いまの時代に効くプロモーションとは? TOWからヒントを探る

ここ数年、広告プロモーションの在り方は大きく変わっている。そのターニングポイントになったのがSNSの台頭。個々になにを考えているかが顕在化したことで、従来のようなマス的なプロモーションは通用しにくくなっているのだ。では、これからの時代に効く広告とは?

それを学生たちに学んでもらうために、プロモーション制作会社TOWが開催しているのが『TOWインタラクティブプロモーションスクール(以下、IPスクール)』。毎年、電通や博報堂ケトル、カヤックなどから超一流のクリエイターを招き、さまざまな角度から「プロモーションとは?」を探っている。

前身にあたる『プランナーズスクール』から名称を変更して以来、次回で5回目の開催。この場で磨かれる能力とはどのようなものなのだろうか。TOWでストラテジックプランナーを務める小柴誠、PRプロデューサーの村松亮、そしてアートディレクターの伊藤舞の3人に伺った。

プロモーションの大前提として、自分は「どれだけ共感を呼べるか」を大事にしています。(村松)

—まず、みなさんの仕事における役割からお聞きできますでしょうか。

小柴:私は「ストラテジックプランナー」として、プロモーションやイベントの効果測定を行うとともに、その精度を高めるためにさまざまな取り組みをしています。「プロモーションの精度と成果を追求する」というテーマのもとに、プランニングとエグゼキューションの両面で、いままでとは異なるアプローチに挑戦しています。

村松:僕は「PRプロデューサー」という立場で、統合プロモーションやイベントの企画・運営を行っています。常にものごとをPR的な視点で考え、最善の施策ができないかと考えています。

伊藤:私は「アートディレクター」です。そう聞くと、ビジュアルのディレクションがメインだと思われるかもしれませんが、TOWでは企画から携わることも多く、デザイナー的視点でものごとをどう見るかが求められます。

左から:小柴誠、伊藤舞、村松亮

—違う役割を持つ人たちがそれぞれの視点から企画に携わるわけですね。お三方が、それぞれの視点から心を動かされたプロモーション事例はありますか?

小柴:プロモーションの事例からはちょっと離れてしまうのですが、私自身がデータ活用に取り組んでいることもあり、マーケティング的な部分で「パーソナライズ」が最近のキーワードになっていると感じています。昔は全国100万人サンプリングのようなシンプルでベタな仕事が多かったのですが、現在はそういったマス的なアプローチが通用しないので、特定のターゲットのツボを突く企画でなければなりません。

たとえば、資生堂さんのスキンケアシステム「Optune(オプチューン)』。これは、その日の体調や気分に最も適したメイク用品やスキンケア用品を提案してくれるIoT(Internet of Things、インターネット接続された家電など、家庭内のスマート化が進むとされる)デバイスです。それに近しい事例として、「MEDULLA(メデュラ)」というパーソナライズシャンプーもあります。これは1本4000~5000円ほどする高額な商品で、しかも年間契約で購入しないといけないもかかわらず、かなりのニーズがあると聞きます。情報が溢れる時代だからこそ、こうした「あなた」に向けられた商品はこれから益々増えていくのではないでしょうか。

小柴誠

—伊藤さんはなにかありますか?

伊藤:P&Gさんの洗剤商品JOYのプロモーション「カラフルJOY」の発想が素晴らしいと感じました。透明の洗剤ボトルに比重の重たいW除菌JOYを注ぎ、次に通常タイプのJOYを注ぐと綺麗なグラデーションになります。これが主婦層に刺さって、SNSで話題になりました。

通常だと「パッケージをどうするか?」みたいなことを考えがちだと思うのですが、そもそもの商品に備わっている特徴を活用しているのが感慨深くて。しかも、消費者がやりたくなるポイントを押さえているのがすごいなと思いました。P&Gさんの企業コピー「暮らしを感じる、変えていく」にリンクしている点も魅力です。

伊藤舞

—村松さんはいかがでしょうか?

村松:少し前の事例になるのですが、ベビーメーカー・ピジョンさんが2014年に仕掛けたプロモーションがいまでも記憶に残っています。大前提として、自分は「どれだけ共感を呼べるか」を大事にしているんですね。というのも、SNSが普及した近年では、誰もが情報発信者になることができるからです。

このピジョンさんは、ベビー用品市場では有名なメーカーなのですが、あるジャンルの商品だけが苦戦していました。それがベビーカー。日本市場では、ほかの2社がシェアの約80%を占めており、ピジョンさんは約5%とものすごく小さな範囲に留まっていました。そんな中で新商品を展開することになったのですが、普通に勝負しても競合2社に競り負けてしまいますよね。そこでピジョンさんは、「いいベビーカー」の定義を変えることを決意したんです。

村松亮

村松:ピジョンさんが新商品の売りとしたのが、多少の段差であれば楽々乗り越えられるワンサイズ大きなタイヤ。それまでベビーカーは、軽くてファッショナブルであることが魅力とされていました。しかし、ベビーカーユーザーに意識調査を行ったところ、多くの人が「子どもの安心・安全」を第一に考えていることがわかったんです。

しかも段差で躓く危険性を公表するために実証実験を行った結果、自動車が急ブレーキをかけたときの5倍の衝撃がかかることも判明した。そういったファクトを踏まえて、「いいベビーカーはタイヤが大きいもの」と視点を変えることで、消費者の意識も安心・安全へ向くように。結果として、シェアを14%程度にまで伸ばすことができました。人々の意識だけでなく、行動までも変えてしまった成功事例だと思います。

—村松さんは普段から「どうすれば人々の行動を変えられるか」を考えられていらっしゃるんですか?

村松:そうですね。人々の行動まで変えるのってすごく難しいことだと思うんです。でも、ちょっと見方を変えてあげれば「確かにそうだよね」と思うことにもなるんですよね。それがPRのやりがいでもあるので。

プロモーションは「なにをすれば人が動くのか?」を突き詰めることが大切だと思います。(小柴)

—いま、みなさんに気になるプロモーション事例についてお聞きしましたが、今後のプロモーションのトレンドになりそうなものなどはありますか?

小柴:3人それぞれに職種が異なるので、気になるテーマやワードが違うかもしれませんね。

村松:PRの話で言うと「IoT」です。メディアもよく取り上げていますね。ただ、それを絡めた施策となると、なかなか難しい一面もあるのですが。

小柴:私自身はデータ活用に従事しているのですが、今後はより効果測定が出しやすくなってくると思うので、どのように活用されるのかは気になるところです。

—それで言うと、これまではプロモーションの効果を定量的に測るのは非常に難しかったと思うのですが、どのようにしてアプローチしていくことになるのでしょうか?

小柴:それは私たちも常に頭を悩ませているところです。しかし、最近は少しずつそういった価値の定量化も行っています。中でも力を入れているのが体験的な価値の測定です。脳波や心拍数を測ることなどもありますが、表情分析も積極的に行っています。

たとえば、商品に関するヒアリングを実施する際に特定の質問を盛り込んでおき、モニタリングしながら表情や音声を分析します。そうすると、どんな人がどんな質問に反応するのかがわかり、感情の振れ幅を具体的な数値として出すことができるんです。今後は、クライアントへの報告もより詳細に出せるようになると思います。

—報告書も厚みがでそうですね。では、伊藤さんはいかがですか?

伊藤:グラフィックやビジュアルにおいてのトレンドを尋ねられると、正直難しいですね。というのも、案件によってディレクションの方向性は変わってくるので、あまりトレンドを意識する機会がなくて。それよりも、伝えたい内容をいかに伝わりやすく表現するかが重要だと思っています。考えすぎて回りくどい表現になっていないかとか、自分のエゴやデザインが邪魔していないかとか。そういう視点で常に見ることが私の仕事です。

—そういう考え方はプロモーションの世界の共通認識だったりしますか?

村松:PRは回りくどいものが嫌われたりするので、スパッとそれはなにかが認識できることが大事ですよね。それがどんなものなのかは後々についてくるものなので。まずはシンプルに伝えることが大事なのかなと。

小柴:模範解答っぽく言うと、TOW社員それぞれの狙いは「なにをすれば人が動くのか?」を突き詰めること。たとえば空間であれば、足を踏み入れたときの直感で好感触なのかとか。それをブランドらしくすればいいか、逆にブランドらしくしないほうがいいのかを考えないといけません。それを私たち3人だけでなく、TOWにいるプロデューサーやプランナーたち全員が考えているはずです。

業界の大先輩からの受け売りですが、「仕掛けるのが上手な人は、仕掛けられるのも上手」 なんですよね。(小柴)

—小柴さんは、IPスクールの前身にあたる『プランナーズスクール』の立ち上げから携わっていらっしゃるとのことですが、これまでを振り返ってみていかがですか?

小柴:うまく循環している気がします。IPスクールは、先生がプロモーションに関する「いろは」を指導するだけでなく、受講生と双方向に情報交換できる場になっているのが特徴です。それによって、スクール自体が年々育っている印象がありますね。

また、この場での学びを経て活躍している人もいます。たとえば、4期生の海老根俊一。彼は弊社でチームリーダーを任されています。そういう意味では、しっかり人が育つ場になっているのもよかったなと思います。

—IPスクールでは、具体的にどのような力が身につくのでしょうか?

小柴:「どうすれば人の心は動くか」、その考え方や手法でしょうか。講義では、先生の話を聞くだけでなく、ワークショップ形式で自分が考えた案を発表し、フィードバックをもらう機会もあります。講義を聞いている2時間に加えて、自分が考えて発表した5分間にこそ深い学びがあるのかもしれません。

—これから広告業界を目指す人はどのような意識を持っておくとよいでしょうか。

村松:PRに興味があるのであれば、世の中のどんなことにも興味を持ち、知っておくべきだと思います。たとえば、いまだと「平成最後の〇〇」や「バーチャルユーチューバー」とか。常にアンテナを張り続けて、自分の中に使えるネタをストックしておきたいですよね。

あと、来年は年号が変わるじゃないですか。いままでは天皇が亡くなって変わってきましたが、今回は生前退位なのでおめでたい雰囲気になりそうです。だから、「元年結婚」や「元年ベイビー」のような言葉が話題になると言われています。そうやって自分なりにものごとを世の中のトレンドに組み込んでいくためにも、なにが流行っているのかを追いかけておいてほしいですね。

—伊藤さんはいかがですか?

伊藤:私はもともとWEBデザイナーの仕事をしていて、2~3年前に転職してアートディレクターになったんですね。だからこそ、思うことがあって。デザイナーは自分の腕を磨くことも大事なんですけど、それと同時に発信したほうがいいと思っています。好きなことや仕事のことなど、なんでもいいので。そのときに戦略を練ることも大切です。私は仕事がたくさんほしかったので、ジャンル問わず見たもの、体験したことを発信しました。それを続けていると自分自身のメモにもなるし、振り返りもできるから効率がいいんです。

—それで言うと、村松さんの「世の中のどんなことでも知っておくべき」という話と通じるものがあるかもしれませんね。

村松:そうですね。付け加えるなら、それを仕事と思ってやるのではなく、興味を持ってやるマインドが大事だと思います。そうすると、自分が心を動かされた瞬間にそれをどうやって伝えるべきかという視点を鍛えることもできます。

小柴:PRにせよ、表現にせよ、自分が「いいな」と思うものがなにかを把握しておくことは大切かもしれません。これは業界の大先輩からの受け売りですが、「仕掛けるのが上手な人は、仕掛けられるのも上手」 なんですよね。私たちもその感覚を磨いていきたいと思っています。

リリース情報
『TOWインタラクティブプロモーションスクール2018-2019』

日時:2018年12月6日(木)~2019年2月14日(木)
会場:東京都 株式会社テー・オー・ダブリュー 会議室他
対象:広告/プロモーション業界に興味がある・目指している学生の方(2020年 / 2021年大学・大学院卒業予定者)
料金:21,600円(税込)

プロフィール
小柴誠 (こしば まこと)

早稲田大学卒業後、TOWに入社。企画セクションに在籍し、生え抜きプランナーとして17年のキャリアを積む。2017年より体験デザイン本部・体験ストラテジーチームを率い、プロモーションの戦略の立案や、データを駆使した体験価値の向上と可視化に取り組む。

村松亮 (むらまつ りょう)

PR会社にてPRディレクターとして7年間勤務後、2018年TOWに入社。年間のPRプランニングを設計、プロモート活動を実施するリテナー業務や、記者発表会やキャンペーンプロモーションなど、PR領域のほぼ全てを担当。

伊藤舞 (いとう まい)

武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科出身。Web制作会社でデザイナーを3年経験の後、アートディレクターとして2017年TOW入社。大学時代や前職でのデザイン経験を活かしながら、現在はイベントなどリアル領域のプロモーションにも携わる。



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