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キイチビールを変貌させた、終わった恋、新しい恋。本秀康と話す

キイチビールを変貌させた、終わった恋、新しい恋。本秀康と話す

キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『鰐肉紀譚』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:今井駿介 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
左から:本秀康、キイチビール(キイチビール&ザ・ホーリーティッツ)

「未完成さ」そのものが、美しさやアートを感じられる部分なのかなって思った。(キイチ)

—今作の耳馴染みのいい質感はどのように生まれてきたのでしょう?

キイチ:僕、ポール・マッカートニーの『RAM』(1971年発表、ポール&リンダ・マッカートニーの作品)にハマっていた時期があって。ああいうふうに、ロックンロールのフレーズとポップの要素を組み合わせたかったんですよね。それが、“鰐肉紀行”のシンプルなギターフレーズとちょっと変な譜割りの組み合わせに繋がっているような気がします。

ポール&リンダ・マッカートニー『RAM』を聴く(Apple Musicはこちら

キイチ:この曲は、歌詞もこだわっていて。1番を繰り返しているだけで、2番の歌詞はないんです。2番の歌詞をつけ足してしまうと、蛇足になってしまいそうで。シンプルに、あまり多くを語らないようにしたんです。

:素晴らしいと思う。たしかに、キイチくんが『RAM』にはまっていた時期ってあったよね……なるほどなぁ。今回のアルバムって、すごくルーツが見えづらいアルバムでもあるよね?

キイチ:そうかもしれないです。今回のアルバムを作っているときによく聴いていたのは、The Beach BoysやThe Zombiesだったんですよね。「どういうふうにしたら、ポップスの型を破れるだろうか?」っていうことを考えるなかで、The Beach Boysの『Smiley Smile』(1967年)やThe Zombiesの『Odessey & Oracle』(1968年)の存在が特に大きくて。

The Beach Boys『Smiley Smile』を聴く(Apple Musicはこちら

The Zombies『Odessey & Oracle』を聴く(Apple Musicはこちら

キイチ:たとえば『Smiley Smile』って、ドーンとした、王道でポップな曲が入っているわけではないじゃないですか。むしろ「作りかけ」感が強いというか……まぁ、実際に未完成なアルバムとしてリリースされてはいるんですけど、僕はその「未完成さ」に完成されたものを感じたというか。

「もしかしたら、自分はこういうのを作りたいんじゃないか?」って思ったんですよね。なので、王道でポップな曲を作らなきゃっていう意識から自分を切り離して、もっと自分の作りたいものを作ろうっていうモードに入っていった……そんな意識の転換が今作を作るうえであったと思います。

キイチビール(キイチビール&ザ・ホーリーティッツ)

—キイチさんが魅力に感じるポップミュージックは、未完成な部分を許容しながらも、魅力に変えているものだった?

キイチ:そうですね。「未完成さ」そのものが、美しさやアートを感じられる部分なのかなって思って。最近、『男はつらいよ』をよく見ているんですけど、サントラもよく聴いていてすごく好きなんですよね。山本直純さんが作る、短くて綺麗なメロディーで、情景が浮かんでくるような……そういうものに惹かれるんでしょうね。

王道な型に当てはめて、「ここで落ちサビが来て、ラストサビでバーンと盛り上がる」みたいな壮大なアレンジを好む人もいるんでしょうけど、僕は、それはやりたくないんです。ちょっと物足りないぐらいで、サッと終わるのがいいのかなって。

:そっかぁ、なるほどな。たしかに今回のアルバムの曲は短いよね。“透明電車が走る”なんて、5分くらいかけてやるようなことを3分でやっていて、驚くんだよ。

キイチ:ありがとうございます。短い時間に、どれだけの情報を入れることができるかが、今の僕の勝負ですね。余計なことは言いたくない。蛇足をなくしたいんです。

“こーかい”は、初めて聴いたときの衝撃が未だに薄れない。(本)

:『Odessey & Oracle』や『Smiley Smile』って僕が一番好きな時期の洋楽なんだけど、今回のアルバムはサイケデリックなサウンドからの影響が強いんだね。たしかにジャケットも、どことなくサイケだもんね(笑)。

キイチ:たしかに(笑)。

キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『鰐肉紀譚』ジャケット
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『鰐肉紀譚』ジャケット(Amazonで見る

:自分の話をすると、僕も今年『あげものブルース』っていう新しい漫画を出したんだけど、それはもともとThe Beatlesの『White Album』(1968年発表の『The Beatles』)を意識して作っていたつもりだったんです。でも最終的には、サイケデリック期のThe Beatlesになったんだよね。

『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)のように、メドレー形式を取り入れた漫画になっちゃって。でも、あの時期の洋楽が好きな人って、ミュージシャンでもメドレーをやりたがる人は多いんだよ。個人的には、いつか、キイチくんが今の音楽性でメドレーを作ってくれたら最高だなって思う(笑)。

The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を聴く(Apple Musicはこちら

本秀康『あげものブルース』
本秀康『あげものブルース』(Amazonで見る

キイチ:実は、次のアルバムは『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』みたいにもっとコンセプチュアルにまとめたいと思っているんです。今回のアルバムは、明確にコンセプトアルバムにはなっていないんですけど、1曲目を“鰐肉紀行”ではじめて、最後の11曲目を、“鰐肉紀行”をポンチャック風にアレンジした“海老肉志向”っていうふざけた曲で締めるっていう点で、一応、コンセプトアルバムっぽくしたつもりで(笑)。次はさらに絡み合った、ちゃんとしたコンセプトアルバムに仕上げたいなと思っています。それは、本さんが言ってくれた「作家性」を、もっと突き進めていくっていうことでもあると思うんですけど。

:今回のアルバムで、僕が一番好きな曲はどれだと思う?

キイチ:えーっと……“終電でまた会おうぜ”とか?

:それもすごくよかった。でも、僕が一番好きなのは“こーかい”。“こーかい”は、初めて聴いたときの衝撃が未だに薄れない。歌詞もメロディーも歌い方も、最後に向かってめちゃめちゃになっていくところが、毎回鳥肌が立ちます。

キイチ:ありがとうございます。“こーかい”と、さっき言った“鰐肉紀行”は、アルバムのなかでも1時間くらいでパッとできた2曲なんです。“こーかい”は元カノと別れたときの曲で、“鰐肉紀行”は新しい彼女と出会ったときの曲で……なんかあるんでしょうね(笑)。

左から:本秀康、キイチビール(キイチビール&ザ・ホーリーティッツ)
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リリース情報

『鰐肉紀譚』(CD)
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
『鰐肉紀譚』(CD)

2019年5月15日(水)発売
価格:2,300円(税込)
KBHT-0006

1. 鰐肉紀行
2. 今夜浮かれたい
3. Tシャツ
4. こーかい
5. 日照りになれば裸になって
6. 平成がおわる<album take>
7. 透明電車が走る
8. 軽めな二人
9. なんでも知ってる女の子
10. 終電でまた会おうぜ
11. 海老肉志向

イベント情報

『キイチビール&ザ・ホーリーティッツ 2ndフルアルバム「鰐肉紀譚」リリースツアー』

2019年6月7日(金)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
ゲスト:FINLANDS

2019年6月9日(日)
会場:北海道 札幌 Spiritual lounge
ゲスト:さよならミオちゃん

2019年6月20日(木)
会場:福岡県 the voodoo lounge
ゲスト:バレーボウイズ、yound、ハチマライザー

2019年6月22日(土)
会場:愛知県 名古屋 CLUB ROCK‘N’ROLL
※ワンマン公演

2019年6月23日(日)
会場:大阪府 Shangri-La
※ワンマン公演

2019年6月29日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW X
※ワンマン公演

リリース情報

『あげものブルース』
『あげものブルース』

2019年4月25日(水)発売
著者:本秀康
価格:1,080円(税込)
発行:亜紀書房

プロフィール

キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ

2016年4月にライブ活動をスタートとさせた、東京の5人組ロックバンド。ライブ会場といくつかの店舗/通販サイトにて枚数限定で販売された1stEP「俺もハイライト」/1stミニアルバム「世の中のことわからない」がいつしか全国的に評判になり、完売し、各地のライブハウスを賑わす存在に。2017年の夏には二つのフェス系コンテストを勝ち抜き、ROCK IN JAPANとSUMMER SONICにいきなり出演。注目度が加速度的に上がる。2019年5月15日、2ndフルアルバム『鰐肉紀譚』をリリース。

本秀康(もと ひでやす)

1969年京都府生まれ。イラストレーター、マンガ家。1990年よりフリーイラストレーターとして活動。その後95年にマンガ家としてもデビュー。音楽への造詣が深く、音楽誌への寄稿、CDジャケットのイラストレーションも数多く手がける。2014年には7インチレコード専門レーベル「雷音レコード」を立ち上げる。マンガ『たのしい人生完全版』(青林工藝舎)、『レコスケくん』(ミュージック・マガジン)、『ワイルドマウンテン』(小学館)、『アーノルド』(河出書房新社)、絵本『まじかるきのこさん』(イースト・プレス)など著書多数。

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突然少年“火ヲ灯ス”

教室でも放課後でも負け続けたこと、弱さ故に大事な友達も傷つけてきたことーー振り返るほど情けなさでズタズタになってきた自分達の青春を全部吐き出しながら、だからこそ今まで裏切らず側にいてくれた人を離さず抱き締めて生きていきたいのだと表明する1stアルバムが『サンキュー・マイ・フレンド・アンド・マイ・ファミリー』だ。ブッチャーズ、eastern youth、NUMBER GIRLを抱き締めて離さない号泣ファズは変わらぬまま、アルバムタイトルの通り「誰に何を歌いたいのか」に重心を置いた結果としてバンドサウンドが撚られ、歌がグッと前に出た。汗と唾を撒き散らす激情の成分はやや減ったが、あなたと友達になりたい、友達との絆を目一杯歌いたい、だからまずは自分達が素っ裸になってあなたと向き合いたいという意志がスウィートなメロディに乗って突き抜けている。「たったそれだけ」をたったひとりに伝えるためにもんどり打つ、バンドの核心がそのまま映し出されたMV。端からライブの中核を担ってきた名曲がさらに躍動している。(矢島大地)

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