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no.9×森岡書店店主が鼎談 「ものの届け方」に向き合う

no.9×森岡書店店主が鼎談 「ものの届け方」に向き合う

no.9『Switch of LIFE』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:八田政玄 編集:久野剛士

ものが売れないと言われる時代。書籍と音楽、それぞれの分野で作品の「届け方」を考える2組が語り合う。1組は、no.9こと城隆之と、レーベル「Steve* Music」を城とともに立ち上げた太田伸志。今回、Steve* Musicから新作『Switch of LIFE』をリリースしたno.9は「音と共に暮らす」をテーマに、日々の暮らしに寄り添う豊かでメロディアスな楽曲で知られる。

もう1組は、「1冊の本を売る書店」として知られる森岡書店の森岡督行。ほぼ週替わりで1種類の本だけをセレクトし、作者らも迎えた豊かな空間で、作り手・作品・受け手の関係を再定義するような営みを続けている。

今回の鼎談は、城がジャンルを超えて、ものをどう届けるかを話したいと希望したことで実現。その背景には、新アルバムで太田と模索した作品の届け方があった。『Switch of LIFE』は「CDの入っていないCDサイズのプロダクト」という販売形態を選択。リスナーは1冊の書籍のようなパッケージを開き、そこに記されたダウンロードコードから専用サイトより音楽を手に入れることができる。

それは話題性頼みのトリッキーな奇策ではなく、CDを人一倍大切に思ってきた城が、デジタル配信全盛のいま、作品をどう届けるかに改めて向き合った結果だという。こうして、ジャンルを超えた2組の鼎談が始まった。

自分は音楽を多くの人に聴いてもらう中で、大切だと思う思想や哲学などを取り入れられたらと思いました。(城)

—今回、城さんはなぜ森岡さんと話したいと感じられたのですか?

:音楽家にとって作品を売ってくれるCDショップがあるように、小説家や写真家にとっては、作品と読者を結ぶ大切な場として本屋さんがありますよね。古くからある、もはや当たり前の仕組みで意識もされないですけれど、大切なことだと思っています。

ただ、一般的なお店は自分の店にとって「いいもの」をいろいろ揃えて売りますよね。ところが森岡さんは、1冊の本だけを売る(毎週ごとに1種類の本を販売する)という選択をした。僕から見るとそんな森岡さん自身が表現者という感覚なんです。

つまり、作家と同じくらいその1冊を愛しているように思える。それができる信念や、コンセプトだけでは成り立たないような困難などが、今回アルバムを出すにあたって考えたこととつながりそうで、すごく気になったんです。

左から:森岡督行、no.9 城隆之
左から:森岡督行、no.9 城隆之

森岡:ありがとうございます。音楽には毎日親しんでいますが、それを作る仕事となるとまったく未知の世界です。ただ、「1冊の本を売る」という形で本の作り手さんたちと密に付き合うと、自分の狭い世界を超えた驚きに出会うことが多く、それが醍醐味でもあります。 ですから、今日も城さんとの出会いを楽しみにしてきました。

:それも、森岡さんとお話したいと思った理由のひとつで。音楽家同士で話すのも大好きなんですが、どうしても「そんなこと、いまさらね」という部分をお互い飛ばしがちになります。でも最近、本当は飛ばしている部分にいちばん大切なものがある気もしている。

no.9 城隆之

—そうだったのですね。ちなみに森岡さんはどんな音楽がお好きですか?

森岡:私は昭和生まれで、音楽体験もテレビを通じてのことが大きかったんですね。小学校の頃、好きなCMやドラマで使われていた“Imagine”や“Yesterday”“Help!”が、誰の歌か知らないまま気になっていました。ビートルズの名を知ったのは、中学校の学園祭で流れた“I Want To Hold Your Hand”が好きになり、先生に教えてもらったのがきっかけです。

レンタルCDで借りてみたら、これまで自分がいいなと思っていた曲がほとんど彼らのものだと知り、感動した思い出があります。それで、城さんも「no.9」だなあというのがあって。ビートルズの「ホワイトアルバム」(正式名は『The Beatles』)収録曲に“Revolution 9”がありますよね。

:まさにその曲から取った名前です。「ナンバー・ナイン、ナンバー・ナイン」ってひたすら繰り返す曲ですが、あれを聴いて、僕は自分が呼ばれてる感じがしたんです(笑)。

森岡:呼ばれている?

森岡督行

:あの曲を知ったのは、僕が20代のほとんどを現代音楽に捧げてきた時期でした。ノイズミュージック、即興、さらに思想や哲学を深く反映した音楽へと、かなり傾倒していた。でもご想像がつくかもしれませんが、そうした音楽はなかなか多くの人に聴いてもらえません。それどころか、演奏中に「もうやめろ!」と言われることもありました。

そんなとき“Revolution 9”に出会った。おそらく当時は世界で最も多くの人に聴かれてきたポップなアルバムの中に、現代音楽のような実験的な楽曲が堂々と存在している。衝撃的だったのと同時に、そこで改めて、やはり音楽を多くの人に聴いてもらう中で、自分の大切だと思う思想や哲学などを取り入れられたらと思いました。そんな背景を思い返すと、今回のアルバムはポップさも持ったno.9の音楽に、実験的な要素を取り込んだ形になったかと思います。

森岡:このアルバムのパッケージ、まるでぶ厚い本のようですね。無地のジャケットにタイトルが空押し(素材に熱と圧を加え、くぼみだけで表現する技法)してあって……。少し謎めいています。

:実はCDは入っていないんです。簡単に言うと、中にCDと同じ大きさの穴があり、でもCD本体はなくて、ダウンロードコードが記してあります。少し言い方を変えると、このパッケージは「CDのデフォルメ」。普通のCDパッケージよりも厚く、重くて存在感があります。

 

 

:CDサイズの穴とかは、CDにすごい未練たらたらの作りとも言えますね(苦笑)。でもCDそのものは不在で、それゆえに、これから音楽の届け方をどう考えるかに大きくフォーカスしていると言うのかな。ジョン・ケージの“4分33秒”(音楽の常識を覆す「無音」もしくは「休符」の演奏による楽曲)のこともちょっと考えたりして。ともあれ、僕としてはこの喪失による存在感にすごく意味を感じています。

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リリース情報

no.9『Switch of LIFE』
no.9
『Switch of LIFE』

2018年10月19日(金)発売
価格:2,481円(税込)
SAM001

1. Restart
2. Paper song
3. Switch of LIFE
4. Euphemistic - feat. kafuka -
5. Rotating pointer
6. Chrysanthemum
7. Puddle dance - feat. zmi -
8. make a difference
9. Circle of Water
10. Asterisk*
11. To walk alone - feat. soejima takuma -
12. 1826 D.F. Thank you.
13. Time and Days
14. For me - feat. Tomoya Ito -
15. mimosa
Bonus Track
16. I'm on my way
original track : I'm on my way by Auto&mst
17. pink snow

プロフィール

no.9 / 城隆之(なんばーないん / じょう たかゆき)

「音と共に暮らす」をテーマに、日々の暮らしに寄り添う豊かでメロディアスな楽曲を生み出す作曲家・城隆之のソロプロジェクト。2007年より始動したバンドセット[no.9 orchestra]では、no.9の音楽にギターやドラム、ヴァイオリンやピアノといった フィジカルな音楽性が加味され、フルオーケストラを想起させる壮大なライブパフォーマンスを披露。ライブ会場を包む 圧倒的な存在感で、多くのファンを魅了し続けている。

森岡督行(もりおか よしゆき)

1974年、山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年に茅場町の古いビルにて「森岡書店」として独立し、2015年5月5日に銀座に「森岡書店 銀座店」をオープンさせた。そして2017年、6月13日に「森岡書店総合研究所」を開設。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。

太田伸志(おおた しんじ)

Steve* inc. 代表取締役社長兼CEO。1977年宮城県生まれ。クリエイティブディレクターとして、SONY、資生堂、Honda、Canon、サントリーなど、大手企業のブランディング企画を多数手がける。唎酒師の資格も持ちPen Onlineにて「日本酒男子のルール」を連載中。2018年、さらなるクリエイティブの可能性を追求するため、東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.」を設立。同年、音楽レーベル「Steve* Musicを設立。

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