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鈴木康広と巡る台北『Very Fun Park』 日常にアートはなぜ必要?

鈴木康広と巡る台北『Very Fun Park』 日常にアートはなぜ必要?

Very Fun Park
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鄭弘敬 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

常識の表と裏がひっくり返るような体験を、大勢が共有できるかたちで示す。それがパブリックアートの意味だと感じます。(鈴木)

—見る人から、何かを感じたり考えたりすることを自然に引き出す。これは鈴木さんの作品にも通じる感覚ですね。

鈴木:僕自身も作品を作ることを通して、場所や物事のあり方を再発見しているんです。たとえば『遊具の透視法』という作品では、夜のジャングルジムに、昼間遊んでいる子どもたちの姿を投影しました。元々これは、回転するジャングルジムに残像を映すというアイデアから生まれたのですが、この遊具が日本の公園からどんどん姿を消しているという状況と、映像が本質的にもつ「不在感」がリンクして観る人の記憶を喚起しました。

『遊具の透視法』(2001年) / 撮影:川内倫子
『遊具の透視法』(2001年) / 撮影:川内倫子

鈴木:こうした作品は都市の中で失われた記憶や過剰な安全基準で遊具が撤去されてしまう状況に対して、人の思考を促す媒介物でもあります。作品を見た人が、普段は考えないようなことも、作品を通してはじめて真剣に考えられるのかなと思います。

ヴィヴィアン:おっしゃる通り、アーティストは、自分のいる場所を再発見する視点を与えてくれる存在ですよね。富邦では、世界中からアーティストを招いて滞在制作をしてもらっているのですが、ある韓国人作家は、台湾の看板に画像が多く使われていることに驚いていました。外からの視点は、私たちにとっても刺激的ですね。

鈴木:同じものを見ても、人によってはまるで違うものを見ている。それは当たり前のことですが、その微妙な違いを話す場は生まれにくい。そんなときアーティストという異質な人がやってきて、常識の表と裏がひっくり返るような体験を、大勢が共有できるかたちで示す。それがパブリックアートの意味だと感じます。

左から:鈴木康広、ヴィヴィアン(熊傳慧)

台湾の人々は、いろんなカルチャーショックを受けながら、自分たちの向かう先を考えなければいけない。(ヴィヴィアン)

—『VFP』の会場では、イェッペ・ハインさんのユニークなベンチの作品などで楽しむ人の姿が見られました。鈴木さんも、『VFP』に訪れる前に台北の路上で人型の風船を飛ばす『空気の人』を実演して、通行人を惹きつけていましたね。お2人は公共空間における、作品への興味の入口の作り方をどう考えますか?

鈴木:自分の作品に人がすぐに反応できるのは、それが、いままで見たことがないものでありながら、一度は思ったことがあるものや、形態として自身との近さを感じやすいものだからだと思います。公共空間では、「アートだ」と思わせて逆に距離が生まれてしまうこともあり、なかなか作品を見てもらえない。入り口をどう作るのかが大事ですよね。

イェッペ・ハイン『與藝術互動—改良式社交椅 / Interact With Art - Modified Social Benches』 / 急な傾斜でなかなか自然には座れないベンチ
イェッペ・ハイン『與藝術互動—改良式社交椅 / Interact With Art - Modified Social Benches』 / 急な傾斜でなかなか自然には座れないベンチ

ヴィヴィアン:『VFP』は「壁のない美術館」というコンセプトを掲げていますが、「なぜこれがアートなのか」という説明に苦労してきました。アートはいまや、絵画や彫刻だけに限らないわけですが、多くの台湾の人々の考え方は昔のままです。

イェッペ・ハイン『與藝術互動—改良式社交椅 / Interact With Art - Modified Social Benches』 / 座面が円を描いているため、座っているというよりは囲まれてしまうベンチ
イェッペ・ハイン『與藝術互動—改良式社交椅 / Interact With Art - Modified Social Benches』 / 座面が円を描いているため、座っているというよりは囲まれてしまうベンチ

—とくに『VFP』は、まだ台湾に現代アートが根付く前から開催されていたわけで、苦労もたくさんされたでしょうね。

ヴィヴィアン:すごく難しかったですよ。とくに屋外作品の場合、ターゲットを限定することも、見る人が何を思うかもコントロールできません。作品設置にあたっては、行政機関の不理解に難儀することもあります。

解決策は、やり続けることだと思います。次の世代には、もっとアートへの理解が進むことを願っています。台湾の学校教育では、アートはこれまで古典的な学習内容が中心でした。これからは、もっと日常に根ざした美的センスを高めることが大事だと考えています。

鈴木自身の作品『空気の人』とともに、台北の街中を巡った
鈴木自身の作品『空気の人』とともに、台北の街中を巡った
台北の街を行く人も『空気の人』には興味津々
台北の街を行く人も『空気の人』には興味津々

—なぜそれほど人々の美意識を高めることが重要なのでしょうか?

ヴィヴィアン:台湾社会は複雑で、1945年(台湾が日本から中華民国に返還された年)の後に中国から来た人もいれば、元々台湾に住んでいた人もいます。多様な文化が混じった社会なので、我々は誰かという統一された意識がないですし、美に対する観念もバラバラです。『VFP』の多様な作品に触れる機会を増やすことで、自分たちの感覚を見つけてほしいのです。

鈴木:共感できるものでも、異質に感じられるものでも、とにかく何かに触れる機会がなければ、「自分らしさ」について考えることもできないということですね。そうした試みが生まれる台湾の状況は、僕には可能性の宝庫にも見えます。

ホン・イーの作品『拉長狗 B / Dog Elongate B』の前で
ホン・イーの作品『拉長狗 B / Dog Elongate B』の前で

鈴木:日本では明治以来、アートのあり方を多く西洋に学んできた。でも、それが足かせになって、日本に本来あるべきアートのあり方を見失い続けてきた感覚があるんです。その視点から見ると、台湾には日本が向かうべきアートの姿が温存されていると感じました。

ヴィヴィアン:面白い話ですね。日本が欧米に憧れたころ、台湾はちょうど日本統治時代でした。台湾人は昔から楽観的でフレンドリーで、あらゆる文化を受け入れて生きてきた。

けれど、台湾の内部には、文化と価値観の衝突もあります。中国から来た人と台湾に元々いる人のそれぞれの文化、さらに日本文化の影響も混じって、料理で例えるとオードブルのような社会です。そんななかで、台湾の人々は、いろんなカルチャーショックを受けながら、自分たちの向かう先を考えなければいけません。

鈴木康広
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イベント情報

『Very Fun Park 2019』

2019年3月19日~5月19日
会場:台湾 台北 信義エリア

プロフィール

鈴木康広(すずき やすひろ)

1979年静岡県浜松市生まれ。2001年東京造形大学デザイン学科卒業。日常のふとした発見をモチーフに記憶を呼び起こし共感を生み出す作品を制作。国内外の展覧会をはじめ、パブリックスペースでのコミッションワーク、大学の研究機関や企業とのコラボレーションにも取り組んでいる。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授、東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員。

ヴィヴィアン / 熊 傳慧(しょう でんけい)

富邦藝術基金會Fubonartに2000年に入り、現在は統括ディレクターをつとめている。アートの存在する日常と現代アートの可能性を『Very Fun Park』を通して追求している。2012年、富邦藝術基金會は、台湾の芸術への貢献から台北文化賞を受賞。『Very Fun Park』に関連した、台湾のメディアへの出演やトークイベント、講座への登壇多数。

富邦藝術基金會Fubonart(ふーぼんあーと)

金融や通信を手掛ける台湾企業「富邦集団」が運営する現代アートを支援 / 展開する財団。「アートを生活に、生活をアートに」をテーマに、アートにまつわるイべント、講座、展覧会などを多数開催している。

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