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長塚圭史が語る、演劇の本質。観客の想像力を喚起する演出とは

長塚圭史が語る、演劇の本質。観客の想像力を喚起する演出とは

『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:江森康之 編集:宮原朋之

経験やイメージを積み重ねること。そのことで、人間の内側の深い部分が刺激され、豊かな想像力が生まれていくんです。

—10年前といえば、ちょうど、長塚さんは文化庁の新進芸術家海外留学制度によって、ロンドンに滞在していた時期ですよね。そこで学んだことが大きかったのでしょうか?

長塚:ロンドン滞在中、井上ひさしさんの『父と暮せば』を使って、英国の俳優とワークショップをした時のエピソードは象徴的だと思います。原爆をテーマにした作品のおもしろさを伝えるために、1週間のワークショップの中で、畳などの日本の生活道具を集めて、日本の生活を説明したり、実際に触ってもらったり、身振りを体験してもらったりしたんです。正座をすること、ハグするのではなく適度な距離を保つこと、お茶碗を持っても乾杯しないこと(笑)。そういった日本人の生活の細部を伝え、実際にやってもらうことによって、イメージを広げてもらいました。

長塚圭史

長塚:その上で最終的には日本のものを全て取り払い、イギリスのテーブルとカップだけを使って、この作品の1シーンを演じてもらいました。これがとてもおもしろかった。日本のある父と娘による微妙な距離感の会話がイギリス人によって演じられると、あたかもイギリスでも原爆が落ちてしまったのではないか……というぐらい想像が広がったんです。

—文化の違う俳優たちと、表層だけでなく作品の本質を共有することができたんですね。

長塚:必要なのは即物的な様式を使うことではなく、経験やイメージを積み重ねること。そのことで、人間の内側の深い部分が刺激され、豊かな想像力が生まれていくんです。このワークショップを通じて、演劇の持つ根源的な可能性に触れたような気がしました。

長塚圭史

「何だこれ?」と感じてしまうもの、内側の触れてはいけない部分に手を伸ばすことを大切にしたい。

—今回の公演では、主人公の老セールスマンを風間杜夫さんが演じます。なぜ、風間さんの起用に至ったのでしょうか?

長塚:当初は、この作品を、僕のこれまでの経験値の中だけで構築できるか不安でした。でも、ウィリー・ローマンを風間杜夫さんが引き受けてくれたことで企画が進んでいったんです。

風間さんはとても肉体的な俳優であり、とてつもない狂気を生み出せる一方で、小市民的な平凡さも持っている。ウィリーを演じるにあたってはこの上ない俳優です。稽古をしていても、アメリカを描いているはずなのに、ある場面では昭和の親父に見えてきます(笑)。決して、スタイリッシュな翻訳劇にはなりませんね。

左から:風間杜夫、片平なぎさ
左から:風間杜夫、片平なぎさ

—表層的なスタイルではなく、人間の内面を見つめる長塚版『セールスマンの死』にはぴったりですね(笑)。稽古が進展していく中で、作品の捉え方は変わっていっているのでしょうか?

長塚:稽古で俳優の演技を見ていると、登場人物全員が「被害者」である一方、どこかそれだけではない部分が見えてくる。例えば、母親のリンダは、この家族におけるいちばんの被害者のように描かれている一方、その行動をよく吟味していくと、もっとできることがあったはず……。それぞれが、それぞれの被害者性や加害者性を持ちながらも、大きな視点で見れば、誰も責められない関係性なんです。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『セールスマンの死』稽古場写真 撮影:細野晋司
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『セールスマンの死』稽古場写真 撮影:細野晋司

長塚:「ウィリーが悪い!」「ビフが悪い!」と、はっきり告発することができれば、彼らも楽だったでしょう。しかし、それができない人々は、家族の「渦」に巻き込まれていってしまうんです。そんな状況は、家族というコミュニティが持つひとつの側面です。自分自身の経験を振り返ってみると、僕は家族にとって、被害者であり加害者でもあった。両親が離婚したという意味では僕は被害者ですが、その後、僕の言動は彼らに罪の意識を植え付けようとした。それは、加害行為と言えます。

—そんな家族の濃密な関係を描くから、この作品には拭い去れない影のようなものが射しているんですね。では、そのような家族劇を、今の観客に対して、どのように観てほしいと思いますか?

長塚:今の時代に対して……ということはあまり考えないようにしています。例えば、この作品から「アメリカの崩壊」といったテーマ性を引き出すことは可能だし、それに対して理解もできる。しかし、僕自身、作品を作る際には「これはこうだ!」と断言できないものを描きたいと考えています。断言できない、何かよくわからない感情だったり、「何だこれ?」と感じてしまうもの、内側の触れてはいけない部分に手を伸ばすことを大切にしたい。

『セールスマンの死』を観れば、きっとみなさんの人生の中で得た様々な記憶が引き出され、内側が刺激されるはずです。お客さんにとって、自分の内面に目を向けるような、豊かな時間が生み出せれば嬉しいですね。

長塚圭史
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イベント情報

『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』ビジュアル
『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』

作:アーサー・ミラー
演出:長塚圭史
出演:
風間杜夫
片平なぎさ
山内圭哉
菅原永二
伊達暁
加藤啓
ちすん
加治将樹
菊池明明
川添野愛
青谷優衣
大谷亮介
村田雄浩

神奈川公演
2018年11月3日(土・祝)、11月4日(日)、11月7日(水)~11月18日(日)全12公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場
料金:S席8,500円 A席6,000円 U-24券3,000円 高校生以下1,000円 65歳以上8,000円
※11月3日、11月4日はプレビュー公演

愛知公演
2018年11月29日(木)、11月30日(金)全2公演
会場:愛知県 東海市芸術劇場大ホール
料金:一般9,000円 U-25券4,500円

兵庫公演
2018年12月8日(土)、12月9日(日)全2公演
会場:兵庫県 西宮 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金:A席6,000円 B席4,000円
※未就学児入場不可

プロフィール

長塚圭史(ながつか けいし)

1996年、演劇プロデュースユニット・阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出・出演の三役を担う。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動、『浮標(ぶい)』『冒した者』『背信』を上演。また17年4月には、福田転球、山内圭哉らと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し、北條秀司の傑作『王将』三部作を下北沢・小劇場楽園で上演。同年10・11月には初めてKAATプロデュース作品に演出家として参画、『作者を探す六人の登場人物』を上演した。
近年の舞台作品に、『華氏451度』(上演台本)『MAKOTO』(作・演出・出演)、『ハングマン』(演出・出演)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(作・演出・出演)、『プレイヤー』(演出)、『はたらくおとこ』(作.・演出・出演)、『ツインズ』(作・演出)、『十一ぴきのネコ』(演出)、『蛙昇天』(演出)、など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。また俳優としても『あさが来た』(NHK)、『Dr.倫太郎』(NTV)、『グーグーだって猫である』(シリーズ/WOWOW)、映画『花筐』、『yes!-明日への頼り』(ナレーション/TOKYO FM)など活動。

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