インタビュー

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影・編集:宮原朋之

現実を今すぐに、直接動かすことは芸術の仕事ではありません。

—宗教と美術が、死者をどのように扱ってきたのか。それが『新芸術祭』を始める動機だったんですね。

黒瀬:そうです。それで2014年からいわきに通い、継続してリサーチを行ってきました。実はいわきの平という地域は、炭鉱や原発といったエネルギー産業が入ってくる以前、現在とは異なる個性を持っていました。東北仏教の布教の拠点になるほど寺院がたくさんあり、仏教都市としてのアイデンティティがありました。今の浜通り(福島県の太平洋側沿岸の地域)の姿からは想像できないような歴史があることが分かって、衝撃を受けたんです。

梅沢和木『彼方クロニクル此方』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」』 1回目に平で開催された『怒りの日』。黒瀬:単に忘却されているだけで、平では文化財や志ある人のネットワークがありました。それらを可視化するために、現代美術としてインスタレーションを行いました
梅沢和木『彼方クロニクル此方』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」』 1回目に平で開催された『怒りの日』。黒瀬:単に忘却されているだけで、平では文化財や志ある人のネットワークがありました。それらを可視化するために、現代美術としてインスタレーションを行いました

—いわきという場所が近代以前と以後で大きく変わっていたのですね。多くの人は震災後の福島を現在の視点で考えていましたが、過去を掘り下げることでまた違った被災地の印象が見えてくる。

黒瀬:現実の社会や政治を、今すぐに、直接動かすことは芸術の仕事ではありません。いわきに限らず、震災後に取材したいろいろな地域で、アーティストがいかに無力なのかをあらためて思い知りました。

でも想像力は自由です。足繁くいわきに通う中で、現在は忘れられてしまった過去のいわきの姿を、想像力を使って召喚し、現実に上書きしてしまえないだろうか、と考えたことが『新芸術祭』の始まりでした。

「日本なりの前衛」というものをずっと考えていた。

—『新芸術祭』で目を引いたのが市街劇という形式です。黒瀬さんの著書である『情報社会の情念』でも、寺山修司の前衛的な概念として市街劇を扱っていましたよね。

黒瀬:日本美術史のなかで「前衛」は、すでに失敗し、死んだことになっています。例えば美術評論家の椹木野衣さんは、そもそも日本で前衛は不可能だと主張しています。前衛とは西洋的な「歴史」の概念と一体になっており、蓄積された歴史の最前線に、それを否定する運動としてあるものですが、日本はそもそも西洋的な歴史の概念が無く、したがって前衛も未遂に終わる、と。

しかし一方で、日本美術史のなかには「歴史のようなもの」や「前衛のようなもの」がある。それらはすべて失敗で、偽物なのかと言えば、そうではないでしょう。歴史が記述されるメカニズムや、前衛が生まれる条件が、場所や文明によって異なる、と考えたほうが自然です。

そういう考え方は、美術史だけでなく、インターネット文化やオタク文化にコミットしたことによって、そして震災後、宗教と美術の問題に触れたことで、ますます強くなりました。まだ誰もはっきりと定義していないだけで、きっと「日本なりの前衛」があるはずだ、と。

黒瀬陽平

—その「日本なりの前衛」が震災後のタイミングで前景化したように見えます。それは何故だったのでしょうか?

黒瀬:前衛のひとつの要件として「現実否定のモメント」というものがあります。つまり、今の現実に違和感があったり、受け入れ難いと思うのであれば、それを否定して別の現実を想像したり、その実現に向けて表現することです。

僕が震災後に感じていたのは、その「現実否定のモメント」にとても近いものでした。明らかに復興はうまくいっておらず、国力はどんどん下がり、社会は不寛容になり、多様性を失っていく。日に日に現実がクソだということが確定していくわけです。

そのような現実に慣れてしまうと、最初に死んでいくのが想像力です。今目の前にある現実に縛られ、そこから逸脱する想像力を失ってしまう。だからこそ、被災地を舞台にした「市街劇」という形で、現実の制約から想像力を解放したかったんです。

藤城嘘『いわき勇魚取りグラフィティ』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「小名浜竜宮」』 / 黒瀬:小名浜は漁師の街だから、漁師町独特のナラティブな文化がたくさんある。津波が来た後に人々が残した物語やモニュメント、宗教的な建築。それらを紐解いてひとつの支持体とすることで物語を展開していくことができました
藤城嘘『いわき勇魚取りグラフィティ』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「小名浜竜宮」』 / 黒瀬:小名浜は漁師の街だから、漁師町独特のナラティブな文化がたくさんある。津波が来た後に人々が残した物語やモニュメント、宗教的な建築。それらを紐解いてひとつの支持体とすることで物語を展開していくことができました

山内祥太『アキレスは亀に追いつけない』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016「地獄の門」』
山内祥太『アキレスは亀に追いつけない』撮影:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016「地獄の門」』

寺山修司だったら今の世界でなにをして、なにを言っただろうか。

—「市街劇」という方法を選んで『新芸術祭』に実装した目的はどこにあったのでしょう?

黒瀬:被災地の街を想像力によって現実から逸脱させる、という僕のビジョンと、寺山修司の「市街劇」のコンセプトが重なることに気がついたんです。寺山を「死んだ前衛」ではなく、現在まさに求められているアクチュアルな前衛として復活させようと思い、オマージュの形を取りました。

寺山は、1983年5月4日に肝硬変で亡くなっていますが、もし寺山が病気をしていなければ、今もこの世界でTwitterやニコ生をやっていただろうし、僕はそれにクソリプを飛ばしていたかもしれない(笑)。寺山だったら今の世界でなにをして、なにを言っただろうか、そういうことを定期的に考えてしまうような存在です。僕にとって寺山は、一度も会ったことが無いし、絶対に会えない存在であるにもかかわらず、常にその「声」を聞こうとしてしまう「死者」のひとりだったんです。

黒瀬陽平

市街劇『怒りの日』地図(デザイン:藤城嘘) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」』で参加者に配布された市街図。寺山修司の市街劇でも同様の市街図が制作されていた
市街劇『怒りの日』地図(デザイン:藤城嘘) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」』で参加者に配布された市街図。寺山修司の市街劇でも同様の市街図が制作されていた

—黒瀬さんのビジョンと寺山修司の「市街劇」は、どんな部分が共通しているのでしょうか?

黒瀬:寺山が1970年代初頭に編み出した「市街劇」は、想像力によって歴史を書き換える、現実を再組織化する、と宣言していました。突然、現実の街頭で同時多発的に起こるパフォーマンスのネットワークによって、まるで「AR(拡張現実)」のように別のレイヤーが重ね合わされ、想像力によって現実が書き換えられる。これは「現実否定のモメント」から始まった表現の一形式だと思ったんです。

震災後にフィールドワークを重ねてきて、ちょうど街を歩く巡礼のような表現形式や体験の設計に興味が湧いていたこともあって、「市街劇」を被災地でやればどうなるか、という実験をしたくなった。

カオス*ラウンジで行ってきたインスタレーションを街に拡張して、作品を見て回る順番やロケーション、物語や意味が全体で有機的に設計されている展覧会。それを自分なりの「市街劇」として行ったのが、『新芸術祭』なんです。

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』 / 市街劇の順回路のひとつになっていた、住宅地に突如現れる無縁仏が集められた空き地
『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』 / 市街劇の順回路のひとつになっていた、住宅地に突如現れる無縁仏が集められた空き地

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イベント情報

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』

2017年12月28日(木)~2018年1月28日(日)
主催:合同会社カオスラ
会場:福島県 いわき市 zitti

プロフィール

黒瀬陽平(くろせ ようへい)

1983年、高知生まれ。美術家、美術評論家。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。『思想地図』公募論文でデビュー。美術からアニメ・オタクカルチャーまでを横断する鋭利な批評を展開する。また同時にアートグループ「カオス*ラウンジ」のキュレーターとして展覧会を組織し、アートシーンおよびネット上で大きな反響を呼ぶ。著書に『情報社会の情念 —クリエイティブの条件を問う』(NHK出版)。

カオス*ラウンジ

ネットを中心に活動するアーティストたちが集まる、カオス*ラウンジ。2008年にアーティストの藤城嘘が展覧会&ライブペイント企画として立ち上げたところからはじまり、2010年から黒瀬陽平がキュレーターとして参加して以降、さまざまなプロジェクトを展開し、日本現代美術の歴史や文脈に対する批評的な活動で議論を呼んできた。

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