生活のふとした一瞬を捉える 鳥頭(バードヘッド)インタビュー

上海生まれ、上海育ちのアートユニット鳥頭(バードヘッド)。ときに愛情を注ぎ、ときに客観的なまなざしで上海の街や人間の変化を見続けてきた。自分たちの身近な存在にカメラを向け、めまぐるしい発展を遂げる上海のノンフィクションを写真で発信。「八〇後」(中国で1980年代に生まれた世代の通称)世代のふたり、ソン・タオ(SONG Tao)とジ・ウェイユィ(JI Weiyu)が何を想い、いかに写真と向き合っているのか、リアルな声を聞いた。

ふたりで同じ方向を向いて進んでいく、それが面白いんです

─今年の『アーティスト・ファイル2011』の出展アーティストのなかでは唯一のアートユニットでもあるわけですが、鳥頭(バードヘッド)というユニット名の由来を聞かせてください。以前、あるインタビューの中で「普通の回答とふざけた回答、2種類の回答がある」と答えていましたが。

S:そうですね。まず、「なぜユニット名が鳥頭(バードヘッド)というのか?」という質問でしたが、それでは「なぜRADIOHEAD(中国語で収音機頭)という名前なのか考えたことがありますか?」ということです。これがふざけた回答です(笑)。また普通の回答ですが、ユニットを組み始めたころ、フィルムで撮影した作品をスキャンしてパソコンに取り込み、フォルダの中に保存するという作業をしていました。そのフォルダに何か名称をつけようと適当に打ち込んだときに出てきたのが「鳥頭」という文字だったというわけです。

生活のふとした一瞬を捉える 鳥頭(バードヘッド)インタビュー
右:ソン・タオ(S)

─中国では、ユニットとして作品を創作し発表するという形式を取っているアーティストはまだ少ないと感じているのですが、なぜユニットとして活動をするのでしょうか。ひとりでの活動と何か大きな違いはありますか?

J:全然違うと思いますね。

S:そうですね、全然違いますね。都合がいいときもあれば、結構面倒なときもありますけどね(笑)。ひとりでの活動だと、自分がこれで「OK」と思ったらそれでOKなんです。「NO」と思ったらNO。自分ひとりで処理をするわけです。それがふたりでの活動となると、自分自身に向き合うだけでなく相手とも向き合わなければならない。互いに相手の気持ちや考えをくみ取る必要が出てきます。もちろん、意見の相違や衝突はありますが、ふたりで同じ方向を向いて進んでいくというのはとても面白いと感じています。

バードヘッド《無題》2009年
バードヘッド《無題》2009年

─先ほど展示作品を拝見しましたが、写真の配列やレイアウトはふたりで相談しながら決定したのですか?

S:自分たちの感情のままにレイアウトを組みました。言葉で表現するのは難しいのですが、作品を見た人それぞれが思い思いに感じ取ってくれたらいいですね。それが、まさに私たちの表現したいことでもあります。

─モノクロとカラーの写真が展示されていますが、撮影する時、モノクロ、カラーと意識するのでしょうか?

J:その時によって違いますが、「この被写体にはモノクロの方がいいな」「カラーがいいな」と使い分けて撮影する場合もあります。

S:モノクロのフィルムが入っていると思って撮影し、プリントしてみたらカラーだったという意外性が出たこともありましたね(笑)。

2/4ページ:1枚の写真を深く掘り下げるのではなく

1枚の写真を深く掘り下げるのではなく

─おふたりのバックグラウンドにも触れていきたいのですが、カメラに興味を持ち始めたのはいつですか?

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ジ・ウェイユィ(J)

J:幼い頃から興味はあったのですが、カメラは高額でしたのでなかなか手にすることはできませんでした。高校に入学してから、伯父が買ってくれました。それが初めてのカメラです。

S:初めて手にしたのは、大学のときに父が買ってくれたカメラでした。ただ、その時は使い方がわからず、そのままにしていたんですよね(笑)。今もそのカメラがどこにあるのかわかりません。初めて使ったのは、ジ・ウェイユィがイギリスに留学する前にくれたカメラでした。父が買ってくれたカメラよりも断然性能がよく、簡単に使えましたね。

─好きな写真家やアーティストはいますか?

S:荒木経惟ですね。1997年か1998年だったと思うのですが、上海でアラーキーの写真展が開催されたんです。その会場に見に行き、はじめて彼の作品に触れました。

J:私はその写真展は見なかったのですが、もちろん彼のことは知っていました。「写真を撮る」とはどういうことなのかとてもよく分かっている人だと思いますね。

S:私たちの「写真」に対する考えとアラーキーの「写真」に対する考えは似ているような気がします。私たちはある1枚の写真を「ああだ、こうだ」と深く掘り下げたいとは思わないんですよね。その点はあまり重視していません。

J:「ドレミファソラシド」で考えると分かりやすいかもしれません。ドが1枚の写真、レが別の1枚の写真。

S:そうですね、音楽で例えるのが適切かもしれません。ドはドというひとつの音でしかないけれど、ドレミファソラシドにリズムとメロディーが加わることですばらしい曲が完成します。私たちの写真もそれと同じことなんです。

生活のふとした一瞬を捉える 鳥頭(バードヘッド)インタビュー

─おふたりとも今日もカメラをお持ちですが、外出するときは常にカメラを携帯しているのですか?

J:持ち歩きますね。ふたりで一緒に撮影にいく場合もあれば、各自それぞれがカメラを持って外出するという場合もあります。

─テーマを設定してから撮影するということもありますか?

S:明確に決めているわけではないのですが、ある程度テーマを設定してから撮影することもあります。私たちの作品は展示という形式だけでなく、例えば、フレームに入れた何枚かの写真を箱の中に詰め、インスタレーションのようにして見せたり、写真集という形で見せたり、様々な手段で発表しています。

3/4ページ:生活の中の小さな「点」を捉えているだけ

生活の中の小さな「点」を捉えているだけ

─今回の展示作品もそうですが、これまでの作品も全て上海でのおふたりの身近な人物や出来事を被写体にしていますよね。生活の一部に焦点をあてているわけですが、それはなぜでしょうか?

J:友人や自分の身近な存在なのでカメラに収める、ただそれだけです。特別な意味はないですね。

─作品にストーリーはあるのでしょうか?

S:誰もが持っているストーリーとそんなに変わらないと思います。例えば、朝、家を出て駅まで向かう。路上で冷たい風が吹く。「あ、マフラー忘れた」と思う。「夏が終わりもう秋なんだ」と感じる。誰もがその一瞬、一瞬で感じることがあると思うんですよね。私たちはそれらを記録し、生活の中の小さな「点」を捉えているだけなんです。

バードヘッド《無題》2009年
バードヘッド《無題》2009年

─カメラというツールを使って日常を記録しているんですね。

S:そうですね。例えば、今あなたはペンというツールを使ってこのインタビューを記録していますよね。同じことです。

─上海以外で撮影した作品はないのですか?

S:作品として発表しているのは全て上海で撮影したものばかりです。もちろん、北京やヨーロッパなど上海以外の都市で撮影した写真もありますが、まだ「作品として発表」というはっきりとした考えが固まっていないんですよね。今後、チャンスがあれば発表していくと思います。

バードヘッド《無題》2005年
バードヘッド《無題》2005年

─おふたりは大学のときに知り合い、2004年に鳥頭(バードヘッド)としての活動をスタートさせたわけですが、知り合ってから10年以上が経ちますね。その10数年のあいだでカメラや写真に対する考え方には変化があったことと思いますが。

J:もちろんありますね。ただ、急激な変化というのではなく、徐々に変化してきたと言えると思います。年齢を重ねるにつれ、やはりカメラや写真に対する考えにも変化が出てきますよね。

S:意外にその時々ではその変化に気がつかないんですよね。例えば、ある女性と付き合う。その女性と別れて、別の女性と付き合う。その後、また別の女性と付き合う。数人の女性とのお付き合いを経て、女性に対する考え方に変化が出てくる。女性ってどんな生き物なんだろう、写真やカメラって一体なんなんだろうと。それと同じことです。

4/4ページ:刺激的で狂っている、上海という街

刺激的で狂っている、上海という街

─作品の中に時代の空気は取り込んでいますか?

S:私たちはふたりとも上海生まれ、上海育ちの上海人なので、自分たちの街の変化は常に気にしてきましたね。その街の変化をダイレクトに取り込んできました。

J:そのような変化には、ごく自然にカメラを向けてきたという感じですね。

S:例えば去年、上海万博が開催されましたが、そのときジ・ウェイユィは街中に設置されていた万博のマスコットを撮影しました。植物で飾られたマスコットのオブジェがあったのですが、誰も手入れをしないので、今では髭が生えた怪物みたいになっていますよ(笑)。まるで宮崎駿の映画に登場するキャラクターのように。上海に戻ったらまた撮影しないと。暖かくなって、植物がさらに育って、すっかり変わりはてた姿になっているかもしれません。

J:どこに設置したのか分からなくなって、誰からも手入れされず忘れられてしまったのでしょうね(笑)。

─そのおふたりが生まれ育った上海ですが、おふたりから見た上海はどんな街ですか?

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J:刺激的だよね。

S:そうだね。上海だけでなく、中国全体が刺激的ですね。マンションやガソリンの価格が異常なほど値上がったり。

J:古い建物を壊して新しい建物を建てる。新しい建物が建ったと思ったら、またその建物を壊し新たに建て直す。それの繰り返し。道路の補修がされたと思ったら、元に戻し、また補修しては元に戻す(笑)。

S:ちょっと狂っているかもね(笑)。

自分たちが変化することで、新たな可能性が生まれる。そう考えただけでわくわくします

─日本人と接してきて、どのような印象を持っていますか?

S:物事の進め方が非常にロジカルで、一歩一歩着実に進めていると感じましたね。初めて日本人とやり取りをしたときは、あまりにゆっくり進めるのでイライラしました。でも、彼らのやり方を理解するにつれ、すばらしいと思うようになりました。というのも、自分が必要とする結果をしっかりと提示してくれるからです。中国では物事は早急に進むのですが、最終的に出た結果は自分たちが求めたものではないという場合が多々あります。結果じたいが出ないことも多いですしね。しかも、相手はなぜ結果が出ないのか、出せないのか教えてくれないとかね(笑)。

バードヘッド《無題》2009年
バードヘッド《無題》2009年

J:私たちが中国で仕事をしていて感じることですが、ほとんど結果が出ず、原因も明確にされないというケースが50%。

S:結果は出るけど自分が求めていた結果ではないケースが50%。あと、欧米の人たちより日本人と接するほうが楽ですね。同じアジア人ですから。習慣など細かい点で違いはあっても、お互いに理解できれば結構簡単に受け入れることができます。


─ソン・タオさんは1979年生まれ、ジ・ウェイユィさんは1980年生まれですが、中国では80年代後半から日本のアニメがテレビで放送されたり、中国語に訳された日本の漫画が売られたり、日本の文化はとても身近な存在のようですね。

S:はい。子どものころからよく日本のアニメや漫画を見たり、ゲームをしたりしていましたね。

J:ですから、私たちの世代の中国人は日本の文化やサブカルチャーの影響を強く受けていますよ。

S:日本に来てアニメやゲーム、コスプレなどに触れても全く違和感を感じないんですよ。最近は小津安二郎監督や黒澤明監督の映画も好きですし、日本の伝統文化、例えば着物とか陶器とか浮世絵などにも強く惹かれますね。

生活のふとした一瞬を捉える 鳥頭(バードヘッド)インタビュー

─それでは、今、特に関心のあることはなんですか?

S:ジ・ウェイユィも私も変化を繰り返しているわけですが、その変化によって今後の活動に新たな可能性が生まれたら…と考えただけでもわくわくしますね。それは今一番気になることでもあります。

J:私もソン・タオが言ったことと同じで、この先どのような新しいものが生まれるのか気になりますね。

─今後の予定を教えて下さい。

S:年内に新たな写真集を出版予定です。

J:写真集は、私たちの仕事をアウトプットするのに最も適したメディアだと思っています。展示という形式よりもさらに多くの人に伝達することができますからね。

─では最後に、日本の同世代の方たちにメッセージをお願いします。

S:ジ・ウェイユィの友達が言った一言がとても印象に残っています。「そんなにきれいな風景なら見ていればいいじゃん。そんなにきれいなモデルがいるなら関係を持っちゃえばいいじゃん。そんなにいいカメラがあるならネットで売っちゃえばいいじゃん」、この一言を送ります。

イベント情報
『アーティスト・ファイル2011 ―現代の作家たち』

2011年3月16日(水)~6月6日(月)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 企画展示室2E
時間:10:00~(閉館時間については美術館に直接問い合わせ、入場は閉館の30分前まで)

出品作家:
クリスティン・ベイカー
バードヘッド
タラ・ドノヴァン
岩熊力也
鬼頭健吾
松江泰治
ビョルン・メルフス
中井川由季

休館日:火曜(5月3日(火・祝)、5月10日は開館)
料金:
一般当日1,000円 前売800円
学生当日500円 前売300円

プロフィール
BIRDHEAD (鳥頭)

ソン・タオ SONG Tao(1979~)上海(中国)に生まれる。現在、上海在住。ジ・ウェイユィ JI Weiyu(1980~)上海(中国)に生まれる。現在、上海在住。バードヘッドは、上海美術工芸学校出身のソン・タオとジ・ウェイユィによって、2004年に結成されたユニット。2005年から本格的に活動を開始し、中国を拠点に様々な展覧会に参加する。2007年には作品集『Birdhead 2006 Album』を発表。1980年代の改革開放政策以降、近代都市へと急激な変貌を遂げた上海の日常生活を、簡易なカメラで撮影するバードヘッド。「都市」が内包する混沌としたエネルギーとそこに暮らす若者たちの戸惑いや孤独をテーマに、中国の現状を素直に現している点が高く評価されており、近年は中国国内だけでなく欧米にも活躍の場を広げている。



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