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伊庭靖子が作品から問う。人は「見る」ことで何を認識するのか

伊庭靖子が作品から問う。人は「見る」ことで何を認識するのか

東京都美術館『伊庭靖子展 まなざしのあわい』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)

クッションや陶器をモチーフに、フォトリアルな絵画を描いてきた伊庭靖子。彼女の個展『伊庭靖子展 まなざしのあわい』が、東京都美術館で7月20日からスタートする。

父も祖父も画家。そして、美術品や工芸品に囲まれて京都で生まれ育ったというバックボーンから、非常に繊細で工芸的な印象を彼女の作品からは受ける。だが、そのキャリアを俯瞰すると、そこには「見ること」をめぐる実験の痕跡が見えてきた。

繊細な陰影のグラデーションを巧みに描き、装飾的な世界を発表し続けてきた伊庭の、その作品に隠されていた別の目的とはなにか?約10年ぶりの美術館個展を控えた伊庭に話を聞いた。

1980年代は全体的に重たい時代だった気がします。

―伊庭さんはお父さんもおじいさんも画家という、芸術家一家に生まれ育ったそうですね。どんな家庭環境だったのでしょうか?

伊庭:祖父は私が生まれる前に亡くなっていたので、家に飾ってある油絵を知っているぐらいだったのですが、祖父の代から「伊庭研」という、美大や芸大に入りたい学生のための研究所をやっていたんです。

伊庭靖子(いば やすこ)<br>1967年、京都市生まれ。1990年に嵯峨美術短期大学版画科専攻科を修了。1999年にはフランスのモンフランカンにて滞在制作に取り組む。2001~2002年に、文化庁芸術家在外研修員としてアメリカのニューヨークに滞在。現在は京都を拠点に活動している。
伊庭靖子(いば やすこ)
1967年、京都市生まれ。1990年に嵯峨美術短期大学版画科専攻科を修了。1999年にはフランスのモンフランカンにて滞在制作に取り組む。2001~2002年に、文化庁芸術家在外研修員としてアメリカのニューヨークに滞在。現在は京都を拠点に活動している。
伊庭靖子『Untitled 2018-02』、油彩・カンヴァス、作家蔵(協力:MA2 Gallery)、撮影:木奥惠三 Keizo Kioku
伊庭靖子『Untitled 2018-02』、油彩・カンヴァス、作家蔵(協力:MA2 Gallery)、撮影:木奥惠三 Keizo Kioku

―いわゆる画塾ですね。東京でいう美大予備校のような場所。

伊庭:はい。なので2軒つながった私の家の片方には、いつも10代後半の変な若者たちがウヨウヨしていて(笑)。浪人の方もいるので、昼間っから家の前の通りでキャッチボールをしてたりするんです。

―絵も描かずに(笑)。いい雰囲気ですね。

伊庭:もちろん、みなさん絵の勉強もしていて、木炭で真っ黒になりながら絵を描いてましたよ。うちの猫が教室に遊びに行くと、真っ黒い眉毛をイタズラ描きされて帰ってくるぐらい(笑)。そういう不思議な環境だったので、物心ついた頃から絵を描く真似事をしていましたね。

個人的に、それ(フォトリアルな写実性)が自分の作品の特徴と言われることに引っかかる気持ちもある。

―ところが、伊庭さんは油絵科ではなくて版画科に進んでいます。

伊庭:幼少期の油絵の記憶というと、家の暗い廊下に飾ってある祖父の作品で。昔の絵なので色彩も暗く、表面もひび割れて怖かったんですよ。その重たい感じが嫌でした。かといってデザインではなく美術をやりたい、という気持ちはあったので版画を選んだんです。

伊庭靖子

―1986年に入学ですから、アンディ・ウォーホルが本格的に日本で知られるようになり、版画ブームが起きた1970年代を経た後の時代ですね。

伊庭:嵯峨美術短期大学に入学したのは父の薦めもあって、木村秀樹先生(日本を代表する版画家の一人、京都府出身)が教鞭をとってらっしゃったからなんです。木村先生は1970年代にたくさんの国際展で受賞されていて、京都や関西では先生のお弟子さんたちも活躍を始めていました。そういった先輩たちの影響も受けながら、版画を始めたんです。

それと、写真を見るのがとても好きで、それも大きい理由です。短大では1年で基礎として、銅版、木版、シルクスクリーンの3つを学びます。そして2回生に上がると、そのなかから1つを選ぶのですが、写真も色も扱えるシルクスクリーンを迷わず選びました。

―伊庭さんの作品の特徴としてフォトリアルな写実性がありますが、その原点でもある?

伊庭:個人的に、それが自分の作品の特徴と言われることに引っかかる気持ちもあるんですよ(苦笑)。でも今も、モチーフを写真に撮って、油絵で描くという手法を続けているので、原点が写真にあるのは間違いないです。

伊庭靖子『Untitled 2009-02』、油彩・カンヴァス、東京都現代美術館蔵
伊庭靖子『Untitled 2009-02』、油彩・カンヴァス、東京都現代美術館蔵

伊庭:1980年代は全体的に重たい時代だった気がします。アートでも、「ニューペインティング」といった油絵具を激しく重ねるような強い表現が主流の時代で、そういう濃い雰囲気に少しうんざりしてたんです。だからこそ、シャープで軽やかな写真の表現に惹かれたのでしょうね。

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美術館情報

『伊庭靖子展 まなざしのあわい』

会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
会期:2019年7月20日(土)~10月9日(水)
休室日:月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
※ただし、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開室
料金:一般 800円、大学生・専門学校生 400円、65歳以上 500円、一般(団体) 600円
※団体割引の対象は20名以上

「サマーナイトミュージアム割引」
7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)の17:00~21:00は、一般600円、大学生・専門学校生無料(証明できるものをお持ちください)

イベント情報

『対談 清水穣×伊庭靖子』

2019年7月20日(土) 14:00~15:00(開場13:30)
会場:東京都美術館 講堂(交流棟 ロビー階/定員225名)
出演:清水穣(美術評論家)、伊庭靖子(作家)

『アーティスト・トーク』

2019年8月3日(土) 11:00~11:45、
2019年8月24日(土) 11:00~11:45
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
出演:伊庭靖子(作家)

『キッズ+U18デー』

2019年8月13日(火) 9:30~16:00(最終入室15:30)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
対象:高校3年生以下の子どもとその保護者

その他イベント情報はこちら

プロフィール

伊庭靖子(いば やすこ)

1967年、京都市生まれ。1990年に嵯峨美術短期大学版画科専攻科を修了。1999年にはフランスのモンフランカンにて滞在制作に取り組む。2001~2002年に、文化庁芸術家在外研修員としてアメリカ・ニューヨークに滞在。現在は京都を拠点に活動している。

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