インタビュー

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

「レコードって、人間が封じ込められている魔法の円盤なんだ」って、ずっと思ってきたから。

—最初にも少し言いましたけど、旅人さんの音楽は、人や物事を記号化させないんですよね。一人ひとりに人生があり、名前があるんだっていうことを、常に真摯に見つめている。なぜ、こうした視線を持ち続けられるのだと思いますか?

七尾:完全にうまくいってるとは思わないけど、目指してはいます。それはもしかしたら、僕の子どもの頃からの音楽の聴き方のせいかもしれないですね。ひとつのジャンルやスタイルを身にまとっていくっていう音楽の聴き方はしてこなかったんです。それよりも、「この人の歌は、どんな表情をしているんだろう? 歌っている理由はなんだろう?」といったことに、ずっと耳を澄ませてきました。「人」を聴いてきた、というか。

七尾旅人

七尾:友達を作るのも下手だったし、合コンとかも無縁だったから(笑)、家でひとり、じっくりと、まるでニーナ・シモンやビリー・ホリデイが目の前で歌っているかのように、本人が実体化して見えるぐらいの没入感で音楽を聴いてきたんですよね。ニーナ・シモンなんて、「知的で優しくて、海のように広大で、それでいて、なんてお転婆でチャーミングな人だろう……」って、レコードを聴きながら思ってました。……全部、勝手な妄想なんだけど(笑)。

—(笑)。

七尾:最近Netflixでニーナ・シモンのドキュメンタリー映画を見てみたら、それほどは歌から得たイメージと乖離してなかったんだよね。非常に魅力的で、哀しい人だった。「レコードって、人間がその生きた時代ごと封じ込められている魔法の円盤なんだ」って、ずっと思ってきたから。要するに、子どもの聴き方だよ。子どもみたいにして耳を澄ませていると、何を聴いていても面白いんですよ。

ジャズを聴いても、ロックを聴いても、デスメタルを聴いても面白い。ジャンルなんて関係ない。デスメタルでもね、デス声を単にスタイルとして使っているバンドと、本気で悪魔崇拝しちゃってるようなバンドとでは、聴いていて全然違う。もちろん本気で悪魔に魅入られて人を殺したり放火したりしてるようなバンドはいっさい認めないよ。最悪だよね。どっちがいいっていう話ではなくって、差異を聴き分けられるようになってくるんです。これは表層的な知識でスタイルとして音楽を受けとめてしまうと、わかんなかったこと。

七尾旅人

七尾:なぜそこでオートチューンが使われてるのか、なぜ変拍子なのか、なぜここでこの和音なのか、今の流行りなのか、スタイルだからなのか、それとも何か大きな理由があるのか。スタイルありきで作るのが悪いと言ってるんじゃないよ。でもときどき、「やむにやまれぬ必然性があって、どうしてもそうなった」という音楽を見つけることができる。そんなとき、心から感動してしまうんですよ。なんで泣いてるの? なんで笑ったの? どうして今だけ踊ったの? これはたぶん子どもの聴き方ですよね。昔、父親が僕ら子ども3人育てながら少ない小遣いで買い集めたアナログ盤をなんべんもなんべんも嬉しそうに聴いていたんだけど、その姿が自分のベースにあるかな。

やがて、YouTubeみたいなツールが出てきてからは、それこそ自分の父親にどこか似たような人たちというか、遠い国のベビーシッターが赤ん坊にむけて歌う子守唄だったり、貧しい国の子どもたちが自分なりのやり方でポップスを生み出したりする様子だって見ることができるようになった。

それは1990年代までの、大きな企業が音楽流通の大部分を取り仕切っていた時代においては光のあたらないものだったけど、僕はここ十何年でそういう覆い隠されてきた音楽たちにも出会えるようになったことについては、ワクワクしていたね。

—そういった状況への祝福は、2010年の『billion voices』というアルバムタイトルにも反映されていますよね(参考記事:七尾旅人インタビュー 「何億もの声」から見えてくるもの)。

七尾:うん、「何億もの声が噴出している今、ポピュラーミュージックが変わっていくんだ」って。そんな感じで音楽をとらえるスタンスの基礎は、子どもの頃にできていたのかもしれないです。

七尾旅人
七尾旅人『billion voices』収録曲

七尾:僕は、これまでの人生でたくさんの音楽に触れてきたけど、レコード漁りをしてきたというよりは、人々の魂を渡り歩いてきたような感じがするんです。それは、僕を孤独じゃなくしてくれたし、生きる指針をくれた。

それなら自分も、決して才能あるいいミュージシャンではないかもしれないけど、目先の利益や功名心に引っ張られて、聴き手を裏切るようなことにだけはなりたくないなと思うんですよね。レコードに、自分の綺麗事だけを入れるようなことはしたくない。ダメなところもフェアに出したうえで、ちゃんと何かしらの創意工夫をしたいんです。1stアルバムから『兵士A』まで、ずっとそうだったけど、誰か他者を叩くためではなくて、自分自身を徹底的に叩きのめして変化させるために創作をしてきた。そうすることで、成長を続けて、「こんなレコード、今までなかったでしょ?」って言えるようなものを目指したいんですよね。

ひとりで、「このつらさは誰とも共有できないな」ってとき、このアルバムを引っ張り出してほしい。

—今までになかった音楽作品を作ろうとする。その旅人さんのスタンス自体が、聴いている人にとっての救いになり続けてきたんだと僕は思います。今までになかった形の歌や音楽がこの世に生まれるということは、この世界でずっと光のあたらなかったもの、名づけられなかったものが、その音楽の放つ光によって照らされるということだと思うので。

七尾:自分の音楽に誰かを救う力があるかなんて、恐れ多くてよくわからないけどね。でも、この『Stray Dogs』は本当に、心から「作っている」感じがしたし、作れてよかったと思う。今までで一番そう思える作品かもしれないですね。ずっと音楽をやってきたけど、自分を褒められない部分もあったんですよ。「がんばったな」って一時的に思えることもあったけど、どの作品も、常に「これでいいのかな?」っていう不安を持ちながら作ってきたので。いつでも喜びより、苦しみのほうが勝っていました。

でも今回のアルバムは、自信を持って、人にプレゼントできるものを作りたかった。自分が今まで生きてきて、お世話になってきた無数の人に感謝を伝えたうえで、ずっと大事に思ってもらえるようなレコードを残せないかなと思ったんです。

—その想いは、本当に、このアルバムから伝わってくるものだと思います。

七尾:この20年間、迷いながら歩いてきたし、失敗も繰り返してきたけど、これについては希望があるなっていう、小さな確信も、積み上げてきたので。今回のアルバムでは、それを音に込めたかった。だから、しんどい日にも聴いてほしいんだよね。

七尾旅人

七尾:もちろん楽しい日にも聴いてほしいけど、せっかくシンガーソングライターの作品なんだから、ひとりぼっちでつらいときにも聴かれるものであってほしい。「このつらさは誰とも共有できないな」ってとき、レコード棚から引っ張り出されるいくつかの作品のなかに入れたら嬉しいなと思う。演者ひとりきりだし、けして派手な形態ではないんだけれど、個人のすぐそばに立っていられる、それが、シンガーソングライターのいいところだと思うんです。

僕の後輩にも、いいシンガーソングライターはいっぱいいるんだけど、みんな、社交的に成功目指してガツガツいくのが苦手だったりして、努力と才能のわりに評価されていなかったりするんですよ。でも、僕は何気に、彼らのアルバムを心の支えにしている日もあるんですよね。本人は、自信もないなかでただ一生懸命やっているだけかもしれないけど、僕は確実に、その音楽から勇気をもらっているので。自分も今回『Stray Dogs』で、そんなシンガーソングライターならではの、困ったときのお守りのような作品が作れたんじゃないかと思います。

七尾旅人
七尾旅人『Stray Dogs』を聴く(Apple Musicはこちら
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リリース情報

七尾旅人『Stray Dogs』(CD)
七尾旅人
『Stray Dogs』(CD)

2018年12月12日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PECF-1164 / cap-294

1. Leaving Heaven
2. Confused baby
3. 迷子犬を探して
4. スロウ・スロウ・トレイン
5. DAVID BOWIE ON THE MOON
6. Almost Blue
7. 崖の家
8. Across Africa
9. きみはうつくしい
10. 蒼い魚
11. 天まで飛ばそ
12. いつか

イベント情報

七尾旅人
『20周年記念ワンマンツアー「Stray Dogsの冒険」』

2019年3月10日(日)
会場:北海道 ペニーレーン24
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月16日(土)
会場:福岡県 電気ビルみらいホール
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月17日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
ゲスト:瀬尾高志

2019年4月7日(日)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月27日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月29日(月・祝)
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年5月25日(土)
会場:沖縄県 桜坂劇場ホールB

2019年6月15日(土)
会場:京都府 磔磔

2019年6月22日(土)
会場:高知県 キャラバンサライ

プロフィール

七尾旅人(ななお たびと)

シンガーソングライター。これまで『911fantasia』『リトルメロディ』『兵士A』などの作品をリリースし『Rollin' Rollin'』『サーカスナイト』などがスマッシュヒット。唯一無二のライブパフォーマンスで長く思い出に残るステージを生み出し続けている。即興演奏家としても、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」など特異なオーガナイズを行いアンダーグラウンド即興シーンに地殻変動を与え続ける。その他、ビートボクサー、聖歌隊、動物や昆虫を含むヴォーカリストのみのプロジェクトなど、独創的なアプローチで歌を追求する。2018年12月12日、にニューアルバム『Stray Dogs』をリリース。

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