
松本穂香が「変な役」も演じるわけ。『アスアブ鈴木』監督と語る
『アストラル・アブノーマル鈴木さん』- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:前田立 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
現在、主演映画が続々と待機中である、注目の若手女優・松本穂香。その彼女が、『ウルフなシッシー』を手がけた新鋭監督・大野大輔とタッグを組んで生み出した『アストラル・アブノーマル鈴木さん』とは、果たして何だったのか?
昨年の夏から秋にかけて、全17話の配信ドラマとしてYouTubeチャンネル「AlphaBoat Stories」に公開され、その好評を受ける形で今年1月には再編集が施された「劇場版」が一般公開されるなど、独自の盛り上がりを見せてきた本作。松本穂香演じる主人公・鈴木ララは、地方都市で鬱屈とした日々を送りながら、YouTuberとして活動する女の子だ。夢も目標もないけれど、誰かに認められたいという思いは人一倍強い彼女が巻き起こす騒動と、やがて明らかになる彼女の双子の妹の存在。誰もが「普通」ではいられない、現代の雰囲気を、オフビートなユーモアと松本穂香の熱演で描き切った本作が射程するテーマについて、監督の大野大輔、そして本作で一人二役の怪演を披露した松本穂香に話を聞いた。
自分が本当は何でもない人間であると認めるのは……すごく残酷なことなんじゃないかなって思うんです。(大野)
―ちょうど1年前ぐらいでしょうか。松本さんが主人公の北條すず役に大抜擢されたドラマ『この世界の片隅に』(TBS系)がオンエアされるちょっと前に、突然この『アストラル・アブノーマル鈴木さん』がYouTubeでアップされはじめて。そのキャラクターの振れ幅に、かなり戸惑った記憶があります。
松本:ははは(笑)。全然ジャンルが違いますよね。私自身いろんなことに挑戦したくて、ありがたいことに周りにいる人たちも私にいろんな経験をさせたいと思っていると話してくださって……。だから、「あ、それもやってるんだ」とか「こういうのもやるんだ」みたいなことが、自然と起こっているのかなと思っていて。

松本穂香(まつもと ほのか)
1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年 主演短編映画『MY NAME』でデビュー。その後、出演したNHK 連続テレビ小説『ひよっこ』の青天目澄子役の好演が話題になる。映画『恋は雨上がりのように』『あの頃、君を追いかけた』などの映画に出演した他、日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS)、『JOKER×FACE』(CX)などの連続ドラマの主演を務める。そのほか、広告ではauのCM『意識高すぎ!高杉くん』シリーズへの出演や2018-2019 JR SKISKI メインキャストなどを務めている。2019年には主演映画『おいしい家族』『わたしは光をにぎっている』などの公開が控えている。
―『アストラル・アブノーマル鈴木さん』には「『普通』ってやつが一番難しい。」というコピーがついていますよね。実際に作品を見て、これはなかなか言い得て妙だなと思いました。
大野:僕がつけたものではないんですけど、そのコピーを見たときに「ああ、そういう話でもあるのかな」って思いました。同調圧力とか社会的制裁とかが象徴的ですけど、いまの時代って他人と違うことをするのが、ちょっと嫌がられる感じがあるじゃないですか。みんな、普通にしてないといけないというか。だけど、その「普通」ってそもそも何なんだ? って思うんです。
―その一方で、誰もが普通ではいられないというか、SNSやYouTuberの世界をはじめ、個性的でなければいけない、目立たなくてはいけないみたいな圧もあるのだろうなと。
大野:そう、だからそのせめぎ合いなんですよね。そういう意味では、この作品は、YouTuberみたいなちょっと普通ではないことをやっている主人公が、結局自分は普通なんだって認めるまでの話でもあって。そのせめぎ合いのなかで、少しだけ一皮むけた女の子の話でもあるなとは思います。
―そう考えると、映画監督志望の男性と俳優志望の女性のカップルが、身も蓋もない本音を繰り広げる監督の前作『ウルフなシッシー』(2018年公開)とも、実は共通点が多いような気がしました。
大野:ああ……そうですね。僕自身、自主映画の監督をやっていて、いろいろ失敗してだいぶ挫折した時期があって。そういう経験があるからこそ、自分が本当は何でもない人間であることを認めるのは……それこそ青春っていう時期において、すごく残酷なことなんじゃないかなって思うんです。
―ちなみに、その挫折や失敗というのは?
大野:最初に撮った自主映画で、いろいろな面で負債を抱えてしまったんです。それで「自分に映画は向いてないんだ」「自分が撮りたいものは撮れないんだ」と認めざるを得なかった。だから、そういう諦めが自然と作品には滲むし、それが自分の作風なのかなと。

大野大輔(おおの だいすけ)
1988年、千葉県生まれ。映画美学校13期フィクションコース初等科修了後、映画制作チーム「楽しい時代」を結成。2016年、監督作『さいなら、BAD SAMURAI』がカナザワ映画祭でグランプリ。2017年、第2作となる『ウルフなシッシー』がTAMA NEWWAVEでグランプリ・最優秀男優賞・最優秀女優賞を受賞。K’s cinemaにて単独公開される。続く松本穂香主演のYouTubeドラマ『アストラル・アブノーマル鈴木さん』が好評につきディレクターズ・カットの劇場版として公開された。
―そういう監督の「作家性」みたいなものは、今回の『アストラル・アブノーマル鈴木さん』にも色濃く出ていますよね。
大野:ああ……。
松本:はい。それは出ていると思います、本当に(笑)。
リリース情報
- 『アストラル・アブノーマル鈴木さん』ウルフなシッシーぶっこみエディション(Blu-ray+DVD)
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2019年7月17日(水)発売
価格:6,264円(税込)
PCXP-50658[Blu-ray限定特典]
封入特典:
・ララのアストラル・ポストカード5枚セット
・大野大輔監督映画「ウルフなシッシー」DVD(別DISC)音声特典:
・本編アブノーマル・オーディオコメンタリー
出演:松本穂香(鈴木ララ役)、大野大輔(監督)、根矢涼香(特別出演)、直井卓俊(企画)映像特典:
・「アスアブ鈴木」メイキング映像ロングver.(25分)
- 『アストラル・アブノーマル鈴木さん』(DVD)
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2019年7月17日(水)発売
価格:4,104円(税込)
品番:PCBP-54032
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※BD / DVDともに劇場上映用の「完全ディレクターズ・カット版」を収録しており、YouTubeドラマ版の収録はございません。
※DVDは本編DVDのみの通常ケース仕様となり、封入特典・映像特典・音声特典はございません。発売・販売元:ポニーキャニオン
© 2018 ALPHABOAT・SPOTTED PRODUCTIONS
プロフィール
- 松本穂香(まつもと ほのか)
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1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年主演短編映画「MY NAME」でデビュー。その後、出演したNHK連続テレビ小説「ひよっこ」の青天目澄子役の好演が話題になる。映画「恋は雨上がりのように」、「あの頃、君を追いかけた」などの映画に出演した他、日曜劇場「この世界の片隅に」(TBS)、「JOKER×FACE」(CX)などの連続ドラマの主演を務める。そのほか、広告ではauのCM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズへの出演や2018-2019 JR SKISKI メインキャストなどを務めている。2019年には主演映画「おいしい家族」「わたしは光をにぎっている」などの公開が控えている。
- 大野大輔(おおの だいすけ)
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1988年・千葉県生まれ。映画美学校13期フィクションコース初等科修了後、映画制作チーム「楽しい時代」を結成。2016年、監督作『さいなら、BAD SAMURAI』がカナザワ映画祭でグランプリ。2017年、第2作となる「ウルフなシッシー」がTAMA NEWWAVEでグランプリ・最優秀男優賞・最優秀女優賞を受賞。K's cinemaにて単独公開される。続く松本穂香主演のYouTubeドラマ『アストラル・アブノーマル鈴木さん』が好評につきディレクターズ・カットの劇場版として公開された。