特集 PR

中村佳穂という「歌」の探求者。魂の震えに従う音楽家の半生

中村佳穂という「歌」の探求者。魂の震えに従う音楽家の半生

中村佳穂『AINOU』
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:池野詩織 編集:山元翔一
2018/11/06
中村佳穂

私は音楽を聴いて、震える人に興味があるんです。

—それでサウンドメイキングを重視した音楽を、荒木さんや深谷さんと一緒にやってみようと思い至った。

中村:そう。ただ、このサウンドをイチから組み立てなければいけないとなると、直感で「2年かかる」って思ったんです。なので、「次のアルバムはサウンドメイキングを中心に、一緒に話し合いながら作っていきたいです。あなたの人生を一定期間奪うことになってしまいますが、協力していただけませんか?」って、2人には直接お願いしました。もともとレミ街やtigerMosは、サウンドメイクに尽力しているバンドだと認識していたので。

—荒木さんと深谷さんは『リピー塔がたつ』にも参加しているから、中村さんに対する理解ももともとあったでしょうしね。

中村:そうだと思います。あとは当時、すごくフィジカルなのに聴きやすいっていう点で、ローラ・マヴーラの1stアルバム(2013年リリースの『Sing To The Moon』)に感銘を受けていたこともあって、その謎を解明したいという気持ちも同時にありました。それで、しっかりサウンドメイクされているけど、生々しさや流動性も感じるものがいい。なおかつ、できれば日本語で。難しそうだけど、そういう音楽をやってみたいなって思ったんです。

ローラ・マヴーラ『Sing To The Moon』を聴く(Apple Musicはこちら

—Hiatus KaiyoteやThe Internetとのリンクも含め、時代性はどの程度意識にありましたか?

中村:時代性やジャンル、住んでいるところみたいなことには基本的に興味がなくて、私は音楽を聴いて、震える人に興味があるんです。私、ライブ動画を見るのが好きで、「Tiny Desk Concert」(アメリカの公共ラジオ放送NPRで催されているオフィスライブ)とか、新作がアップされるとすぐにチェックして、震える音楽をやってると、それを1日中繰り返し見るんです。

そのなかに、Hiatus Kaiyoteだったり、The Internetだったり、アンダーソン・パークがいて、彼らの音楽が私の血肉になって、作ったものにちょっと出ているのかもしれない。国内のものか海外のものか関係なく、そのとき震える人たちと、シームレスに仲よくなれたらいいなって思いますね。

中村佳穂

「ディープ禁止」って書いて、ずっと壁に貼ってました(笑)。

—サウンドをイチから構築していくにあたって、どのようなやりとりをしながら制作を進めていったのでしょうか?

中村:とにかく話し合いが大事だと思っていました。たとえば、MockyとかDirty Projectorsを同じように「かっこいい」と思って聴いていても、レミ街の人たちはビートやバランスを、私は歌や流れを聴いてるんですね。根本的に音楽の聴き方が違うのに、でも同じように「寂しい曲だね」って感じる。「それはなぜなんだろう?」ってことに向き合う時間を大事にしました。

ほかにも「ビートミュージックってちょっと長めの曲が多い印象だけど、なぜそれがかっこいいのか?」とか、いろんな音楽を検証する作業を1年間続けたんです。そのなかで見つけたものを一つひとつ貯めていって、その感覚を膨らませたものが今作の軸になっています。

中村佳穂『AINOU』を聴く(Apple Musicはこちら

中村:だから「こういうジャンルを目指そう」じゃなくて、「あの人の音楽かっこいいね。じゃあ、あの人に聴いてもらえる音楽を作るために、私たちの結論を出そう」っていう感覚が近いかもしれない。小西くん(CRCK/LCKSの小西遼)や西田くん(吉田ヨウヘイgroupの西田修大)も、話し合いに立ち会って、解釈をつけ加えてくれたりしました。

—その検証作業の結果、最初にできたのはどの曲でしたか?

中村:“きっとね!”と“SHE’S GONE”が最初にゴールした曲です。“きっとね!”の冒頭は私の手癖で弾いているんですけど、サビの<きっとね!>っていうところは、ビートミュージック的に「こういうメロがかっこいいんじゃない?」っていう荒木さんのアイデアがベースとしてあったんです。

それはもともとホーンのパートとしてあったものなんですけど、1年くらいずっと呪いのように私に歌い続けてて(笑)。それが頭に残っていて、日本語をハメられるか考えてみたときに、<きっとね!>だと閃いて、ガーって書いたんです。そしたら、若干メロディーが変わっていたみたいで、あとで「俺のと違う!」って怒られました(笑)。

中村佳穂“きっとね!”を聴く(Apple Musicはこちら

—ボーカルだけを聴くと、スキャットを織り交ぜつつ自由に歌っているようにも聴こえますが、実際にはビートとの相性が緻密に考えられていると。

中村:そうです。バラードとか一部の曲以外は、ビートミュージック的にこういうメロディーがかっこいいっていう、彼らの提案を膨らませたものが基本になっています。今までは、ずっと弾き続けてきたフレーズなりパートなりをトリミングして、かっこいいと思った部分を即興的に膨らませるっていう曲作りだったので、メロディーの尺が先に決まっているのが苦しくて。

ただ、彼らも私をがんじがらめにしようとしたわけじゃなくて(笑)。さっきの「ずっと横で歌ってる」みたいな、伝言ゲームみたいに提案してくれて、それを自分がどう咀嚼して、解釈するかっていう作り方でした。

—だからこそ、作り込まれている部分と、生々しい部分が同居していて、新鮮な聴き心地になっているんですね。

中村:そうはいっても、彼らの持ってくるメロディーって英語のほうがハマるんですよね。“GUM”とかも、メロディーだけ抽出すると、英語しかハマらない感じで。でも日本語にしたかったから、五十音を何回もノートに書いて、どの音がハマるかを探して、そこからアイデアを膨らませて詞を書いたり、今までにない感覚で作りはじめた曲も多いです。

中村佳穂

—できあがったものを聴くと、日本語詞もすごくハマっているし、決して小難しい感じもせず、すごくポップな仕上がりになっているのも素晴らしいなって思いました。

中村:もうちょっとディープな感じになるかなって思っていたんですけど、なるべくポップにしたかったんです。だから、「ディープ禁止」って書いて、ずっと壁に貼ってました(笑)。聴きやすいものであってほしいとは思ってたけど、思った以上にベクトルはポップに向いていて、蓋を開けてみれば、バラエティパックみたいな感じになったなって思いますね。

Page 3
前へ 次へ

リリース情報

『AINOU』
中村佳穂
『AINOU』(CD)

2018年11月7日(水)発売
価格:3,024円(税込)
DDCB-14061

1. You may they
2. GUM
3. きっとね!
4. FoolFor 日記
5. 永い言い訳
6. intro
7. SHE'S GONE
8. get back
9. アイアム主人公
10. 忘れっぽい天使
11. そのいのち
12. AINOU

イベント情報

『中村佳穂BAND presents. 2nd album「AINOU」release party』

2018年12月4日(火)
会場:京都府 磔磔

2018年12月6日(木)
会場:愛知県 名古屋 TOKUZO

2018年12月22日(土)
会場:東京都 下北沢 club251

『中村佳穂 presents. 2nd album「AINOU」release party~好きな人の音楽で旅立たせるの巻~ at下北沢440』

2018年12月22日(土)
会場:東京都 下北沢 440
開場 12:00 / 開演 13:00

出演:
中村佳穂SOLO
and more

プロフィール

中村佳穂
中村佳穂(なかむら かほ)

「彼女が自由に歌うとき、この世界は輝き始める。」数々のイベント、フェスの出演を経て、その歌声、音楽そのものの様な彼女の存在がウワサを呼ぶ京都出身のミュージシャン、中村佳穂。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。ひとつとして同じ演奏はない、見るたびに新しい発見がある。今後も国内外問わず、共鳴の輪を広げ活動していく。2016年、『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演。2017年、tofubeats『FANTASY CLUB』、imai(group_inou)『PSEP』、ペトロールズ『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ?? -EP』に参加。2018年11月、2ndアルバム『AINOU』をリリース。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. ドラマ『ここぼく』が描いた日本社会のいま。危機感と真実の追及 1

    ドラマ『ここぼく』が描いた日本社会のいま。危機感と真実の追及

  2. 佐藤健とシム・ウンギョンが共演 サントリーウイスキー「知多」新動画 2

    佐藤健とシム・ウンギョンが共演 サントリーウイスキー「知多」新動画

  3. 記録映画『東京オリンピック2017』に七尾旅人らがコメント ポスター到着 3

    記録映画『東京オリンピック2017』に七尾旅人らがコメント ポスター到着

  4. スチャとネバヤン、同じ電波をキャッチしちゃった似た者同士 4

    スチャとネバヤン、同じ電波をキャッチしちゃった似た者同士

  5. 羊文学を形づくる「音」 6つの日本語曲を選んで3人で語り合う 5

    羊文学を形づくる「音」 6つの日本語曲を選んで3人で語り合う

  6. 坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ 6

    坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

  7. ジム・ジャームッシュ特集上映ポスター&チラシ12種、大島依提亜がデザイン 7

    ジム・ジャームッシュ特集上映ポスター&チラシ12種、大島依提亜がデザイン

  8. 青春音楽映画『ショック・ドゥ・フューチャー』予告編、石野卓球らコメント 8

    青春音楽映画『ショック・ドゥ・フューチャー』予告編、石野卓球らコメント

  9. 自己不信や周囲の目にどう向き合う? 女性アスリートの6篇の物語 9

    自己不信や周囲の目にどう向き合う? 女性アスリートの6篇の物語

  10. ちゃんみなが経験した、容姿に基づく中傷と賛美 自らラップで切る 10

    ちゃんみなが経験した、容姿に基づく中傷と賛美 自らラップで切る