ウルトラマンの中国人気。20、30代の心を掴む理由とは? ヒーロー像や精神性に惹かれるファンの声

映画『シン・ウルトラマン』の公開でも話題の「ウルトラマン」。1966年の第1作から50年以上の長い歴史を持ち、日本のお茶の間で親しまれてきた。そのウルトラマンが中国でも人気なのだという。日本の映像作品はこれまでも中国で受容されてきたが、2020年に大手ECサイトでの検索ワードトップ10入り、ゲームカードの売上が7億円を超えるなど、近年の人気ぶりは突出しているようだ。

いまの中国での人気を支えるのは、子どもの頃に『ウルトラマン』を見て育った20代、30代で、若い女性のあいだでも親しまれているという。なぜ『ウルトラマン』が中国の人々を惹きつけるのか? そもそも『ウルトラマン』はどのように中国で受け入れられてきたのか? 現地のファン4人への取材をとおして、人気の背景を探る。

(メイン画像:Photo by Visual China Group via Getty Images)

大手ECサイトの検索回数は2億回超え、SNSやテレビでも話題。中国の『ウルトラマン』人気

「子どもの誕生日に巨大ウルトラマンをプレゼント」

2021年1月、中国の検索エンジン「百度(バイドゥ)」でこのニュースがトレンド入りしていたのを覚えている。ウルトラマン好きな息子のために、父親が廃タイヤを利用して、高さ5.6mの巨大ウルトラマンを半年かけて制作したという内容だった。

細かく刻まれた廃タイヤを繋ぎ合わせて輪郭をつくり、その上から塗料で色をつける。公開されていた制作過程の動画を見るだけでも、細かい作業と完成度の高さがうかがえる。完成したウルトラマン(おそらく、ウルトラマンティガだろうか?)を前に喜ぶ男の子の姿がとても微笑ましかった。

近年、中国のリアリティー番組やSNSでは、連日のように「ウルトラマン」に関する話題が飛び交っている。芸能人が収録現場にウルトラマンのフィギュアを持ち込んでいたり、ストリートダンスのリアリティー番組で、小学生のダンスキッズが「ウルトラマンになりたい」「『ウルトラマン』のカードが欲しい」と連呼していたり。日本では販売されていないその『ウルトラマン』のゲームカードはいま、中国の小学生のあいだで大人気とも聞く。日本のように、親子2代でファンという家庭も少なくないこともわかった。

中国語でウルトラマンは「奥特曼」と書く。「奥特曼中国官方微博」という中国におけるウルトラマン公式Weiboのフォロワー数は、2022年6月13日時点で42.1万。TikTok中国版の抖音で「奥特曼」関連の動画を検索してみると、136万以上の「いいね」がついている動画があり、中国版Instagramと呼ばれる「小紅書(RED)」には57万件以上の投稿が出てくる(2022年6月13日時点)。

「小紅書(RED)」の投稿で興味深いのは、親が自分の息子のウルトラマン熱を伝える投稿が少なくないことだ。例えば、ある母親は熱狂的な『ウルトラマン』ファンの小学生の息子が薦める『ウルトラマン』関連本のランキングを紹介している。トップは『奥特英雄经典五十年英雄完全档案(ウルトラヒーロー50年ヒーロー完全アーカイブ)』というタイトルの3冊セット。『ウルトラマン』放送開始50年の記念の年である2016年に出版された。各ウルトラマンの特徴などが写真とともに紹介されているという。さらには、「100のウルトラマンクイズ」も掲載されているようで、その母親は「マニアックなクイズもほとんど答えられる息子、この記憶力を勉強にも使ってほしい」となんとも複雑なコメントも添えていた。

また、中国のショッピングサイト「淘宝(タオバオ)」において、2020年度の人気検索ワードトップ10に「ウルトラマン」がランキングし、検索回数は2億を超えた、という報道(*2)もある。さらに、ウルトラマンのゲームカードは2020年には4,168万元(約7億4,405万円)の売上があったようだ(*3)。

この人気はいったいなんなのだろう? 中国のファンたちは何に魅力を感じているのだろう? 中国でのウルトラマン人気の理由を知りたいと思った。まずは、中国でのウルトラマン受容の経緯を振り返ってみたい。

1990年代の初放送から現在のブームまで。中国で『ウルトラマン』はどのように受容されてきたのか?

日本で第1作『ウルトラマン』がテレビ初放送されたのは1966年。そして、中国では約30年後の1993年1月にテレビ局「上海東方電視台」で放送されている。それが、中国で初めてのテレビ放送だ。同年6月、『帰ってきたウルトラマン』が同じく上海東方電視台で放送されるなど、1990年代には、『ウルトラマン』シリーズのうち6作品が中国でテレビ放送された。

中国のファンがまとめた中国における『ウルトラマン』受容に関する記事(*4)には、中国での初放送翌年、1994年当時の中国での『ウルトラマン』人気を伝える日本の新聞記事が紹介されている。その新聞記事によれば、当時、上海市内の魯迅公園で開催されたウルトラマンショーに、10万人が駆けつけたという。主催側も想定外の来場者数に、「ショーを途中で切り上げる騒ぎがあった」とも書かれている。「ウルトラマン出現に10万人殺到」「上海大パニック」という見出しからも、当時の人気ぶりが想像できる。

2015年に中国でも配信された『ウルトラマンX』

2000年代に入るとテレビ放送ではなく、ビデオCD(VCD)で『ウルトラマン』シリーズがリリースされ、ファンはそのVCDを購入して『ウルトラマン』作品に触れていた時期もあるという。その後、1996年に日本で放送された『ウルトラマンティガ』が、2004年に上海電視台のドラマチャンネルで放送。そして、2015年に日本で『新ウルトラマン列伝』内の作品『ウルトラマンX』の放送がスタートすると、同時放送として中国のオンライン動画配信サイトで同作の中国語字幕つきが配信された。それは、中国で初めて日本と時差なく放送された『ウルトラマン』シリーズだったという。

そして、2021年、日本で『ウルトラマンティガ』が放送されて25周年という記念の年に、動画共有サイト「ビリビリ動画(bilibili)」で『ウルトラマンティガ』が配信された。「ビリビリ動画」の主なユーザーは1990年代生まれ。彼、彼女たちが小学生のころ、ちょうどテレビで『ウルトラマンティガ』が放送されていたこともあり、「懐かしい!」とこの世代が再びウルトラマン熱に沸いた。

このように、中国では1990年代のテレビ放送を皮切りに、VCDや動画配信で『ウルトラマン』シリーズが継続的に普及。さらに、オフィシャルのイベントやファンが主導となったイベントの開催、さまざまなグッズの販売も行なわれ、最近はSNSで連日『ウルトラマン』を話題にした投稿が発信されるなど、約30年にわたり、さまざまなかたちで『ウルトラマン』が楽しまれてきた。

現地の『ウルトラマン』ファンに取材。1980~1990年代生まれの男女4人が語る魅力

それでは、実際、中国のファンたちは『ウルトラマン』のどこに惹かれ、何に魅力を感じているのか? 現地の『ウルトラマン』ファンに話を聞いた。

今回取材に応じてくれたのは、1980年代生まれの男性2名、1990年代生まれの男性1名、女性1名の4名だ。一番好きな『ウルトラマン』シリーズが見事に全員バラバラという面白い結果にもなった。

『ウルトラマン』ファン歴25年、1988年生まれの杨宁(ヤン・ニン)は、『ウルトラマン』で初めて「特撮」を知り、興味を持った。

「昭和のウルトラマンが断然好き」と語る彼は、『ウルトラマンA』(1972年)がいち押しだ。理由は「『ウルトラ兄弟』という設定を本格的に前面に出しているのと、戦闘シーンがほかのシリーズに比べて内容が濃くて素晴らしいから」と語る。ウルトラ兄弟が全員で怪獣を倒すシーンにも感動した。

ファン歴15年、1987年生まれの陈陈陈(チェンチェンチェン、通称)が一番好きなのは『ウルトラマン80』(1980年)だ。「変身前の主人公がとにかく優しいから」と語る。

1980年代生まれの二人に共通しているのは、1993年、小学生のときに中国で初めてテレビ放送された『ウルトラマン』を見ていたということ。さらに、この世代に共通しているのが、日本のアニメを見て育った第一世代ということだ。

中国では、1980年に『鉄腕アトム』がテレビ放送されたのを皮切りに、1980年代には『一休さん』『花の子ルンルン』など、1990年代には『ドラえもん』『スラムダンク』『クレヨンしんちゃん』などが放送されていた。アニメ以外にも、日本のドラマの放送や、日本映画の上映が行なわれており、1980年代生まれの中国人にとって幼少期に触れた日本文化は、その後に影響を与えるほどの大きな要素になっている。

1993年生まれの曜(ヤオ、通称)は小学生のとき、テレビで再放送されていた『ウルトラマン』を見て存在を知った。怪獣から人類を守るウルトラマンを「かっこいい!」「最強だ!」と感じたという。その後、学業に影響が出るという理由もありしばらくは見ていなかったが、2012年、『ウルトラゼロファイト』(2012年)をきっかけに過去のシリーズも見直し、気づくとファンになっていた。

ファン歴10年の彼が一番好きなのは、比較的新しい2020年の作品『ウルトラマンZ』。「ウルトラフュージョン(※)した形態の『ガンマフューチャー』のデザインがとにかくカッコいいんです。ウルトラマンZと変身前の主人公が、一緒に悩んで困難に立ち向かい、成長してかけがえのないパートナーになる。このストーリーにも惹かれました」

※ウルトラマンZが姿を変えるタイプチェンジの一つ

今回取材した唯一の女性、かい(通称)は、1993年生まれ。ファン歴は13年。一番好きなのは『ウルトラマンメビウス』(2006年)だ。

「新人俳優を主人公に起用したと聞いています。それは、『ウルトラマンメビウス』で描かれるドラマと同じで、何の経験もない新米ウルトラマンのメビウスが失敗を経験しながら成長していく。そのドラマに惹かれました」

ストーリーや、怪獣のデザイン……他の特撮やヒーローものでなく『ウルトラマン』に惹かれる理由

4人から一番のお気に入りに対する熱い想いを聞き、筆者も少しずつ『ウルトラマン』にはまるポイントがわかってきた。ただ、『ウルトラマン』以外にもヒーローものや特撮作品はある。『ゴジラ』や『仮面ライダー』、あるいはマーベル作品などではなく、『ウルトラマン』が好きな理由、『ウルトラマン』ならではの魅力をどう捉えているのだろうか?

ほかの作品と比べてドラマがとても深いのと、見た人に何度も思考させる要素があるところです。また、ストーリーと怪獣のデザインという二つの要素が互いに補い合っているのもいいですね。怪獣には、脚本家やデザイナーの想像力が具体的に表現されていて本当に素晴らしいです。
- ヤン
『ゴジラ』には『ウルトラマン』ほどのバラエティーに富んだ怪獣は登場しませんし、仮面ライダーは巨大化しません。マーベルはヒーローが多すぎるのと、個人的に内容に違和感を感じます。とにかく、『ウルトラマン』に登場する怪獣の世界観が魅力的です!
- チェン
『ウルトラマン』では仲間との友情や助け合いの精神、さらには希望が表現されていてとても前向きです。ウルトラマンの「神聖な光を有するヒーロー像」に憧れもあります。また、キャラクターデザインやアクションシーンにも惹かれました。
- かい

「『ウルトラマン』が与えてくれた価値観や感情に共感する」

4人のなかで一番熱く語ってくれたヤオは、こう話す。

何より、『ウルトラマン』が与えてくれた価値観や感情に共感できるからです。

ひとつには、日常で挫折や困難に直面したとき、ウルトラマンの「諦めない、団結、信頼、勇気、気力」という信念が背中を押してくれるということがあります。シリーズのなかでそれらが繰り返し表現されることに、新しさがないと思う人もいるかもしれません。でも、私たちの日常も同様で、毎日同じ悩み、同じ困難に直面しているといえますよね。

『ウルトラマン』には悪役として怪獣や宇宙人が登場します。それらは、人間には対抗できない能力を持っていて、「難しいチャレンジや恐怖を感じる物事」をイメージしたものと捉えています。それらに立ち向かうウルトラマンは「恐れない勇気と諦めない精神」を具現化したものだと感じるのです。

私にとっては栄養補給のような存在で、作品から安らぎとパワーをもらっています。
- ヤオ

ウルトラマンだけでなく、ほかのヒーローもの、日本の特撮作品への造詣も深く、それらとは違う『ウルトラマン』の魅力をはっきりと言葉にできることに感心してしまった。

さらに、ストーリーの魅力について、昭和のウルトラマンが好きなヤンと新世代ウルトラマンが好きなヤオがそれぞれの魅力を語ってくれた。

昭和の『ウルトラマン』シリーズでは、当時の社会問題や時代背景が描かれている作品が多いです。戦争や差別問題や環境破壊など。子どものときはまったく意識していなかったのですが、大人になって改めて見直してみて、脚本家の経験やバックグラウンドと大きな関係性があることを知り、作品の深さを感じました。決して、子どもだけが見る作品ではないんだと改めて思いました。
- ヤン
新世代の『ウルトラマン』シリーズでは、ウルトラマンと変身前の人間が一緒に思考したり交流する過程が描かれています。内容も昭和のシリーズと比べると、親族に対する想いや友情が強調されて描かれています。この点が魅力ですね。
- ヤオ

ウルトラマンは精神的な支えにも。ともに成長してきた「良き師であり良き友」のような存在

それでは、ウルトラマンが体現している「ヒーロー像」はどのようなものなのだろうか? それぞれの解釈を聞いた。

正義感に満ちあふれたヒ―ローだと思います。また、「ウルトラ5つの誓い」や『ウルトラマンA』の最終回で語られたメッセージ(※)は、子どもたちに肯定的に受け入れられました。ただ、ヒーローでもあるウルトラマンは、理知を失う時もある。こういうヒーロー像が逆に、とても生々しくていいなと思います。
- ヤン

※「ウルトラ5つの誓い」は、「腹ペコのまま学校へ行かぬこと」「天気のいい日に布団を干すこと」「道を歩く時には車に気をつけること」「他人の力を頼りにしないこと」「土の上を裸足で走り回って遊ぶこと」。『ウルトラマンA』の最終回で語られたメッセージは、「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」というもの

私にとっては「憧れ」の存在です。巨大な体、超人的な能力、華麗な技などに魅力を感じます。また、重責を担って敵に向き合い、地球や宇宙の星を守るという精神的な強さにも惹かれます。
- ヤオ

ヤオは、問題に遭遇したとき、「自分はウルトラマンなんだ」と想像し、諦めずに解決策を見つけるようにしているのだという。この方法をとってからというもの、意外に物事がスムーズに進むようになったと話す。それはまるで、変身前の主人公がウルトラマンと一緒に悩み、解決するという『ウルトラマン』のストーリーそのものを体現しているかのようだ。

初代ウルトラマンの歌には<光の国から正義のために 来たぞ われらのウルトラマン>という歌詞が登場する。『ウルトラマン』を見たことがなくても、この歌は口ずさめるという人も多いのではないだろうか。この歌詞に出てくる「正義」。4人にとって、ウルトラマンは「正義の味方」なのだろうか?

自分にとっては正義の味方ではなく、共に成長してきた「良き師であり良き友」のような存在です。
- ヤン
ウルトラマンは正義の味方ではないと思います。公正な味方、または人類の味方かな。
- チェン
私が考えるウルトラマンの正義というのは、巨大な力によって地球が滅ぼされるかもしれない脅威を救うということです。神として人類を統制するのではなく、人類の発展を助けるんです。
- かい
ウルトラマンは、どこにでも存在している正義の味方だと思います。誰もウルトラマンがどこから来て、彼がいったい何者なのか知らない。でも、ピンチのときに現れる。だから、つねに近くにいるのだと思います。

現実でも、正義の理念を持って行動している人に出会うと、その人を「光」とか、「ウルトラマン」だと思ったりします。ただ、僕自身はウルトラマンの「純粋な理念」に惹かれます。その理念に触れることで、僕たちも「正義の味方」になるという感じでしょうか。
- ヤオ

大衆的な人気の背景にあるのは、「長い歴史」「中国における特撮作品の少なさ」「商業化の成功」

今回取材に応じてくれた4人は、それぞれの見方で『ウルトラマン』を理解し、『ウルトラマン』に接していた。彼、彼女たちの話を聞いて、『ウルトラマン』が中国で世代を超えて愛される理由が見えた気がした。最後に、中国での『ウルトラマン』人気について、ヤオ独自の分析が整理されていて、とてもわかりやすかったので紹介したい。

「ひとつには、『ウルトラマン』の56年という長い歴史です。その長い歴史のなかで、ウルトラマンだけでなく怪獣など、さまざまな個性のキャラクターが登場してきました。それぞれ魅力があり、受け手に『知りたい』とか『理解したい』という気持ちを生むのだと思います。また、さまざまなドラマがあり、受け手は自分の好みにあった作品を選択することができます。

もうひとつには、中国では特撮作品が不足しているということです。中国が制作した特撮『铠甲勇士(ARMOR HERO)』が2009年に放送されるまで、国内の特撮は空白状態でした。その作品も残念ながら影響力を保ち続けることはできませんでした。ヒーローもの、特撮、巨大化したヒーローと敵が対戦する──そういった中国の作品にはない要素が『ウルトラマン』シリーズには揃っているので、人気が出るのも当然といえます。

また、商業化でも成功しています。オフィシャルで発売している変身アイテムのおもちゃ、フィギュア、生活用品などのほかに、国内ではウルトラマンカードゲームが販売されています。プロダクトからより広く『ウルトラマン』のイメージに触れ、作品によってさらに多くを知ることができる。ファン層がどんどん広がるのも納得ですよね」



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