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伊藤郁女が父を想う。言葉がなくても見つめるだけで距離は縮まる

伊藤郁女が父を想う。言葉がなくても見つめるだけで距離は縮まる

伊藤郁女『私は言葉を信じないので踊る』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:川浦慧

いろんな質問を繰り返すよりも、手を握り合うとか、見つめ合うだけで、言葉以上の答えが得られたりする。

—どんな瞬間に「似てる」と感じますか?

伊藤:シンプルなことからいろんなイメージを湧き立たせるのが好きだとか、黒一色のなかに、もっと繊細な黒のバリエーションを見つけだせるとか。あとはやっぱり笑いのツボが似てるかな。

—本作に郁女さんが寄せた制作ノートの最後に「なぜなら私も父も、言葉を信じないからです。」という一文がありますが、言葉への感性も近い?

伊藤:そう思います。言葉を交わして対話しなくても、私の声を聞いたり、動作を見ているだけで、2人のあいだにある距離がなくなって、理解し合えるようになることってあるじゃないですか。いろんな質問を繰り返すよりも、手を握り合うとか、見つめ合うとか、一緒に踊るだけで、言葉では得られない以上の答えが得られたりする。あるいは、その感覚自体が答えとして納得できるものになりうる。

—言葉を交わすよりも、一緒に踊ることの方が互いを理解し合える。

伊藤:父は、昔舞台の演出家をやっていたことがあるんです。そこで、ある一人の女優さんに「もうちょっと詩的にやってください」ってお願いしても、「詩的」という言葉が通じなかったそうなんです。父にとって詩的というのは歌と人間的なものが混ざった、大切な言葉だったのに、女優さんから返ってきたのは「もう(詩的に)やっています」という言葉だった。

人間は言葉を使ってコミュニケーションしているけれど、それがきちんと相手に伝わるまでには辛抱が必要で、そのプロセスで諦めなきゃいけないことも多すぎて、限界がある。それで父は舞台の仕事を辞めて、彫刻を始めたんですよ。

伊藤博史 © Gregory Batardon
伊藤博史 © Gregory Batardon

—彫刻家になるきっかけの一つが「言葉」だったんですね。

伊藤:自然にある石や木って、叩いて砕いたり、乾かさなきゃいけなかったり、とても現実的な素材ですよね。それは言葉っていう膜に巻かれる以前の存在で、そういうものと仕事をしたかったと父は言うのですが、それは私にもよくわかることでした。

昔から、私は喋るのがあまり得意ではなくて、踊りだったら大丈夫かなと思ってダンスを始めて、それが海外に移住するきっかけになった。それでニューヨークでは英語、フランスではフランス語を使いはじめわけですけど、国が変わるたびにわかっていた言葉がリセットされて、言葉によるコミュニケーションができなくなる。そうすると最初は音楽のように言葉を聴いたり、イントネーションやジェスチャーから人の気持ちを読み取ろうとする。それはとても大変なことなんですけど、言葉の周りにあるものを一生懸命読み取りながら、意味を感じようとするプロセスが、振付のもとになっていったりする。

言葉よりも信頼できるものがあることで、感性が鋭くなり、それがダンスや彫刻のなかに現れる。そういうところに親子2人の人生観みたいなものが重なってくるんです。

『私は言葉を信じないので踊る』の様子 © Gregory Batardon
『私は言葉を信じないので踊る』の様子 © Gregory Batardon

—『私は言葉を信じないので踊る』では、郁女さんが博史さんの作った彫刻と踊るような時間がありますね。逆に博史さんが自分の彫刻と踊るような瞬間もある。彫刻を通して相手や自分を知ろうとする手触りのあるシーンです。これは本当に言葉を使わない対話だなあ、と思いました。

伊藤:この作品を続けるなかで私たちが思っているのは、踊りながら、同時に「さよなら」を言っているんだ、とうことです。この作品が終わったら、父はまた日本に帰るし、私はヨーロッパに残る。そういう意味で、2人のなかでちゃんと別れを言う。そういう作品になってますね。悔いのない別れを言うための作品。

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イベント情報

『私は言葉を信じないので踊る』

テキスト・演出・振付:伊藤郁女
出演:
伊藤郁女
伊藤博史
舞台美術:伊藤博史

さいたま公演
2018年7月21日(土)、7月22日(日)全2公演
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
料金:一般4,000円 U-25券2,000円 メンバーズ一般:3,600円

豊橋公演
2018年7月27日(金)、7月28日(土)全2公演
会場:愛知県 豊橋 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
料金:一般3,000円、U24 1,500円、高校生以下1,000円

金沢公演
2018年8月4日(土)、8月5日(日)全2公演
会場:石川県 金沢21 世紀美術館 シアター21
料金:一般3,000円、大学生以下1,500円、一般ペア5,500円
※友の会会員・障がい者割引は、一般2,700円、大学生以下1,300円

プロフィール

伊藤郁女
伊藤郁女(いとう かおり)

東京生まれ。5歳よりクラシックバレエを始め、20歳でニューヨーク州立大学パーチェスカレッジへ留学後、立教大学で社会学と教育学を専攻。その後、日本政府より奨学金を得て再びニューヨークに渡米。アルビン・エイリー・ダンスシアターにて研鑽を積む。2003~05年文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。フィリップ・ドゥクフレ『Iris』のダンサーに抜擢される。プレルジョカージュ・バレエ団に入団し、アンジュラン・プレルジョカージュ『les 4 saisons』に参加。2006年、ジェイムズ・ティエレ『Au revoir Parapluie』で踊り、2008年シディ・ラルビ・シェルカウイ『Le bruit des gens autour』の作品にアシスタントとして参加。シェルカウイとは、ソリストで参加したギィ・カシアスのオペラ『House of the sleeping beauties』で再び創作を共にする。同年、自身初となる作品『Noctiluque ノクティリュック』をヴィディ・ローザンヌ・シア ターで創作。2009年マルセイユのメラン・ナショナルシアターで『SOLOS』を発表。アラン・プラテルと共演した『Out of Context』はダンストリエンナーレトーキョー2012でも上演された。2013年、カンパニーles ballets C de la Bプロデュースによる、4作目となる『Asobi』を創作。2014年オリヴィエ・マルタン・サルヴァンと『La religieuse à la fraise』を創作、アヴィニヨン演劇祭とthe Paris Quartier d’été Festivalに参加。2015年SACDより新人優秀振付賞を、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受賞。2018年、新作『ROBOT, L'AMOUR ÉTERNEL』を発表、ヨーロッパ各地で好評を博す。

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