
ピノキオピー、思春期に「優しさ」を学んだ大槻ケンヂとご対面
ピノキオピー『零号』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:伊藤惇 編集:中田光貴、山元翔一(CINRA.NET編集部)
動画共有サイトへの初投稿から今年で10周年を迎えたピノキオピーが、2月27日にニューアルバム『零号』を発表した。近年は自らボーカロイドとともに歌い、パフォーマンスをするというライブのスタイルを確立。ついにはトレードマークだったお面を捨て去り、キャラクターの裏側に隠れがちな「人間」の存在をアピールする姿勢は、ボカロ界隈のなかでもとりわけ異質だ。
そんなピノキオピーがかねてより影響を公言していたのが、筋肉少女帯の大槻ケンヂ。かつてはエキセントリックなイメージも強かったが、今では作家としても高い評価を獲得している大槻の歌詞に、ピノキオピーは「優しさ」を感じ、自らの作風の礎にもなったという。ボーカロイドの盛り上がりとバンドブーム、特に筋肉少女帯がインディーズ時代に所属していた「ナゴムレコード」周辺を振り返りながら、2人にそれぞれの歩みを語ってもらった。
(ボカロの初期は)いろんなジャンルの人たちがみんなごっちゃになってるのが面白くて、それをナゴム的なものと勝手に一致させていた。(ピノキオピー)
大槻:僕、昔にボカロの番組(2012年、NOTTV『ボーカロイドステージ』)をやったことがあって……。
ピノキオピー:裏マンボウさん(家の裏でマンボウが死んでるP)とか出られていましたよね。オーケン(大槻ケンヂ)さんと共演しているのを見て、すごく羨ましいと思ってました。
大槻:でも、結局ボカロ界がちゃんとはわからないまま番組が終わってしまったので、今どうなっているのかなと気になっていたんです。
ピノキオピー:いろんなことがあったんですけど、ムーブメントが一度ピークを迎えて、今はちょっと落ち着いている状態ではありますね。
大槻:“千本桜”(2011年公開、作詞・作曲・編曲は黒うさP)とかがワーってなってた頃がピーク?
ピノキオピー:そうですね。2012年、2013年あたりがピークだと思います。僕は2009年にニコニコ動画への動画投稿から活動をスタートしたんですけど、YouTubeにも投稿するようになって、海外からも見てもらえるようになったり、時代によって変化はあります。ただ、シーン自体は縮小しちゃって、言ってみれば、1980年代終盤から1990年代前半にかけてのバンドブームと似たような道を辿っている気がして。
—どんなところが似ていると思いますか?
ピノキオピー:僕はもともとナゴム(ナゴムレコード。1983年設立のインディーズレーベル、主宰はケラリーノ・サンドロヴィッチ)が大好きで、リアルタイムの世代ではないですけど、初期のカオスな感じ、いろんなジャンルの人たちが一斉に集っている感じが好きだったんです。
ボカロの初期も、みんなムーブメントになるなんて思っていなくて、ヘビーメタルだったりヒップホップだったり、いろんなジャンルの人が集まっていたんですよね。僕はもともと漫画家を目指していたんですが、漫画を描くのがしんどくなって現実逃避としてボカロを始めたんです。僕みたいな漫画家志望だったり、普段は営業をやってる人だったり、元バンドマンだったり、いろんなジャンルの人たちがみんなごっちゃになっているのが面白くて。それをナゴム的なものと勝手に一致させていました。
大槻:ナゴムの頃は当然ネットもなくて、表現意欲はあるけどなにをやったらいいかわからない人たちが、とりあえずバンドを組んで、ライブハウスに出て、そこで変なことをやってる連中同士が集っていたんです。そのなかで、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんがナゴムを起こして、めちゃめちゃやっていた。
有名な話ですけど、空手バカボン(大槻が参加していた音楽ユニット)では、YMOの“ライディーン”に勝手に歌詞を乗せて、“来たるべき世界”という曲名でレコードにして発売していましたからね。今だったらヤバいですよ。『報道ステーション』で「なぜ彼らには想像力がないのでしょうか?」って言われちゃう(笑)。
—(笑)。
大槻:でもね、2015年に高橋幸宏さんのフェス(『WORLD HAPPINESS』)に呼ばれて、「これはやれってことかな?」と思って、“来たるべき世界”をやったんです。周りはYMO流れのバンドが多いなかで、我々は完全にヘビーメタルでやったら、すごくウケたんですよ。楽屋に帰ったら、幸宏さんがニヤッと笑って握手してくれました。
リリース情報

- ピノキオピー
『零号』 -
2019年2月27日(水)発売
価格:2,700円(税込)
UMA-11181. ぼくらはみんな意味不明
2. (Rotten)Apple dot com
3. おばけのウケねらい
4. ヨヅリナ
5. I.Q
6. 閻魔さまのいうとおり
7. Mei Mei
8. シックシックシック
9. ビューティフルなフィクション
10. 内臓ありますか
11. ぜろ
12. 君が生きてなくてよかった
イベント情報
- 『ピノキオピー『零号』リリースツアー【五臓六腑】ツアー説明会』
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2019年3月30日(土)
会場:東京都 恵比寿BATICA - 『ピノキオピー アルバム『零号』リリースツアー ワンマンライブ【五臓六腑】』
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2019年5月11日(土)
会場:福岡県 CLUB SELECTA2019年5月18日(土)
会場:京都府 VOXhall2019年5月19日(日)
会場:愛知県 Live & Lounge Vio2019年6月28日(金)
会場:東京都 club asia - 『ピノキオピーと福岡のゆかいな仲間たち』
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2019年5月11日(土)
会場:福岡県 CLUB SELECTA
※来場者多数の場合は『ピノキオピー アルバム「零号」リリースツアー ワンマンライブ【五臓六腑】』福岡公演参加者の入場を優先、高校生は入場不可
プロフィール
- ピノキオピー(ぴのきおぴー)
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ボーカロイド・クリエイター、イラストレーター。2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表をはじめ、ピノキオピーとして活動開始。作曲活動や、イラスト、動画の制作、漫画の執筆他、様々な商品プロデュースワーク等も行う。ライブにおいては、2014年より今までのパフォーマンス形態からリニューアルを図り、笑って歌って踊って楽しめるパフォーマンスを提供している。
- 大槻ケンヂ(おおつき けんぢ)
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ミュージシャン・作家。1966年2月6日生まれ。82年、中学校の同級生だった内田雄一郎と共にロックバンド・筋肉少女帯を結成。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビューし、人気を集める。筋肉少女帯としての活動の他、ソロやバンド・特撮としても活動。メジャーデビュー30周年で新たなソロ・プロジェクト、大槻ケンヂミステリ文庫も始動。また作家としても多数の作品を執筆しており、活躍の場は多岐に渡る。