インタビュー

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

今回の作品は、大部分を僕の個人的な気持ちが占めているんですよね。

—これまで、旅人さんの歌のなかには、本当にたくさんの人々やキャラクターが登場してきましたよね。

七尾:そうですね。いろんな主人公が顔を出しては消えるっていう構成の作品が、これまでの自分には多かったと思う。たとえば『兵士A』には、戦死していく近未来の若い自衛官や、アフリカの少年兵、ゴムボートで対岸を目指す難民の母親、それに、戦前に活躍した野球選手の沢村栄治なんかも出てくるし。昔の作品ではもっと極端だったね。

七尾:男娼になったり、モンスターになったり、殺人鬼になったりとか、若い頃は抽象的でアイコニックな登場人物を設定していることが多かった。それが、『911FANTASIA』あたりから、老人と孫の会話を通して過去から近未来までの光景を巡っていくという構成を試みたり、具体的な目標設定をするようになりましたね。

“圏内の歌”(『リトルメロディ』収録曲)を作ったときは、東日本大震災直後に福島に通いはじめて、いろんな方々と触れ合ううちに、単純に「フクシマ」や「原発」といった単語で記号化して「こうだ」と言い切れない複雑さを感じて、その場で直接に聞かせて頂いた話から曲を作るという試みをしました。

さらに、それだけでは不十分だと感じたので、当事者であるその方々ご自身に歌を作っていただく場を設けたこともあります。福島から北海道に移住した6歳の男の子が作った歌なんて、すごかったですよ。そうやっていろいろ試みることが、言説のメインストリームから外れてしまっている声を拾い上げていくことにつながると思っていたんです。

七尾:ただ、今回の『Stray Dogs』がこれまでの作品とちょっと違うのは、ほとんどの曲の主体が「自分」なんです。素朴に、一人称で歌っている。これまでの作品について話すときは、社会的なテーマがどの作品にもある程度は侵入していたんだけど、今回の作品は、大部分を僕の個人的な気持ちが占めているんですよね。

沖縄の高江で生まれた歌(“蒼い魚”)が入っていたり、アフリカのモザンビーク内戦っていう1990年代の出来事を扱った歌(“Across Africa”)も入っているんだけど、それも実際に顔を合わせて友情を交わした相手に宛てて作られた歌で、ほとんど手紙みたいなものなので、個人的な歌と言えると思います。

—なるほど。

七尾:“きみはうつくしい”も、最初に着想を得てメインのモチーフを作ったのは3.11震災直後、東北に通う過程においてのことでしたが、まだまだ復興もままならずみんな苦しんでいる状況下でこの曲を東北のお客さんの前で歌おうという気持ちにはどうしてもなれなくて、後にもっとパーソナルな理由が生じるまで、5年ほど未完成のままお蔵入りになっていました。

唯一の例外として、デヴィッド・ボウイの訃報の翌日に作った曲“DAVID BOWIE ON THE MOON”は、なんだか宇宙空間のサーカスナイトみたいな不思議な楽曲で。亡くなって成層圏を離れたボウイが未知の何者かに呼びかけるという歌詞になってますが、ボウイという特別な存在を通して、普段なら歌えないようなことが歌えてしまった側面もあり、完全に自分から乖離した歌とは言い難い。なので基本的なトーンとしては、僕のすごく個人的な心情を託した曲が多いと思います。

震災後、どんなアルバムを作ればいいのか、結論を出すのが難しくなってしまう感じがあって。

—前回、国府達矢さんと対談していただいたときにも、「次のアルバムは、とてもパーソナルな作品になるだろう」ということはおっしゃっていましたよね。改めて、本作の出発点について、お話していただけますか?

七尾:そもそもは、もっとポピュラーフィールドに振り切ったアルバムを作ろうとしていたんです。その前、『リトルメロディ』から『兵士A』に至る流れは、かなり苦しんで。震災後、いろんなことを深堀りすればするほど、作り手として何が誠実なことなんだろうと悩めば悩むほど、どんなアルバムを作ればいいのか、結論を出すのが難しくなってしまう感じがあって。

試行錯誤を繰り返すうちに、“ぼくらのひかり”や“少年兵ギラン”のような、スーパーヘビー級みたいな曲がどんどんできて、収拾つかなくなってしまったんですよね。それを、河合宏樹くんが映像作品にまとめてくれたことで、『兵士A』という一番いい形に収めることができた。これでやっと、書き溜めたままずっと放置していたポップソングも外に出していけるなと、当時は思っていて。

七尾旅人

—『兵士A』を作ったことで、震災以降の試行錯誤にひとつの着地点を見つけることができた。

七尾:そうですね。何年かぶりに羽の生えたような身軽な気持ちが出てきて。心機一転がんばろうと思って、2017年の年明け、梅津和時さんと一緒に、明るいテイストのワンマンライブをやったんです。兵士Aで一緒にデッドエンドまで歩いてくれた梅津さんと、今度はまったく違ったエンタメ感のあるコンサートをやれたことが嬉しくて。よし、いろんなもん作るぞって、すごく前向きな形で新年を迎えました。でも、それから半年くらいして、僕のとても大切な人が自死してしまって。それは僕のアイデンティティーを根底から突き崩されるような出来事だったんです。

それまでは、もっと楽しい方向に振り切ったアルバムにしようと思って録音を進めていたんだけど、その作業をそのまま続ける状況じゃなくなってしまったんだよね。録りためたものは捨てて、もう一度、何を作るべきか、ゼロから自問する日々がはじまりました。“天まで飛ばそ”や“Leaving Heaven”“いつか”のような新曲も増えていって。ずっと放置していた“きみはうつくしい”も、思いがけない形で完成していきました。これらの曲は、次のアルバムに入れざるを得ないだろうということになっていったんです。

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リリース情報

七尾旅人『Stray Dogs』(CD)
七尾旅人
『Stray Dogs』(CD)

2018年12月12日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PECF-1164 / cap-294

1. Leaving Heaven
2. Confused baby
3. 迷子犬を探して
4. スロウ・スロウ・トレイン
5. DAVID BOWIE ON THE MOON
6. Almost Blue
7. 崖の家
8. Across Africa
9. きみはうつくしい
10. 蒼い魚
11. 天まで飛ばそ
12. いつか

イベント情報

七尾旅人
『20周年記念ワンマンツアー「Stray Dogsの冒険」』

2019年3月10日(日)
会場:北海道 ペニーレーン24
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月16日(土)
会場:福岡県 電気ビルみらいホール
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月17日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
ゲスト:瀬尾高志

2019年4月7日(日)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月27日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月29日(月・祝)
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年5月25日(土)
会場:沖縄県 桜坂劇場ホールB

2019年6月15日(土)
会場:京都府 磔磔

2019年6月22日(土)
会場:高知県 キャラバンサライ

プロフィール

七尾旅人(ななお たびと)

シンガーソングライター。これまで『911fantasia』『リトルメロディ』『兵士A』などの作品をリリースし『Rollin' Rollin'』『サーカスナイト』などがスマッシュヒット。唯一無二のライブパフォーマンスで長く思い出に残るステージを生み出し続けている。即興演奏家としても、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」など特異なオーガナイズを行いアンダーグラウンド即興シーンに地殻変動を与え続ける。その他、ビートボクサー、聖歌隊、動物や昆虫を含むヴォーカリストのみのプロジェクトなど、独創的なアプローチで歌を追求する。2018年12月12日、にニューアルバム『Stray Dogs』をリリース。

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