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建物をロープで倒す加藤翼 政治や経済を揺るがす芸術の力を語る

建物をロープで倒す加藤翼 政治や経済を揺るがす芸術の力を語る

『未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:垂水佳菜 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

震災後、「これだけ大きなインパクトがあったにもかかわらず、なぜ日本の政治や経済のシステムは変わらないんだろう」と思いました。

―加藤さんは2015年から2年間、アメリカのシアトル市に滞在していますね。なぜ同国を選んだのでしょうか?

加藤:アメリカに行くのはこれがはじめてではなくて、2013年にスタンディングロック(ノースダコタ州)というネイティブアメリカンの居留地でプロジェクトをやったことがあるんです。この発端も2011年の震災になるんですけど。

―震災がどう関係していたのでしょう?

加藤:震災が起きたあと、しばらく福島県いわき市の平豊間(たいらとよま)でボランティアしていました。自分が「公共」や「集団性」を作品のテーマにしてきたこともあって、地震や原発事故を経た上での人と人との関係性についてあらためて模索する機会でもあったのですが、同時に「これだけ大きなインパクトがあったにもかかわらず、なぜ日本の政治や経済のシステムは変わらないんだろう」と思うようになりました。

その疑問を突き詰めていくと、単に日本の話だけではなく、国際的な関係の中で自分たちの生活やシステムが成り立っているからなんだと気づいたんですね。それは具体的に言えばアメリカとの関係で、同国は世界的にも政治の中心地ですし、グローバリズム経済の源でもある。その中心を見てみたいと思ったんです。

加藤翼

—でもニューヨークやワシントンは選ばなかった。

加藤:ネイティブアメリカンは、歴史的にすごく昔から白人やアメリカ政府といった外の世界と強く関係してきた人たち。だからこそ、アメリカについて知る上で適した場所だと思ったんです。実際、彼らが歴史をどう受け止めているかを、さまざまなかたちで教えてもらいました。プロジェクトを終えて、やはりもっと時間をかけて同国について知りたいと思った。そこで文化庁の助成を受けて、シアトルに渡ったわけです。

—2回目の渡米で都市部を選んだのはなぜですか?

加藤:スタンディングロックは綺麗な風景以外ほとんどなにもない場所ですが、それでもアメリカ都市部からの影響をものすごく受けていて、けっして独立して生活できているわけではないんですよ。だから、今度は都市の中でアメリカについて考えたかった。

結果的に言えばシアトルは大正解でした。アーティストからすれば、ニューヨークやロサンゼルスと比べて、シアトルは現代美術の土壌がまだまだ整っていません。でもAmazon本社があったりして、変革期の渦中にある都市でもある。ニューヨークはギャラリーやアートシーンのシステムが固まりすぎていて、間口が狭いと思ったんです。

加藤翼

―シアトルから見たアメリカはどんな国でしたか?

加藤:最も印象的だったのは大統領選です。選挙が2016年で、トランプ大統領の就任が2017年ですから、1年間を通じてその推移を経験できた。アメリカにおけるトランプの存在って、「膨らみすぎたグローバリゼーションのぶり返し」でもあって、震災以降の日本の変化とも無縁ではありませんから、とても貴重な経験ができたと思っています。

時間的にも空間的にも、ものごとの中心から距離のあるジャンルがアートなんですよ。

—先日、森美術館で開催された『カタストロフと美術のちから』展で加藤さんの新作を拝見したのですが、経験のドキュメンテーションにリサーチ的な内容が加わった面的な広がりのある内容になっていたのが新鮮でした。アメリカでの経験が反映されていると思いますか?

加藤:アメリカでやろうとしていたことのひとつが、自分の作品のあり方を変えることでした。それまでは「引き興し」の記録を事後的に美術館やギャラリーで提示するドキュメンテーションの手法がメインだったのを、もっと違う見せ方、体験の仕方を作れないだろうかと考えたんです。

作り手であるアーティストを離れて、作品が物質として残るアートでは、この場にはいない人や見えない場所について想像するのは当たり前のことなんです。作品自体が場所を移動するし、作者の死後も残る。時間的にも空間的にもものごとの中心から距離のあるジャンルがアートなんですよ。だとすれば、それを逆算して、美術館で作品を見る経験を中心にして作品を作りたいというのが、アメリカで挑戦しようと思ったことです。

今回の『未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果 平成の終わりに』(以下、『21stDOMANI・明日展』)に出す作品の中にメキシコシティで作った『Pass Between Magnetic Tea Party』(2015年)があるのですが、これはその試みのひとつ。メキシコの路上にテーブルを出して、みんなでティーパーティーをやる。そして最後にそのテーブルの上を自動車にゆっくり走らせ、テーブルクロスにタイヤの痕をつけるっていう作品で。その痕跡が展示会場に移動してくるというイメージなんですが、ここで移送されてくるのはあくまで表面だけなんですよね。布の平面に対して、テーブルは「引き興し」にも通じる立体的な構造物。でも、構造が動くのは現地のメキシコでしかありえない。

加藤翼

—参加者とともに作品を作っていく、リレーショナルアート的な仕組みはテーブルに託されている。

加藤:そうですね。一方で布は表面でしかないからこそ移動・保管が可能なんです。そこに映像のドキュメンテーションをミックスさせることで、プロジェクトのあったメキシコ、作品が展示される美術館の「距離の隔たり」に揺さぶりをかけられるのではないかと考えました。

—気になるのが布の配置の方法です。まるで坂のように傾斜していますが、近現代の美術史的には岸田劉生の『道路と土手と塀(切通之写生)』(1891-1929年)や、フランシス・アリスが参加者とスコップで砂丘を動かそうとする『信念が山を動かすとき』(2002年)を思い出します。

加藤:後者はたしかに近いですね、というより僕のひとつの参照元です(笑)。集団的な行為によって詩的な空間を作ることは、僕のひとつのゴールと言っていいのですが、問題はそのプロセスにあって、僕はできる限り参加者に能動性を持たせたい。今回の作品で言うと、テーブルにスロープがついていて、車をテーブルに載せる際にはみんなで押し上げて載っけるのですが、そこにいちばん強い体験性・参加への能動性が生じます。「引き興し」や「引き倒し」も「全く動かないから」「支えないと倒れてしまいそうだから」という、思わず力を貸してしまいたくなるような仕組みがあるのがベストだと考えています。そこには、鑑賞的、受動的な態度を能動的な態度にスイッチする力があるから。坂には、「(重力に逆らって)踏ん張らないと、転がり落ちてしまう」という意識を促す力があります。

美術館で鑑賞する上での課題として、容易に鑑賞者を傍観者にさせてしまう点があります。それは過去の自分がやってきたドキュメンテーション的な展示の限界でもあったので、変えてみたかったんです。

加藤翼
『未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』ポスター
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イベント情報

『未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』
『未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』

2019年1月23日(水)~3月3日(日)
会場:東京都 国立新美術館 企画展示室 2E
料金:1,000円

プロフィール

加藤翼(かとう つばさ)

お互いにロープで縛られたグループが国歌を演奏する、巨大な構築物をロープで動かす、といった集団的なパフォーマンスの作品で知られる。私たちに集合を促すもの、私たちを分け隔て、傍観者にするもの、というテーマのもと、近年では、環太平洋地域(東南アジア・オーストリア・北・中・南米)のアーティストたちとのコラボレーション作品も発表する。各地を移動しプロジェクトを実践していくなかで、「集団行為を行う屋外/その記録を再生する美術館」という枠組みを設定しながら、一つのその場かぎりの出来事が、遠く離れた場所のインスタレーション空間によって、物語へと変容する仕組みについて模索している。

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