『TOKYO DESIGNERS WEEK2013』で建築家・平田晃久が提案する、デザインの枠組みを変える方法

連日、数多くのクリエイターやデザイナー、学生たちが足を運び、11月4日に閉幕した『TOKYO DESIGNERS WEEK2013』(以下『TDW』)。世界中から有名企業やデザインオフィス、ショップ、学校などがブースを出展し、次世代のデザインを提案した。そんな中、「LEXUS」のブースにおいて、『ベネチア・ビエンナーレ国際建築展』でも金獅子賞を受賞している建築家・平田晃久のトークショーが開催された。

「デザインを通じてライフスタイルをより豊かに変えていきたい」というテーマのもと、国際的なデザインコンペティション『LEXUS DESIGN AWARD』などを開催しているLEXUS。平田は、今年春に開催された『ミラノ・デザインウィーク』のLEXUS会場において、インスタレーション作品『-amazing flow-』を発表。330平方メートルの巨大展示空間に現れた、高さ5.5メートルのまさに「AMAZING」なインスタレーションは大きな反響を呼び、地元新聞の「注目のTOP10インスタレーション」にも選出されるなど、好評を博した。

『amazing flow』
『amazing flow』

そんな成功を収めた平田が若手デザイナーたちに向けて語ったトークショーでは、この作品の話を中心に、デザインの本質に踏み込む内容となった。

『-amazing flow-』を制作する発端は、LEXUSから平田への「今までのLEXUSの展示とは違うものにしたい」というオーダーだった。過去5年間にわたって『ミラノ・デザインウィーク』に出展してきたLEXUS。これまでは、新型車を展示しながら、関連したインスタレーションなどを展示してきたものの、今年からはガラっと趣向を変え、LEXUSの背景にある「世界観」の展示に重点を置くものとなった。平田はそのときのことを振り返って言う。

「LEXUSなのに、車を展示しなくてもいいという方法にはとても共感しました。と言うのも、もはや現代では単体のモノをデザインしても意味が無いのでは、と考えているんです。単体のモノをデザインするのではなく、モノの周囲を取り巻く環境の中で、どうすればそのモノが、より大きな広がりを獲得できるのかを発想しなければならないんです。外側への問題意識がなければ、面白いものが生み出せません」

平田晃久
平田晃久

建築は、これまで1つの閉ざされた場所をコントロールすることに力を注いできた。つまり、外側の空間とは分離した「内側」としての建築であり、しばしば掲げられる「周囲との調和」とは、あくまで外面的な、装飾的な部分で使用されてきた。しかし、平田が掲げるスローガンは「からまりしろ」。つまり、周辺のものとどのように絡まり合うかがその発想のベースとなっているのだ。たとえば、彼は建築を「1本の木」のようなものとして考えている。

「1本の大木に別の植物が繁ったり、他の動物が暮らしたりするように、周囲と関係し合い、絡まり合いながら建築が存在できないかと考えているんです。それは、生態系と近いイメージですね。たとえば昆布は、それ自体として存在しながら、魚にとっては抱卵の場所でもある。そして、昆布自体も岩に絡みながら存在しているんです」

そもそも、平田は生物学者になろうか、建築家になろうかと悩んだ末、「自分が生命科学を手がけたら、倫理的に危ない研究をしてしまうのではないか……(笑)」と考え、建築家へと歩みを進めたという。建築という静的なものも、平田の目を通せば、あたかも生物のように動的なものとして映るのだろう。

「都市を1000年くらいのスパンで見たら、いろいろな建築が生まれたり消えたりしています。人工物にも、時間的な『流れ』が存在しているんです」

トークショー風景
トークショー風景

『-amazing flow-』の制作では、監修を手掛けた建築家の伊東豊雄とともに、コンセプト開発に1か月あまりを費やしたと言う平田。そこで見つけ出したのはLEXUSのデザインから感じることができる「流れ」と、自然界が生み出す「流れ」という共通点だった。

風の流れをそのまま形にしたかのような、うねうねとした道を来場者が回遊する。このコンセプトにしたがって、平田は風を研究するエンジニアと協働しながら、まるで、巨大な蛇のようにも見える作品『-amazing flow-』を完成させた。「なぜこのような形になるのかわからない」と苦笑する平田。風の通り道や、建築としての綿密な構造計算をもとにして生み出された『-amazing flow-』は、デザイナーの美的感覚だけで生み出されているわけではない。平田が最初に提出したイメージから、風の計算、構造計算を通して、その形はどんどんと変形していく。「まるで、生き物を育てているようだった」と、平田は振り返る。

「風の流れだけでなく、力の流れ、人の流れが絡まり合って、『-amazing flow-』のネットワークが作られています。それは、樹形図のような統制された美しさではありません。けれども、いろいろなものが複雑に絡み合う面白さと、独特の美的価値が備わっているんです」

『amazing flow』全体模型
『amazing flow』全体模型

今作が初めて展示された『ミラノ・デザインウィーク』でも、数多くの来場者が訪れ、「これは一体何だ!?」と、思わず呆然としてしまう観客が相次いだという。欧米圏でお馴染みの「陶磁器」や「茶道」「侘び寂び」といった、シンプルでミニマルな美しさを「日本的」と捉えるならば、『-amazing flow-』は、一見「日本的」とは言えないかもしれない。しかし、平田は「八百万の神」「依代(よりしろ)」などの概念を引き合いに出しながら、荒々しくも日本的なインスタレーション作品を完成させたのだ。平田は、デザインを志す若者に向かって、最後にメッセージを投げかけた。

「今のデザインの役割は、決まった形を装飾することで付加価値を生み出すことではなく、その奥にあるより『原型』的なものを現す方向に向かっていると思います。僕らの役割は、その『原型』をどのように発見し、表現するのか。現代はデザインをする上で、とても面白い場所にあるのではないでしょうか」

「LEXUS」のプロジェクトでは、平田はその原型として、環境と交流する「生態系」や「流れ」を発見し、表現した。今後もどのような「原型」が発見され、新たなデザインが生み出されていくのだろうか。『TDW』に訪れた若きデザイナーの卵たちが、新たな発見によってデザインの枠組みを変え、世の中のシステムをひっくり返していくことを期待したい。

イベント情報
『LEXUS DESIGN AMAZING 2013 TOKYO』(『TOKYO DESIGNERS WEEK 2013』中央会場内ブース展示)

2013年10月26日(土)〜11月4日(月・祝)
会場:東京都 明治神宮外苑絵画館前
時間:11:00〜21:00

プロフィール
平田晃久 (ひらた あきひさ)

1971年大阪生まれ。1997年、京都大学大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て2005年に平田晃久建築設計事務所を設立。日本建築家協会JIA新人賞 (2008年)、ELLE DECO Young Japanese Design Talent (2009年) 受賞。ロンドンで個展『Tangling』を開催、共同出展した『第13回ヴェネチア建築ビエンナーレ』で金獅子賞を受賞。



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