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市原えつこが考える、テクノロジーを用いた新しい「弔い」の形

市原えつこが考える、テクノロジーを用いた新しい「弔い」の形

スパイラル『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:佐藤麻優子 編集:宮原朋之

亡くなった人物が家庭用ロボットに「憑依」し、四十九日を迎えるまで家族と過ごす『デジタルシャーマン・プロジェクト』。敬虔な宗教人でもマッドエンジニアでもない東京の女性アーティストによる同作品は、世界的なテクノロジーアートアワード『アルスエレクトロニカ』で、今年の佳作・栄誉賞に選ばれた。

今、テクノロジーは、これまで縁遠かった人間の根源的営みとも融合し始めている。メディアアーティスト・市原えつこは、近未来の召喚者のごとく、弔いから民間伝承まで多様な儀式(セレモニー)を、テクノロジーでユーモラスにとらえ直す。まもなく始まる、ミレニアル世代の女性作家グループ展『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』を前に、彼女が持つ世界観を聞いた。

「弔う」という行為の新しい形はあり得るだろうか?

—まず、『デジタルシャーマン・プロジェクト』とは何か、教えていただけますか?

市原:人型ロボットのPepperを使った、現代の「新しい弔いの形」の提案です。まず生前インタビューを通じて、その人の人格、3Dプリントした顔、口癖、しぐさを記録しておき、死後にその痕跡をロボットへとインストールして「憑依」させます。

これは49日間だけ出現した後、自然消滅する仕組みです。高度化していくAIや音声合成技術を取り入れながら、実際のサービス化を目指せたらと思っています。

市原えつこ
市原えつこ

—宗派によって異なる考え方もありますが、仏教での「四十九日」は魂が冥途へ旅する期間で、これを区切りに供養の儀式が行われますね。故人を送り、残された人が前に進むための時間ともいえますが、なぜ「四十九日」に注目したのでしょうか。

市原:『デジタルシャーマン』が生まれた大きなきっかけは、数年前に自分の祖母が亡くなったことです。おばあちゃん子だった私は、敬虔な仏教徒だった祖母に連れられて、お寺によく行っていました。でもずっと、ああいう宗教的営みに何の意味があるんだろうと不思議に思っていたんです。

『デジタルシャーマン・プロジェクト』Photo: Masashi Kuroha
『デジタルシャーマン・プロジェクト』Photo: Masashi Kuroha

—それが、おばあちゃんの他界を通じて変化した?

市原:最初は、彼女の死をどう受け止めたらよいかわからず、混乱しました。大切な人がこの世からいなくなる経験が、まだほとんどなかったんです。

でも、お葬式で綺麗に死化粧されたおばあちゃんに献花して、遺体を火葬し、お骨を拾う時に親族一同で号泣して……、さらにその後、お寿司を食べながらみんなが笑いあう場面もあったり。そのプロセスを通じて、なんとなく祖母の死を受け入れられた感覚があったんです。

『デジタルシャーマン・プロジェクト』でロボットの顔に取りつける3Dプリンタで出力した顔
『デジタルシャーマン・プロジェクト』でロボットの顔に取りつける3Dプリンタで出力した顔

—信仰の深さとはまた別に、ということですか。

市原:そうですね。「弔う」という行為に不思議な合理性を実感した出来事でした。巨大なお墓を作っていた古墳時代から現代の今でも、人間がずっと大切にしてきたもので、社会から切り離せないのだと思うようになった。では、その新しい形はどうあり得るだろうか? そういうことを考えたのが、このプロジェクトの原点です。

「ナマハゲ」はシステムとしてよくできていて、だから今でも残っている。

—続く作品『都市のナマハゲ』は、そうしたことが発展して、地方の民間伝承にも興味がわいたということでしょうか?

市原:『デジタルシャーマン』で1年ぐらいずっと人の死を考え続けていた反動で、生命力ある祭りみたいなものに惹かれた、ということもあります。フランスのアーティスト、シャルル・フレジェが日本の仮面神や鬼たちをとらえた展覧会『YÔKAÏNOSHIMA』(銀座メゾンエルメス フォーラム、2016年)も刺激になりました。

そこで、実際に200年以上伝承された「ナマハゲ行事」が重要無形民俗文化財になった秋田県男鹿市を、共同制作をさせて頂いたISIDイノラボ(電通国際情報サービスの研究開発組織)の皆様と一緒に訪ねました。詳しくお話を聞くと、これもシステムとしてよくできていて、だから今も残っていると思ったんです。

—ふつうナマハゲは大晦日に現れ、怠け者を戒めて、無病息災や豊作・豊漁をもたらすと言われますね。

市原:はい。男鹿市では、何事も集落が基本単位で、ナマハゲ行事の時も村の若者がナマハゲに扮して「怠け者はいねえが~?」と一軒ずつ回っていく。じつはこのことが、集落の戸籍の確認も兼ねているようなんです。家ごとにどんな家族構成で、この1年どういう行いをしていたか、行く先々で家主にインタビューをした内容を記録している「ナマハゲ台帳」という概念もありました。

—家庭状況調査員として、ナマハゲが存在していた?

市原:木製の出刃包丁を持って、あの詰問口調なので特殊なインタビュアーですけどね。でも、家族はそれを隠れた場所から見て、恐いナマハゲから自分たちを守ってくれる父親を知ることにもなる。怪しい人が地域に紛れこんでいないかなど、治安維持の機能や、子供のしつけにもつながっていたり、かなり合理的で政治的でもあるんです。

市原えつこ

—『都市のナマハゲ』は、そんなナマハゲがもし現代の東京に現れたら……を映像化した作品ですね。

市原:この作品は、私の妄想を半ばむりやり様々な分野のクリエイターの皆様に映像化して頂いたところもあります。あの仕組みを東京に移植することを考えた時、まず民家に「押し入る」のは難しそうなので、やっぱり監視インフラやSNSを使うよね、とか。おそらく、血縁や地縁が薄くなる代わりに、興味や関心でつながるネットワークが強そうですよね。

ナマハゲって土地ごとに本当に多様な姿があるので、作中でも秋葉原ではVRゴーグルや電子パーツを、巣鴨では赤パンツ(街の名物商品で、病気よけや運気向上に効くとされている)をまとわせています。

—メディアアーティストに、こうも熱くナマハゲを語られるとは思いませんでした。

市原:今後は、映像作品を超えて、何かの形で現実社会に提案できたらと思っています。今、来訪神(年に一度、決まった時期に人間の世界に来訪するとされる神)をモチーフにした新しいセレモニー的なイベントを実現できないかと、いろんな方々に相談しているところです。

『都市のナマハゲ』Photo: Kenji Watanabe
『都市のナマハゲ』Photo: Kenji Watanabe

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イベント情報

『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』

『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』

会期:2018年7月19日~8月5日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)

画像:(左上)久保寛子『土頭(つちあたま)』(右上)市原えつこ『デジタルシャーマン・プロジェクト(左下2点) スクリプカリウ落合安奈『KOTOHOGI』(右下)桝本佳子『橘/皿』

久保寛子 作品公開制作

日時:2018年7月18日(水)11:00~20:00
会場:東京都 表参道スパイラルガーデン(スパイラル1F)
申込不要、観覧無料

市原えつこ トーク「日本の弔い、祭、儀式のリデザイン」&「顔面3Dスキャン体験」

日時:2018年7月28日(土)14:00~15:30
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)
申込不要、参加無料

参加型盆踊りパフォーマンス『OBAKE音頭』

日時:2018年7月22日(日)14:30~(1時間程度を予定)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)
出演:快快-FAIFAI-
音楽:山中カメラ
申込不要、参加無料

プロフィール

市原えつこ(いちはら えつこ)

メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス『セクハラ・インターフェース』、虚構の美女と触れ合えるシステム『妄想と現実を代替するシステムSRxSI』、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる『デジタルシャーマン・プロジェクト』等がある。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、総務省異能vation(独創的な人特別枠)採択。2018年に世界的なメディアアート賞であるアルスエレクトロニカInteractive Art+部門でHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。

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