループ、中森明菜、聖飢魔II、REBECCA、真心ブラザーズ、すかんち、渡辺美里、TM NETWORK、宇都宮隆、THE COLLECTORS、河村隆一、DREAMS COME TRUE、hitomi、the brilliant green、吉田美奈子、FENCE OF DEFENSE、斉藤和義、チャットモンチー、中幸介、花澤香菜、関取花など。年間平均約80~100公演を現在も続けている。フリーランスの立場でスタートし、1988年有限会社シャワーをコンサートスタッフと立ち上げ、今年30周年を迎え、コンサート業界に入って41周年である。また、コンサートアルバイトの人材派遣を行う。(株)ライブパワーにて、初めて参加するアルバイトさんに設営撤去時の安全指導やコンサート業界への窓口として相談役も行っている。