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伊藤郁女が父を想う。言葉がなくても見つめるだけで距離は縮まる

伊藤郁女が父を想う。言葉がなくても見つめるだけで距離は縮まる

伊藤郁女『私は言葉を信じないので踊る』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:川浦慧

泣くって愛情の始まりなんじゃないでしょうか。

—ところで立ち入った質問かもしれないのですが、郁女さん、お子さんはいますか?

伊藤:息子がいます。いま、ちょうど8か月かな。

—今回は父と娘のダンスでしたが、何十年後かに郁女さんと息子さんが踊ることもありえるでしょうか?

伊藤:(笑)。そのことはみんなによく言われますね。父とこの作品を創った後に、今度は私のパートナー、それと私の元カレについての作品を発表したんです。さらにその後、ちょうどいまツアー中の新作がアンドロイドを題材に、私自身をテーマにした内容なんです。

これらはある意味でトリロジー(三部作)になっていて、自分の人生や孤独に関する思考を共通のテーマにしています。アーティストって、レジデンスや上演に合わせて国内外のいろんな土地を飛び回って、いろんな人に会って、そして別れる、ってプロセスを繰り返す人生です。そのサイクルのなかで、ふと「ここで自分が死んじゃったらどうなるんだろう」とか考えることが多くなって、それがこのトリロジーにつながっている。

特に新作は、精巧なアンドロイドが人間のマネをしている様子をさらにマネするという内容なのですが、そこには自分の分身、自分の子どもへの意識があるように思います。

伊藤郁女 © Gregory Batardon
伊藤郁女 © Gregory Batardon

—じゃあ、いつか息子さんとの共演もあるかも?

伊藤:それが彼の人生にとってよいものになれば、ですね。とりあえず、押し付けはしないようにしないとって思ってます。

—お母さん目線ですね(笑)。『私は言葉を信じないので踊る』に始まったトリロジーは、ファミリーストーリー、個人的な歴史に眼差しを向ける内容ですよね。郁女さんの関心も、そちらに向いているのでしょうか?

伊藤:今まで発表してきた作品は、多くの人に向けてダイナミックに踊るものが大半でした。つまり、技術のしっかりしたダンサーがパーフェクトに踊るっていうものを私はずっとやってきました。

でも自分のカンパニーを作ったときに、さらにそれを追求するんじゃなく、自分の個人的な経験を人に話すことで、他の人とどうやってつながっていくかということにすごく興味があったんです。

『私は言葉を信じないので踊る』が扱う父と子の関係って、全員が無縁ではないじゃないですか。それを語ることで、観客ともつながれたっていう実感を強く持てたっていうのは、お客さんや友人からもらう感想から特に感じます。「私の場合はこうでした」とか「私はお父さんとそういう話ができなくて、もう遅いんですけど」とか、いろんな話が返ってきます。

© Gregory Batardon
© Gregory Batardon

—上演時の観客のみなさんの反応はどのようなものですか?

伊藤:ヨーロッパだと、本当に全員がいっせいに泣くシーンがあるんですよ。それこそ、笑いながら泣いて、泣きながら笑ってくださるんですけど、まるで知らない人たちが、私と父の個人的な話を通して感動してくれるのは不思議でありつつ、嬉しいことでもありますね。

思うんですけど、泣くって愛情の始まりなんじゃないでしょうか。1歳くらいの頃の記憶で、父に近くに来てほしくって、わざと私が泣いていたのを覚えてるんですよ。そうやって泣き止まずにいると、父は私を外に連れ出して一緒に星空を眺めるんです。私はそれがとても好きで泣いていたんですね(笑)。大げさな言い方ですけど、「愛の歴史がそこから始まったんだ」という気がします。

—普遍性のある経験だからこそ、多くの人が反応するんでしょうね。

伊藤:そうかもしれないです。先日、カリブ海の島で公演したんですけど、みなさん最後はスタンディングオベーションでした。お父さんはびっくりして「郁女、あれはお前の仕込んだ客か?」って疑ってましたけど(笑)。

—しみじみ思うのですが、お父さん、可愛いですよね!

伊藤:そうなんですよ(照)。

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イベント情報

『私は言葉を信じないので踊る』

テキスト・演出・振付:伊藤郁女
出演:
伊藤郁女
伊藤博史
舞台美術:伊藤博史

さいたま公演
2018年7月21日(土)、7月22日(日)全2公演
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
料金:一般4,000円 U-25券2,000円 メンバーズ一般:3,600円

豊橋公演
2018年7月27日(金)、7月28日(土)全2公演
会場:愛知県 豊橋 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
料金:一般3,000円、U24 1,500円、高校生以下1,000円

金沢公演
2018年8月4日(土)、8月5日(日)全2公演
会場:石川県 金沢21 世紀美術館 シアター21
料金:一般3,000円、大学生以下1,500円、一般ペア5,500円
※友の会会員・障がい者割引は、一般2,700円、大学生以下1,300円

プロフィール

伊藤郁女
伊藤郁女(いとう かおり)

東京生まれ。5歳よりクラシックバレエを始め、20歳でニューヨーク州立大学パーチェスカレッジへ留学後、立教大学で社会学と教育学を専攻。その後、日本政府より奨学金を得て再びニューヨークに渡米。アルビン・エイリー・ダンスシアターにて研鑽を積む。2003~05年文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。フィリップ・ドゥクフレ『Iris』のダンサーに抜擢される。プレルジョカージュ・バレエ団に入団し、アンジュラン・プレルジョカージュ『les 4 saisons』に参加。2006年、ジェイムズ・ティエレ『Au revoir Parapluie』で踊り、2008年シディ・ラルビ・シェルカウイ『Le bruit des gens autour』の作品にアシスタントとして参加。シェルカウイとは、ソリストで参加したギィ・カシアスのオペラ『House of the sleeping beauties』で再び創作を共にする。同年、自身初となる作品『Noctiluque ノクティリュック』をヴィディ・ローザンヌ・シア ターで創作。2009年マルセイユのメラン・ナショナルシアターで『SOLOS』を発表。アラン・プラテルと共演した『Out of Context』はダンストリエンナーレトーキョー2012でも上演された。2013年、カンパニーles ballets C de la Bプロデュースによる、4作目となる『Asobi』を創作。2014年オリヴィエ・マルタン・サルヴァンと『La religieuse à la fraise』を創作、アヴィニヨン演劇祭とthe Paris Quartier d’été Festivalに参加。2015年SACDより新人優秀振付賞を、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受賞。2018年、新作『ROBOT, L'AMOUR ÉTERNEL』を発表、ヨーロッパ各地で好評を博す。

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