大谷ノブ彦×柴那典が語る2018年のBTS、そして音楽と政治

CINRA.NETでリブートした、大谷ノブ彦(ダイノジ)と、音楽ジャーナリスト・柴那典による音楽放談企画「心のベストテン」。第2回となる今回は、メンバーが過去に着用していた「原爆Tシャツ」が物議を呼び、11月9日放送の『ミュージックステーション』への出演がキャンセルとなった、韓国のヒップホップアイドルグループ「BTS(防弾少年団)」について。

音楽と政治の関係、K-POPを見習ったJ-POPの海外戦略の是非、BTS以降の新しい感性を持った国内アーティストの登場など、音楽トークをお届けします。

BTSについてメディアで何か語ることが腫れものに触れるような扱いが続くならば、それは今後10年、日本の音楽文化に大きな禍根を残すと思います。(柴)

:今回はBTS(防弾少年団)について語ろうと思うんです。

大谷:いいのいいの? 炎上しちゃうんじゃない?(笑)

:いいんです! だってこれは2018年のポップミュージックを語るうえで避けては通れない話ですから。まず事実を整理すると、BTSは11月9日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日 / 以下、『Mステ』)に出演予定だったわけですけれど、メンバーが過去に着用していた原爆の写真がプリントされたTシャツをテレビ朝日側が問題視したことで、出演が見送られた。

大谷:年末の音楽番組の出演もすべてキャンセルになった。

:そうですね。いろいろ入り組んだ話ではあるんですけれど、まず僕は本当に悲しいんですよ。何より「見たかった」というシンプルな気持ちがある。

大谷:それは本当にそう!

:それだけじゃなくて、このタイミングでちゃんと警鐘を鳴らしておかなきゃいけないと思ってるんです。『Mステ』だけじゃなく日本の音楽番組がBTSを本気で締め出そうとして、BTSについてメディアで何か語ることが腫れものに触れるような扱いが続くならば、それは今後10年、日本の音楽文化に大きな禍根を残すと思います。

大谷:うん。僕もまったく同じ意見ですわ。

左から:柴那典、大谷ノブ彦(ダイノジ)

:というのも、歌謡曲もJ-POPも、日本のポップミュージックって、海外の文化を取り入れて翻案することで発展してきた歴史があるわけじゃないですか。

大谷:カレーと同じですよね。その国の文化をダイレクトに持ってきちゃうとちょっと辛すぎるというか、小麦粉でとろみ入れてほしくなる、みたいな。

:そうそう。言うなれば、「カレーうどん」化してきたんですよね。

大谷:BTS自体にもそういうところありますよね。特に今年発表された“IDOL”がめちゃくちゃカッコよくて。EDMとかトラップの要素が入ってて、クラブでかけても盛り上がるんですけれど、クラブミュージックの最先端をそのままやってるというより、もう少しみんなの口に合うようにしてくれてる感じがする。

:この曲でやってるサウンドは「ゴム」って呼ばれているんですよ。南アフリカのダンスミュージックの一番新しいサウンドを取り入れて、それとK-POPのスタイルを融合している。

大谷:なるほどなぁ。

:で、BTSが全米1位をとったことが象徴しているのは、2018年、特にアメリカでエイジアンカルチャーの勃興が起こっているということで。今度はそれに対してJ-POPの側がどう応答するかが、すごくおもしろいわけじゃないですか。

大谷:それで言うと、宇多田ヒカルさんがアジアのラッパーをフィーチャリングした曲もめちゃめちゃいいですよね。ああいうのが今の時代だと思うし、あれこそ『紅白』でやるべきだよなぁ。

宇多田ヒカル“Too Proud featuring XZT, Suboi, EK (L1 Remix)”(Apple Musicはこちら

「音楽に政治を持ち込むな」と言う人は、「政治」を単なるイデオロギー闘争とみなしているんだと思うんです。(柴)

:そのうえで大事なことをちゃんと話しておこうと思うんですけれど、「音楽に政治を持ち込むな」と言う人がいますよね。

大谷:いますね。

:じゃあ「政治」って何ですか? って僕は思うんです。僕なりの定義で言うと、政治とは「公共性のデザイン」。つまり、問題解決のために社会的な合意形成をすることであって、党派性にわかれて石を投げ合うことではない。

「音楽に政治を持ち込むな」と言う人は、「政治」を単なるイデオロギー闘争とみなしているんだと思うんですけど、そうじゃなくて、音楽は人々の価値観を通して社会に影響を与えるものだから、そこに政治性が含まれるのは自明のことだと思うんです。

大谷:なるほど。僕が思うのは、大前提として、僕は日本人だし、平和教育を受けてきたし、あんなふうに原爆の写真が使われるのはイヤですよ。それは伝えたいし、知ってもらいたい。

ただ、あのデザインは韓国の独立を示しているわけですよね。韓国にはかつて日本の植民地だった歴史があって、そこから民主化運動をやってきた歴史もある。最近だってキャンドルデモがあったし。そして、カルチャー側の人たちがそういうことを語り継いできた文化がある。僕らが隣の国に住んでいる人がどんなふうに民主主義を勝ち取ったかを知るのも大事なことだと思う。

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2018年日本公開)予告編。1980年5月18日から27日にかけて韓国で起きた「光州事件」(「ソウルの春」に端を発する民主化運動、および民衆の蜂起)を題材にした作品

:そうそう。まずは、お互いのことを知るということ。「社会的な合意形成」って言いましたけど、つまりはそこからはじまるものが「政治」だと思うんです。

でも、今回はそういう意思疎通をしっかりする前に番組が出演させないという決断をした。つまり、今起こっているのは、日本のテレビ局が音楽やエンターテインメントと社会を接続することを拒否したということだと思うんです。

大谷:日本では本当にそういうことが多いですよね。「#MeToo」の問題だって、結局、告発した人を吊るし上げるような話になっちゃったし。

「肌の色や、ジェンダーに関係なく、自分自身を見つけてください。あなたの名前は何ですか?」って。こんなに泣けるフレーズ、なかなかないですよ。(大谷)

:そう考えると、BTSのリーダーのRMが国連でやったスピーチはすごくよかったですよね。あそこで語ったことには、すごくグッときた。

大谷:感動的でしたよね。自分はもともと韓国の田舎にいた平凡な男の子だったけど、他人が自分をどう思うかばかりを気にするようになって、自分を閉ざして生きるようになった。だけど、音楽があったから本当の自分でいられることができた。そして今、BTSは大きなスタジアムで公演するアイドルになったけど、それはメンバーや周囲の人やファンが支えてくれてるからで、自分はやっぱり24歳の平凡な青年だ、って。

:今それを言うのがカッコいいですよね。

大谷:だからこそ、みんなにも自分自身のことをもっと愛してほしい、って言うんですよ。で、最後に「肌の色や、ジェンダーに関係なく、自分自身を見つけてください。あなたの名前は何ですか?」って。こんなに泣けるフレーズ、なかなかないですよ。

:あれって、BTSがユニセフとやってきた「LOVE MYSELF」っていうキャンペーンについての話なんですよね。そもそも「防弾少年団」っていう名前の由来にも「若い世代に向けられる偏見や抑圧を止める」という意味が込められている。ここ数作のアルバムも「LOVE YOURSELF」っていうテーマで作っている。つまり、あそこで話した「自分自身を愛する」ということは、単なるスピーチのためのメッセージではなくて、グループの信念の核にある言葉だった。

大谷: スピーチ自体も練習したんでしょうね。ゆっくりしっかり語っていた。

:BTSとファンは強く結ばれているんですよね。ファッションやルックスだけじゃなく、メッセージ性に心酔しているファンがたくさんいる。それも韓国やアジアだけじゃなく、アメリカにいる。

大谷:だからビルボード1位になった。

BTS『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら

(J-POPも海外の音楽も)両方を普通に「いいね」って言っちゃう人たちが出てきて、またどんどんおもしろくなってきてる。(大谷)

:ただ、BTSがビルボード1位をとってから、特に日本の音楽業界で「J-POPもK-POPに海外戦略を学ばなきゃいけない」みたいなことが言われがちになっていて。それがちょっと気になるんですよ。「戦略」じゃないって思うんです。そう考えたきっかけの1つがTempalayのことで。

大谷:そうそう、BTSがTwitterでTempalayの“どうしよう”を紹介してバズりまくったんですよね。

:Tempalayは日本のサイケロックバンドで、彼らやそのスタッフも「K-POPに海外戦略を学んでどうこうしよう」みたいなことは、きっと1mmも考えてない。とにかく自分たちが最高だと思うアルバムを作った。そしたらBTSのRMがそれを聴いて「いいな」と思ってフックアップした。

大谷:BTSのファンがみんなその曲を聴くからすごい再生回数になってるってことですよね。でもこの曲ってトラックがちょっとヒップホップっぽくて、今のビートミュージックのセンスが入ってる。これはアンセムになりますよね。

:なるでしょうね。

大谷:「売れたい」って言ってたもんなあ、Tempalay。よかった。

:こういう例を見ると「J-POPの海外進出のためにはどうするべきか」みたいなことって、考えすぎないほうがいいんじゃないかなって思うんです。

大谷:でも、僕はやっぱりK-POPを見習うべきことってたくさんあると思うんですよ。特にサウンドに関しては学ぶことがたくさんある。というのも、3月に出たNEWSのアルバムの『EPCOTIA』がめちゃめちゃよくて。明らかにBTS以降のサウンドの曲が増えてるんですよ。

:そうなんですね。

大谷:それに、ちゃんみなの“Doctor”もトラップ以降のサウンドを普通にJ-POPとして渋谷の街で流れてそうな感じの曲にするアプローチで、めちゃめちゃカッコいい。

:ちゃんみなもそうだし、RIRIとかAnlyとかRude-αとか、今の20代前半の世代から、新しい感性を持った人たちが確実に出てきてる感じがしますよね。

大谷:今年知ったeillの“MAKUAKE”もすごくいいんですよ。彼女はK-POPとか韓国のヒップホップにすごく影響を受けてるんですよね。

:彼女にはインタビューしたんですけど、もともと小学校のときに聴いてたKARAとか少女時代でK-POPを知って、その後にビヨンセとかクリスティーナ・アギレラにすごく影響を受けたり、韓国のコアなヒップホップを掘るようになったそうなんです。で、高校時代はJ-POPなんてダサいって思ってたけど、今はそのよさもわかるって言っていた(参考記事:eillの物語。音痴で病弱だった少女を変えた、ビヨンセとの出会い)。

その話を聴いて、今って、アメリカのヒップホップやR&Bのトレンドと、それをきっちり追いかけていったK-POPと、ガラパゴス化的な進化をしてきたJ-POPと、それを全部フラットに聴いてきた世代の人たちが新しい扉を開けている時代なんだって思ったんです。

大谷:そうそう、両方を普通に「いいね」って言っちゃうみたいな。そういう人たちが出てきて、またどんどんおもしろくなってきてると思う。

プロフィール
大谷ノブ彦 (おおたに のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ・ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

柴那典 (しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。



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